シンフォニア1番 演奏解説

 シンフォニア1番を録音したのでいつものように解説する。とは言っても、バッハは情報量が多く、音楽的な部分を語りだしたらきりがないので、自分が演奏する上で気を使った部分だけを紹介する。細かい解説を読みたいという方はバッハ インベンションとシンフォニーア 解釈と演奏法あたりを読むと良いと思うし、こんなお高いものに手を出したくないという方は全音版の最後に同書の簡易版のような説明が載っているので、それでも良いと思う。
 この曲は毎日音符の通り指を動かして漫然と練習しているうちに何となく指がこなれてきて、それなりに弾けるようになってくる。そうなると、それまで音楽的に聞こえなかったのがどこか魅力的に感じるようになって練習に身が入ってくる。この頃が一番楽しい。それで、楽譜を眺めながらどうやって弾こうか考える。だいたい弾けるようになると、テンポを上げだして技術的にまずい部分を洗い出していくことになる。最後は仕上げて録音するのだが、録音してみると改めて拙い部分が見つかり、また練習することになる。
 独学でやっていると、どうしても自分の演奏を聞く機会がないのでどこが良くないのかなかなか見つけられない。その点、録音してみると、自分で上手くやっていると思っていても音が途切れていたりということがよくある。だいたい技術的に難しい部分なので、演奏中に自分の音をしっかりと聴いている余裕がないためである。
 楽譜は上記の全音版を使った。

・テンポについて
 市田儀一郎によるとModerato 4分音符で70bpm[1]なので21小節×4部音符÷70bpm×60秒/分=72秒となる。今回はModeratoなんてトロくてやってらんねーぜ、と言ってだいぶ速く弾いた。92~94bpmくらいだと思う。その所為で完成させるのに手こずったし、殆どの装飾をスルーしている。
 ちなみにグールドは更に速く、112bpsで疾走している[2]

・声部の弾き分け
 シンフォニアは3声の練習曲なのでそれぞれの声部をしっかりと弾き分けなければならない。そのために大切なのは正確な音価で演奏すること。現代の記譜法だと打鍵時に音価を一緒に表記するけど、離鍵のタイミングの部分にはそれと分かるような記述がない。ピアノロール形式で表示すれば離鍵時にそれと分かるけど、見づらすぎて実用性皆無である。結局、打鍵時にいつまでキーを押し続けるかを覚えておくしかないのである。そして、最後は誰かに指導してもらうか、録音して確認しないことにはちゃんと弾けているかは分からないのは上記の通りである。
 声部毎の音量とか粒の揃いとかで別の声部であることを示すことができる。主張すべき声部は強く弾いて、影に隠れる声部は弱く弾くというのは常識的な話である。
 ノンレガートとかスタッカートで弾くというのもあるが16分音符でこれをやるのはなかなか難しい。
 そもそも、弾き分けで気を使わなければならないのは声部の距離が近い音についてである。ゴルトベルク変奏曲では頻繁に声部が交差するが、この曲では1度まで近づくだけで交差はしないので、まだ弾きやすいとも言える。弾き分けで気を使うのは近い声部の部分だけで、だいたい5度以上離れてしまえば脳は勝手に別の声部だと認識してくれるのであんまり悩むこともない。
 手元を見て弾く場合はあまり気にならないが、楽譜を見ていると割と手元がおろそかになって、指同士が干渉したり、黒鍵とかに引っかかったりする。離鍵時はしっかりと指を上げるように心がけると良い。

・主題について
[3]
 4拍+2分音符の合計6拍に渡る主にスケールにちょっと手を加えた主題。スケールに手を加えた主題というとインベンション1番を想起するがバッハ自身もその点を意識して書いたのだと思う。
[4]
 インベンション1番の主題の変装はとても良い教材で、作曲やアレンジが如何に敷居の低いものであるかを表現している。指を動かすだけの練習曲ではなく、inventionという言葉の持つ発明とか創作とかいった意味をこの主題に込めているのである。
 シンフォニア1番の主題の話に戻すと、ある程度の長さのあるこの主題はインベンション1番ほどに弄くり倒したりせずに原型を留めたままにアレンジしており、転調か反行型かといったものばかりなので主題の存在が分かりやすくなっている。
 主題については一貫した構造をもたせて演奏する。例えば、オリジナルの上行型ではクレッシェンドして、下降する反行型ではデクレッシェンドするとか。特定の音にアクセントを付けるのであれば、全ての主題に於いて同様の考えに基づいた強弱とするとか。そういった小細工によって主題の存在が際立つ。また、他の声部が主旋律となって主題が脇役となるときはちゃんと音量を控える。

23小節

2小節
 ◎4拍目右手。このDの音が出ないことがよくある。手元を見て弾くとちゃんと音が出るのでなかなか原因を特定するのが難しいのだが、暇をしている2指が弛緩して垂れ下がってきた挙げ句、キーを押し下げているため、その上から押しても音が出ない。2指は次のCの上で待機させておけばちゃんとできるようになる。

3小節
 ✡右手、最初のHGのタイミングがバラけることがある。直前の2小節4拍目を押さえるポジションだとHは押さえられるがGは押しづらいので、3小節目に入ってからポジション移動してるとGが遅れるため。2小節目の最後の方で予めポジション移動を済ませておけばタイミングを合わせられる。

6小節

 右手4拍目のトリルについて。バッハのトリルは基本的に上隣接音から弾き始めるのだけど、ここでは中声部と上声部で連続5度進行ができてしまう。連続5度と連続8度の進行というのはクラシックの音楽家の特に和製の大好きな連中が蛇蝎の如く忌避するものであり、あの手この手で避けるように指導する。この部分も議論沸騰である。以下のような弾き方が想定される[4]10小節も同様。

 よく言われるのが②の主要音から始める弾き方である[1][3]。僕自身は連続5度の忌避感を持っておらず、気にせずに原則通りの①上隣接音から弾き始めるようにしてる。だいたい、弾き始めが左手の4拍目と一致しないし。
 そもそも、何故連続5度と連続8度の進行がダメとされるかというと、それぞれの声部の独立性が妨げられるからである。8度だと露骨で分かりやすいのだけど、独立した声部であるべきところがユニゾンになって同一の声部と見做されてしまうのである。8度という距離は波長が2倍であり、完全に共鳴するためぴったり同じタイミングだと和音であることに気付かない。プロのピアニストの演奏するぴったり揃ったユニゾンがそれである。5度はというと、純正律では波長に1.5倍の差があり、こちらも共鳴に近い音となる。本来、ただそれだけのことであるが、これが教科書に「連続5度と連続8度の進行は禁忌である」なんて書かれてしまったせいで、「ダメなものはダメ」という思考停止に陥ってしまったというのが実際のところである。
 ダメとは言うけど、そんなに厳しく取り締まる程のものではないというのが僕の考えである。だいたい、言い出しっぺか知らんけど当のバッハさんが平均律1巻10番フーガで堂々たる連続8度を披露してくれている[5]。「もっと緩くやろーぜ」ってバッハさんも言ってんだよ。
 ちなみに、この平均律の連続8度について、市田儀一郎は連続8度とは書かずにユニゾンと割り切ってしまっている[6]。連続5度は避けるべきだと言ってトリルの原則を曲げてるのに、こちらは何の釈明もなしですか、そーですか。その点、矢代秋雄はバッハの考えを読み取って立派である[7]
 なお、マジメに連続5度や連続8度を演奏するというのなら2声の音色を変えて演奏するというのはアリかもしれない。音色を変えると行っても楽器を変えるのではあまり意味がなく、一方をレガートで一方をスタッカートにするとか、打鍵タイミングを僅かにずらすとかである。

7小節

 左手2拍目。左手の下降スケールを543と通常の逆の指使いで弾いている。これは多分僕の指が、4指が長くて5指が短い形をしているので、この5→4の指使いは割と自然にできる。万人にオススメできる弾き方ではないが、手の形次第ではこのように普通でない指使いが弾きやすいこともある。

8小節

 右手上声部1拍目から2拍目のD→E。4→3という指使いで酷く弾きにくい。3指が4指を跨ぐように表記されているけど、実際は4指をキーに対して真っ直ぐに立てて、3指が4指の横を通り抜けるようにして弾く。

10小節

 ※右手4拍目。本来であれば3432という運指が自然なのだが、1音目と2音目で別のフレーズに入れ替わるため敢えて不自然な運指でフレーズの境界の不連続性を表現する。したがって、不自然な流れになってよいのは1音目と2音目の間だけであり、続く下降スケールは滑らかに弾かなければならない。
 ☆左手3拍目のEHをミスタッチしがちである。5度の広さを15指で取るのだから掴みやすい筈なのだが、直前まで4指でAを押しておりA→Eの4度の跳躍を4-5指で行わなければならないため外しがちになる。この距離を意識して跳躍すると良くなる。

1213小節

12小節
 ☆後半左手、中声部が入ってくるところ。この部分をレガートに繋げるには小細工がいる。譜例の通りa→b→c→dとする。GAは鍵盤の手前、ECisは鍵盤の奥側を押さえるのだが、奥側は黒鍵があるため押さえにくい。そのため、キーを押しやすい位置にポジション移動しなければならない。a. GAは鍵盤手前の方を1指だけで押し、そのすぐ奥の黒鍵のない部分を2,3指で置き換える。ついで、4指をFisの左側に沿って奥に持ってくる。b. FHのFは4指をそのまま奥の方で打鍵、Hは1指で手前側を打鍵し、そしてHは奥の方で2指に置き換える。これで左手全体が奥に来ることになる。c. ECisはそのまま奥の方で5,1指で打鍵。5指を4指に変える。d. DDのオクターブ、下のDはすぐ隣なので問題ないとして、上のDは1指をCis→Dへと滑らせて打鍵する。

1314小節
 16分音符のパッセージに意識を取られていると13小節後半から14小節4分音符の上声部が途切れやすい。基本的に上声部は重要度の高い声部なので、独立した旋律であることをよく意識して表現すること。

14小節
 ※右手1拍目の4音目のCを1指で取るところの指くぐりがしづらいのは手の位置が低く、1指が手の下をくぐるスペースが狭くなるため。1音目のBGを25で押した直後から指を立てるようにして手の甲を高い位置に持っていく。すると1指のためのスペースを十分に確保することができる。

21小節

 最後。楽譜には書いていないが、譜例のようにFHに装飾音が付いている場合があり、2分音符で演奏する。装飾音ありの方がよく聞こえる。

参考文献
[1]市田儀一郎, インヴェンションとシンフォニア, 全音楽譜出版社(1987)
[2]Glenn Gould, インベンションとシンフォニア, SONY(1964)
[3]市田儀一郎, バッハ インベンションとシンフォニーア 解釈と演奏法, 音楽之友社(1971)
[4]村上隆, ピアノ教師バッハ―教育目的からみた『インヴェンションととシンフォニア』の演奏法, 音楽之友社(2004)
[5]D.F.トーヴィ, バッハ 平均律ピアノ曲集第1集, 全音楽譜出版社(1998)
[6]市田儀一郎, バッハ 平均律クラヴィーアI 解釈と演奏法 2012年部分改訂, 音楽之友社(2012)
[7]矢代秋雄, 小林仁, バッハ平均律の研究1, 音楽之友社(1982)

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新鬼ヶ島 エンディング

 新鬼ヶ島のエンディングを録音した。
 このゲームは遊んだことはないんだけど、漫画を持っていたのでストーリーはよく知っている。
 曲自体はファミコン 20th アニバーサリー オリジナルサウンド・トラックス VOL.3で知ったのだけど、とりわけ優れた曲というわけでもなくあんまり印象に残っていなかった。
 ところが、新日本BGMフィルハーモニー管弦楽団の演奏を聴いて評価がひっくり返った。

 めちゃんこいい曲やん。これ、楽団の実力が大きいんじゃないかなって思う。
 とにかく、自分でも弾くことにした。
 最初の部分を覗いて主旋律とベースとコードしかないすごく単純な曲なので音取りは楽だった。ただ、前奏がどの音を出してるのかイマイチわからなくて、というかファミコン音源のくせして同時に4声発音しているように聞こえるのですごく戸惑った。そんで、ピアノで弾く以上は取れる音に制限があるので結構無理することになった。
 3~4小節目を除けば特に難しい部分もないのでそれほど苦もなく弾けるようになった上に、音を増やしたりもした。それでもやっぱり管弦楽団の演奏には遠く及ばない。こればかりはもう仕方ないと諦めるしかないのかな。

キーボード買ったよ FKB-U246BK

 以前、BUFFALO BSKBU510を買ったときに宣言した通り、別のキーボードに手を出してみた。
 畢竟、BSKBU510で気に入らなかったのは基本的にキーストロークが深すぎるというだけで、その他の部分は全く同じものがあればよかった。サンワサプライSKB-SL06BKが手に入れば完璧だったのだけど、とっくに廃番となっているので望めない。それはそうと、希望するのはどこにでもある普通のキーボードなので、電気屋に行けば普通においてあるだろうと高を括っていた。
 まあ、実際に電気屋に行けばよく似たものが置いてある。最近は無線キーボードと人気を二分しているので売る方も面倒臭そうだなあと思う。
 それで、今度は実際に近所のヤマダ電機でキーを触ってから決めてきた。
 買ってきたのはDigio2 FKB-U239BKである。
 結論としては、色々不満があったので、元のBSKBU510に戻すことにした。

打鍵感覚が悪い
 店舗で触ったときは打鍵感覚がそれなりにあるのでメンブレンでも行けるんじゃないかなと譲歩してみたのだけど、実際使ってみるとパンタグラフ方式とは全然違い、打鍵時のカチカチ感が全然感じられずもっさりしており、入力していて気分が悪くなる。やはり、キーボードはパンタグラフではないと体が受け付けなくなっている。静音を売りにしているけど、そういうことじゃあないだろうと思うわけだ。タイプ音がうるさくて仕方ないという人には良いのかもしれないけど、これまでにうるさいと感じるキーボードと出会ったことがないので、その感覚はわからない。打鍵のうるさい人ってのはよっぽど無駄な力を入れてタッチしてるんじゃないのか?腱鞘炎になるぞ。
キーがどこに有るのかわからない
 これは何故かわからない。もしかしたらFとJについてるボッチが小さすぎるのかもしれないけど、手をホームポジションに持っていこうとしても場所が分からない。一生懸命FとJのボッチを探すことがよくある。
 そもそも、普段からFとJのボッチを意識しなくてもホームポジションに手を置いているから、もっと別の理由があるのだろうと思う。このあたりはキーボードメーカーのノウハウが詰まっているところなのかもしれない。キーボードの形状が大きく関わっているのだと思う。
左下のキーの位置
 BFRIENDit1430のときも書いたのだけど、 左してのCtrlとWindowsキーとAltと無変換の位置は結構重要である。基本的にキーボードを見ずに打つので標準の位置からずれてくると非常に困る。特にAltはマウスを嫌う人にとってはかなり重要なキーだ。そんで、Altを押そうとしてWindowsキーや無変換を押すと変なアクションが起こってそこで思考が止まり最初からやり直しとなる。かなりのタイムロスとなって殺意を覚えるわけだけど、上手く説明してくれている人がいた

 そんな訳で、このあたりのキーの位置が悪いのはよく考えてもらいたいものである。
十字キーの上の6つのキー
 Ins Home PageUp Del End PageDownの6つのキーが並んでいるのだけど、この6つのキーは手元を見ずに押す。十字キーの上に独立した6つのキーの島という形状から触った感覚でわかるためである。
 しかし、このキーボードでは隣の島との間隔が狭く、軽く触っても隙間の広さを認識できない。だから、どれがこの島なのかを確定するまでに少し時間を食われる。
 なお、更に右上にある、PritScreenはそれなりによく使うが、目視でしか確認しないのでどこにあっても困らない。というか、キーボードによって位置が違いすぎて覚えると返って困りそう。
アイソレートタイプ
 アイソレートというのはキーとキーの間に距離があることで、間違って隣のキーを一緒に押すことが少なくなるという効果があるけど、別にアイソレートである必要はないというのは以前説明した通りである。
 でも、せっかくアイソレートにするんだったらもっと距離開けろよって思った。5mmくらい隙間があってもいいじゃないかなと思う。実際、BSKBU510のキートップの距離を測ると。6mm以上空いている事がわかる。これだけ近かったらアイソレートにした意味がない。
キーの刻印
 BSKBU510と違ってこちらはキーに色々と書いてある。この点だけはFKB-U239BKの方が良い。
 キートップには何も書いてないのが望ましいという意識の高いかたもいるのかもしれないけど、意識の高さよりも実用性の高さのほうが遥かに重要である。
キーストロークが浅い
 BSKBU510はキーストロークが深すぎるのが悪かったのだが、今度は浅すぎる。アイソレートはどれもキーストロークが浅いもんだと今回改めて認識した。RF1430Kのときも浅くて嫌だったはずだ。

 そんなわけで、FKB-U239BKを使うメリットがあんまりなかったので、BSKBU510に戻すに至った。
 とはいえBSKBU510は全然完璧ではないので、どうせまた別のキーボーをを探すことになると思う。

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チェルニー30番30 演奏解説

 チェルニー30番フィナーレを飾るのはユニゾンでのスケールの練習。最後だけあってかなり難しい部類である。
 楽譜はいつもどおり全音を使う。

テンポについて
 2分音符で80bpmと一見控えめと感じるが、4分音符に直すと160bpmとなり、チェルニー30番では29番に次、14番と同率となる速度である。29番はこれより速いが、両手に分けて弾くのでだいぶ弾きやすいことと、14番が右手ばかりで左手が暇をしていることを考えると、速度の面で最も余裕のない曲とも言える。ちなみに、毎日の練習曲ではほぼ同じフレーズを15%増しの速度で20回繰り返して弾かされる、苦行である。

ニゾンについて
 ユニゾンの難しいところは2音の打鍵タイミングが僅かでもずれると、それがとても目立つのである。さらに、1音以上もタイミングがずれると不協和音となってしまうので、より目立つ。ちなみに、24番では敢えて半音分タイミングをずらすことで特別な効果を出している。
 左右の手で同じタイミングで打鍵するというのはピアノの演奏に於いてごく基本のことであるが、簡単ではない。スケールでは指くぐり・指またぎが生ずるが、例えばCから1オクターブ登るスケールを右手で12312345と初めのCDEを123で順番に弾くのと、EFを34で弾くのと、FGAHCを12345で弾くのでそれぞれ出せる限界の速度が異なる。それに加えて、左右の手は形が異なるので、ユニゾンでスケールを弾こうとすると、もたつくタイミングが左右の手で異なってくる。これを速度を一定にして粒を揃えて弾けというのだから無茶な話である。結局、最も打鍵の遅くなる指くぐりの部分に速度を合わせるか、どうにか誤魔化して弾くしかないのである。
 速いスケールのユニゾンをプロが演奏するとどうなのか。例えば、リストの超絶技巧練習曲3版のマゼッパ6小節のユニゾンを見てみる。ここには140音(左手は3音少ない)ある。これを例えばシフラは9.25秒で弾いてる。ここから逆算すると、1音辺り0.066秒。1分に908音打鍵する速度である。これを全て16分音符とすると、4分音符で227bpmとなる。チェルニー30番の1.4倍の速度である。にも関わらず殆ど左右の手でズレがない。つまり、人類はチェルニー30番くらいは余裕でできる可能性を秘めているとなる。ちなみに、他の演奏家を聴き比べたが、だいたいはシフラよりもテンポは遅く、またペダルを踏んでいるのでちょっと聞き取りづらいけど、だいたい揃っていた。まあ、ここはシフラの演奏がテンポを速めていくというリストの指示を無視して最初から速く弾いているのではあるのだが。
 こんなわけで、プロのピアニストの演奏を聞いてみると、君たち素人もチェルニー30番くらいちょっとは頑張り給えと言われているような気分になる。
 ともかく、何とかできるとこまでやってみようかと思う。

フレーズの話
 スラーの繋ぎ方にはレガートを示すものとフレーズを示すものとアーティキュレーションを示すものなどがあるが、あまり明瞭に書き分けられていないのが現実である。フレーズという言葉もはっきりした定義が与えられていないくらいで、ここでは一塊の音の流れという程度で使う。
 チェルニー30番でもスラーの使い方は混在しているが、この30番ではレガートを示すスラーが全体に架けられている。こういう場合、どこからどこまでがフレーズになるかというのは演奏者に委ねられる。
 フレーズには階層があり、例えば最初の8小節を見ると、2拍ごとの小さなフレーズと2小節ごとのフレーズと8小節全体の大きなフレーズとがある。8小節全体を示す大きなフレーズにはスラーが架けられている。本エントリーにおいては一番小さいフレーズのことをフレーズと呼ぶことにする。

リズムについて
 4/4となっているが、この速度だと4/4では速すぎてリズムが認識できないので、2/2のつもりで弾くのが良い。
 チェルニー30番はテンポの速い曲ばかりで、速度を速くすることに集中するあまりにリズムがないがしろにされがちである。しかし、一定のリズムを保つことは音楽を聞かせる上で非常に重要で、リズムのふらつく演奏を聞かされると気分が悪くなるという人も多い。
 可能な限り厳格にリズムを守るべきであるが、なかなか難しい。メトロノームに合わせて演奏するのが良いのだけど、演奏しているうちに徐々にタイミングがずれていってしまったりする。
 メトロノームに設定した速度に追いつかないのは論外であるが、メトロノームよりも演奏のほうが速くなるのであれば、自分の音よりもメトロノームの音の方を集中して聞き、拍頭の音をメトロノームに合わせるようにする。この曲の場合は一つのフレーズが1拍か2拍で、速度が2分音符で示されているので、メトロノームのタイミングとフレーズが一致する。フレーズを弾くのが幾分早くなっても少し遅らせるように次のフレーズを弾き始めることでメトロノームに合わせると良くなるはずである。また、フレーズのなかで左右の音がずれてしまっても、次のフレーズ開始時に修正されることになる。

スケールについて

 以前、スケールの弾き方についてのエントリーをあげようかと思ったことがあったんだけど、数日寝かせておいたらすっかり内容を忘れて雲散霧消した。そのときに書こうと思った内容はあんまり覚えてないけど、練習して感じたことをいくらか書いておく。
 右手の上りスケール。1指の離鍵は手前側に滑らすようにしてキーの上から指をどける。指が掌の下に来る形となるので指くぐりが楽になる。
 右手、指くぐりの際は離鍵した指をしっかりと上げる。特に2指。最近2指の動きが悪いことに気づいて、4指とは違って訓練すればちゃんと動くようになるはずなので、積極的に意識してるんだけど、全く良くなった気がしない。

911小節


 ☆指の動きだけで弾こうとするのではなく、手首の回転も利用して打鍵の際の指動きが少なくて済むようにする。3音目のAと5音目のAとのように同じキーを1音置いて打鍵する場合、完全に指を上げて離鍵するのではなく、ダブルエスケープメントを利用して半分くらいの高さまで指を上げるだけにする。

15小節

 同じ音形で1オクターブ下がっていくが最後のFisで黒鍵が入ってくるため15小節3拍目で指使いが変わる。
 この部分は楽譜を見ながら弾いてると今どこなのかを見失うことがあるので、手元を見たほうが良い。そうすれば最後のフレーズはFisから始まると覚えておくだけで良い。

16小節

 ☆速いトレモロはダブルエスケープメントを十分に利用してキーを最後まで戻さないようにして弾く。また、手首を左右に小刻みに回して速度を稼ぐこともできる。

24小節

 *両手の跳躍なので目のやり場に困る。1拍目に左手の2拍目の和音の位置を確認・記憶しておいて、2拍目からは右手を見る。


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円を縦に3等分する

 円を3等分する場合、普通は中心から120°の角度で切る。中心から外周へ半直線の形で切るのは面倒なので、中心を通る直線で6等分してその中の2ピースを選ぶというのがピザを3人で分けるときの常道である。結局60°で切ることになるのだけど、cos60°=1/2ということを高校の数学で習うので簡単に切ることができる。

 ところで、昨年あたりにケーキの切れない非行少年たちという本が話題になっていた。僕自身、この本を読んでないので評価は控えるけど、この本にある下の図がかなり取り沙汰されていた。独り歩きしているような気がしないでもないのだけど、読んでないのでなんとも言えない。

 上に書いたように普通、ケーキとかピザを切るというと中心を通るようにするのだけど、別に縦とか横に3等分してもいいじゃんと思ったわけである。もちろんデコレーションケーキだと切る場所によって取り分が変わるので良くないが、プレーンなチーズケーキとかなら争いにはならないのではないかなと。

 もうちょい実用的な話をすると、アレルギーの薬を服用してるのだけど、副作用が強くて1錠飲むと3日くらい眠くて何もできなくなってしまう。だから1/3に分けて3日かけて飲むようにしてる。錠剤だと中心を通って3等分するのが難しいので縦に3等分したくなるのである。

 そんなわけで、縦に3等分する場合の寸法を計算してみる。
 ぱっと思いつく計算方法としては、扇形から三角形を引いた面積を求める方法と、半円の方程式を積分する方法である。


 どちらでもいいんだけど、簡単そうな前者の方で計算しようと思う。ちなみに、どちらも代数解は得られないように思える。というのは、方程式の中にθとsinθが入ってくるので"θ="の形で纏められないためである。
 各部位の面積は以下の通り。なお、円の半径は1とする。
円の面積:π
扇形:{ \frac{2\theta}{\pi} }
三角形:{ sin\theta cos\theta }
 というわけで、扇形から三角形の面積を引いたら、円の面積の{ \frac{1}{3}}となればよいので、
{ \displaystyle \theta - sin\theta cos\theta = \frac{\pi}{3} }
 この通り、普通には解けないので、近似解を求めることにする。
 ここで、{ f(\theta) = \theta - sin\theta cos\theta - \frac{\pi}{3}}とすると、{ f(\theta) = 0}のときのθが解となる。
 近似解を求めるにあたって、大体どれくらいかというのを調べておく。
{ \theta = 60^{ \circ }, \frac{\pi}{3}}のとき、{ f(\frac{\pi}{3}) = \frac{\pi}{3} - \frac{\sqrt{3}}{2}\cdot\frac{1}{2} - \frac{\pi}{3} = -\frac{\sqrt{3}}{4}}
{ \theta = 90^{ \circ } , \frac{\pi}{2}}のとき、{ f(\frac{\pi}{2}) = \frac{\pi}{2} - 0 -\frac{\pi}{3} = \frac{\pi}{6}}
 { \theta = 60^{ \circ }}{90^{ \circ }}の間で{ f(\theta)}は±が入れ替わるので、、この間に解があることになる。

 ここから{sin\theta cos\theta}の近似をしていく。
 近似方法は、グラフを描いてそれっぽい位置を特定する方法とマクローリン展開以前紹介した線形近似を使ってみる。マクローリン展開よりもテイラー展開の方が精度が高いのだけど、計算の労力がぜんぜん違うので、テイラー展開よりもマクローリン展開を選んだ。

グラフ
 グラフを描いて0と交わる点が解となるというのは方程式の基本的な考え方である。これをアナログで行えば大体の値が求められる。
 とはいえ、現代に於いて実際にグラフを書くのはエクセルの仕事であり、値はかなり正確なものとなる。エクセルが耐えられるだけ精度は高められるので大体実用上問題のないくらいの桁数は得られる。もちろん頑張ればそれ以上の精度を出すこともできる。たかがグラフを描いただけではあるが、精度は下に行う近似よりも遥かに高いはずである。ただ、あくまで近似なので代数解は得られない。
 というわけで、描いてみた。

 横軸はradより馴染みがあるdegreeで表示した。
 ぱっと見、75°弱かなという感じだが、もうちょい細かく見ると、74.63708271°ということがわかる。このとき、{f(x)=0\times 10^{15}}となるので、これ以上はエクセルの桁数に手を加えなければならず面倒なので、ここまでとする。
 一応、計算したエクセルシートも上げておく。
円を三等分する.xlsx

マクローリン展開

{ \displaystyle f(x) = f(0) +\frac{f'(0)}{1!} x + \frac{f''(0)}{2!}x^2 +\cdots }

 { f(\theta) = sin\theta cos\theta}として、マクローリン展開の各項を書き出すと以下のようになる。
{ \displaystyle f(0) = sin\theta cos\theta = 0 \\ \displaystyle f'(0) = (sin\theta)' cos\theta + sin\theta (cos'\theta) \\ \hspace{ 15pt } = cos^2\theta - sin^2 \theta = 1 \\ \displaystyle f''(0) = 2cos\theta(-sin\theta) - 2sin\theta cos\theta \\ \hspace{ 15pt } = -4sin\theta cos\theta \\ \hspace{ 15pt } = -4f(\theta) = 0 \\ \displaystyle f^{(3)}(0) = -4f'(\theta) = -4 \\ \displaystyle f^{(4)}(0) = 16f(\theta) = 0 \\ \displaystyle f^{(5)}(0) = 16f'(\theta) = 16 }  5回微分まで書いたけど、マクローリン展開微分した回数と同じだけ冪乗しなければならない。多次方程式では4次までしか解の公式が存在しなに都合上、4回微分までしか扱えない。そして、4回微分は0となるため実質使えるのは3回微分までである。{ sin\theta cos\theta}を展開すると次のようになる。
{ \displaystyle sin\theta cos\theta \simeq \theta + \frac{-4}{3!} \theta^3 }
{ \displaystyle \hspace{ 15pt } = \theta - \frac{2}{3} \theta^3 }
 実に単純になってしまった。計算が楽でいいのだけど、精度の点で疑問が残る。
 とにかく、これをsinθcosθに代入すると、
{ \displaystyle \theta - (\theta - \frac{2}{3}\theta^3 ) = \frac{\pi}{3} \\ \displaystyle \frac{2}{3}\theta^3 = \frac{\pi}{3} \\ \displaystyle \theta^3 = \frac{\pi}{3} } { \displaystyle \theta = \sqrt[ 3 ]{ \frac{\pi}{2} } = \frac{\sqrt[ 3 ]{ 4 \pi }}{2} }
 あとは電卓を叩くと出てくる。
{ \displaystyle \theta = 1.1624 rad = 66.60^{\circ} }
 目的とする角度は2θなので、133.2°となる。かなり誤差が大きい。

線形近似
 sinθcosθを60~90°の間で近似するので。θ=60°、90°の2点を通る直線を近似直線としてsinθcosθの代わりに代入する。
 y=ax+bという形の直線を作る。
 2点の座標は、θ=60°のとき{ ( \frac{\pi}{3}, \frac{\sqrt{3}}{4} ) }、θ=90°のとき{ (\frac{\pi}{2}, 0) }となるので、傾きは{ a = (0-\frac{\sqrt{3}}{4}) / ( \frac{\pi}{2} - \frac{\pi}{3} ) = -\frac{3\sqrt{3}}{2\pi} }となる。この傾きで{ (\frac{\pi}{2}, 0) }を通る直線なので、xに{ (\frac{\pi}{2})}を代入すれば得られる。
{ \displaystyle y = -\frac{3\sqrt{3}}{2\pi} (x-\frac{\pi}{2}) \\ \displaystyle \hspace{ 15pt } = -\frac{3\sqrt{3}}{2\pi}x + \frac{3\sqrt{3}}{4} } 以上より、{ \theta = \frac{pi}{3} ~ \frac{\pi}{2}}の範囲で{ sin\theta cos\theta \simeq -\frac{3\sqrt{3}}{2\pi}x + \frac{3\sqrt{3}}{4}}と近似できる。なお、分母の有理化はできない。
 というわけで、これを元の式{ \theta- sin\theta cos\theta = \frac{\pi}{3}}に入れると、 { \displaystyle \theta - (-\frac{3\sqrt{3}}{2\pi}\theta + \frac{3\sqrt{3}}{4}) = \frac{\pi}{3} \\ \displaystyle \frac{1+3\sqrt{3}}{2\pi}\theta = \frac{3\sqrt{3}}{4}+\frac{\pi}{3} } ここでごちゃごちゃ計算して式を整えるのも面倒なので、右辺と左辺それぞれ電卓で求めてしまう。
{ \displaystyle \frac{1+3\sqrt{3}}{2\pi} = 1.827 \\ \displaystyle \frac{3\sqrt{3}}{4}+\frac{\pi}{3} = 2.346 \\ \theta=2.346 / 1.827 = 1.284 }  角度になおすと1.284rad=73.57°、2θ= 147.14°となる。マクローリン展開よりは大分正確な近似と言える。

テイラー展開
 テイラー展開についても3次微分の項まで計算してみたが、3次方程式をちゃんと解かなければならないのでかなり面倒になってくる。書くのも大変なので、答えだけ。θ= 1.30256rad = 74.631°となった。エクセルで求めた正確な値が74.63708271°なのでかなり精度の良い近似と言える。ただし、3次方程式なんて解きたくないのでできればやりたくない。


 数式はいつもどおりMathJaxを使って表示しているのだけど、今回は{ \sqrt[ 3 ]{ 4 \pi } }が表示できなくて悩んだ。どういうことかというと、MathJaxで数式を書くとき[tex:{ ~ }]という形で入力する。ところで、三乗根は[tex:{ \sqrt[3]{4\pi} }]というように書く。根の部分を角カッコで囲んでいるのだが、この括弧閉じの部分が数式終了と見做されてエラーを吐き出していたのである。結局[tex:{ \sqrt[ 3 \]{ 4 \pi } }]として、カッコの前に\を入力することでエスケープして読み込ませた。はてなのMathJaxは色々と仕様の異なる部分があって、よく失敗する。調べてみると何の問題もなく扱えている人もあり、色々とよく分からないことになっている。
 また、通常の文中の"°"の右側に空白部分があるのがどうにかならないのかと色々悩んだんだけど、半濁音"゜"にするか、いちいちMathJaxを呼び出すかくらいしか解決法がないことがわかった。MathJaxで角度を表示する方法である"○"の上付表示でも""となってイケてないし、"o"の上付き表示だと"o"となっていまいち微妙な位置である。
 はてなブログの仕様魚拓)として、ちゃんとHTMLを扱うためには有料のはてなブログProに登録しなければならないため、通常のHTML編集では使えるタグが限られているのである。そんなわけで、今回はきれいに"°"を表示するのを諦めた。
 あと、数式の後に自動で改行が入ったり入らなかったりする。こちらも謎である。
 もういっそ、はてなブログを止めて自分でブログを組んでもいいのかなと思えるくらいである。昔みたいに日記形式で書くならどうにでもなるが、ブログの機能は一応使いたいし、自分でスクリプト組むとか真っ平御免なのでやんないだろうけど。

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