ブルクミュラー25の練習曲 14.シュタイヤー舞曲

 そういえば、ブルクミュラーの25の練習曲を途中かけで放り出してたなあって思い出して、再開した。
 チェルニー30番の後だとかなり優しく感じる。1時間くらい練習するとそれなりに弾けるようになる。やはり手元を見ずに弾けると捗る。技術的に容易な反面、細かい表現への意識が向く。一つ一つの発想記号をしっかり意識するのが課題となる。特に気をつけたいのは保持音の長さ。スタッカート、ノンレガート、スラー、スラーの切れ目をちゃんと表現出来るようにするとよい。  1週間くらい練習したら録音して次の曲に進むことにした。25の練習曲はどれも名曲揃いなので、1週間で終わらしてしまうのは勿体ないのだけど、そんなこと言って延々練習してても上達するわけでもないので、さっさと終わらせてその後に好きなように弾いたらいいんじゃないかなと考えた。

 そんなわけで続きの14番シュタイヤー舞曲を録音アップして。ついでにこれまでの録音はmp3に変換しておいた。
 楽譜は全音を使った。
 この曲の原題は"La Styrienne"とあり日本語訳は「シュタイヤー舞曲(アルプス地方の踊り)」と書いてある。昔使っていた楽譜には「スティリアの女」ってなってたのだけど、タイトル変わったのか。
 "La"というのはフランス語の女性名詞につく定冠詞なので、「スティリアの女」というタイトルが付けられていた。これを練習する子供たちにとって、スティリアという地域がどこにあるのかってのはあまりどうでもよくって、それこそリファールでもルーフェリアでも異国の風景を想像できればよい。実際、スティリアの女を練習する子供が世界地図を開いてスティリアの位置を探すということはあまりないのではないかと思う。
 で、実際、Styrienneというのはシュタイヤー地方このことで現在ではシュタイエルマルクと呼ばれているらしい[1]

 この地域の民族舞踏であるレントラーを書いたと考えられる[1]。それで、女はやめて舞曲にしたのだと思う。
 この辺りはブルクミュラー25の不思議に詳しい説明がある。
 この曲以外にも出版社ごとのタイトルが次のように纏められている[2]


・曲の構造
 「前奏-AA-BB-CC-AA-BB」となっている。前奏以外全て繰り返しが入っており、25曲中最長となっている。繰り返しばかりなので実質は1ページちょっとと、それほど長くはない。

テンポについて
 レントラーなので、ワルツより遅いテンポになるかと思いきや、4分音符で148~160bpmとかなり速い速度指定となっている。なお、1851年ブノワ・エネ社から出版されたフランス初版では、176bpmと更に速い[3]。なお、25の練習曲は自筆譜が発見されていないため、このフランス初版が現在確認できる最古の楽譜である[4]

装飾音のタイミング
 装飾音が多くあるが、これを拍内に入れるか拍の前で打鍵するか悩むところである。大前提として、左手の伴奏は正しいリズムで弾くこと。
 全音の解説には打楽器の音を表しており、アクセントとなる音なので拍内に収めるようにと書いてある[1]

 一方、エッシェンバッハの録音では完全に拍の前に弾いている。
 全音の解説文の方が説得力があるが、エッシェンバッハの録音も良いので自信があるのなら拍の前に打鍵しても良いと思う。どちらを選ぶにしろ、全て統一して演奏すること。

ペダルについて
 普通の書店で手に入る殆どの楽譜でペダルの指示があると思うが、1851年フランス初版ではベダルの指示はなく[3]出版社によって書き加えられたものである。
 当然ながら、楽譜を編集する人も素人ではないので相当の確信を持ってペダルの指示を書き加えているはずである。しかし、どの程度ペダルを踏むかというのは譜面に表現するのは難しく、演奏者の解釈に依る部分が大きい。
 僕の演奏方針として、できるだけペダルを踏まずに指で音を保持したいというのがあるので、ペダルの指示はかなり無視する部分がある。

45小節

 各場面の切り替わりの部分は1.5拍の不完全小節となっていて、続く出だしの部分をアウフタクトにしている。小節番号の付け方だが、この前奏最後とA最初の1.5小節を合わせて3拍を1小節と読む。したがって、この譜例は4~5小節を示していることになる。小節番号が書いてある楽譜だとこの点が分かりやすくてとても良い。
 graziosoというのは優美にという意味。
 4小節目。A出だし、スタッカートの付いてDEFisはワルツが始まる前の助走というイメージで少しゆっくり目に弾くと良い。繰り返し以降は普通に弾いたら良い。
 ☆5~11小節左手ベース音。1拍目は8分音符+ペダルとなっているが、ペダルは踏まずに変わりに部分的にベース音を保持することにした。右手がスタッカートになっている部分で保持してしまうと、スタッカートの切れが悪くなるのでそういう部分では保持せず、右手がスラーに鳴っている部分に限って音を保持することにした。

2934小節

 ☆左手ベース。3134は保持しているが、29, 30は4分音符だけになっている。指が届かず保持できないためと考える。30は1オクターブなので普通に届くから保持するとして、29は1拍目だけペダルを使う。また、29とバランスを取るために31, 33も1拍目でペダルを踏む。
 25の練習曲は子供向けに1オクターブが届かなくても弾けるように作られているので、29では保持してないのかと思う。

参考文献
[1]ブルクミュラー25の練習曲, 全音楽譜出版社
[2]飯田有抄、前島美保, ブルクミュラー25の不思議, 音楽之友社(2014)
[3]Fred. Burgmuller, 25 Etudes faciles et progressives, Op.100, Benoit aine(1951)
[4]牛頭真也, ブルクミュラー『25 の練習曲作品100』の楽譜表記の研究(2): 1852年ドイツ初版『ショット版』とプレート番号が同じ『シャーマー版』の比較, 洗足学園音楽大学紀要, 51p.87-101発行日2023-03-27