チェルニー30番2 演奏解説

 チュルにー30番2を録音したので、いつものように演奏解説。
 例によって、指定速度で弾く前提での技術面に偏重した説明を行う。音楽的にためになる解説はPTNAの記事(魚拓)があるのでそちらを読むといいと思う。
 楽譜はいつもどおり全音を使う。

リズムについて
 右手が主旋律で歌って、左手は伴奏という役割分担になっている。拍子は4/4と書いてあるけど、1728小節の左手は2/2となる。右手と左手で拍子が違うが、左右の手で正確にタイミングを合っているに越したことはないけど、無理して正確に合わせる必要はなく、そこにこだわるよりは寧ろ音楽として自然な流れになっていることを重視したほうが良い。右手と左手がちょっとくらいずれていてもあまり気にする必要はない。

テンポについて
 2分音符で108bpm。2分音符を打つ間に6回打鍵するので、108×6 = 648回/min = 10.8回/sの速度で打鍵することになる。すごく速い。
 現実的に普通に弾ける速度にテンポを落とした場合と、指定のテンポで弾ききる場合とで要求される技術が全く異なる。たまに、手の甲に10円玉を乗せても落ちないように弾けと頓狂な曲芸を求めるピアノの先生がいると聞くが、ゆっくり弾くなら兎も角、速く弾こうとするのであればそれは不可能だと思ったほうが良い。
 速く弾くということは、ダブルエスケープメントの性能を引き出すことに他ならない。だから、チェルニー30番を指定の店舗で弾こうとするには基本的にダブルエスケープメントを備えたピアノ、つまりグランドピアノが必要である。ただでさえ現実的ではない速度を指定されているものにアップライトで挑むのは大分無茶であり、時間の無駄でしかないので、もっと有意義に時間を使うべきである。そういうわけで、この解説もグランドピアノで演奏する前提で書く。
 速さが問題になるのは当然左手だが、左手は三連符の部分と1728小節の6連符の部分がある。どちらもベースとなる1音目を保持する。この1音目の保持さえなければもうちょい弾きやすくなるけど、楽に弾かせないというのがチェルニーの狙いなのでそこは仕方ない。このベース音を保持している間、その指には余計な力を入れないこと。力を入れないと保持できないのなら最低限の力で済むところまでテンポを落とす。
三連符の部分

 よく指導されるような手を水平にして指を動かしてキーを押さえるとう弾き方ではなく、手首を回す動きで弾くのだが、三連符の1音目は保持したままなので、通常のローリングでは対応できない。
 5指を中心にした手首の回転を使う。5指を下にした状態で手を少し傾けておいて、そのまま下におろして5指で打鍵、5指でキーを押さえたまま手首を回転させて3指→1指と回転に合わせて順次打鍵していく。1指よりも3指が先に打鍵出来るように3指を少し突き出し1指を少し引っ込めておく必要がある。また、打鍵に使わない2指と4指は完全に引っ込めておく。この際、橈骨の動きを意識できればなお良い。
 離鍵は手首を逆方向に回転させながら手を持ち上げる。次の打鍵の準備が出来るだけ持ち上げれば良いので、キーが完全に戻るほどに上げる必要はない。
六連符の部分

 5指の保持がなければ普通にローリングでクリアできるのだけど、そうはいかない。
 分散和音の上下に合わせて肘を左右に振って打鍵しやすい位置へ手と指を移動させる。このときに5指は保持したままになるので、手や指が柔軟でなければならない。脱力できている必要がある。
 頂点まで登ったらすぐに一つ前の音に戻らなければならない。離鍵は完全にキーが戻るまで指を上げるような余裕はなく、再度打鍵できる程度にしか指は上げない。ここでダブルエスケープメントが必要になってくる。
トレモロ部分

 20222628小節は6連符が保持するベース音を除いてトレモロとなっている。これが、この曲で最も難しい部分である。
 トレモロということは、2音ごとに同じ音を打鍵しなければならない。普通に弾いていたは離鍵が間に合わない。1秒間に10.8回の打鍵をするのだから、トレモロの際に同じ音を打つ間隔は1s/(10.8回/2) = 0.185秒である。0.185秒間で離鍵-打鍵のサイクルをこなさねばならない。キーの沈む深さをノギスで測ったりして指先の加速度が133mm/s2とか計算してみたけど、全然数値として実感がないので止めにする。とにかく、トレモロは短時間で同じ指を上下しなければならないので大変だということ。
 さて、この部分の演奏法だが、最初の3音は上に書いた三連符と同じ弾き方をする。3音目は多少遅れてもとにかく急いで音を出す。最後の2音は5指の保持を離してしまう。すると、ローリングで素早く終えることが出来る。保持が離れるので指示通りではないが、ある程度の時間は保持しているので視聴者も許してくれると思う。
 この弾き方だと各音が均質ではなくなるが、この部分は六連符で連桁しており2/2として描かれているので[1]、リズムがちゃんと取れるならば問題ない。ただし、21小節は右手が4/4拍子で主旋律を刻むので、この右手だけは正確に打鍵できるよう注意しなければならない。

2小節

 ②右手16分音符。左手の三連符の間に正確に挟むべき[2]という人もいれば、テキトーでいい[3]という人もいる。これはテキトーでいいと思う。だいたい、左手の三連符は0.0926秒毎に打鍵するわけで、この隙間に差し込むとか狙ってもなかなか出来ることではない。

4小節

 ☆右手。2指を斜めにしてCisの黒鍵と交差するように配置するとミスタッチが減る。

10小節

 左手前半の指使いが5-4-2と指定されている。すごく弾きづらい指使いを敢えて指定している。全音の解説文には多少の困難はあっても、指使いは支持されているとおりにひくこと。(カッコ内の指使いは比較的引きやすい指使いで云々)[2]とあるように、チェルニーの指定した指使いは弾きやすいものとは限らない。この小節では動きづらい4指を鍛えるという目的で敢えてこの指使いを指定しているものと思う。僕自身、指定された指使いはあんまり守るつもりはないので5-3-2で弾いても全然いいと思う。
 この指使いが演奏不可能という人も確認できるが[4]、頑張ってこの指使いを試してみたら意外と行けるもんで何となく弾けてしまった。低いポジションに手を持っていったのが良かったのかもしれない。実際のところ、2022小節のトレモロに比べたらこの程度は全然障害にはならない。

3236小節

 これまでスタッカート中心だったのが32小節からレガート中心に変わり曲の雰囲気が変わるのだが、34小節では弱拍にスタッカートが付いているのでちゃんと表現すること。

参考文献
 [1]菊池有恒, 楽典 音楽家を志す人のためのp114, 音楽之友社(1988)
 [2]チェルニー30番練習曲, 全音楽譜出版社
 [3]末吉保雄 上杉春雄, チェルニー30番 New Edition 解説付p8、音楽之友社(2007)
 [4]iwatsukishinya(魚拓), twitter

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