エリーゼのために

 以前、とある駅のストリートピアノで何曲か弾いた時、僕の演奏に足を止めていただいた老夫婦に「エリーゼのために」を聞きたいとリクエストを頂いたのだけど、あまりに長いこと弾いていなかったので、こんな感じだったかなあと手探りで音を探しながらで全然弾けなかった。コレはいけないということで、改めてちゃんと練習していつリクエストが来ても対応できるようにした。当然ながら、それ以来リクエストを貰ったことはない。
 よく言われる、エリーゼって誰だ?って話は、僕は興味ないのでWikipediaでも見てもらったらいいと思う。

 楽譜は全音ピアノ名曲100選を使う。
 この曲の難しいところは何と言ってもリズムを取りにくいところ。16部音符の連桁が小節をまたいでおり、その後に主題に戻るという箇所である。しかもアウフタクトで始まるし、(DisE)の繰り返し回数がマチマチなので、どこで小節が区切れているのか全く感じ取れない。楽譜を見ながら弾けば何も問題はないのだけど、外で弾くときは大体暗譜になるので、テキトーになる。大丈夫、弾いてても分かんないんだから、聞いてる人も殆どは分かんないよ。
 ちゃんと見ていくと次のようになっている。
1小節①

1315小節②

3638小節③

5052小節④

8182小節⑤

9496小節⑥

 6箇所。これら以外にもそれぞれに付随する繰り返しがあるが、全て同じ形なので割愛した。
 この全てで右手に戻ったタイミングでppになる。
 ①⑤前の小節で右手と左手で交互に(EDis)を弾くことのないのが182。この2箇所だけは他と違うので分かりやすい。1は超有名なあのメロディーだから間違える人はいないと思う。82は半音階下降から真っ直ぐ露骨に繋がるので分かりやすい。また、この2箇所は直前にディミヌエンドがない。1は当然にしても、82はppからクレッシェンドした後の再度のppなのでディミヌエンドがあっても良さそうなのだけで記載がない。でも、半音階の下降で音を弱くしていくべきだと思う。
 ②④⑥次に最もスタンダードな3箇所。Eのオクターブで手を変えて上昇した後に左(DisE)右(DisE)左(DisE)右(DisEDis)となる部分。これが131550529496  ③最後の1つは3638。例によって左(DisE)右(DisE)左(DisE)ときた後Disだけで主題に戻る。
 これだけコロコロ変わるのを見ると尺稼ぎのために適当に穴埋めしてるのかと疑わずにはいられない。ベートーベンがそんな雑な仕事するとも思えないけど、遺作だしちゃん完成させたわけではない可能性もある。ちなみに、手を変えて左(DisE)右(DisE)左(DisE)とするのは回数を間違えなくするための工夫だと思う。間違いなく弾けるなら全部右手でもいいと思う。
 上記に加えて、速度の変化の指示もある。速度の変化については、楽譜を見て覚えるよりも曲を聞いて練習して体で覚えたほうが捗る。人によると思うけど。

速度について
 "Poco moto"という指示がある。"moto"というのはあまり聞かないけど、「動き」というような意味、英語のmotionに対応すると思う。"poco"は「ちょっとだけ」なので、合わせて「ちょっとだけ動きを伴って」という感じになる。速度じゃないやんってツッコミを受けそうだけど、速度の指示なんてそんなもんで、演奏者が勝手に解釈したら良いというものが多い。定量的な速度を指定したかったらメトロノームで示すからこれでよい。

3034小節

 32分音符のパッセージで、メカニカル的にはここが最も難しくなる。とはいっても、せいぜい音が崩れやすいってくらいですごく速く弾こうって思わなければ特に苦労はないと思う。この部分を弾く速度で全体の速度を決めたら良いと思う。

5974小節

 長いので譜例は59小節だけ。
 クライマックスに向けて盛り上げる部分。
 左手に指番号の指示がある。この指使いにしなければならないわけではないが、ちゃんと指を交代して演奏しないと拍感がおかしくなる。
 この区間は強弱の指示があるが、どこまで強く弾くかは指定がない。人によってmf~ffくらいの違いはあると思うが、自分が良いと思う強さまで盛り上げたら良い。また75小節でいきなりpに、76小節でppになる。ここのところはデクレッシェンドがないことを間違えないように。

7782小節

 ここがクライマックスとなる。
 ここでもクレッシェンドした先の強さが書いてない。矢張り好きに弾いたら良い。分散和音でクレッシェンドと共に上昇したあとに半音階で下降する部分にデクレッシェンドが書いてないけど、上昇:クレッシェンド、下降:デクレッシェンドの原則を考えるとこの下降部分は音を弱くするべきじゃないかと思う。いきなりppにするのは不自然だけど、どういうことだろ。
 音域が広く演奏者にとっては見せ場となる。見せ場だからといって調子に乗って速度を上げないように。