チェルニー30番29 演奏解説

 29番は全曲を難易度順に並べたチェルニー30番 30の小さな物語で一番最後に配置されているので、30曲で一番難しいかと思われるけど、別にそんなことはなく、むしろ弾きやすい部類に感じる。
 全部で16小節しかなく、テンポも2分音符=100bpmなので非常に短い曲である。演奏時間の計算値も38秒と30曲中群を抜いて短い。
 いつも通り、楽譜は全音版を使う。

テンポ
 2分音符=100bpmは30曲中屈指の指定テンポである。2番が2分音符=108bpmで、1番が2分音符=100bpmというのがチェルニー30番最速の部類だが、1番と2番は3連符を基本としており2分音符1つの間に6音を弾くのに対し、この29番は2分音符の間に8音を弾くので、29番が最も速いといっても間違いない。
 この曲は4/4なので、4分音符=200bpmとしたくなるところだが、200bpmというのはあまりにも早すぎて認識が追いつかないので倍の2分音符=100bpmとしてある。これなら辛うじてリズムを取りながら演奏することも可能である。
 グリッサンドみたいな速度で演奏するが、実際のところ、普通にグリッサンドするよりも速い。グリッサンド16番で使うことができると以前説明したが、そのテンポは29番の半分の4分音符=100bpmである。29番は手を入れ替えることによって指くぐりを排したことにより指定の速度を達成できるようになっている。また、手首の回転を利用することも速く弾くことに貢献できる。
 ある程度速く弾くようになると、ミスタッチを抑えるために手元を見るのが効果的になる。その頃になると、ある程度暗譜も済んでるので手元を確認しながら演奏できるようになっていると思う。

練習の仕方
 この曲は、結局、速度を100bpmまで上げることが最大の難関である。もちろん、音の粒を揃えておきたいが、ショパンが言っていたよう[1]に非常に速く音階を弾けば、誰も不揃いな音色に気付かない。与えられた拍の中でのリズムの正確さの方が、個々の音の質的な正確さよりも優先されるのである。ただし、隣り合う2音が重なってしまうほどにタイミングがずれると流石に音が汚く聞こえてしまうので、その程度には気をつけなければならず、またそれ以上に正確なリズムを取ることに気を使わなければならない。
 基本的にスケールばかりなので、殆ど手元を見る必要もなく、覚えやすい作りになっているため、譜読みはかなり楽である。
 譜読みが終われば、速度を上げていく段階になる。速度を上げていく過程で無駄のない動きや、速く弾くための工夫を探すことになる。
 上りと下りで同じ速度にならない場合は、まだその速度で演奏できるようになっていないということなので、テンポを落として練習しなければならない。
 テンポのとり方だが、練習初期は4分音符=100bpmから徐々に上げていく。2分音符=50だとメトロノームの鳴る間隔が短すぎて上手くリズムを取れないので、4分音符=100bpmからスタートする。1日の練習のうちに徐々に速度を上げていくけど、翌日の練習はその続きのテンポからスタートできるわけもなく、無理なく演奏可能な速度で始めることになる。もしかしたら、前日の開始時と同じテンポとなるかもしれない。大体140~160bpmくらいでリズムを取るのが難しくなってくるのでその段階でメトロノームの数値を半分にしてリズムをとる基準を4分音符から2分音符へと変更する。最終的に100bpmで演奏できるようになれば完成となる。
 ちなみに、僕の場合は、1日に10回通して弾き、その際に悪い部分を抽出改善しつつそのテンポで合格だったら5bpm速くするようにしてテンポを上げた。結局、最後の方は90bpmから始めて100bpmまでテンポを上げて練習するというのが習わしとなっていた。

リズムの取り方

 拍ごとに左右の手を入れ替えるようになっていればよいのだけど、そんな都合の良い作りにはなっていないし、それでは練習にならない。拍を意識して、拍頭の音を少し強めに打鍵すると何となくリズムが取れる。テンポを上げていくと4拍を認識するのが難しくなってくるが、それでも拍頭のアクセントは意識した方が良い。
 例えば、1小節目の4拍目は最初のGだけ右手で、続くFEDは左手となっている。こういう部分でもちゃんとGにアクセントを置くことでリズム感が身に付いてくる。この部分、4拍目を始めから左手に受け渡して弾くこともできるが、そうすると1小節目の終わりから2小節目に入る部分で指使いが454と、動きの悪い4指を短い間隔で使わなければならなくなるので、むしろ難しくなる。
 左右の手の受け渡しは10番でも練習課題となっていたが、遥かにテンポの速い29番の方がより厳しいものとなっている。しかし、上に書いたように10番ほど精妙にタイミングを取る必要はない。

8小節

 ☆2拍目左手。この部分はコンパス弾きで攻略するのだが、最後のGを押す際にHを押していた3指をしっかりと上げておかないとGと一緒に3指がHに触れてしまう。

9小節

 ②右手から左手に受け渡す部分。右手が邪魔で左手を正しいポジションに持っていけなくならないように、最大限右手を引っ込める。できるだけ手を低く、左側に寄せる。

10小節
 ※後半右手トリルの部分。動きの悪い4指を使ったトリルなので、遅くなりがちである。ダブルエスケープメントを意識して、キーが半分くらい上がったところで次の打鍵モーションに入ることで速度に追従できる。
 トリルの後の下降。3指はトリル部分ではFisで、下降部分ではFとなり、打鍵するキーが異なる。指の位置を移動しなければならない。移動距離を短くするためにトリルのときのFisは出来るだけ手前の方で打鍵する。

参考文献
 [1]ジャン=ジャック・エーゲルディンゲル, 弟子から見たショパン―そのピアノ教育法と演奏美学, 音楽之友社(2005)

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