チェルニー30番25 演奏解説

 チェルニー30番の25番を録音・公開した。
 テンポの早いタイプで、かつ分散和音の練習ということもあり、指定のテンポで弾くのはかなり大変。分散和音は隣の音まで距離があるので、その場で指を下ろすだけでよいスケールとは違い、ポジション移動を同時にしなければならないのでテンポを上げると、よりキツイ。
 いつも通り、楽譜は全音版を使う。例によって、演奏する上で特に注意するべきことは楽譜の解説に書いてあるので、その部分は割愛し、もっと瑣末なメカニカルな部分を始め低レベルな解説をする。
 手元を見ずに弾く練習も兼ねていたのだけど、速度を挙げると打鍵が不正確になってミスタッチが頻発するようになるため、最終的には殆ど手元を見て、ポジション移動のないごく僅かな部分だけ楽譜を見ながら弾くというスタイルになった。それでも、譜読みから曲が手に馴染むまでの間はしっかり手元を見ない練習は出来たと思う。
 この曲を練習しているときに気付いたことがある。右手の2指の指を上げる動きが極端に悪い。道理でスケールが上手く弾けないとか指くぐりが苦手だとか思うわけである。気づくの遅すぎである。今更になって右手2指がちゃんと動くように訓練しないといけないなと思う次第である。今まで何をやってたんだろう。でも、こういうのってピアノの先生でもあんまり気付かないんじゃないかな。結局、何故弾けないのか、何が悪いのかって、自分で分析する内に見えてくるものであって、人が指摘するのは難しい。というわけで、ピアノを練習する人は自分の動きをよく観察しましょう。
 このシリーズも回を重ねるごとに長大になっており、書く側としても面倒なことこの上ないのだが、経験と視野が広がっている賜物だと思っておきたい。

テンポ
 Allegro en galop.で、指定テンポは4分音符で138bpmとなっている。"Allegro"は速く、"galop"は馬を全速力で走らせること。なので、合わせて「馬を全速力は知らせるように速く」という意味になる。とにかく早い。
 練習を始めたばかりの頃は当然ゆっくり弾くのだけど、「チェルニーらしい面白みのない曲だなあ、ツマンネ(゚⊿゚)」って思ったのだけど、テンポを上げると派手で輝かしく聞こえるようになる。こういうのをブリリアントとか言うのかと思うようになる。ただし、かなり指定速度に近い速度まで上げないとそう感じられないので、普通はツマンネ曲という印象のままで終わるんじゃないかな。
 ある程度弾けるようになるとテンポを上げていくのだけど、毎日練習する際、最初にゆっくり弾いて徐々にテンポを上げて最終的に指定のテンポで練習するやりかたをした。結局、ゆっくり練習することなしにいきなり指定のテンポは無理だった。この際に、最初は、120bpmから4bpmずつ上げていくとしたのだけど、初期のテンポが速すぎたようで上手く行かなかったので、100bpmから10bpmずつ上げていって最後は138bpmとすると割と上手く行ったので、このように練習した。
 138bpmで弾くには脱力は不可欠である。脱力というのは、必要な筋力をつけることと、曲を手に馴染ませ必要な動きを体に覚え込ませることによって必要ない動きを削ぎ落とすことによって実現できる。なお、この脱力法は速く弾くための脱力であり、ピアノ演奏一般の脱力を目指すピアノ・脱力奏法ガイドブックvol.2の内容とは異なる。

手首の動き
 指定のテンポで弾く際には、疲労の蓄積もあって指の動きだけでは対応するの難しい。そこで、手首の動きを利用してキーを動かすエネルギーを指だけでなく手首にまで分散する。これがチェルニー30番ではなく、ショパンの練習曲なんかになると手首に限らず、肘や肩あるいは体全体にまで拡張しなければならない曲が多いけど、取り敢えずここでは手首までとしておく。
コンパス弾き
 コンパス弾きというのはチェルニー30番ではよく出てくる言葉。これは根津栄子による造語[1]だが、手首の回転により1指と5指で交互に打鍵する弾き方。1指と5指である必要はなく、打鍵する指同士が離れていた方が回転角が小さくて有効であるというだけ。尺骨と橈骨の動きを理解しておくとなお良い[2]
 コンパス弾き自体を練習課題としている13番ほどではないが、この曲でもコンパス弾きが要求される場面が2 4 11 13 15 21 24 25小節といたるところにある。
ローリング
 ローリングという言葉はブルクミュラー25の練習曲の解説で初めて見たのだけど、手首を回転させることによりより速く打鍵する技術である。打鍵のタイミングや強さといった音の粒を揃えるのが難しくなるが、速く弾くためには必要な技術であり、スケールの部分と上に示したコンパス弾きの部分以外の殆どの部分でこの技術を使うことになる。
 アクセントを強く弾く場合、指の力だけで弾くとすぐに疲れてしまう。手をロールさせてその勢いでアクセントを付けるとよい。この曲では割とそのようにしてアクセントをつけやすくなるように書かれている。
 ローリングと言うと、小学校の頃に先生から「転がらない」と散々言われたことを思い出す。当時は、「転がる」という言葉の意味が分からなかったのだけど、ローリングを意味してるんだなあと今では思っている。

アクセント
 拍の頭の音にアクセントの付いていることが多い。その音だけ強く弾けば良いのだけど、アクセントというのは強く弾くというよりもその音を強調するという意味の方が正確である。その位置手段として強く弾くという方法があるというだけである。ということは、アクセントを表現するためには音価を長く取ることによってその音を主張するという方法もある[3]ということは知っておいたほうが良い。
手元を見ずに弾くために
 左手の和音は前後の和音と同じキーを含んでいることが多いので、共有するキーを手がかりに手元を見ずに抑えるキーを特定することが出来る。

1小節

 1 3 20 22 24小節右手後半。5指のアクセント部分。腕の重みを使って打鍵強調する際にMP関節[4]がこの勢いを受け止めきれないと手が下がってしまう。すると想定よりも低い位置に手が来て、続く音が弾きづらくなる。打鍵の瞬間、MP関節をしっかりと固めること。

2小節

 ②右手1,2拍目。このスタッカートが旋律を作っていることを意識する。一方、合間に挟まるAは静かに弾く。コンパス弾きの際に、1指とそれ以外の指でこのように強弱を付けるには、1指を軸にしてあまり鍵盤から離さず、他の指を比較的大きく上下させるようにする。4 11 21 23 25小節も同様。
 ■3拍目4音目のD。この2指は構造上、黒鍵と黒鍵の隙間を打鍵することになる。そのまま離鍵してポジション移動しようとすると隣の黒鍵にヒットしてしまう。この2子は手前に引っ掻くようにして、離鍵と同時に黒鍵の隙間から脱出する。21 25小節も同様。
 ※4拍目最初のFisを押すときに、4指と一緒に3指が降りてくると隣のDisを押してしまう。3指を動かさずにいるか、降りてきても黒鍵のない位置にずらすかしなければならない。3指と4指は腱を共有しているため一緒に動きたがるのだけど、訓練によってある程度は自由に動かせるようになる。これを指の独立と呼んでいる。こういう細かい部分を丁寧にクリアしていくことで、そのうち指の独立にたどり着くのである。

5小節

 ◎右手。各拍最初の音にアクセントの付いている小節はフォルテであってもアクセントの音だけ十分に強く打鍵すれば他の3音は弱くてもフォルテに聞こえる。特に、5 6小節はアクセントの音以外をフォルテで弾いている余裕はないので拍頭だけは力いっぱい押してほかは力を抜いてキーを下げるだけにする。

7小節

 手元を見ずに弾くために:☆左手。6小節のEの位置を覚えていても良いのだけど、6小節でGisを押していた1指をDisとFisの隙間にテキトーに置いて、その空間の左端、Disの右側面に接触する位置がEとなるので手探りで位置を合わせることが出来る。

12小節

 ▲後半右手。2指が1指をもぐるところ以外はできるだけ指を動かさずに手首の回転を使って指先をキーに押し付けるようにする。というのは、指くぐり前の1指と5指前の4指はどちらも離鍵しづらいのに直後にもう一度打鍵しなければならないので普通に指を上げていては間に合わない。14 16小節も同様。

13小節

 右手の運指は3414となっているが、15小節では同じ音を2313で取るようになっている。何故ここで指使いを変えているのかは不明。なお、チェルニーってつまらないの?では13小節は2313で取るようになっており、次のような解説文が付けられている。

 アルペッジョは和音の分散だって判ったね。で、弾くときも和音のポジションを手で準備して(つまり掌を広げた形)それを分けて弾いていくでしょ。13小節目のポジションはまとまったポジション。だからそこは2の指をキーポイントにして掌をまとめて使えば楽なのだ[譜例2]。このポジションを自由に変えるためには、手に力を入れたりしては駄目。それが手を固くして弾いては駄目という理由なんだよ。

 譜例に間違いがあったので修正の書き込みがしてあるけど、異なった指使いを前提に書くのはどうなんだろうって思う。まあ、2指が3指になったところで内容は特に変わらないから別にいいのかも知れないけど。

17小節

 ✡1拍目。このEの2指は弾き終えたら急いで離鍵しないと続く指くぐりの邪魔になってしまう。あるいは、必要な速度で指を上げられないのならE-Fisを弾いている間に手をねじって2指に邪魔されないようにDの位置に1指を持っていき、Dを押したらすぐに元の向きに戻す。23小節3拍目も同様。

19小節

 ◎右手。これまでに出てこなかった音の並びになっており、手が慣れていないと、この動きに対応できずに止まってしまう。手が動くようになるまでしっかりと部分練習をする。1拍目+E、1拍目+EA、1拍目+EACis、1~2拍目、1~2拍目+Fis・・・というように練習し、少しずつ弾ける領域を増やしていき、最後には1小節丸々問題なく弾けるようにするのもよい。

21小節

 ☆左手1拍目。スラーが切れているので、次の音につなげるために指を置き換える必要はない。ただし、手元を見ずに弾くために次の音を確認するのに5指の自由を確保したいということで別の指に置き換えるというのはアリ。23小節も同様。

26小節

 ■3拍目右手。このFisの4指が離鍵できていないことがある。すると、次の4拍目のFisが打鍵できなくなってしまう。この部分はFisだけ黒鍵で、他は白鍵なので手の高さを白鍵に合わせている。そのため少し高い位置にあるFisの4指は他の指より高く上げないと離鍵出来ない。動きの悪い4指を、である。更に、次の音は4指と腱を共有する5指の打鍵である。この三重苦によって非常に離鍵しづらい構造になっている。ここは特に離鍵を意識することに加えて、指先を高い位置に来るような離鍵しやすいポジションを取るとよい。

27小節

 ▲右手最初の2音、Cis-Dを2-2と指を滑らせて引く場合、Cisはキーをまっすぐ下に押すのではなく、右手前に滑らせながら弾き、キーが鍵床に当たって止まるより先にDに移動する。真っ直ぐキーを下ろしてしまうと指先が滑っていないため静止摩擦となり、また鍵床まで押し付けてしまうと垂直抗力が大きくなり摩擦抵抗が増えて滑りづらくなってしまう。
 △右手最高音のD。かなり右の方にあるので手を伸ばして弾こうとすると横から手を伸ばすことになり、真上から押すか、指を曲げて弾くしかない。すると、隣のキーを一緒に押してしまうことが多くなる。状態を右の方に移動して、手が真っ直ぐ前を向くポジションで弾くと誤って隣のキーを押してしまうことは減る。また、このように弾くために高音側にポジションを取っていると、最後の1オクターブで下のDを斜め上から抑えることになる。すると、隣のEを一緒に押してしまうので、そうならないように真っ直ぐ上から打鍵しなければならない。手を少し上げて高い位置から指先をキーに落とすようにしたら良い。

参考文献
 [1]根津栄子, チェルニー30番 30の小さな物語・下巻, 東音企画(2013)
 [2]トーマス・マーク, ピアニストなら誰でも知っておきたい「からだ」のこと, 春秋社(2006)
 [3]小林仁, ピアノが上手になる人、ならない人, 春秋社(2012)
 [4]岳本 恭治, ピアノ脱力奏法ガイドブック 1 <理論と練習方法>, サーベル社(2015)

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