チェルニー30番23は左右の手が3度、6度の距離保ったパッセージの練習。両手で16部音符のパッセージを弾くのでタイミングがずれやすい。また、3度の部分は左右の手が近くお互いに干渉するのでその点の注意が必要である。
全体的に
テンポを上げていくと指くぐりでもたついて演奏が崩壊する。各演奏者はどう攻略したらよいかそれぞれ悩むことだと思う。自分の演奏をよく観察して何が引っかかりになるのかを見極めなければならない。僕の場合は、指くぐりの前に打鍵した指を離鍵した際にキーの上に乗っかっており、指を潜ろうとするのを邪魔するためであることが多い。黒鍵で指くぐりする場合も、その更に前のキーの上に指が残っているので同様のことが起こる。
指を潜ったり跨いだりするのは大抵黒鍵のタイミングだけど、次に弾く白鍵が短2度先の場合と長2度先の場合がある。調整を認識しただけで速く正確に弾けるのが好ましいが、多分出来ない。少なくとも僕には出来ない。これでもかってほどにハノンを練習したら、調性の認識と指の動きを合致させることができるようになるのかもしれない。まあ、そんな地味な練習には耐えられないので、せめてこの練習曲だけでも指を馴らしたらいいんじゃないかな。
パッセージ全体にスラーが付いている。ちゃんとスラーで弾いたほうが良い。というのは、音の粒が揃わなかったりミスったときに、レガートとノンレガートではノンレガートのほうが目立つからである。ノンレガートの方が鳴っている音の総量が少ないのでいわば分母が小さくなるため、個々の音が目立つようになるのである。技術的に自信があるのならグールドみたいにノンレガート奏法を使うのも良いけど、チェルニー30番でやることでもない。
テンポについて
"Allegro comodo.(4分音符=132)"となっている。comodoというのは「気軽な、ほどよく」という意味[1]。つまり、「ほどよく速く」となる。楽譜を見て想像する通りの速度であり、1番や2番みたいに想像を絶する極端な速度ではないので気構えることもない。とはいえ、決して遅いわけではないので指定の速度で弾くには相応に修練が必要である。
田村宏もエッシェンバッハも指定の速度で演奏している[2][3]ので参考になると思う。
左右のタイミング
両手で16分音符のパッセージを弾くのだけど、どちらもスケールなのでタイミングがずれていたとしてもそれを認識できない。パッセージの終わりに至り、数が合わないことで漸く間違っていることに気づくわけだが、左右のタイミングを合わせるのは容易なことではない。ここでは16分音符4音の連桁した塊で音を認識するということを提案したい。各拍頭を左右でピッタリ一致させることでリズムを認識できるようになる。4音程度では曲が崩壊するほどにタイミングがずれることもないので、拍ごとに左右のズレを修正しながら演奏できる。
上手くいかないときはリズム変奏で練習すると手が順応できるようになる。
3度のパッセージ
3度の距離でスケールを弾く場合、2音後に同じキーを別の手で弾くことになる。となると、離鍵後にキーの上に指を残しておくと必ずその指が邪魔をする。離鍵から次の打鍵までのタイミングが1音しかないので、この間に、指をどけて次の指がそのキーの上に来るという精密な動作を素早く行わなければならない。それが2小節も3小節も続くのだから尋常ではない。
どういうわけか僕の場合は上昇スケールで右手が邪魔をするということがよく起こる。個人的な得手不得手に属する問題であり、人によっては下降スケールの左手で同様のことが起こるはずだと思う。
3度の対応策はとにかく離鍵したら迅速にキーの上から指をどけることに尽きる。
どうしても上手くいかないなら、手元を見たら良い。手元を見て弾くと無意識のうちに左右の手の衝突を避けるような動きになる。もちろん暗譜が必要になるのだけど、チェルニーを指定のテンポで弾くことに比べたら暗譜なんてどうということもない。しかも、この場合は部分的に暗譜するだけで済む。手元を見ずに弾くことに拘りがあるのでもなければ楽に弾ける方を選べばよいと思う。
2小節
●2小節最高音E, Cisで左右をぴったり合わせたくなるが、あまり拘るべきではない。次の1音ずつ下がったDHは拍頭なのでこちらを意識して合わせるべき。もちろん、全部きれいに揃っているに越したことはない。
◎2, 4, 14小節3度の距離で登り切る部分右手は1-2-3-4-5と頂点まで登って4-3-2-1と同じ音、同じ指で降りてくる運指になっているのでついつい指をキーの上に残しておきたくなるけど、そこは左手で同じキーを押さなければならないのでNG。1, 2, 3指は離鍵後直ちにキーの上からどけること。別に、右手だけでショパンのOp.25-6みたいに3度の和音進行するってならいいけど、遥かに難しくなる。
7小節
☆手元を見ずに弾くために:左手2~3拍目。2拍目のCis-Aを短く切ったら4子でHの位置をマークする。次いで1指で7度上のAをマーク。それからHの上の4指をどけて変わりに5指を置く。これで3拍目の準備ができる。
8小節
右手。指くぐりの際は手全体を少し高く上げて掌と鍵盤の間に空間を作ることで1指が通りやすくなる。
15小節
右手。意識して4指を持ち上げるようにしないと、4指の次の打鍵時に離鍵で来ておらず、音が出せない。あるいは指使いを変更してAHを34で取るようにすると面倒はなくなる。
16小節
●手元を見ずに弾くために:左手。離鍵後、手を移動させない。次の17小節最初の音は同じポジションで始まる。
17~19小節
☆左手。各小説内では1指をまたぐとき、同じ指でまたぐようになっている。
23小節
※1拍目右手。Fis-Hを3-5で取るとき、鍵盤の奥の方で弾こうとすると、3指につられて4指が下がってきてGisのキーと接触してしまう。Fisの手前の先端部分を3指が押す感じで、できるだけ鍵盤の手前で弾くのがよい。4指が下りてくる位置に黒鍵がないようにする。指が事由に動かず音の粒が揃わないときはリズム変奏で指を馴らす。
参考文献
[1]遠藤三郎, 独・仏・伊・英による音楽用語辞典 【改訂版】, シンコー・ミュージック(1991)
[2]田村宏, ピアノ教則シリーズ5 ツェルニー30番 練習曲, 日本コロムビア(1992)
[3]エッシェンバッハ, ツェルニー30番練習曲, ユニバーサル ミュージック クラシック(1974)
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