チェルニー30番12 演奏解説

     チェルニー30番の12番を録音・公開した。
     チェルニー30番の他の曲みたいにもの凄くテンポが速いというわけではないので、それほど苦労なく弾けるんじゃないかなと思っていたのだけど、同音連打を普通のパッセージと同じ速度で弾こうなんて考えるもんじゃない。結局相当な苦労を強いられたし、結構ミスタッチがある。指定の指使いは疾うに諦めた。
     いつも通り、楽譜は全音版を使う。例によって、演奏する上で特に注意するべきことは楽譜の解説に書いてあるので、その部分は割愛し、もっと瑣末なメカニカルな部分を始め低レベルな解説をする。
     当初、出来るだけ手元を見ずに、楽譜を見ながら弾くようにしていたのだけど、引きこむうちに殆ど暗譜してしまった。最終的に楽譜を見ながら弾く部分は20~28小節だけとなってしまった。とはいえ、当初の目論見の名残で、手元を注視するべき部分にはこのように*印を記してある。

    テンポについて
     テンポは4分音符76bpsと、チェルニー30番にしてはあんまり早くない。しかし、1分間に76×6=456回の速度で同音連打しなければならない。1秒間に7.6回に相当する速度であり、ほぼアップライトの機械的な限界である。つまり、アップライトでこの速度を出すのは不可能と考えて良い。とはいえ、アップライトでもダブルエスケープメント的な動きのできる楽器もあるので、出来ないわけではない。このこの同音連打速度はシューベルトの魔王の152bpsとまったく同じである。僕がシューベルトの魔王を弾いたときはアップライトだったのだけど、多分相当テンポを落としてたんだと思う。
     チェルニー30番自体、指定のテンポで弾くことは勧められないけど、この12番はアップライトでは無理だから止めるべきだと思う。
     テンポを維持することがすごく重要であり、例えばテンポを速くすると同音連打の機械的・肉体的な速度限界を迎えてミスタッチすることになる。しかし、演奏している時の精神状態で自分が感じる時間の経つ速さが変わってくるので、仕方なしにメトロノームを使って正確な速度を意識して弾いてみたけど、結果はあんまり変わんなかった。

    同音連打の弾き方
     同音連打の演奏法は先日、ピアノ演奏の脱力についてというエントリーで説明したのだけど、キーを手前側に引っ掻くようにして打鍵する演奏方を勧める。離鍵した時にキーの戻る速度が速いほど次にキーを押す準備が速くできるので同音連打も速くなる。従って、打鍵後速やかにキーの上から指をどける、手前に引っ掻く奏法が有効である。

    14~15小節右手

     ☆43の同音連打について、4→3で弾こうとすると3指が4指の動きにつられて少し早いタイミングで動いてしまうので3指が動くべき時まで静止しているよう注意すること。特に15小節で黒鍵を叩くときは打鍵のストロークが短いため顕著に起こる。

    16~19小節

     ※16小節後半右手。4,5指に力が入らず指がふにゃふにゃで正しいタイミングに必要な力で打鍵できない。指が曲がった状態で十分な力を込めずに打鍵しようとするとキーの打鍵抵抗に負けて指が撓ることで、エネルギーのロスと打鍵タイミングの遅延が起こる。筋トレして指の力を付けろっていう話だけど、初めから指を伸ばした状態で指の動きだけで弾こうとするのではなく、鍵盤に手を押しこむようにして打鍵すると上手く弾ける。
     16小節後半~19小節前半左手。演奏中に正しい指使いがどうだったか迷う。小節ごとに一番上の音が2→1→2→1となっていることを意識するとよい。この並びは24小節まで続く。

    20~23小節

     ※20小節左手。もう少し弾きやすい指使いがあるのだけど、22小節と同じ音なので混乱しないように同じ指使いで演奏することにした。
     ☆20~23小節右手。同音連打するとき、2→1よりも1→2の方が速く弾ける。2→1の場合は2指を離鍵するとき指をまっすぐ上に上げないといけないが、1→2で1指を離鍵するには指先を手前に移動してキーの上からどければよいためである。だからここで敢えて2→1としたチェルニーは間違っている。そんなことを言い出すと、そもそも第1小節からして同音連打は321よりも123の方が適しているとなる。実際そうしたほうが離鍵しやすい。

    28小節右手

     ◎フォルテでの同音連打。手前に引っ掻く打鍵でフォルテの同音連打は難しい。ここではシューベルトの魔王みたいに気合を入れて指を上下しなければならない。指の上下だけでは連打速度が足りないので手も上下させる。手首より上は動かさずに、手首を柔らかくして手を上下する。

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