チェルニー30番1 演奏解説

 チェルニー30番1を録音したので、いつものように解説。
 音楽的なことに関しては野口裕紀がけっこう細かく説明している(魚拓)。この人は指定のテンポ通りに弾いているだけあって、解説に説得力がある。本エントリーではもっと泥臭い技術的な話で、どうやったら指定のテンポで弾くことが出来るかという点に主眼を置いて説明する。
 楽譜はいつもどおり全音を使う。

全体的な話
 チェルニー30番は殆どの曲で以上に速いテンポを指定しており、出だしの1番から躓かせる気満載である。そういえば、ショパンも練習曲1番に非常に難易度の高い曲を持ってきていた。この傾向を見てしまうと、練習曲を作る奴はみんな捻くれてるのかって思ってしまう。それはそうと、チェルニー30番はダブルエスケープメントを利用しないと弾くことのできない速度ばかりである。もちろん、頑張れば出来るかもしれないけど、ダブルエスケープメントのためにキーを上下する際に指を動かす距離が半分くらいに減らすことが出来るので、これを利用しない手はない。というか、チェルニーもダブルエスケープメント前提で曲を書いているフシがある[1]。したがって、グランドピアノを持っていない人が指定のテンポで演奏するというのはあまり現実的ではない。

リズムと速度について
 2分音符で100bpmである。曲自体は4/4で表示されているので、4分音符で200bpmと表記するべきだけど、それだと速すぎて拍をうまく認識できないため、半分の速度で表記しているものと思われる。実際のところ、フレーズも2分音符ごとのまとまりとなっている部分が多いので、4/4よりも2/2考えた方が演奏もしやすくなる。
 4/4と2/2はどう違うのかと言うと、粒の揃え方が変わってくる。MIDIのステップ入力をするように全ての音を同じ強さタイミング音価で弾ける人はそうおらず、この速度ともなれば1音1音が結構ばらつく筈である。その際に、拍毎に音の塊として粒を揃えることで、1音1音が揃っていなくても音楽として成り立たせることができる。4分音符単位で粒を揃えるよりも2分音符単位で粒を揃えたほうがうまく纏まっている。

ダブルエスケープメント
 ダブルエスケープメントとはグランドピアノに備わっている機構で、同じ音を連打するときにキーを一番上まで戻さなくても半分くらい戻した時点で再び打鍵してもハンマーが弦を叩いてくれる機能である。これを利用することで、ポジション移動のない部分では指を半分しか上げる必要がないので運動量を減らし疲労を抑えることにつながる。
 ダブルエスケープメントをうまく使えるようになるというのはチェルニー30番の練習課題であると言っても言い過ぎではないほどである。
 例えば1小節右手、

 GCDEDCという音の並びだが、この真ん中辺3~5音にDEDという並びがある。この速度で1音置いて同じ音を連打するというのはかなりの難事業である。2指でDを押さえた後、2指を離鍵すると同時に3指でEを押して続いて2指でDを押そうとすると、2指は打鍵の準備ができておらず打鍵が間に合わなくなってしまう。そこで、3音目を打鍵後離鍵はキーの半分くらいまでで止めておいて時間的な余裕を持たせる。
 こうして、何とか遅れずに打鍵できるようになる。ただ、ダブルエスケープメントでの再打鍵はダンパーが弦を抑えないため、その音が鳴り続けているということになる。だから、あまり距離の離れた2音でこの弾き方をしようとすると音の切れが悪くなってしまうのであまり推奨できない。
 1小節右手の音形はダブルエスケープメントだけでなく、手首の回転も利用できる。シュッテルング(Schuttelung)とかロールング(Rollung)[2]とか動かし方に応じて異なった名称が付いているが、打鍵する指の先端が下になるように手首を回して指の上下運動以外の動きで打鍵を助けるということである。

左手について
 この曲は右手で速く弾くことが練習の中心となるため、左手が閑却されやすい。左手は基本的に2声の和音で進行する。それぞれの音価を守ってもう一方の声部に引きずられることのないように。右手よりも遥かに簡単な動きなのでこの部分はきちっと詰めておきたい。

13小節右手

 ☆2拍目と4拍目のFは2音前にも同じ音を打鍵しているので、再度打鍵するための準備時間を稼がないといけない。打鍵の仕方は上に1小節を例に説明した通りだが、動きの悪い4指を持ってきているため、恐らくこの曲で一番難しい部分となっている。
 なお、指使いを改めてしまえば割と簡単に弾けるはず。

2530小節右手

 右手は全部同じ動きをする。2,4拍目の3指で押さえるところは2音前に3指を使っているため、打鍵が間に合わなくて遅れやすい。特にあとの方は強く打鍵するので離鍵し始めるまでに力を抜いておかないと、離鍵に余計な力を要することになるので躓きやすい。ローリングで弾く中、この3指だけ異質な動きとなるので、特別に意識して弾くこと。

参考文献
 [1]上田泰史, 「チェルニー30番」の秘密――練習曲は進化する, 春秋社(2017)
 [2]井上直幸, ピアノ奏法―音楽を表現する喜びp84-89, 春秋社(1998)

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