チェルニー30番27 演奏解説

 チェルニー30番の25番を録音・公開したので例によって解説。
 腕をまたいだ跳躍の練習。跳躍先のキーがどこにあるのか分からないので、当然ながら手元を見ないと弾けない。従って、暗譜前提となる。手元を見ずに弾くことをチェルニー30番の目的とするなら、この曲は飛ばしても全く問題ない。
 いつも通り、楽譜は全音版を使う。例によって、演奏する上で特に注意するべきことは楽譜の解説に書いてあるので、その部分は割愛し、もっと瑣末なメカニカルな部分を始め低レベルな解説をする。

調性について
 調性についてはちょっと知識がいるので、普段はあんまり言及しないことにしてるのだけど、今回は音楽的な部分とは関係ないところで調性が関わってくるので説明しようかと思う。とは言っても、別に大した事ではない。
 主調が変イ長調で、15小節後半から16小節1拍目までが属調変ホ長調となっているというだけである。
 なぜこの調整かと言うと、この曲は手をまたいでの跳躍の練習ということで、跳躍先のキーを押しやすいように黒鍵の多い調性にしてある。ただ、それだけである。
 跳躍先のキーが黒鍵だとミスしにくいのである。ピアノは黒鍵よりも白鍵の方が弾きやすいというのは素人考えで、ピアノを弾いていない人にはなかなか理解してもらえない。
 白鍵の幅をノギスで測ると22.55mmだった。隣のキーとの隙間を合わせると大体23mmになる。現代のピアノのキーは一定のサイズだと決まってると中学の音楽の授業で習ったので、どこのピアノでもそうなんだと思う。白鍵を打鍵する場合は、この23mmの隙間からはみ出ないように指先を押し込まなければならない。黒鍵と黒鍵の隙間なんて12.40mmしかない。
 一方、黒鍵はというと、11.8mmしかない。しかし、黒鍵の場合は隣のキーと接しているわけではないので、横にはみ出ても全く問題ないのである。従って、黒鍵の指を配置して許される広さは[11.8mm+指の太さ×2mm]未満ということになる。仮に指先の太さが10mmだとすると、41.8mmの領域を押すことが許される。これは、アイソレート型というパソコンのキーボードに通ずる。
 さて、実際の所、黒鍵の押すことのできる領域は指が太ければ太いほど広がるのである。すると、例えば指を3本束にして太い指を作ってやるとか、指先で打鍵せずに指を寝かせて黒鍵と指が横とか斜めに交差するように位置取ることで、打鍵の正確性をかなり上昇させることができる。後者の技術はショパンの黒鍵のエチュードやリストのラ・カンパネラでは必須となるので覚えておいいたほうが良い。
 そんなわけで、チェルニーがこのフラット4つである変イ長調を選んだのは、そのようにして弾きやすくするためである。テンポに関しては鬼畜なチェルニー先生だが、こういった部分では優しさがある。

テンポ
 Allegro comodo.で、指定店舗は4分音符で120bpm。それほど無茶な速さではないので気軽にできるかなと思っていた頃がありました。
 上で説明したように黒鍵が多いので、従って鍵盤の奥の方で打鍵することが多くなる。ピアノのキーとハンマーはテコの原理の関係があるので、力の原理によりキーは手前が軽くて奥が重くなっている。それで、奥の方ばかりで打鍵するので、たかが120bpmとはいえ非常に疲れる。やっぱりチェルニー先生鬼畜や。

キーが重いことについて
 キーが重いと、当然ながらある程度の力を込めて押さないとキーが沈んでいかない。音量の制御が難しく、弱音を出そうとすると、押す力が弱くて音が出ないことがある。
 キーから少し指を離した状態で打鍵の準備をしておいて少し勢いをつけて打鍵すると弱い力でもキーを下げることができるし、弱音も出しやすい。この曲にはpが存在しないので、弱音については意識する必要はないが、こういうやり方もあると知っておくと良い。

跳躍後の打鍵のタイミングが不正確
 録音して初めて気付いたのだけど、指をまたいだ先で打鍵のタイミングがズレていることが多かった。意識して演奏すると気づくこともあるが、それは酷くズレているときで、64分音符分とか少しだけズレている状態だと意識していても全く気付かない。
 演奏していて気付かない以上はどうしようもないのだけど、下に示したように一応16分音符の拍頭の音に意識を集中して、頭の中をこの音の連打でいっぱいにして、これにタイミングを合わせる事によって幾分改善する。ただ、チェルニー30番はそもそも指定のテンポで弾くようなものではないので、正確にタイミングを合わせられるテンポに落とすのがあるべき姿である。


15小節

 ☆左手出だしの所。ベース音が前の小節からAs→Bとなるところで指使いが5→4となっている。このBを正しいタイミングよりも早く押してしまうことがある。右手のAs→Gの指を滑らせる動きにきをとられてリズムが疎かになってしまうためである。練習しても治らないのなら、右手を指定の指使いにするか、左手のベース音を5指で取るかしたら良い。
 右手後半、装飾音Bは3拍目よりも前に押す。次に示す1)のパターンとなる[1]

16小節

 黒鍵と黒鍵の隙間部分を引くので離鍵後、ちゃんと指を挙げないと移動の障害になる。最近、2指が上がらなくてただのスケールでも引っかかる。

25小節

 ☆左手後半。この和音はG音以外はすべて黒鍵で、しかも間になにもないので、Gだけ1指で正確にとって残り3音は2~4指を平ぺったくなるように伸ばしてテキトーに叩くと正しくヒットする。その際、指と黒鍵が斜めに交わるようにすると更にヒット率は上昇する。

参考文献
 [1]根津栄子, チェルニー30番 30の小さな物語・下巻, 東音企画(2013)

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