チェルニー30番11 演奏解説

 チェルニー30番11を録音したので例によって解説。今回が最終回となる。
 右手のスケールの練習だけど、以上にテンポが速いので陸上競技でもしているのかと思えてくる。
 楽譜はいつもどおり全音を使う。

・テンポについて
 付点四分音符で66bpmとなっている。66という数字自体はどうということもない普通のテンポに見えるが、1拍が8分音符の曲なので、基準となる音符を8分音符に変えると198bpmである。メトロノームの下の端っこの辺り。ほぼ同じ速度は16番と29番があるが、どちらも指くぐりが少ない、29番に至っては左右の手を替えながら同じ速度を出しているのでかなり余裕がある。
 こうすれば速く弾けるという一発逆転みたいな手はなく、小賢しいテクニックを組み合わせて何とか間に合わせていると言った感じである。とはいっても、左手は特に苦もなく弾けてしまったので、演奏者の技術的な適性というのもあるのだと思う。とはいえ、最低限脱力はできないとどうにもならない。細かい技術については、個別に説明する。

12小節

 基本的な部分なので、この最初の2小節を例に説明しようと思う。
 音楽の基本的な認識として、音が高くなるに従って強くするというものがあり、かなり忠実にクレッシェンドで表現している。それで、2小節に2つのクレッシェンドがあるのだけど、前半のクレッシェンドの最後でsfとなった後すぐに次のクレッシェンドが始まるが、毎回最初の強さに戻してクレッシェンドし始める。強拍部分が休符になっているので、スケール開始の音は一番弱くすること。
 左手は強拍のベース音は付点四分音符で保持し、弱拍にはスタッカートが付いている。このスタッカートに合わせてベースを離さないように最後まで保持すること。
 手元を見ずに弾くために:譜例に書いたように跳躍の距離を書いておくと手探りで次の音を見つけることができる。ただし、速度を上げていくと手探りしている余裕はなくなるので、結局は手元を見なければならなくなる。ただ、暗譜しなくても練習できるので効率的なやり方だとは思う。
 スケールの弾き方。結局の所、指くぐりをどう処理したらよいのかという問題に帰着する。とはいえ、基本的に8番のときに説明した内容と同じなので、そのまま抜き出しておく。

 例えば1小節目最初のフレーズのようにCDEFGAHCを12312345の指使いで取るとすると、

Eを3指で押した後、1指で2,3指の下をくぐってFを押すことになる。こんなに手間をかけていては時間がかかるのは自明であり、滑らかで粒の揃ったスケールになるわけがない。
 ではどうするかというと、打鍵直前のタイミングで既に1指がFキーの上にあればよいのである。スケール最初に1指でCを打鍵し、ついで2指でDを打鍵している時点で1指を離鍵し、Fに向かわせるのである。勿論、なかなか上手くはいかない。この指くぐりのタイミングに合わせて肘を右側に向け指先が左側を向くようにして、少しでも1指がFに近づけるようにするのである。Eを押している3指を軸に腕全体を回転させるような動きになる。
 あるいは、CDEと打鍵した直後に、急いで手全体のポジションを移動させて1指をFの上まで持ってくるポジション奏法という方法もある[1]。しかし、ポジション奏法は手全体を移動しなければならないため、一定以上の速度ではポジション移動の際に音が途切れてしまうので、この曲を速く弾く際にはお勧めできない。
 この2つの奏法は互いに対立する方法ではないので使用状況によって峻別する必要はなく、両者を組み合わせた方法で弾いても何ら問題はない。指くぐりに際して移動する1指などを妨げない手の形を作るという部分が本質となるのである。従って離鍵は速ければ速いほうが良い。
 指くぐりした後は、1から5指に向って順に打鍵する。これは手首の回転を使うと速くなる。
 これらの弾き方を意識しながらリズム変装を行うと弾けるようになってくる。リズム変装はパッセージを細かく分割することで上手く行っていない部分を明らかにしてくれるので、リズム変装で上手く行かない部分を集中的に練習することで効率よく演奏を身につけることが出来る。

 これに加えて、指くぐりの際にキーの側面に指が引っかかって躓くことがある。これは離鍵で指がちゃんと上がっていないせいなので、離鍵のときは指の力を抜いてキーの反発にまかせるだけではなく、積極的に指を上げるよう意識しなければならない。
 右手、登りのスケールで嬰音とその直前の音を同時に押してしまうことがある。白鍵より黒鍵の方が高い位置にあるため、白鍵よりも僅かに早いタイミングで打鍵してしまうため、こういう速度の速い曲では同時に、あるいは寧ろ黒鍵の方を先に引いてしまうことがある。4指で黒鍵を押すときに起こるので、多分3指の動きにつられて4指が動いてしまうことに原因がある。注意して指を動かすしか対策はない。

4小節

 ☆右手5拍目のG。下降スケールで指をまたぐ直前の1指は離鍵時に手前に引っ掻くようにするが、このGはキーの上に指を残して普通に指を持ち上げて離鍵する。この部分はポジション移動がないため、動きの少ない普通の離鍵でも必要な速度は出せるし、打鍵が正確になる。

10小節

 ⑤右手下降スケールのこの運指は拍ごとに指をまたぐようになっており、拍を意識しやすいようになっている。

16小節

 ☆左手3拍目。32分音符のスケールの3拍目に合わせてこの左手の{ \mathrm{ G:VI^6 _4 } }を押さなければならないのだが、スケールとリズムを正確にリンクさせるのは極めて難しい。それどころか右手が今度の音を押しているのかさえも認識が追いつかない。いっそ、少し早めに左手を離鍵しておいて右手のスケールがAを押すタイミングに合わせて打鍵するようにした方が良いのではないかと思う。

19小節

 ※右手。ここの指くぐりを外しやすい。1518小節ではうまくいくのだが、4小節の間鍵盤上を駆けずり回って疲れているだけかもしれない。

参考文献
 [1]岳本恭治, ピアノ脱力奏法ガイドブック②《実践編/チェルニー30版を使って》p24, サーベル社(2015)

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