チェルニー30番30 演奏解説

 チェルニー30番フィナーレを飾るのはユニゾンでのスケールの練習。最後だけあってかなり難しい部類である。
 楽譜はいつもどおり全音を使う。

テンポについて
 2分音符で80bpmと一見控えめと感じるが、4分音符に直すと160bpmとなり、チェルニー30番では29番に次、14番と同率となる速度である。29番はこれより速いが、両手に分けて弾くのでだいぶ弾きやすいことと、14番が右手ばかりで左手が暇をしていることを考えると、速度の面で最も余裕のない曲とも言える。ちなみに、毎日の練習曲ではほぼ同じフレーズを15%増しの速度で20回繰り返して弾かされる、苦行である。

ニゾンについて
 ユニゾンの難しいところは2音の打鍵タイミングが僅かでもずれると、それがとても目立つのである。さらに、1音以上もタイミングがずれると不協和音となってしまうので、より目立つ。ちなみに、24番では敢えて半音分タイミングをずらすことで特別な効果を出している。
 左右の手で同じタイミングで打鍵するというのはピアノの演奏に於いてごく基本のことであるが、簡単ではない。スケールでは指くぐり・指またぎが生ずるが、例えばCから1オクターブ登るスケールを右手で12312345と初めのCDEを123で順番に弾くのと、EFを34で弾くのと、FGAHCを12345で弾くのでそれぞれ出せる限界の速度が異なる。それに加えて、左右の手は形が異なるので、ユニゾンでスケールを弾こうとすると、もたつくタイミングが左右の手で異なってくる。これを速度を一定にして粒を揃えて弾けというのだから無茶な話である。結局、最も打鍵の遅くなる指くぐりの部分に速度を合わせるか、どうにか誤魔化して弾くしかないのである。
 速いスケールのユニゾンをプロが演奏するとどうなのか。例えば、リストの超絶技巧練習曲3版のマゼッパ6小節のユニゾンを見てみる。ここには140音(左手は3音少ない)ある。これを例えばシフラは9.25秒で弾いてる。ここから逆算すると、1音辺り0.066秒。1分に908音打鍵する速度である。これを全て16分音符とすると、4分音符で227bpmとなる。チェルニー30番の1.4倍の速度である。にも関わらず殆ど左右の手でズレがない。つまり、人類はチェルニー30番くらいは余裕でできる可能性を秘めているとなる。ちなみに、他の演奏家を聴き比べたが、だいたいはシフラよりもテンポは遅く、またペダルを踏んでいるのでちょっと聞き取りづらいけど、だいたい揃っていた。まあ、ここはシフラの演奏がテンポを速めていくというリストの指示を無視して最初から速く弾いているのではあるのだが。
 こんなわけで、プロのピアニストの演奏を聞いてみると、君たち素人もチェルニー30番くらいちょっとは頑張り給えと言われているような気分になる。
 ともかく、何とかできるとこまでやってみようかと思う。

フレーズの話
 スラーの繋ぎ方にはレガートを示すものとフレーズを示すものとアーティキュレーションを示すものなどがあるが、あまり明瞭に書き分けられていないのが現実である。フレーズという言葉もはっきりした定義が与えられていないくらいで、ここでは一塊の音の流れという程度で使う。
 チェルニー30番でもスラーの使い方は混在しているが、この30番ではレガートを示すスラーが全体に架けられている。こういう場合、どこからどこまでがフレーズになるかというのは演奏者に委ねられる。
 フレーズには階層があり、例えば最初の8小節を見ると、2拍ごとの小さなフレーズと2小節ごとのフレーズと8小節全体の大きなフレーズとがある。8小節全体を示す大きなフレーズにはスラーが架けられている。本エントリーにおいては一番小さいフレーズのことをフレーズと呼ぶことにする。

リズムについて
 4/4となっているが、この速度だと4/4では速すぎてリズムが認識できないので、2/2のつもりで弾くのが良い。
 チェルニー30番はテンポの速い曲ばかりで、速度を速くすることに集中するあまりにリズムがないがしろにされがちである。しかし、一定のリズムを保つことは音楽を聞かせる上で非常に重要で、リズムのふらつく演奏を聞かされると気分が悪くなるという人も多い。
 可能な限り厳格にリズムを守るべきであるが、なかなか難しい。メトロノームに合わせて演奏するのが良いのだけど、演奏しているうちに徐々にタイミングがずれていってしまったりする。
 メトロノームに設定した速度に追いつかないのは論外であるが、メトロノームよりも演奏のほうが速くなるのであれば、自分の音よりもメトロノームの音の方を集中して聞き、拍頭の音をメトロノームに合わせるようにする。この曲の場合は一つのフレーズが1拍か2拍で、速度が2分音符で示されているので、メトロノームのタイミングとフレーズが一致する。フレーズを弾くのが幾分早くなっても少し遅らせるように次のフレーズを弾き始めることでメトロノームに合わせると良くなるはずである。また、フレーズのなかで左右の音がずれてしまっても、次のフレーズ開始時に修正されることになる。

スケールについて

 以前、スケールの弾き方についてのエントリーをあげようかと思ったことがあったんだけど、数日寝かせておいたらすっかり内容を忘れて雲散霧消した。そのときに書こうと思った内容はあんまり覚えてないけど、練習して感じたことをいくらか書いておく。
 右手の上りスケール。1指の離鍵は手前側に滑らすようにしてキーの上から指をどける。指が掌の下に来る形となるので指くぐりが楽になる。
 右手、指くぐりの際は離鍵した指をしっかりと上げる。特に2指。最近2指の動きが悪いことに気づいて、4指とは違って訓練すればちゃんと動くようになるはずなので、積極的に意識してるんだけど、全く良くなった気がしない。

911小節


 ☆指の動きだけで弾こうとするのではなく、手首の回転も利用して打鍵の際の指動きが少なくて済むようにする。3音目のAと5音目のAとのように同じキーを1音置いて打鍵する場合、完全に指を上げて離鍵するのではなく、ダブルエスケープメントを利用して半分くらいの高さまで指を上げるだけにする。

15小節

 同じ音形で1オクターブ下がっていくが最後のFisで黒鍵が入ってくるため15小節3拍目で指使いが変わる。
 この部分は楽譜を見ながら弾いてると今どこなのかを見失うことがあるので、手元を見たほうが良い。そうすれば最後のフレーズはFisから始まると覚えておくだけで良い。

16小節

 ☆速いトレモロはダブルエスケープメントを十分に利用してキーを最後まで戻さないようにして弾く。また、手首を左右に小刻みに回して速度を稼ぐこともできる。

24小節

 *両手の跳躍なので目のやり場に困る。1拍目に左手の2拍目の和音の位置を確認・記憶しておいて、2拍目からは右手を見る。


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