チェルニー30番22はトリルの練習。昔からトリルは苦手なのだけど、最近は結構弾けるようになってきた。そう思ってたのだけど、これを弾いてみるとやっぱり苦手だわ、ってなる。
いつも通り、楽譜は全音版を使う。音楽性とかいった曖昧で難しい部分は割と閑却して、メカニカルな部分を中心に低レベルな解説をする。
テンポについて
4分音符で144bpmとなっている。いつものチェルニーらしく、結構速いけど、でもトリルといったらこれくらいの速度で弾かなきゃならんのだろうなと思う程度の速さ。例によってチェルニー30番学習者にとっては速すぎるので、普通に練習するなら多分テンポを落として弾くべきだと思う。
僕の場合は調子に乗って指定速度より速く弾いて、そのせいで崩壊しているのに気付かずに、どうして弾けるようにならないのだろうと悩んだ。結局、メトロノームに合わせて弾いたところ、自分のテンポが速すぎるということに気付いてちゃんと弾けるようになったというわけ。
トリルについて
パッセージはある程度速く弾くと少しくらい雑でも気付かれないとショパンは言っていた[1]けど、速いトリルも同様にごまかしが効く。直前に同じ音を出しているため、打鍵がその音に紛れてしまい正確なタイミングを認識しづらくなるんじゃないかと思う。しかし、極端にズレたタイミングだとやっぱり気付かれてしまうので、正確であるに越したことはない。
指定の指使いは4指を酷使する場面が多く、すぐに指が疲れてしまう。4指が疲れてしまったら、指定の指使いから外れるが3指で代わりに弾くようにすると良い。
また、指を交互に上げ下げするのに疲れてしまった場合は、コンパス弾き[2]で逃れることも出来る。コンパス弾きというのは根津栄子による名称だが、手首の回転により1指と5指で交互に打鍵する弾き方。別に1指と5指である必要はないのだけど、打鍵する指同士が離れていた方が回転角が小さくて有効であるというだけ。尺骨と橈骨の動きを理解しておくとなお良い[3]。なお、コンパスはこうやって動かして使うものではない。
グランドピアノなら、キーが完全に上る前に再度打鍵できる機構(ダブルエスケープメントアクション)があるので、かなり力を節約して演奏することが出来る。逆に言ってしまうと、この曲はダブルエスケープメントを前提としている[5]ので、アップライトでちゃんと弾けるなんて思わないほうがよい。
1小節
手元を見ずに弾くために:■4拍目右手。Dis-E-Fisを2-1-2で取る。2指が1指を跨いで左から右に移動するのだが、2指で押すキーは1指を挟んで対称な位置にないことに注意すること。FisとEはちょっと離れてる。
6~7小節
手元を見ずに弾くために:左手6小節3拍目から7小節。FisH→Fisという流れだけど、2指でFisを取ってから1オクターブ下のFisを5指で取るところは2-5指で1オクターブの距離を測れるなら手元を見る必要がない。その際、1指でHを押さえたままだと2-5で8度は届かないので、Hは先に離鍵することになる。とはいっても、この曲集自体1オクターブの届かない小学生くらいの子供向けとして書かれており、そういう人には難しいかもしれない。
8小節
☆8小節右手。1拍目は指先を少し右の方に向け、4指とAisのキーが斜めに交差して接触するようなポジションを取る。2拍目に入ったところで指先が正面を向くポジションになるように手首と肘を回す。3指と4指は腱を共有しているために一緒に動いてしまうので、1拍目は3指と4指がすぐ側で一緒になって上下する。その位置に3指があると、2拍目のFisまで少し距離があるため移動に手間取る。この3指の移動を手助けするために手首と肘を回す。
9~14小節
✡両手のトリル。左右の打鍵タイミングが合わず逆位相になったりするとかなりみっともない。拍を意識して各拍頭で左右のタイミングが一致するように調整する。4音程度なら逆位相になるほどずれるということもないし。
9, 11小節
◎小節頭のfpによるアクセント。最初の音だけを少し長めの音価で取ることによってアクセントとするやり方もある[4]。
12小節
12小節前半右手。この部分はコンパス弾きをする。
手元を見ずに弾くために:※左手3拍目。スタッカートで短く音を切った勢いで手を動かすことのないように。この次の音はHの隣のAなので離鍵後動かずにその場にとどまっていれば手元を見る必要がない。
16~21小節
右手2声になっている部分。このあたりはずっとフォルテだが、4指の絡むトリルをずっとフォルテで弾き続けるのは辛い。1,2指で弾く下の声部だけを強く弾いてトリルは弱音で弾くとか、あるいは拍頭の音だけアクセントを付けてもよい。
この部分は曲の流れが不自然になることがある。トリルの速度が不安定で、左手をトリルのリズムに合わせようとするとおかしな感じになる。トリルの速度を安定させるのが最もよいけど、主旋律である左手にスラーが付いていることを意識して、次の音と完全に繋げてしまい隙間をなくすことで不自然な印象を弱めることが出来る。
手元を見ずに弾くために:16小節左手。1拍目と3拍目は同じH-Disの和音なので、離鍵した後手を移動しない。指だけ変更する。
22小節
右手。始めのFis-Hを離鍵して続くトリルに入ったら、直ちにポジションを高音側に移動する。Fis-Hのポジションだと指を高音側に目一杯伸ばさなければならず、キーを押すための力が余計に必要となってしまう。遠くのキーに対してはより多くのトルクを掛けないと動かない。
30小節
※30小節右手1拍目最後のCis。この3指は離鍵した後キーの上に残しておくと、続く指くぐりの際に1指の移動の邪魔になる。脱力してキーが自然に持ち上がるのに任せるのではなく、積極的に指を上げて離鍵すること。手元を見て弾くと、3指は無意識に1指の邪魔にならないように避けるので、どうしても上手く弾けない場合は手元を見るとよい。
31小節
◎右手1拍目。4指が疲れ切って動きそうになかったらDisを3指で取ると良い。
参考文献
[1]ジャン=ジャック・エーゲルディンゲル, 弟子から見たショパン―そのピアノ教育法と演奏美学, 音楽之友社(2005)
[2]根津栄子, チェルニー30番 30の小さな物語・下巻, 東音企画(2013)
[3]トーマス・マーク, ピアニストなら誰でも知っておきたい「からだ」のこと, 春秋社(2006)
[4]小林仁, ピアノが上手になる人、ならない人, 春秋社(2012)
[5]岳本恭治, ピアノ脱力奏法ガイドブック 2, サーベル社(2015)
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