チェルニー30番2 演奏解説

 チュルにー30番2を録音したので、いつものように演奏解説。
 例によって、指定速度で弾く前提での技術面に偏重した説明を行う。音楽的にためになる解説はPTNAの記事(魚拓)があるのでそちらを読むといいと思う。
 楽譜はいつもどおり全音を使う。

リズムについて
 右手が主旋律で歌って、左手は伴奏という役割分担になっている。拍子は4/4と書いてあるけど、1728小節の左手は2/2となる。右手と左手で拍子が違うが、左右の手で正確にタイミングを合っているに越したことはないけど、無理して正確に合わせる必要はなく、そこにこだわるよりは寧ろ音楽として自然な流れになっていることを重視したほうが良い。右手と左手がちょっとくらいずれていてもあまり気にする必要はない。

テンポについて
 2分音符で108bpm。2分音符を打つ間に6回打鍵するので、108×6 = 648回/min = 10.8回/sの速度で打鍵することになる。すごく速い。
 現実的に普通に弾ける速度にテンポを落とした場合と、指定のテンポで弾ききる場合とで要求される技術が全く異なる。たまに、手の甲に10円玉を乗せても落ちないように弾けと頓狂な曲芸を求めるピアノの先生がいると聞くが、ゆっくり弾くなら兎も角、速く弾こうとするのであればそれは不可能だと思ったほうが良い。
 速く弾くということは、ダブルエスケープメントの性能を引き出すことに他ならない。だから、チェルニー30番を指定の店舗で弾こうとするには基本的にダブルエスケープメントを備えたピアノ、つまりグランドピアノが必要である。ただでさえ現実的ではない速度を指定されているものにアップライトで挑むのは大分無茶であり、時間の無駄でしかないので、もっと有意義に時間を使うべきである。そういうわけで、この解説もグランドピアノで演奏する前提で書く。
 速さが問題になるのは当然左手だが、左手は三連符の部分と1728小節の6連符の部分がある。どちらもベースとなる1音目を保持する。この1音目の保持さえなければもうちょい弾きやすくなるけど、楽に弾かせないというのがチェルニーの狙いなのでそこは仕方ない。このベース音を保持している間、その指には余計な力を入れないこと。力を入れないと保持できないのなら最低限の力で済むところまでテンポを落とす。
三連符の部分

 よく指導されるような手を水平にして指を動かしてキーを押さえるとう弾き方ではなく、手首を回す動きで弾くのだが、三連符の1音目は保持したままなので、通常のローリングでは対応できない。
 5指を中心にした手首の回転を使う。5指を下にした状態で手を少し傾けておいて、そのまま下におろして5指で打鍵、5指でキーを押さえたまま手首を回転させて3指→1指と回転に合わせて順次打鍵していく。1指よりも3指が先に打鍵出来るように3指を少し突き出し1指を少し引っ込めておく必要がある。また、打鍵に使わない2指と4指は完全に引っ込めておく。この際、橈骨の動きを意識できればなお良い。
 離鍵は手首を逆方向に回転させながら手を持ち上げる。次の打鍵の準備が出来るだけ持ち上げれば良いので、キーが完全に戻るほどに上げる必要はない。
六連符の部分

 5指の保持がなければ普通にローリングでクリアできるのだけど、そうはいかない。
 分散和音の上下に合わせて肘を左右に振って打鍵しやすい位置へ手と指を移動させる。このときに5指は保持したままになるので、手や指が柔軟でなければならない。脱力できている必要がある。
 頂点まで登ったらすぐに一つ前の音に戻らなければならない。離鍵は完全にキーが戻るまで指を上げるような余裕はなく、再度打鍵できる程度にしか指は上げない。ここでダブルエスケープメントが必要になってくる。
トレモロ部分

 20222628小節は6連符が保持するベース音を除いてトレモロとなっている。これが、この曲で最も難しい部分である。
 トレモロということは、2音ごとに同じ音を打鍵しなければならない。普通に弾いていたは離鍵が間に合わない。1秒間に10.8回の打鍵をするのだから、トレモロの際に同じ音を打つ間隔は1s/(10.8回/2) = 0.185秒である。0.185秒間で離鍵-打鍵のサイクルをこなさねばならない。キーの沈む深さをノギスで測ったりして指先の加速度が133mm/s2とか計算してみたけど、全然数値として実感がないので止めにする。とにかく、トレモロは短時間で同じ指を上下しなければならないので大変だということ。
 さて、この部分の演奏法だが、最初の3音は上に書いた三連符と同じ弾き方をする。3音目は多少遅れてもとにかく急いで音を出す。最後の2音は5指の保持を離してしまう。すると、ローリングで素早く終えることが出来る。保持が離れるので指示通りではないが、ある程度の時間は保持しているので視聴者も許してくれると思う。
 この弾き方だと各音が均質ではなくなるが、この部分は六連符で連桁しており2/2として描かれているので[1]、リズムがちゃんと取れるならば問題ない。ただし、21小節は右手が4/4拍子で主旋律を刻むので、この右手だけは正確に打鍵できるよう注意しなければならない。

2小節

 ②右手16分音符。左手の三連符の間に正確に挟むべき[2]という人もいれば、テキトーでいい[3]という人もいる。これはテキトーでいいと思う。だいたい、左手の三連符は0.0926秒毎に打鍵するわけで、この隙間に差し込むとか狙ってもなかなか出来ることではない。

4小節

 ☆右手。2指を斜めにしてCisの黒鍵と交差するように配置するとミスタッチが減る。

10小節

 左手前半の指使いが5-4-2と指定されている。すごく弾きづらい指使いを敢えて指定している。全音の解説文には多少の困難はあっても、指使いは支持されているとおりにひくこと。(カッコ内の指使いは比較的引きやすい指使いで云々)[2]とあるように、チェルニーの指定した指使いは弾きやすいものとは限らない。この小節では動きづらい4指を鍛えるという目的で敢えてこの指使いを指定しているものと思う。僕自身、指定された指使いはあんまり守るつもりはないので5-3-2で弾いても全然いいと思う。
 この指使いが演奏不可能という人も確認できるが[4]、頑張ってこの指使いを試してみたら意外と行けるもんで何となく弾けてしまった。低いポジションに手を持っていったのが良かったのかもしれない。実際のところ、2022小節のトレモロに比べたらこの程度は全然障害にはならない。

3236小節

 これまでスタッカート中心だったのが32小節からレガート中心に変わり曲の雰囲気が変わるのだが、34小節では弱拍にスタッカートが付いているのでちゃんと表現すること。

参考文献
 [1]菊池有恒, 楽典 音楽家を志す人のためのp114, 音楽之友社(1988)
 [2]チェルニー30番練習曲, 全音楽譜出版社
 [3]末吉保雄 上杉春雄, チェルニー30番 New Edition 解説付p8、音楽之友社(2007)
 [4]iwatsukishinya(魚拓), twitter

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発電床

 発電床というものがある。上を歩くことで発電する仕組みの床である。PZTのような圧電素子を並べて、その上を歩くことで歩行に要するエネルギーの一部を電力に変換するという装置である。
 PZTは鉛を使っており、人体に有害との指摘から代替品を求められており、RoHSにより鉛フリーがの義務化が成功されたのが2006年だが、代替品開発の進捗が思わしくないため未だにPZTについては適用免除対象となっている[1]
 圧電体の発電原理についての説明は割愛する。圧電体による発電については以前紹介したことがあるが、JR東日本が自動改札の床でテストしていた[2]。このテストを行ったNEDOJR東日本東日本とは異なるが、スイッチサイエンス音力発電から発電床という名称で製品化されていた。

 スイッチサイエンス:発電床
 音力発電:発電床?ユニット EVBS-01

 どちらも実に胡散臭い商品である。スペックが書いてあるが、どちらも全く同じである。既存の圧電素子を持ってきて並べたんだと思う。値段も1万円くらい。ついでにNEDOのJR東京駅での実験結果[6}も並べてみる。

音力発電[3][5]
・発電量:約2mW(注)
・0.1 ~ 0.3W((注)の条件における、1m 秒程度の瞬間最大値)
(注 体重約60kgの人により、1秒間に2歩ずつ歩行する実験を30秒間行った平均
・外形300mm×300mm×10mm
・動作温度範囲約-25~+80℃

スイッチサイエンス[4]
・発電量 : 平均 2 mW(体重60 kgの人により、1秒間に2歩ずつ足踏みをする際の平均の発電量)
・信頼性 : 100万回以上
・外形 : 300 mm × 300 mm × 10 mm
・概算動作温度範囲 : 約-25~85°C

NEDO
・4.3Ws(改札通過一人当たり)
・改札口1通路(1m3)
・5週間(通過人数約300万人)経過後、発電能力95%

 NEDOの実験については後から評価するとして、先の2つについて。
 30cm×30cmの面積で1秒間に2歩ということだから、立ち止まって足踏み運動をするという状況を想定する。つまり、1秒間に2回60kgの圧力をかけることになる。これで2mWの発電ということになるので、1回の足踏みでは1mWs=1mJということになる。
 60kgの重量を1m持ち上げるのに必要なエネルギーは60kg×9.8m/s2=588J。そのうちの1mJを回収することになる。1m持ち上げるのは極端だけど、エネルギーから比較すると1m×1mJ/588J=1.70μmとなる。1.7ミクロン沈み込んでそのエネルギーを回収するというシステムである。勿論、少なからずエネルギーロスはあるので、1.7μmよりはたくさん沈み込み筈である。
 とにかく、1回の足踏みにつき1mJである。それで、この装置の信頼性は100万回とあるので、1mJ×100万回=1kJの発電能力が保証されている。
 それで、どの程度の電気代を回収できるかというと、東京電力-従量電灯B-電力量料金だと300kWh以上で30.57円/kWhとなっている[7]。1kJ = 1000Ws = 1000/3600Wh = 0.278Whであるので、値段にして、0.278Wh×30.57円/kWh = 0.00849円である。
 10000円払って回収できる電力が0.00849円分! 少しでも環境に負荷の掛からないエネルギーが得られるのだから良いと言うなかれ。これを製造するためにそれ以上の電力を使っていては意味がないのだ。これを0.00849円の電力で作れるかどうかを考えたら良い。

 さて、上記2品目は購入する価値がないと分かったと思う。一方NEDOの方はというと、この実験に使った圧電体のお値段が書いておらず評価が難しいので、それ以外のところを見てみようと思う。
 改札を通過するのに要する時間が書いていないのでちょっとやりづらいのだけど、一人当たり4.3Ws=J、5週間で300万人という辺りで計算してみようと思う。
 4.3J×300万人 = 12.9MJ = 12.9MWs / 3600 = 3.58kWh ということになる。
 3.58kWh×30.57円/kWh = 109.9円
 なんと110円ほどの効果が見込めることになる。ただし、1m3と広い範囲に圧電素子を置いているので、上記2品目と面積と比較するには、10000cm3÷900cm3 = 11.1倍の差があるものとして評価しなければならない。すると、109.9円/11.1 = 9.9円となる。大分良くなるけどまだまだな感じである。
 取り敢えず、自動改札1機に付き110円ほどの電気代の節約になることが分かったが、コストの比較が出来ないので、どうもイマイチな感じである。
 ちなみに、理論的にはこの発電床を無数に積層させることによってより大きな発電が可能となる。100枚並べたら10,100円だ。これくらいでは発電時の沈み込みを感じる事もないだろうから歩行者も抵抗を感じ事すらないのではないかと。勿論、発電によって製造原価が還元できるとしての皮算用である。結局、この装置の寿命次第だと思う。5週間・300万人で能力は5%減少ということなので、1年も使えば60%くらいまで能力は落ちる計算となる。矢張り、まだ実用には遠いのではないかと思える。あるいは、NEDOのこの実験以降に劇的な改善があるのかもしれない。とにかく、コストを還元できるかどうかは耐久力次第である。

 Coinhive事件を見ていたら、発電床みたいに歩行者の歩行エネルギーを横領するシステムも同様に検挙されるのかなあって思って、本エントリーを書いてみた。

参考文献
 [1]チタン酸ジルコン酸鉛, Wikipedia
 [2]「床発電システム」の実証実験について(InternetArchive), JR東日本研究開発センター フロンティアサービス研究所
 [3]エネルギーハーベスティング-振動力発電(魚拓), 音力発電
 [4]発電床(魚拓), スイッチサイエンス
 [5]発電床?ユニット  EVBS-01, amazon
 [6]成果報告書詳細(InternetArchive), NEDO
 [7]1kWh(キロワットアワー)あたりの電気料金はいくら?(InternetArchive), Selectra

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白亜ノ森 楽譜

 SQ3より、白亜ノ森。以前録音したけど、楽譜はまだだったのでアップした。
 音取りしながら同時にアレンジをしていくスタイルなので、結構修正しながら進めて、音を取り終わってもやっぱりここが気に入らんとか色々あって、あちこちに修正した部分が飛んでいたりするため、スキャンしたものをそのまま出すわけには行かず、読みやすいように順番に配置し直したものを作ることになった。そのため、見てもらえば分かるがツギハギになっている。
 自分でアレンジした曲なので解説とかしたくないのだけど、1箇所だけ、6ページ目の最後の段、最初の小節。

 グリッサンドについて。普通、グリッサンドは最初の音と最後の音を指定しておいて、その2音を線で繋いでグリッサンドと表記する[註1]。また、鍵盤の上で指を滑らせる奏法である以上は全て白鍵か黒鍵で構成されなければならない。
 ここでは開始の音を指定していないし、変ホ長調の調合(フラット3つ)が付いている。これは主旋律を構成する音階としてのグリッサンドではなく、ただの装飾音に過ぎないということで音楽としてあまり重要な音ではないことをまず念頭に入れておいてもらいたい。だからこそ目立たないようにピアニシモを指定している。そして、グリッサンドの最後の音がBとなれさえすれば、開始の音はどれでも良い。旋律を構成する音ではないので、いっそ全てなくしても構わないくらいの重要性である。そして、最後のBだけど、左手のアルペジオの最後のBを右手で取るように指定しているが、このBがグリッサンドの後に続けて弾くBとする。だから、より正確に表記し直すと次のようになる。

 変ホ長調であることに付いては、このグリッサンドに限って調性は無視してハ長調として弾く。音楽にうるさい人の中には、「変ホ長調の中でハ長調を混ぜるなんて!」とご立腹の方もいるかも知れないが、そういう方はグリッサンドは止めて、適当な速度の下降スケールにしたらいいと思う。開始音を指定していないし、そんなに速く演奏するよう想定していないので普通に弾けないこともない筈である。少なくとも5ページ2段目に出てくるパッセージくらいの速度が出せるなら行けるなじゃないかな。
 最後の音として指定しているBだが、これはグリッサンドでは弾かない。グリッサンドに指定しておきながらグリッサンドで弾かないのだから無茶苦茶である。実は、当初はテキトーに下降グリッサンドを弾いて、最後にこのBに飛び付くという想定で書いたのである。自分でわかれば良いという程度の書き方である。だから、グリッサンドの最後の音はHにしてその後にグリッサンドとは違う音として伴奏最後のBを右手取りするように表記している。

註1 グリッサンドの表記について
 グリッサンドの表記は上で書いたように最初と最後の音を線で結ぶのが基本的な表記だけど、そうと限ったわけではなく全部の音を書いてしてグリッサンドと表記する記譜法もよく使われる。例えばベトソナ21番[1]

あるいは、半音階のクロマティックグリッサンドであれば、それと分かるように表記する[2]

 グリッサンドという語もglissando及びgliss.という省略語の他、glisade, glissato, glissicando, glissicatoといろんな書き方がある[3]
 色々と書き方はあるけど、演奏者にその意図が伝わればどう書いたっていいとうこと。逆に言えば、意図が伝わらない表記は意味がないということになる。
 結局、重要なのは陳腐ではあるが楽譜を書く側は読む人のことを考えて読みやすいように、楽譜を読む側は作曲者が何を表現しようとしたのか考えることである。つまり、白亜ノ森では読む人というのはすなわち自分であるから、何も気を使うことなく書いたわけである。

参考文献
 [1]ハロルド・クラクストン, ベートーヴェンピアノソナタ集 (2巻)p239 , 全音楽譜出版社(1972)
 [2]菊池有恒, 楽典 音楽家を志す人のためにp169, 音楽之友社(1988)
 [3]遠藤三郎, 独・仏・伊・英による音楽用語辞典 【改訂版】p86, シンコー・ミュージック(1991)

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BLOGOSのこと

 LINE株式会社が運営するBLOGOSというニュースサイトがある。コメント欄があり、読者が議論に参加できるシステムなのだが、1月31日13時をもってサービスを終了した。サービス終了というか、コメントするにはFacebookでのログインを要するようになり、コメントの匿名性を排除したということになる。まあ、Facebookが匿名でのアカウント取得が全く不可能かというとそういうわけでもないので、そういう手段で書き込み自体は出来るが、これまでのユーザーがみんなそんなことをするわけもないので、事実上の終了と言える。結構長い間見てきたのでサービス終了というのは感慨深いものがある。
 このブログでニュース関係の記事が昔より少なくなっていたのはBLOGOSで愚痴垂れてるから敢えて書く必要がないという部分もあったので、今後はニュースについて言及することが増えるかもしれない。
 BLOGOSがサービスを開始したのは2009年10月だが[1]、議論できる環境が整ったのは2011年12月頃である。この頃からライブドアニュースで記事をリンクされるようになり、僕の目に付いた。当時、ライブドアニュースのコメ欄をよく読んでいたので、そのつながりで興味を持って閲覧するようになり、半年のROMの後に参加する運びとなった。ライブドアニュースからは間もなくコメ欄が消えてしまったので見なくなったので、テレビも新聞も見ない僕にとっては数少ない情報源であったし、基本的にコメ欄を読むために閲覧していたので、テレビ新聞などによる偏向報道とは違い、おかしな記事に対してはコメ欄で容赦なくぶった切られるため相当な勉強になった。
 LINEポータブルグループの春名氏によると建設的な議論が行われ、“提言”が生まれる場を目指すとあり[2]、いろいろな問題がないわけではないが、その思惑叶ってユーザー間での活発な議論や罵倒、茶番が繰り広げられた。日本最大の提言型ニュースサイトと呼ばれることさえもあった[3]。ユーザーが記事に対してコメントを付ける形式のニュースサイトはBLOGOS以外にも、Yahoo!ニュースとかNEWS PICSとかスラドとかハフィントンポストとかあるけど、BLOGOSほど広範で自由度のあるサイトは存在しない。鳴り物入りで始まったハフィントンポストなど、検閲の所為で人が寄り付かず閑古鳥が鳴いている。現在、ブロゴス民有志でBLOGOSに代わるサイトを新たに立ち上げようと議論しているようである[4]。期待はしているがどうなるかまだ分からない。
 民間の営利企業であるLINEがどういった理由でどう見ても収益性の見込めないBLOGOSを運営していたのか謎である。それも韓国系の企業がである。韓国に都合の悪い言説が主流となるのは目に見えているのに。
 本エントリーでは、別にBLOGOSに対して文句を言いたいわけではない。寧ろ、これまで運営して頂いたことに感謝を述べて、一つの思い出として残しておきたかった。

参考文献
 [1]BLOGOS, Wikipedia
 [2] 「建設的な議論が行われるコミュニティを立ち上げる」BLOGOSリニューアルの挑戦(魚拓), LINE Corporation ディレクターブログ
 [3]門田隆将, 「吉田調書」を読み解く 朝日誤報事件と現場の真実p53-54, PHP研究所(2014)
 [4]BLOGOS民 避難所(仮)

ダブルクロス 目標値と成功確率

 ダブルクロスは判定方法が独特なので、遊ぶ度に色々と計算してやろうっていう気になる。
 以前、ダブルクロスの判定の期待値について計算したことがある。このときは、ダイスを1個しか振らないという極めて限定的な場合で検討した。今回は、期待値ではなく目標値に対する成功確率、それもクリティカル値、ダイス数も含めてを求めてみた。
 判定の際にクリティカル値を下げるか、ダイスを増やすかの選択で役に立つかもしれない。今回は期待値は求めないが、後述のようにそれに近い値は一応出している。もしかしたら、ここから期待値に発展させることもできるかもしれないけど、取り敢えず今回は期待値は検討しない。

 判定は以下の通り[1]

1. 複数個の10面ダイスを振る。
2. クリティカル値以上の出目のダイスがなかった場合は最も高い値を達成値として採用。クリティカル値以上のダイスは達成値を10として再度振り足す。
3. 2で振り足したダイスがクリティカル値以上の場合は達成地にさらに10を足して振り足す。すべてクリティカル値未満だった場合は最も高い値を達成値として採用。
4. クリティカル値以上の目がでなくなるまで繰り返す。

 説明が分かりにくいかもしれないけど、ダブルクロスを遊んだことのない人がこんなエントリーを読みに来るとも思えないので、テキトーなままにしておく。説明が理解できないけど、どうしても知りたいという方はルールブックを読むとかセッションに参加するとかしてもらうとよいと思う。

 まず、ダブルクロスの判定の際、達成値を求めるためにダイスの出目に技能レベルと修正を足す。この部分を考慮すると無意味に煩雑になるので、前提として技能レベルや修正はないものとする。これらを加味したい場合は目標値をその分引いてやれば良いので、敢えて複雑にする必要はないということである。
 目標値、クリティカル値、ダイスの数と確率を求めるための前提となる変数が3つあるので結構複雑になるのは目に見えている。最後には割と単純な式で表されるのでその点は安心してもらってよい。しかし、最終結果として4つの値を一つのグラフで表すのは無理があるので複数のグラフを表示することになる。この部分は、最後に上げるエクセルファイルを落としてもらって好きなように値を変更したら欲しいグラフが表示されるようになっているので、好きにしてもらったら良いと思う。
 計算する上で複雑になる要因としてダイスの数がある。前回は1Dという条件に限定したのはこの部分が原因である。この点をクリアするに当たって、ダイスを1つずつ振っていくという考察をした。確率の基本は(成功する場合の数/起こりうる場合の総数)を考える[2]。期待値を考える場合は無限級数をクリアしないといけないが、確率だけであれば、成功するか失敗するかの2択となるので幾分楽である。
 ダイスを1個を振ったときの確率であれば、何回のクリティカルが必要でその後いくつの目を出せばよいのかはっきりしているので簡単に求められる。例えば、目標値35でクリティカル10だとすれば、3回クリティカルを出した後に5以上を出せば良いので、{ \frac{1}{10} \cdot \frac{1}{10} \cdot \frac{1}{10} \cdot \frac{10-4}{10} = \frac{6}{10000} }と簡単に求められる。勿論この判定を成功させるのは簡単ではない。
 ここで、ダイスを増やすとどうなるかという話になる。複数のダイスを振る場合は普通はすべてのダイスを手のひらに乗せて振る。1個ずつ振ると後から振ったダイスが既に振ったダイスに当たって出目を変えてしまうことがあるから。これを敢えてやるとパワーダイスと呼ばれるイカサマになる。しかし、数学の計算上では先に振ったダイスの目など記録しておけば良いことだし、そもそも紙の上で計算するだけであって実際にダイスを振るわけではない。そんなわけで、確率を求める考え方として、1個目のダイスで成功したら良し、成功しなかったら次のダイスを振るという考え方をした。
 計算の手続きとしては、1Dのときの成功確率を求めて、失敗した場合は失敗した確率に1Dの成功確率を掛けた値を足すという手続きで降るダイスの数を増やすようにした。
 例えば、目標値8として考えると1Dでは{ \frac{3}{10} }、2Dでは{ \frac{3}{10} + \frac{7}{10} \cdot \frac{3}{10} }、3Dでは{ \frac{3}{10} + \frac{7}{10} \cdot \frac{3}{10} + \frac{7}{10} \cdot \frac{7}{10} \cdot \frac{3}{10} }となる。面倒なんで計算はしない。図に描くと次のようにサイコロを増やすと全事象から成功領域が増えていくということになる。

 それはそうと、端っこから例示して帰納していこう。


 以下の意味で記号を使う。
C:クリティカル値, 2以上の値を取る。ただし、11以上の場合は11とする。
T:目標値
d:ダイスの数
Pd:d個のダイスを振ったときの成功確率
P:ダイス1個のときの確率, P = P1
n:適当な整数

クリティカル値10のとき(C=10)
・目標値T=1~10
{ \displaystyle  P = \frac{11-T}{10} }
・目標値T=11~20
{ \displaystyle  P = \frac{1}{10} \cdot \frac{21-T}{10} }
・目標値T=21~30
{ \displaystyle  P = \left( \frac{1}{10} \right)^2 \cdot \frac{31-T}{10} }

・目標値T=10n+1~10n+10
{ \displaystyle  P = \left( \frac{1}{10} \right)^n \cdot \frac{10n+11-T}{10} }

クリティカル値9のとき(C=9)
・目標値T=1~8
{ \displaystyle  P = \frac{11-T}{10} }
・目標値T=9~10
{ \displaystyle  P = \frac{2}{10} }
・目標値T=11~18
{ \displaystyle  P = \frac{2}{10} \cdot \frac{21-T}{10} }
・目標値T=19~20
{ \displaystyle  P = \left( \frac{2}{10} \right)^2 }
・目標値T=21~28
{ \displaystyle  P = \left( \frac{2}{10} \right)^2 \cdot \frac{31-T}{10} }
・目標値T=29~30
{ \displaystyle  P = \left( \frac{2}{10} \right)^3 }

・目標値T=10n+1~10n+8
{ \displaystyle  P = \left( \frac{2}{10} \right)^n \cdot \frac{10n+11-T}{10} }
・目標値T=10n+9~10n+10
{ \displaystyle  P = \left( \frac{2}{10} \right)^{n+1} }

クリティカル値Cのとき
・目標値T=1~C
{ \displaystyle  P = \frac{11-T}{10} }
・目標値T=C+1~10
{ \displaystyle  P = \frac{11-C}{10} }
・目標値T=11~10+C
{ \displaystyle  P = \frac{11-C}{10} \cdot \frac{21-T}{10} }
・目標値T=11+C~20
{ \displaystyle  P = \left( \frac{11-C}{10} \right)^{2} }
・目標値T=21~20+C
{ \displaystyle  P = \left( \frac{11-C}{10} \right)^{2} \cdot \frac{31-T}{10} }
・目標値T=21+C~30
{ \displaystyle  P = \left( \frac{11-C}{10} \right)^{3} }

・目標値T=10n+1~10n+C
{ \displaystyle  P = \left( \frac{11-C}{10} \right)^{n} \cdot \frac{10n+11-T}{10} }
・目標値T=10n+1+C~10n+10
{ \displaystyle  P = \left( \frac{11-C}{10} \right)^{n+1} }

以上より、Pの一般項は
・目標値T=10n+1~10n+Cの場合、
{ \displaystyle  P = \left( \frac{11-C}{10} \right)^{n} \cdot \frac{10n+11-T}{10} }
・目標値T=10n+1+C~10n+10の場合
{ \displaystyle  P = \left( \frac{11-C}{10} \right)^{n+1} }
となる。
 なお、クリティカル値11の場合を省いたけど、T=1~10の部分はC=10と同じだし、T>10では全て0になるのでこれでよい。
 ルールの構造上どうしてもクリティカル値前後で扱いが変わってしまうので場合分けせずには表記できない。場合分けしたが、目標値がCのところではどちらの式を使っても同じになる。

 引き続き、今度はダイスを増やしていく。
 上で説明したことを式にすると、Pn+1 = Pn + (1-Pn)Pという漸化式になる。
 基本的に、この数列を解くことになる。

ダイス2つのとき(d=2)
{ \displaystyle P_2 = P + (1-P)P \\ \hspace{ 15pt }= 2P - P^2 }
ダイス3つのとき(d=3)
{ \displaystyle P_3 = 2P - P^2 + {1-(2P-P^2)}P \\ \hspace{ 15pt }= 3P - 3P^2 + P^3 }
ダイス4つのとき(d=4)
{ \displaystyle P_4 = 3P - 3P^2 + P^3+(1- 3P + 3P^2 - P^3)P \\ \hspace{ 15pt }= 4P - 6P^2 + 3P^3 - P^4 }
ここまで書き出してみると、パスカルの三角形の一番左の項がないものであることに気付く。
 パスカルの三角形では、次の段は同じ段を一つ横にずらしたものを足すと次の段となる構造をしている。上で示した漸化式Pd+1 = Pd + P -Pd・Pをみると、元のPdが元の段を表しており、-Pd・Pが一つ横にずらしたものに当たる。Pを掛けているので次数が一つ増えるのである。そして、P1の項は+Pによって1ずつ増える。こうして、左端の抜けたパスカルの三角形が現れる。

 本当はちゃんと証明しないといけないけど、論文を書いてるわけではないのでこれで済ます。
 さて、パスカルの三角形が現れたということは二項定理で示せるはずである。次の公式が二項定理である。
{ \displaystyle \left( a + b \right) ^n = \sum_{ k = 0 }^{ n } {}_n C_k a^{n-k} b^k }
 これを使ってPdの一般項を表す。一番左の項がないということはk=0となるP0の項が消えるということで、k=1から総和を始めれば良い。
{ \displaystyle P_d = {}_{d} C_1 P - {}_{d} C_2 P^2 + {}_{d} C_3 P^3 + \cdots + (-1)^{d} {}_{d} C_{d} P^{d} \\ \displaystyle \hspace{ 15pt } = \sum_{ k = 1 }^{ d } (-1)^{k+1} {}_{d} C_{k} P^k }
 以上で、成功確率の一般項を示すことができる。

ダブルクロスにおいて判定の成功確率は次のようになる。
{ \displaystyle P_d = \sum_{ k = 1 }^{ d } (-1)^{k+1} {}_{d} C_{k} P^k }
 Pについて
・目標値T=10n+1~10n+Cの場合、
{ \displaystyle  P = \left( \frac{11-C}{10} \right)^{n} \cdot \frac{10n+11-T}{10} }
・目標値T=10n+1+C~10n+10の場合
{ \displaystyle  P = \left( \frac{11-C}{10} \right)^{n+1} }

 ファンブルがカウントされてないけど、目標値1のときにしか影響がないので、無視した。下記に示すエクセルではファンブルもカウントしてるので安心してほしい。

 実際のところ、この計算は手続きが極めて簡便で判定の最中に咄嗟の判断に供せられるかというと、相当な計算能力が備わっていないと難しいんじゃないかと思う。プロペラオペラのクロトみたいな計算が得意な連中には役立つかもしれない。
 こういうときに役立つのがグラフである。結果を全部図示してしまえば大体この辺りであると目測がつく。
 ところで変数が4つあるので1枚のグラフで表すのは簡単ではない。やって出来ないことはないだろうけど、実際にそういうグラフを作ったところで見る人が理解できなければ意味がない。そこで、クリティカル値ごとに別のグラフを作ることにした。
 横軸を目標値、縦軸を成功確率とし、1~10, 15, 20, 30, 40, 50個のダイスを振ったときの結果をそれぞれ並べた。クリティカル値については別のセルで入力するようにした。目標値については、実はダブルクロスがどれくらいまで設定するゲームなのかよく知らないので、500くらいまであればいいかなと思って設定した。この所為でファイルサイズがちょっと大きくなった。
DX確率.xlsx
 次に示す感じのグラフとなっている。代表的なクリティカル値として10, 7, 5, 2を上げる。





期待値について
 このグラフからは期待値は分からない。期待値が分かると判定前に選択するオプションの見立てが出来て便利である。期待値はないが、50%の確率で成功する目標値というのは分かる。ここでは50%成功率と表記する。中央値と近い概念だけど、中央値とも異なるので50%成功率と呼ぶ。
 正規分布となるものであれば期待値は50%成功率と一致するはずだけど、こういう不連続なグラフでは期待できない。とはいえ、それほど大きく違ってくるとも思えないので、期待値の代わりに使うのも悪くないと思う。次のようになる。


 一応、縦軸を100までとしたものと450までとしたものを上げておく。

参考文献
 [1]矢野俊作 F.E.A.R., ダブルクロス THE 3RD EDITION ルールブック1, 富士見書房(2009)
 [2]確率の定義(魚拓), KIT数学ナビゲーション

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