チェルニー30番18を録音した。解説を書かないといけないなと思いつついつの間にやら1ヶ月が経っていた。その間に19番も完成間近となってしまった。
それはそうと、世界樹の迷宮の録音を試みているときに気付いたのだけど、2月くらいからこちら録音の際に音量のレベルを間違っていて、5.7db小さいボリュームで録音していたので音量を直して改めて上げた。幸いなのか、チェルニー30番しか録音したのがなかったため、ファイルを作り直すにはそれほど困難はなかった。
いつも通り、楽譜は全音版を使う。例によって、演奏する上で特に注意するべきことは楽譜の解説に書いてあるので、その部分は割愛し、もっと瑣末なメカニカルな部分を始め低レベルな解説をする。
18番はかなり難しい部類に入る。というのも、チェルニー30番の平均レベルの曲を大きく超える技術的な難所が2箇所ある。後ほど説明するが、13~15小節と17~20小節である。この2箇所がなければチェルニー30番としては平均以下のレベルであり、弾きやすい良ナンバーとなったのに。
室井摩耶子チェルニーってつまらないの?でこの曲は手厚く説明しているけど、多分チェルニー30番をとっくにクリアしていてもっと芸術的な演奏を目指したい人に向けての説明であり、僕みたいな下手っぴにはあんまり役に立たなかった。情緒的な説明に終止しており、僕の目指す物理的な体の動きなんかに関するものとは表現方法が違いすぎるためである。
ただ、前半部分1~8小節の左手の解説は良い。「最初は全音符で全休符でしょ。次は4分音符、そして4分休符、次は8分音符で8分休符、どんどん短くなっています。だから軽くなっていく」この左手の軽重に強弱の指示が合っているのでこのイメージはうまく嵌まる。
1小節
右手は上りのスケールが苦手である。何故かというと、下りスケールは1指の上に他の指をかぶせる形であり、上りは他の指の下に1指をくぐらせる動きなので、それぞれの指の移動できるスペースが上りの方が狭く自由度が下がるためである。
出だしでは最初のEsの2指の下にあらかじめ1指をくぐらせた状態で弾き始める。その後の指くぐりでは、事前に1指をMP関節[1]から曲げて3指、あるいは4指の下に潜り込ませておくと、タイムロスが減り少し弾きやすくなる。ついでに、そのまま脱力して弾ければなおよろしい。
12~13小節左手
12小節のBを4指で取って離鍵後、左手をこのポジションから動かさないこと。13小節の始めの左手で同じ音を取るため、動かしてしまうとどこに押すべきキーがあるのかを探さなければならなくなる。
13~15小節
例の難所である。
☆トリル部分は13,15小節では4545で演奏するように指示されている。14小節については何も書いていないので3535で演奏すると良い。この部分を全部4545でクリアしようとすると疲労で最後まで続かないので、ちょうどよい。
こういう動きの悪い指を早く動かすには離鍵を意識することが効果的である。離鍵に使う筋肉は日常生活では殆ど使うことがないので極めて弱い反面、この筋肉を鍛えることによって劇的に筋力が上がる。
しかし、そんな小細工をしたところでそう弾けるものでもない。さらに、楽譜の解説文にも「あまり無理をすると指を痛めますから、疲れたらやめること。」と書いてある。チェルニーさんよ、指を痛めるような練習曲を書くんじゃない。
解説文には「多少の困難はあっても、指使いは指示されているとおりに弾くこと。」とある。指を痛めるってのは多少の困難なんていうレベルを遥かに超えてますよね。そんなわけで、指を痛めるくらいならチェルニーの指示に逆らって勝手な指使いにしたほうが余程良い。
結局、カッコで示された指使いに加えて、14小節後半では譜例に示したようにGを1指で取ることにした。チェルニー先生の言葉に逆らうのは本当に心苦しいのだけど、指を痛めるわけにはいかないので涙をのんで指使いを変更した。
16~17小節左手
12~13小節と同じように、離鍵した後にポジションを移動させないこと。
16小節でDを3指で取り、17小節の始めEsを3指で始める。すぐ隣のキーなので手元を見なくてもキーに触れることはできる。
17~20小節
難所その2。
◎指くぐりの位置について。右手はBが4指でEが3指、左手はAが4指でEが3指となる。
※18小節後半から20小節の最後まで左右で3度(10度)ずつズレた音程を維持する。
この速度で左右の音をぴったり合わせるのはなかなかできるものではない。ショパン先生はパッセージを速く演奏することで多少粒が揃っていなくても聴けるものになるって言ってた[2]けど、ユニゾンのように同時に弾くべき音が重なっていないと、そのズレは非常に目立つ。実際のところ、指定のテンポで弾くのがやっとの場合は音の粒ぞろいまで手が回らないので当然揃わない。
この曲は4分音符で138bpmなので、1秒間に9.2回16分音符を打鍵することになる。1打鍵当たり0.1087秒である。打鍵が0.01秒ずれるだけで10%タイミングがずれたことになる。整えようという気がなくなるような時間感覚である。なお、1打鍵当たり0.1087秒がどれくらいかというと、ショパンのコンチェルト1番第3楽章の496~515小節[3]が1打鍵当たり0.096秒、ベートーベンのピアノソナタ32番第1楽章24~28小節[4]が1打鍵当たり0.119秒なので、この間くらいの速度となる。ユニゾンで似たような速度の部分を探したのだけど、これらはペダルを使うことを前提としているので速度さえ出せればチェルニー30番ほど難しくはなかったりする。ペダルなしでのユニゾンだとフランソワのショパン前奏曲14番が1打鍵当たり0.118秒となっている。ちゃんと弾くにはこれだけの技術がいるらしい。
そんな訳で、チェルニー30番を練習しているようなレベルの人がこだわるようなことではなく、テキトーに済ましてしまって、どうしてもというのならもっとうまくなってから試みたら良いと思う。時間の無駄である。
なお、そんなレベルでなく左右の手が合わなさすぎる場合は、どちらかの手(大抵は左手)が遅れていることが多い。遅れる箇所を特定して片手ずつ練習して目標の速度になるようにする。
24小節右手
2音目のGについて。
ここに至るまで右手は下降スケールであり、肘を外に向けた弾きやすい形になっているはずである。そのままの姿勢ではこのGは黒鍵の隙間で弾かなくてはならない。そうしないために上体を左に移動し、鍵盤の手前側で弾けるようにすると同時に手の向きをまっすぐに戻す。
参考文献
[1]岳本 恭治, ピアノ脱力奏法ガイドブック 1 <理論と練習方法>, サーベル社(2015)
[2]ジャン=ジャック エーゲルディンゲル, 弟子から見たショパン―そのピアノ教育法と演奏美学, 音楽之友社(2005)
[3]小林秀雄, ショパン ピアノ協奏曲第1番 ホ短調, 全音(1976)
[4]園田 高弘, ベートーベンピアノソナタ 第32番 ハ短調 作品111, 春秋社(2001)
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