前回からかなり時間が経ってしまったがゴルトベルク変奏曲 第6変奏を録音した。
2度のカノンであり、割と楽に譜読みできるためその時点では簡単そうに思えるけど、実は結構苦労した。ただし、前回から間隔が空いたのとは関係ない。
折角なので演奏解説でもしよう。とはいえ、僕ごときの知識でアナリーゼとか披露しようものなら恥ずかしいことこの上ない結果となるのでそういった小難しいことではなく純粋に演奏に関する技術的な点を説明する。
楽譜は全音のラルフ・カークパトリック版とウィーン原典版を使っている。ウィーン原典版の方が読みやすいので譜読みはウィーン原典版を使ったが、その後の練習時は連続演奏することを踏まえて全音版を使っている。ブゾーニ版も参考にしたかったのだけど、手に入らなかったので取り敢えず今回はこの2つの版だけで書く。
この曲、345指の間での指くぐりが頻出する。ショパンの10-2を練習してるから余裕だぜ、とか思ってたものの録音してみると惨憺たる有様。そういえばショパンのエチュードのほうもちゃんと弾けてないことを思い出すこととなった。
不自然な指くぐりを回避する方法が2パターンある。一つはノンレガートで弾くこと。もう一つは音が切れても気付かないくらいの速度で弾くこと。これらはどちらもおとなしく指くぐりを練習した方が難易度は低いので、指くぐりが難しいという理由で選ぶべきではない。こういうところではグールドのノンレガートが見事に効いてくる。
そんなわけで、ここでは地道に指くぐりを攻略する方向で説明する。とはいっても、結局ゆっくり弾いて音が繋がっていることを確認しながら練習するという地味で正統的な方法しかないわけだが。また、レガートで弾くためには指使いの検討は必要不可欠となるが、指使いについて解説しようとすると楽譜全体をアップする必要があるため、指使いについては詳しく言及しない。
3小節目
右手、35と指番号が振ってある部分。音はFis-Eという順になる。Fisはファのシャープなので、この2音のキーの間にはFが挟まっており少し距離がある。これを不自然な3-5の指くぐりで弾こうとするのだから無理がある。
ピアノの演奏法として3指を離した直後に5指でEを押さえるという方法も考えられるのだが、実際にこの方法をとったところ誤魔化すどころか逆に妙に目立って音が切れたので止めた。
この2音を指定の指使いで同時に押さえてみればその難しさは分かると思う。右手はかなり外側を向いき、3指はまっすぐ伸ばし、5指は思いっきり曲げた形で押さえることとなる。演奏中、意識してこの手の形に持って行こうとするとより上手く繋がる感じがする。
5小節目
右手4543と指番号を振ってある部分に白鍵上での4-5の指くぐりがある。345指間での指くぐりというのは通常黒鍵を押さえている指の下をくぐるように工夫するものだけど、この部分は遠慮なしに白鍵上で行っている。
以前ベトソナ15番の第2楽章を弾いたとき、FGABHCを543234で弾いたけど、このときは上昇形だったからできたのであって、ここでは同じ技術は使えない。ではどうするかというと、4指のH音はキーの少し奥、黒鍵が途切れたすぐ手前のあたりを押し、同時に5指をCから離して次のA音まで持って行く。このときに、しっかり5指を曲げておかないとAのキー側面に指が引っかかることがある。5指でAの手前側を押さえる、というか奥の方は4指が邪魔して届かないので手前側しか押さえられない。あとは普通に押さえればよい。それぞれのキーの押す位置に指番号を振ると次の図のようになる。
数字を書いてあるポイントが打鍵位置となる。
8小節目
左手最初のG音は直後に右手で同じ音を押す為、必然的にスタッカートになる。
右手上声部のH音は付点四分音符になっているが、これをそのまま弾くと何か濁って気持ち悪い音になるのでワザと短く切ってしまうことにしている。
11-12小節
この2小節は小節の中頃にそれぞれアクセント記号を書き込んでいる。
別にこの音にアクセントをつけるという意味ではなく、何も考えずに弾くとこの音だけ弱くなってしまうから、敢えてアクセントすることで周りと同じ強さの音にする、という程度の意味で書いている。
13小節目
右手に白鍵上での4-5の指くぐりがある。これは5小節目で書いたとおり。
13小節目最後のA音に汚い字で「奥」と書いてある。ヤベ、ゲシュタルト崩壊してきた。
次のGisを1指で取るため、このA音は少なくとも黒鍵の突端よりも奥で押さえる必要があるということ。
19小節目
右手第2音のCにアクセント記号を書いている。これも11-12小節に書き込んだアクセントと同じ意味。
第1音でCisを押さえており、黒鍵から指を滑らせてすぐ下のCに指を落とすことになる。そのため、通常の打鍵とは勝手が違い上手く音が出なかったためアクセントを書き込んだ。
23小節目
右手中声部の第2音と3音、Cis-Hが1-2という指使いになっている。3小節目も同じ音型だったけど、こちらは1指での指くぐり。指くぐりというか指またぎですね。1指だからといって油断できないのがゴルトベルク変奏曲。
どういうことかというと、1指で黒鍵を押さえておいてその上を2指がまたぎ、黒鍵よりも低い位置にあるHを押さえる。跨いだ先にあるキーが通常よりも遠いということで難儀する。慣れるまでゆっくり練習するしかない。
また、中声部の第4音、5音、A-Gを1-1としている。同じ指で隣のキーを押さえる場合、普通はノンレガートとなる。この曲ではレガートで弾くのが望ましいのだけど、この部分はどうしようもない。そこで、中声部は弱めの音で弾き、間違いなくレガートで弾ける上声部の陰に隠してしまうように弾く。そして、中声部最後のFis音は左手取りすることでG-Fisはレガートになる。
左手のベースは八分音符であり、音価からいって中声部の最後の2音を左手取りできそうにも見えるが、例えばG-Fisを1-2で取った場合、次の左手ベースに間に合わなくなる。また、G-Fisを2-1で取ろうとすると、ベースの八分音符の音価が十分に保てなくなってしまう。従って、左手取りできるのは最後の1音だけとなる。
24小節目
楽譜によって、右手最後の音にシャープが付いてたり付いてなかったりする。僕はウィーン原典版で譜読みしたため、シャープが付いてない演奏をしている。その後、全音でシャープが付いていたのでバッテンを付けてなかったことにした。
今回これを書くに当たって間違ってるとやだなぁと思い、自筆譜を確認したところしっかりシャープが書かれていた。ウィーン原典版の解説を読んでもシャープを消したことについて言及がないため、これはウィーン原典版が間違っているのだろうと判断した。
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