ゴルトベルク変奏曲第10変奏を録音したので例によって演奏解説をしようと思う。とは言っても、第10変奏はそれほど高難易度というわけでもなく、短いので書くこともあまり多くない。
ここまでの難易度の順としては、8>5>1>3>2>4>9=10>6>7といった感じ。これまで曲の何度を表記するのは割と積極的に避けてきたのだけど、それは自分の感覚があんまり信用出来ないため。この難易度の表記も練習・演奏した次点での体感難易度であり、第一変奏を演奏した時と第10変奏を演奏した現在では演奏技術も異なるのだけど、その技術力の差を無視してどう感じたかという主観で表記しており、矢張り当てにならないので読んでいる方はあんまり信用しないでいただきたい。
楽譜は例によって全音のラルフ・カークパトリック版を使った。ウィーン原典版は指使いの参考にすることもあるのだけど、今回は出る幕はない。ブゾーニ版は旋律を増やしたりオシアを付け加えたりと色々な編集があって興味深いんだけど、練習中にこの版を確認することをすっかり失念しており全く参考にしていない。この点は残念だけど、もう録音して公開までしてしまったからやり直す気にならない。今後改めて弾き直すことがあれば参考にしたい。
曲の構造について
フゲッタと書いてあるようにフーガ形式っぽく書かれている。フゲッタというのは音楽中辞典によると「小規模なフーガをさす。構造は原則的にはフーガと同一であるが、曲全部に渡り各部がより簡単でより多くの自由が許される。」とのこと。簡易的なフーガと認識している。
最初の4小節はフゲッタのテーマを提示しており、単旋律になっている。この4小節のグループを繰り返し曲は展開する。新に繰り返すたびに声部が1つずつ増えるという構成になっている。
本来ならもっとしっかり研究して、主題がこうなっており5小節目に5度上に応答が始まって云々とか説明するべきなのだけど、そっちは専門じゃあないのと、間違ってたら恥ずかしいので書かない。とにかく、4小節ごとにテーマが現れるという点だけ押さえておいてもらいたい。
この曲は上述の通り、それほど難易度は高くない。テンポがそれほど速くないことに起因するんだと思う。それでもトリルは相当な速さで弾くことになるので、ここでテンポが崩れる。1小節目を例に説明する。
大譜表の下に演奏例が書いてあるのだが、後半のトリルをこの通りに弾いてみると結構速く、正確な音価で取るのは難しい。
始めよりも終わりの方を速くするように弾くことでいくらか音価を調整することができる。というのはトリルを弾き始めてからでも加速度を調整することができるからである。こうして全体として正しいタイミングで弾けるようにできる。トリルの長さを調整すると言ってもあくまで正しい音価の中にトリルを収めるように調整するのであって、決してリズムを乱すものであってはならない。
または、譜例の音数を無視して全速でトリルを引き、後打の16分音符でタイミングを合わせる。
こんな感じで何とかトリルを弾けるようにする。偉そうに書いているけど、僕自身全速でトリルを弾いても指定の音数より多くはならない。ただでさえトリルは苦手なのだけど、左手で弾くトリルは本当にダメだ。ショパンのコンチェルト1番のコーダの621~644小節なんてほんとツライ。左手のトリルが制御できないせいで全体的にテンポが安定しなくなっている。
29小節
技術的な面ではあまり書くことがないので、いきなり最後の段。
4声で左手のトリルが入るため、この部分が一番難しい。そのうえ30小節の始めにテノール部が右手に受け渡される。
効果的な攻略法とかは見つからなかったのでただひたすら頑張ってトリルを詰め込み、尚且つテンポを乱さないという技巧が求められる。ただ、13小節も同様の形式で右手のトリルなので、13小節が弾けるのに29小節が上手くいかないということは、右手よりも左手が劣っているということに他ならないため、右手と同じ修練により29小節も弾けるようになるはずである。
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