疎水性粉体が水に浮くことについて

 疎水性の粉を水に混ぜようとしても、当然ながら分散しない。そして、粉の比重が水よりも相当に大きかったとしても浮いてくる。ただし、大きな塊になると沈む。
 これは何故かというと、粉の疎水性表面は水と馴染まないが空気とは馴染むので粉が周囲に空気を纏った形になって真比重よりもかなり軽い状態になる。一方、大きな塊となっている粉は体積に対して表面積が小さくなるので纏っている空気の量が少なく、水に浮くまでは軽くならないため沈む。実際、沈んだ塊をよく見ると表面に空気の層が見える。
 それで思ったのだけど、それなら空気のない状態で水に沈めたら最初から沈むのではないかと。
 というわけで試してみた。
 粉はコロイダルシリカの表面をアルキル基で修飾して疎水化したものを乾燥して作った。

何もせずに粉を入れたカップに水を注ぐ
 これは予想通り粉が浮く。

 ちょっと赤っぽく見えるのは、カメラのせいではなく、シリカの粒子が250nmくらいの粒径の揃ったものであるため、構造色で発色している。
 粉と水、入れる順番によって様子が変わる。
 水を先に入れた場合はすべての粉が水に浮く。ちょっとくらい撹拌したところで沈むことはない。
 粉を先に入れた場合は部分的に容器の底にへばりつくものが現れる。水が粉を避けるため、粉の周囲の空気が容器の底と密着して、結果としてその下に水が入り込めなくなるため、粉は浮いてこない。

真空中で水を加える
 粉を入れたカップをデシケーターの中に置いて、真空ポンプで引いた状態で水を注入した。
 見事水没。それどころか撹拌したら少し分散する。分散するってことは表面に水酸基があって水和してんじゃないかって思うけど、別にそうでもないらしい[1]



溶媒置換してみる
 上の結果から、表面に空気がない状態で水に入れたら浮いてこないということなので、態々真空状態なんて面倒な真似をしなくても、溶媒置換してやればいいじゃんと思うわけである。
 というわけで、粉をメタノールに分散し、水を加えて加熱撹拌してメタノールを蒸発させた。
 完全にメタノールが蒸発したのかちょっと自信がないが、メタノール20mlくらいに対して水60mlくらい、これを40ml弱まで蒸発させているのでメタノールはほぼ残っていないんじゃないかと思う。
 撹拌を止めて暫く経つと、いくらか沈殿しているものは確認できるが、それなりに分散している。
 すぐに凝集してみんな沈殿するのかと思ったけど、意外にいける。


凝集の原理について
 シリカはSiO2と表記されるが、粒子表面はSiO2で表すことはできず、基本的にSi-OHの形をしており、下図に示すようにその形状も多彩である[2]

 シリカ粒子の表面は通常は水酸基の存在によってマイナスに帯電していて電気二重層で粒子同士があまり近づかないようになっている。この表面水酸基をアルキル基で置換することによってゼータ電位が小さくなり粒子同士の反発が弱くなる。いわば塩析したような状態である。
 また、粒子自体が周囲に水を引きつけなくなるので粒子表面に存在する水が水素結合で拘束されず運動量が大きくなることによって局所的に比重の小さい状態になるため、粒子同士が近づく力が働くようになる。
 こうしてファンデルワールス力の影響範囲よりもだいぶ遠くから凝集に向かっていく。




 っていうようなストーリーを考えたんだけど、どうだろ。
 自分でも悪くないと思うけど、実験で証明する気にもならない。MDで計算するならワンチャン行けるかもってくらいかな。さあ、誰かこのネタを持ってドクターを目指すんだ! 僕はやらん。

参考文献
 [1]石田尚之, 液体中の粉体間に働く疎液性引力の直接測定と起源究明, ホソカワ粉体工学振興財団年報No.23(2015)38-43
 [2]日本化学会, 第3版 現代界面コロイド化学の基礎p183, 丸善(2009)