樅の木 Op.75-5 演奏解説

 シベリウスフィンランディアとか交響曲なんかがメジャーどころだけど、ピアノ曲も結構書いていて、樅の木は割と易しいため発表会とかでよく演奏される。
 微妙に弾きにくそうな部分もあるけど、弾いてみると意外に無理なく弾けるようになっている。
 楽譜は全音シベリウス ピアノアルバムを使った。
 3ページの短い曲だけど、都合よく譜めくりできるタイミングがないので、3ページめだけコピーを取って横に並べて演奏した。
 ハイレベルな解説は森本麻衣が行っているけど、ちょっとレベルが高すぎるので、もっと低レベルな開設を目指す。

曲の構造について
1:前奏
239:メイン部分
40カデンツ
4152:再現部
5356:コーダ
というような感じになっているが、それぞれの部分の中でもうちょい細かく分けることができる。
 曲全体を見ると4小節ごとのブロックが見える。付点2分音符をメインとする最初の3小節と8分音符をメインとして最後に16分音符を持ってきてスイングする4小節目のブロックである。1小節目は6拍あるので、これを2小節分と数えると殆どの部分に適用できる。
239:メイン部分
のメイン部分は途中2429でワルツ的な部分を挟んで前後に分けることができるが、これは曲全体をメイン部分、カデンツァ、再現部に分ける構造を縮小している。
 123小節は4小節のブロック3つの計12小節が2つ並んでいる。4小節ごとのブロックを1拍として3拍子のリズムを拡大して、入れ子構造にしているのかもしれない。

拍子について
 1小節目と40小節目がカデンツァとなっている。リズムを取りづらいのだけど、連桁している一塊を1拍4分音符1つ分とする。
 基本的に3/4拍子となっていて、ワルツっぽい動き、つまり拍頭にベースを取って、続く2拍で同じ音を鳴らすという動きをしているが、ワルツではないということを意識して弾くべきである。ただし、2429小節はワルツみたいな流れになる。

テンポについて
 テンポは曲の進行に合わせて目まぐるしく変更する。まとめて説明すると結構分量が多くなるし、譜例を一緒に示したいので、個別に説明しようと思う。
 また、テンポがコロコロ変わるが、拍は正確に取らないとだらしのない曲になってしまうので、「イチッ、ニッ、サンッ、イチッ、ニッ、サンッ」と数えながら弾く。

12小節

 1小節のカデンツァ。前奏になる。
 テンポの指定はStretto(だんだん早く、緊張感を高めて)となっているが、基準の速度が示されておらず、どれくらいの速度から加速していけばよいのか悩みどころである。4拍目のallargando(だんだん遅くしながらだんだん強くrit.+cresc.)を経て2拍目のLento(遅く)に至るということで、このLentoを基準に速度を逆算することができないでもない。とはいえ、最終的にLentoにするというだけで、あまり明瞭に速度を示しているわけではない。速くなって遅くなってLentoに至るということしか示されておらず、開始の速度がLentoより速いのか遅いのかさえも不明である。結局、演奏者の好みの表現をするという以外に解釈のしようがない。まあ、カデンツァなんだから表現は作曲者よりも演奏者が主体になるのは当然かもしれない。
 ペダルは4拍目まで踏みっぱなしで、5、6拍目は適宜踏み変えるようになっている。テンポを落としてから踏み変えるようになっているが、テンポが遅いときは前の音が残っていると不協和音として目立つためだと思う。
 譜読みのために:分散和音の音を見ると、右手は全てオクターブとその間の音で構成されている。そして、その中の音というのは4度→5度→4度→5度→4度→5度という順で、4度と5度が繰り返されている。この曲は1小節目に限らず、色んな所で2つずつの塊による進行で構成されている。ここでは2拍の塊3つとなる。左手の一番下の音は塊ごとに2度ずつ下がっていき、塊の中では5度下がる。
 まとめると次のようになる。


2小節
 con suonoと書いてある。"con"は「~で、~とともに」、"suono"は「音」で英語で言うところの"sound"に相当する。だから、"con suono"では「音と共に」となるけど、意味がわからない。舘野泉は上に書いてあるLentoと一緒にして"Lento con suono"で「非常に遅く、夢見るように」と言っているが[1]、どう見てもLentoと離して書いてあるので納得できない。
 con suonoがどこに掛かっているのかと考えてみる。少なくとも上のLentoではないだろう。とすると、左の付点二分音符か、上の4分音符2つか、小節全体(というか曲の流れ自体)かとなる。ところで、2小節と殆ど同じ41小節は次のようになっている。

ここではcon suonoの位置が異なっていて、付点二分音符の下に書いてある。この2つの表記の違いを見るに、2小節ではcon suonoを小節頭に書きたかったけど、大譜表の隙間が小さすぎて仕方なしに付点二分音符の右側に書いたというだけと思われる。ってことは、con suonoは小節全体を示していることになる。
 con suonoの意味を調べていると「音を伴って(無音ではなく)」としているのを見つけた[2]。となると、音を消さないで持続させるというような感じだろうか。舘野泉の言う「夢見るように」という表現もあながち悪くないと思えるが、いかんせん曖昧すぎる。

3小節

 2拍目からはペダルをオフにする。ペダルオフの指示はかなり重要なので見落とさないように。
 2小節で音を消さないで持続させるとか何とか書いたが、ペダルオフと休符によって早速違えることになる。しかし、是非ともこの休符はしっかりと無音にしたい。そして、8分音符にはアクセントが付いているが無音の後の16分音符にはアクセントがないので、弱音で入る。

5小節

 左手の10度の和音。短10度でちょっと近いと見せかけて、黒鍵-白鍵なので白鍵-白鍵の10度よりも遠くなっている。
 森本麻衣はこの部分は左手で弾かないで右手で取るようにと言っているが[3]、多分左手だと届かないから分散させなければいけなくなるけど、分散させずに同時に弾くべきだということなんだと思う。頑張れば届くので全部左手で取るようにしてる。

1623小節
 ペダルの指示が全くないけど、これまでと同様にペダルを踏むべき。試しにペダルを踏まずに弾いてみると酷いことになるから、わざわざ書き込むようなことではないと思ったのかもしれない。
 3239小節も同様。

17小節

 2拍目と2拍目の音が異なることがよくある。この違っている音に少しアクセントを付けるて響かせるといい感じになる。

2429小節

 基本的に2小節のグループでできており、1音ずつ下がっていく構造になっている。各グループの中では、左手ベースは5度下がり、右手は3拍目の中の音を覗いて2度下がる。3拍目の中の音は変わらない。左手2拍目は3度下がる。図で示すと次のようになる。


40小節
 カデンツァ。長いので譜例はなし。
 全部で32拍からなる。3つのシーンに分けられる。フェルマータの前までの12拍をA、’までの14拍をB、残りの6拍をCと呼ぶことにする。
 Risolutoというのは「きっぱりと」という意味で、テンポの指示ではない。ABフェルマータ以外にテンポの変更はない。"mfz e cresc. poco a poco"とあって音を強くしていかなければならないけど、急く気持ちに任せてテンポを速めることがないように正しく拍を刻まなければならない。
 Aは右手の各拍最初(と真ん中のオクターブ上)の音に注目すると2拍毎の塊が3つでまとまっていて、それが2回出てくる事がわかる。2拍の塊の中では2度下がり、3つの塊の中では2度ずつ上がっている。この規則性に気づくと譜読みが捗るけど、暗譜できるほどではない。結局、譜面を見ながら演奏することにした。右手の抑える音が半分くらい分かるので、大分弾きやすくはなる。
 Bは1拍に10~11音押し込められているので、Aよりも忙しくなる。速度の変更の指示はないので同じ速度で拍を刻んでいく。各拍最初の音が半音ずつ下がっていく。ここでも2拍ごとの塊ができており、右手の分散和音が広い範囲と狭い範囲を交互に繰り返すようになっている。
 C1小節を1オクターブ下げたのと殆ど同じだけど、少し異なっていることに注意しなければならない。まず、Strettoではないので、Bと同じ速度で入って、2~3拍目の当たりのallarg.で速度を落として、最終的に次の再現部でLento至る。1小節目よりも速度を落とすタイミングが早い。最後の拍の左手は1小節と音が違う。譜面上の違いはこれだけだけど、1オクターブ低いためにペダルを全開で踏んでいると音が響きすぎるという場合はペダルを少し緩めてとかするとよい。

4152小節

 ここから再現部。基本的に213小節と同じだが、フェルマータが付いていたりペダルの位置が違ったりするので注意がいる。

5356小節

 上の方で53小節からコーダと書いたけど、もしかしたら51小節からかもしれない。4小節のグループで見たときに、5051小節の間が切れ目になるため、その可能性もある。コーダに入った瞬間から特別変化があるわけでもないのでどこからだとかはあまり重要ではない。
 2小節ごとにフェルマータがある。フェルマータは「停止」を表すイタリア語なのだが、音楽用語だといくらか派生した用法がある。このようにフェルマータがいくつか続いている場合は、最後のフェルマータのみが停止を表す。他は息継ぎのように幾分切りながら進行し、最後のフェルマータに向かう[4]。また、息継ぎの合間にpoco rit.を挟んでテンポを落として終止に向かう。
 最後、5556小節。ペダルの指示はないが、勿論ここでもペダルを踏む。舘野泉はペダルを3回踏み変えると良いと言っているが[1]、ハーフペダルとかで響きを逃してもいいんじゃないかと思う。

参考文献
 [1]舘野泉, シベリウス ピアノアルバム, 全音
 [2]https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1482285069, Yahoo!知恵袋
 [3]森本麻衣, ピアニストはこうやって譜読みする③シベリウス「もみの木」 森本麻衣, YouTube
 [4]菊池有恒, 楽典―音楽家を志す人のための 新版p164, 音楽之友社(1988)