怪しげな除菌スプレーを発見した

 ちょっと前にD&Dに集まったときにコロナ対策と称して除菌スプレーが準備してあった。「Ag」って書いてあったから銀を使っているのかと思って商品解説を読んでみたら、怪しさ大爆発でよくこんなのを買ったなと感心してしまった。
 ekopro日本製ノンアルコール除菌スプレー


 解説文には次のように書いてある。

【商品説明】 SUPAg+++抗菌?ブロッカ一は、独自の特殊製法により化合物からの分離ではなく純銀そのものから化学薬品類を一切使用せずに安全で効果的に銀イオンを高濃度で抽出しました。しかも銀イオン粒子の大きさをナノサイズよりもさらに小さい200ピコメ一トルサイズ*まで超微細粒子化させたことでウイルスの除菌効果を高めています。化学薬品を一切含まない、純水と純銀(SV1000)のみで生成された高濃度純銀イオン除菌?消臭スプレ一としてどなたにも安心して幅広い用途にお使いいただけます。*1ビコ (pico) メ一トル=1兆分の1メ一トル。

 分かってる人が見れば一笑に付す内容だけど、現代人の平均的な科学リテラシーを考えれば一定数騙される奴が出てくるのも仕方ないかなとは思う。
 簡単にツッコミを入れておくと、ピコメートルという単位は原子を扱う際には使わない。小さすぎるからである。例えばH2の原子間距離が0.74Å = 74pmである[1]。200pmということは水素の結合距離3つぶんにあたるわけ。銀はどうなんだろうというと、原子半径が144pmとなっている[2]。つまり、直径は288pm。商品解説にある200pmというのは微粒子どころかAg原子よりも小さいのである。
 そもそも、純銀から化学薬品を一切使わずに銀イオンを作り出したとか無茶なことを言っている。書いてる方もよく分かってないのだろう。
 そんなわけで話にならない。もうちょい専門的な話をするなら、銀は100nm以下まで小さくすると表面積の増大から速やかに酸化されていくので、微粒子を安定的に保存するにはそれなりに工夫のいるものである。
 なお、NETSEAで会社情報を見ようとすると指定されたサプライヤーは既に退会しているか情報が存在しません。と出てきて既に逃亡済みな感じがする。
 この商品を販売している誠和商事ってのは何者なんだろうなって調べてみるとそれらしきものが見つかった。
誠和商事株式会社 会社概要

商号: 誠和商事株式会社

設立: 2020年(令和2年)3月26日

本社所在地:
〒231-0842 神奈川県横浜市中区上野町3丁目115番地3
電話番号: 045-883-3721(代表)
交通のご案内: 山手駅から徒歩10分

代表執行役社長 兼 CEO: 辺 暁羽 (べん ぎょうう)

資本金: 300万円(2020年3月26日付)

主要営業品目: プリザーブドフラワー、日用品販売及び輸入輸出

営業時間:月〜金 9:00 AM – 5:00 PM
     土日  11:00 AM – 3:00 PM

 辺暁羽 という人がやってるらしい。名前からして中国人が輸入品を扱っているって感じかな。そういえば、上に貼った説明文も「ビコメートル」とか書いてあってとても怪しい。
 誠和商事アマゾン店というのもあるけど、販売リストにこの除菌スプレーは上がっていない。
 さて、楽天だが、ここが一番気合い入ってる。なんと、楽天ランキング1位受賞らしい。どういうランキングか知らんけど。きれいに販促用のフライヤーを作って載せているが、漢字フォントがいちいち中国語っぽい。極めつけに抗インフルエンザ活性についての報告書がついている。

銀水溶液の抗インフルエンザ活性についての報告

報告日: 平成22年2月20日
検査日: 平成21年11月24~29日
検査: 福島県立医科大学 微生物学講座
 責任者:   錫谷 達夫
 検査担当者: 生田 和史

丸八殖産で作成した80ppmの銀水溶液の抗インフルエンザ活性を検討した。

【方法】
・ウイルス株: A型インフルエンザウイルス Murakami 株(H3N2) ・抗ウイルス活性の測定:  80ppmの検体150μmにウイルス液を10μl加え、よく撹拌後、4℃でインキュベートした。 (銀の最終濃度は75ppmとなる)
 対照実験には150μlの培地を用いた。
        ↓
 30分、1、4、24時間後、それぞれの試験管に9.84mlの培地を添加した。この溶液を原液とし、培地で10倍階段希釈した。このそれぞれの希釈段階のウイルス液を、24well plateでmonolayerとなったMDCK cellsに感染させ、Agarを添加した培地を重層後、37℃、5%CO2の条件で4日間培養した。

ホルマリン固定液で固定後、培地を除去し、クリスタル紫で細胞を染色してプラークを数えた。

【結果】
対照実験のウイルスタイターをもとに、銀によって不活性化されたウイルスを計算した結果は以下の通りであった。
処理時間   不活化(%)
30分     30.0
1時間     52.5
4時間     70.8
24時間    82.6

 ということ。
 生物方面の用語はよく知らないので、あまり深く突っ込めないけど、この報告書が平成22年ということで、誠和商事の設立である2020年よりも10年以上前のことである。
 福島県立医科大学の錫谷さんと生田さんは調べれば名前の出てくる方なので、この報告書の実在を疑う必要はないだろう。辺暁羽氏がどこからか入手した報告書を勝手に使っているだけだと思う。2氏はエセ科学商法に名前を利用されたわけで、不名誉極まりないことだろう。
 こういう雑なところが中国人らしいというか。

参考文献
 [1]水素, Wikipedia
 [2], Wikipedia