ガソリン自動車をやめる方向性とか

 最近、ガソリン車をなくそうという政治的な動きがあるようで、英国では2030年までにガソリン車とディーゼル車の新車販売を禁止するということらしい[1]。外国のことなので勝手にしろと思っていたら、日本もそれに追従するとか言い出した[2]。技術的に可能なのかとか、資源としてのリチウムは足りるのか、インフラ整備とかできるのかとか色々疑問は尽きないが、環境大臣が「気候変動のような大きな問題は楽しく、かっこ良く、セクシーであるべきだ」とか寝言を仰っているので何も考えずになんとなく環境にいいんじゃねーのっていうイメージしか持っていないのは分かる。
 平成29年はガソリン消費量が約5100万kL、軽油消費量が約2500万kL[3]らしい。ガソリンが7970kcal/L, 軽油が9088kcal/Lなので[4]、合計で5100万kL×7970kcal/L+2500万kL×9088kcal/L = 739GWhとなる。ちなみに関西電力の火力発電の平成29年度の発電量が678億kWh = 67.8TWh[5]。関電が発電量を1%増やす程度なので全国の発電所に分散したら大した量ではなさそう。イメージ的には原発を何基か増やさないと対応できないように思ったけど、そうでもなかったか。あるいは、計算を間違えてるだけかもしれない。
 それはそうと、リチウムイオン二次電池は体積エネルギー密度が250-676Wh/L[6]となっている。ガソリンは上記の通り7970kcal/Lである。単位を合わせると、ガソリンは9300Wh/Lとなる。リチウムイオンの最大のところと比較しても13.8倍の違いがある。つまり、ガソリンタンクを廃してそれだけの体積を持つ電池を載せないと同じだけの距離を走れないということになる。EVは燃費が良いとされているけど、流石に13.8倍を吸収できるほどではないだろう。
 リチウムイオン電池はガソリンに比べて遥かにエネルギー密度が低い。これだけの差を埋めるには相当のブレイクスルーが必要だというのは素人目にも明らかだが、リチウムイオンを使っている以上はその目はない。
 リチウムイオン電池の反応は次のようになっている[6]
・正極での反応はLiCoO2 ⇄ Li1-xCoO2 + xLi+ + xe-
・負極での半分の反応はxLi+ + xe- + 6C ⇄ LixC6
この反応で得られるエネルギーが理論上の限界となる。
 一方、ガソリン(オクタン)はというと、
C8H18 + 12.5O2 → 8CO2 + 9H2O
単純に水と二酸化炭素に変わるだけで実にわかりやすい。
 上の式は化学反応式だけでエネルギー収支が書いてないのだけど、リチウムイオン電池の方はイオン結合であり、ガソリンの方は共有結合の解離である。化学結合の強さは、共有結合>イオン結合>金属結合という順がある。リチウムイオン電池では1分子でイオン結合1つの解離によるエネルギーを取り出すのに対し、オクタンでは1分子あたり25個の共有結合を解離するエネルギーを取り出すことができる。イオン結合1つのエネルギーで共有結合25個の13.8分の1までエネルギーを高めたのは相当頑張っているとは思うが、純粋なエネルギー量では到底太刀打ちできないのである。
 そんなわけで、リチウムイオン電池を使っている限りはガソリンよりも扱いやすくなることはないのである。ハイブリッドエンジンのようにガソリンが生み出すエネルギーを効率よく運用するというのであれば有用だとは思うが。
 ちなみに、水素を原料とするならガソリンの代わりになる可能性はあるが、安全に扱えるだけの技術が必要になる。

参考文献
 [1]脱ガソリン車、世界で加速 英は販売禁止を5年前倒し魚拓), 日本経済新聞
 [2]政府が「2030年ガソリン車禁止」を打ち出した訳(魚拓), 東洋経済ONLINE
 [3]自動車燃料消費量統計年報 平成29年度分(コピー), 国土交通省
 [4]換算係数一覧魚拓), 石油連盟
 [5]よくあるご質問(魚拓), 関西電力
 [6]リチウムイオン二次電池(archivetoday), Wikipedia