ショパン ノクターン4番 Op.15-1 演奏解説

     ショパンノクターン4番Op.15-1を録音した。
     中間部の重音トレモロが難しいという以外は特に難所もないため割りとあっさり譜読みは終了したけど、やっぱり重音トレモロは難しい。
     例によって低レベルな解説をする。

    楽譜について
     楽譜は例によってナショナルエディションを使うが、コルトー編も参考にしている。
     また、Bart van Oortの録音に収録されているアレンジを取り入れた。

    曲の構造について
     A-B-A'-コーダとなっている。AがF Dur、Bがf moll同主調の関係になっている。AとA'は殆ど同じなので譜読みはだいぶ楽である。また、中間部Bを暗譜してしまえば最後の2ページを見開きにしておくことで譜めくりが不要になる。暗譜なしだと42小節の後半結構忙しい部分で頑張って譜めくりをしなければならないので更に演奏難易度が上がる。

    テンポについて
     褒められたことではないのだが、あんまりテンポのことは考えずに演奏した。というのは中間部の速度が全体の速度を決定することになるのだが、Bの中でもかなり速度が変動するのであまり参考にならない。また、Aが69でBが84と指定されているが、重音トレモロを速く弾けないという場合は無理なく弾ける速度に落として演奏することになるのだけど、そうするとAはそれよりも更に速度を落とさなければならなず、曲としてかなり不自然なことになる。中間部を特にゆっくり演奏している例として松本武巳河合優子がある。
     テンポに関する指示は多くある。以下に箇条書きにする。
    ・冒頭 Andante cantabile 4分音符=69
    ・7~8小節 poco cresc. e ritenuto:少しずつ強く、そして、直ちに遅く
    ・24小節 フェルマータ
    ・25小節 con fuoco 4分音符=84
    ・33小節 pp e poco ritenuto:ピアニシモ、そして、直ちに遅く
    ・35小節 a tempo:元のテンポで→33小節で減速する前のテンポ
    ・47~48小節 dim. rall. e calando:徐々に弱く、徐々に遅く、消えるように("calando"だけで「だんだん遅くしながらだんだん弱く、消えるように」という意味なのでその前のdim. rall.と重複させることで強調している)
    ・49小節 a Tempo primo 4分音符=69:最初のテンポ、つまり69で
    ・55~56小節 poco cresc. e ritenuto:少しずつ強く、そして、直ちに遅く
    ・71~74小節 rall. smorzando:だんだん緩やかに、だんだん弱くしながら消えるように
     これ以外に更に詳しくテンポを指示しているのが、ヘアピン型のクレッシェンドとデクレッシェンド。教科書では音量の増減と書かれているけど、ショパンの場合はテンポについての指示と読むことができる。開くヘアピンはテンポが開く、つまり減速する場合と、インテンポで初めて加速する場合がある。閉じるヘアピンはテンポが閉じる、つまり加速することを意味する。<>の形のヘアピンはルバートを意味する。[1]

    3, 5, 11, 19小節など

     左手の3連符に右手の付点8分音符と16分音符をあわせるところ。
     ショパンの解説の際はだいたい毎回書くのだけど、下の表記のように付点8分音符を3連符2つ分、16分音符を3連符1つ分の長さとして演奏する。

     これはショパンを演奏する際の決まりなんだけど、知らない人が多くて困る。ピアノの先生であっても音符の通りに弾けというので彼等の不勉強ぶりはあまりに嘆かわしい。

    9~10, 53, 57~58小節

     ☆右手がこのモルデントの形の装飾のところではペダルを離し、音を濁らせないようにする。

    21~24小節

     24小節の3拍目のフェルマータ譜めくりができる。そうなるとこの部分は楽譜を見ながら演奏はできない。しかし、この部分は21小節が19小節と、22~24小節が1~3小節と酷似しているので前頁の当該部分を見ておけば良い。

    22~24小節

     コルトーは左手のアルト声部にアクセントをつけている。なお、この声部は右手の1オクターブ下をなぞっているので分かりやすい。

    25~48小節 中間部
     重音トレモロはこの曲の肝。ペダルを踏むことで容易に誤魔化すことができるが、当然音が汚くなる。正攻法で、速度を落として正確に弾けるようになってから正規の速度まで速めていく。
     和音の切り替わりの部分で、速く次の和音の準備をしたいという焦りから、タイミングが早くなったり、打鍵が浅く音が出なかったりすることがある。この曲は所々ある左手の装飾音のためリズムが安定しないので、その中に紛れてしまえば少々打鍵が遅れても何とも思われないので落ち着いてちゃんと打鍵すること。

    25, 27, 37, 39小節左手

     *最初のFは4分音符の長さで正確に切ること。必要以上に長く押してもどうせ聞こえないし3倍音、4倍音が鳴っているのでかき消される。その上、続くパッセージを弾くのにとても邪魔になる。

    27, 39小節左手

     ☆最初のFは鍵盤の奥、黒鍵の横の部分を押す。16分音符のパッセージでEsを1指で取るので結構距離があり、手前の方でFを取ろうとすると指を届かせるのに難儀し弾きづらくなる。

    28小節

     右手前2拍は全部黒鍵。できるだけ奥のほうを押すようにして左手で押すCとの干渉を避ける。
    ※左手2拍目C。このCは押したら指先だけキーの上に残して手全体を鍵盤の上から退避させる。3泊目の右手はこれよりも下の音を取るため、この際に鍵盤上に左手が残っていると邪魔になるため。

    29, 30, 31, 33, 35小節など、及び45小節以降について



     6連符のトレモロと同時に弾く付点8分音符と16分音符の組み合わせ。
     29~44小説では、先と同様に付点8分音符で6連符4音、16分音符で6連符2音の長さに対応させる。
     45小節~47小節は16分音符を6連符最後の1音と合わせる。

    33小節左手始め

     ☆47小節までこの形の装飾音で10度の跳躍が度々出てくるけど、跳躍した先は全て白鍵となっていることを覚えておくと少し楽になる。

    34小節右手

     コルトー版には3拍目のDes, C, Hと下降する部分に括弧書きでテヌートというかアクセントが付けられている。これまでトレモロで脇役だった声部がここに来て旋律を表すのはアピールポイントだと思う。この展開は子守唄Op.57の45~46小節を思い出す。

    35~36小節


     35小節後半から36小節にかけて左手が暇になるので右手の補助をすることにした。35小節では16分音符で進行するので右手部分はスタッカートになり、36小節に入ったところから8分音符のレガートになる。
     ただし、36小節から37小節にかけて減速する指示がないため、速いまま37小節に突入すると考えると36小節の最後の部分を左手で取って、すぐに37小節の冒頭まで1オクターブの跳躍を行うのはあまり現実的とはいえないので、少なくとも最後の部分については右手で取るべきかもしれない。
     コルトーはこの部分、最初から8分音符で取るようにしており、また、手の小さい人には左手で取ることを勧めている

    44小節3拍目~44小節右手

     1,2,3指でF, As, Bを取り、5指で上のFを取るため、3-5指をかなり広く開かなければならない。手を少し左に傾けることで手を開く広さを小さく出来るので少しだけ楽になる。あまり傾けすぎると1指がキーに届かなくなってしまうので、1指がキーの端に引っかかるくらいの位置を見極めること。

    45~47小節

     ※上記の通り、主旋律の16分音符は中声部の6連符の最後の音に正確に合わせる。これは31~35小節との対照を明確にするためであり、タイミングを外してはいけない。どうせ左手の装飾音を正確なタイミングに押し込めることは不可能なのでテキトーに弾ける速度までテンポを落として装飾音と一緒に一挙解決したら良い。

    47小節左手

     2拍目最後のF。この部分、右手が2拍目と3拍目が1つのフレーズとしてまとまっておりリズムを乱さずに弾かなければならない。Fを2指で押した後、3拍目の頭で黒鍵のオクターブを押す。FはAとのトレモロなので鍵盤の手前で弾かなければならないが、ここからBまで少し距離があるので遅れやすい。最後のFだけ出来るだけ奥を押して遅れないように気をつける。

    49小節

     右手装飾の最初Cと左手出だしのFを合わせる。
     48小節までに十分速度を落としたことでこの不自然なタイミングでも装飾音を捩じ込むことができるようになっている。マズルカ48番Op.68-3の24~25小節F Durに転調する所で無理矢理分散させてバランスを保って演奏したことを思い出す。

    54小節右手

     Bart van Oortのアレンジの耳コピ

    68~69小節右手

     こちらもBart van Oortのアレンジの耳コピ
     始めのトリルには長いアクセントで表記されるデクレッシェンドが付いている。これはトリルの最初の部分を強く弾いて、すぐにデクレッシェンドすることによってアクセントを表現する。実際に演奏するときは第1音のDをキーの手前の方で強く、少し長めに取り、トリルを弾きながら手を鍵盤の奥の方に移動し、弱く速く弾く。ピアノのキーは奥のほうが沈み込む距離が短いので速い打鍵が可能である。そのかわり、強い音が出づらい。

    73~74小節

     コーダ。
     72→73小節ではペダルを切らない。
     74小節に入った辺りでペダルを踏みかえるとあるが、この最後の左手でF, C, Aの3音を押さえ、右手でC, F, A, Cを押さえる。この7音を離さずに押さえがらペダルを弱めて73小節までの残響を消してやり、右手でCを押す前に完全に踏み直す。そして、右手でCを押しながら、何食わぬ顔で左手を離し、最高音のFを押す。こうすることで極力音を濁らすことなくコーダをキメる。

    参考文献
    [1]セイモア・バーンスタイン, ショパンの音楽記号 -その意味と解釈-, 音楽之友社(2009)

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