何年か前のある晴れた日のこと、近所のマクドナルドに昼ご飯を食べに言った際にipodを聞きながら歩いていたときに聞いたのがBart van Oortのノクターン20番。この曲集はBart van Oortによるアレンジが所々挿入されている、と解説には書いてあるのだが、Op.9-2のアレンジはナショナルエディションに付いているヴァリアントと酷似しているので本当に全てBart van Oortによるアレンジなのか何ともいえない。ともあれ、演奏自体とても良く、また作曲当時のピアノ(プレイエル、エラール)を使っているということで貴重な録音といえる。このCD自体、アレンジを聞くのを目的として買って、何回か聞いた後はランダム再生で選択されるのを待つばかりだった。そんなわけで、偶然ipodで現れて結構惹きつけられたので、昼ご飯を済ませて帰宅し、早速音を取った。それで、音を取ったところで満足して、いずれ弾こうかな、とか思ってた。これが何年か前のこと。そして、去年の暮れ頃だと思うのだけど、どういう動機があったのか覚えていないが、この曲をちょっと弾いてみたくなって軽くさらってみたところ結構あっさりと弾けそうだったので折角だからとまじめに演奏してみることにした。
楽譜は全音のショパン ピアノ遺作集の後期版を使った。初稿譜はリズムがキモくて弾く気にならない。ナショナルエディションとは32小節の番号の付け方が異なっており、そこから先の小節番号がずれている。
ところで、上記ナショナルエディションのページによるとISBN978-4636003017と国産になっている。一方手元のナショナルエディションだとISBN83-920365-7-3とポーランド産となっている。調べてみてもこの曲集が和訳されたという話は聞かない。ということは書籍そのものを輸入するのはコスト的に無駄が多いからデータだけ持ってきて国内で印刷したということかな。
この曲はそんなに難しくない。なんかノクターンは簡単な曲ばかりを選んで弾いているように見えるかもしれない。実際はCDを聞いて「これ弾きたい!」と思った曲を弾いているだけなんだけど、まあいいや。
技術的な難所としては33~44小節の3拍子になってリズムが混乱する部分と、59小節のどう考えてもインテンポで弾けない部分がある。それ以外は左手の動きが覚わらずに楽譜から目が離せないくらい。
この解説を書くに当たってナショナルエディションの解説文を読んだので、機会があれば日本語訳をアップしたい。
いつもの通り、あまり難しいことは説明できないので、練習していて思ったことを書き連ねるのだけど、この曲のアナリーゼについては金子一朗「挑戦するピアニスト」に詳述してあるので気にする方は参考にすると良いんじゃないかと思う。
まず、テンポについて。
タイトルに"Lento"と思いっきり書いてあるので、Lentoのテンポでゆっくり弾くのがいいと思う。初稿譜を見るとわかるのだけど、右手はルバート任せなところがある。ただし、それは右手だけで、左手は厳格にリズムを刻み、テンポの揺れは指示に従わなければならない。・・・はずなのだけど、コーダは曲全体のテンポを極端に落とさない限りインテンポでは絶対に不可能な作りになっており、これを見るにつけテンポなんてどーにでもな~れ~(AA略)って気分になってくる。
1~4小節
1~2小節を2回繰り返す。ナショナルエディションの解説によるとこの部分、繰り返し記号になっている版もあるそうな。
折角2回弾くのだから、1回目と2回目で違った風に弾いたほうがよい。
12小節
このバリアントはOortによるもの。
主題の提示が終わり、これから変奏に入るということで少し派手にしている。
13小節
右手、トリルの後の装飾音。ヴァリアントが付いているわけだけど、47小節に再現がある。1回目は3音、2回目は4音と、後の方を派手にした方が形式的に美しいと思う。
同じ全音版でもノクターン集では1回目、2回目ともに8分音符4つの装飾音だったような気がする。手元にないので確証が持てないのだけど。
18~20小節
この部分、どうしてもフォルテシモで弾く気にならなかったのだけど、同じように考える人もいるようで、※②のとおり書き換えている版もある。こっちの方がすっきりする。
21~31小節
初稿譜では右手3/4、左手4/4という気色の悪い書法をしており弾く気を挫けさせる仕組みになっている。そのくせ何かしら演奏効果が上がるわけでもないという。
34~44小節
32、33小節とワンクッション置いて3拍子になる。
この曲の難所の一つで、4分音符、3連符、付点と混在しており、拍子を取る音が配置されていないため非常にリズムを取りづらい。その上、ご丁寧に41小節目からrallentando(だんだんゆるやかに)とまである。ゆっくり練習して慣らしていくしかない。
35小節3拍目から
※①の注釈に上のように書いてあるので、楽譜にそのまま写したのだけど、ナショナルエディションを見ると次の小節に書いてある。全音版とナショナルエディションで小節番号を違えていることから突き合わせると、ナショナルエディションの方が正しいんじゃあないかと思うのだけど、そもそも音価が異なっているため、全く関係のないバリアントである可能性もある。
39~41小節についても同様に1小節ずれている可能性がある。
49小節
Oortによるバリアント。
音価を明確に表現しているけど、こういうのは各音の長さを連続的に変化させていったほうがいいかも知れない。
51小節
Oortによるバリアント。
49小節もそうなんだけど、下に書いているにもかかわらず右手のバリアント。49小節は上にスペースがないから仕方がなく下に書いたけど、51小節は上に十分各スペースあるんだからそっちに書けよと今更ながら思う。五線を描くのが面倒だったから49小節と一緒に書いただけっぽい。
55小節
この辺り、なんか寂しいなぁと思って勝手にいじった。アレンジ中毒になっている。
録音を試みている最中にアレンジすることに決めたので、他のOortの編曲部分とは記入した時期が異なる。五線テープなるものを見つけたので気軽に書き込めるようになった。上の画像ではデータ量を抑えるためグレースケールにしており目立たないけど、実際カラーで見るとこんな感じで結構目を引く。それにしてもアマゾンのリンク先の参考画像、こんな明らかに楽器やりませんっていう気持ち悪い造形の手を映して何がしたいんだろう。
56小節
右手の装飾音、モルデントとかいうのかな。これもOortによるもの。
57小節
トリルは上記の通り弾く。
このとき、出だしのCisは左手のGisと同じタイミングで弾き始める。
58小節
ここから右手の速いスケールが始まる。どのスケールも同じ指使いでクリアするのが望ましいけど、上行と下行で得手不得手があり、それ故上下で速度が違ってしまい聞き苦しくなることがある。僕の場合上行が苦手のようで、よく観察すると親指を潜らせるのが下手らしい。すると上行が下行よりもゆっくりになってしまう。それを嫌って指くぐりを一箇所排除したのがカッコ内の指使い。
このスケールは下行部分にスタッカートが付いているが、難しいのでペダルに任せて見なかったことにした。
59小節
この曲一番の難所。テンポを遅らせなければ弾けない以上、難所というよりも人類には不可能な部類に含まれるかもしれない。こういう部分があると、他の所でテンポを守るのが馬鹿らしくなってくる。
61小節
Oortによるバリアント
上行は半音階、下行はそのまま。「そのまま」と書いておいてなんだけど、楽譜の書き込みにはスタッカートが抜けてる。
58小節ではスタッカートを見なかったことにしたけど、こちらはrallentandoが付いているので徐々に速度を落として余裕を持って表現できる。また、ペダルでスタッカートが聞こえなくならないように、完全にペダルオフにした。ただし、ベース音の伸びがやっぱり気になるので、Cis、Fisを保持したままDis、Cisを1、2指で弾くことにした。
以上、終わり。
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