国旗国歌の起立訴訟についてまとめてみた

国旗国歌の起立訴訟 3度目の「合憲」 最高裁全法廷判断出そろう
 なんか知らんが、ここんとこ立て続けに国旗国歌の起立訴訟が起こってた。橋下府知事の条例に連動して赤い人たちが一斉に動いていたのかなぁ、とか感じるけど、一審の時期を見ると関係なさそう。
 そんなわけで、第一~第三小法廷の全てで起立斉唱命令は合憲となった。
 上告人となったアナーキストの皆様方には理解も納得もできない結果だろう。国旗は五星紅旗、国歌は義勇軍進行曲にしたら彼らは起立斉唱するのじゃあないかな、とかいう議論もあるだろうけど、鬱陶しいので今回はそういった話はしない。
 結果どうこうとは別に各裁判官の補足意見に目を向ける。次回衆院選の際の国民審査で参考にするためメモをしておく。各補足意見もコピペしておこうかと思ったが膨大なので要約だけにとどめておく。リンク先の判決文に書いてあるので必要に応じて読んでいただければと思う。

5月30日 第二小法廷
 公立高等学校の校長が同校の教諭に対し卒業式における国歌斉唱の際に国旗に向かって起立し国歌を斉唱することを命じた職務命令が憲法19条に違反しないとされた事例 。
 定年退職した教員が非常勤として再就職しようとしたら、過去の行状が悪いとして選考から振り落とされたとされたそうな。
 判決文は大体以下の通り。
 国歌斉唱の際に起立することは慣例上の儀礼的な所作である。これを行うこと自体は一定の敬意の表明の要素を含むものといえる。一方で、生徒等への配慮を含め、教育上の行事にふさわしい秩序の確保とともに当該式典の円滑な進行を図るものでもある。職務命令の目的及び内容並びに上記の制限を介して生ずる制約の態様等を総合的に較量すれば,上記の制約を許容し得る程度の必要性及び合理性が認められるものというべきである。
 裁判官は、須藤正彦(裁判長)、古田佑紀、竹内行夫、千葉勝美となっており、全員合憲判定を出している。一人少ないけど、あと一人の竹崎博允裁判官は最高裁判所長官なので基本的に小法廷には関与しないそうな。裁判官竹内行夫、同須藤正彦、同千葉勝美の各補足意見がある。

裁判官竹内行夫の補足意見
 どのような思想を持とうと自由だが仕事はちゃんとやれ。

裁判官須藤正彦の補足意見
竹内行夫裁判官よりもさらに長く、読むのが大変だけどがんばって解読して、言いたいことを抽出してみた。
・どのような思想を持とうが自由だが、それを行動に移したら犯罪になることがありますよ。
・「日の丸」,「君が代」は特定の歴史観等や反憲法的国家像を前提とするわけではない。
・生徒に変な思想を植え付けるんじゃあない。

裁判官千葉勝美の補足意見
 思想教育はダメだそうな。
「日の丸」や「君が代」=軍国主義と考えるのは勝手だけど、その思想を行動に移すのはダメだよと。
 あと、国旗とか国歌とかいったものは強制ではなく自発的な敬愛の対象になるような環境を整えるのが何よりも重要。

6月6日 第一小法廷
 公立高等学校の校長が同校の教職員に対し卒業式等の式典における国歌斉唱の際に国旗に向かって起立し国歌を斉唱することを命じた職務命令が憲法19条に違反しないとされた事例
 訴訟内容は5月30日のものとほぼ同じだが、拒否する理由を列挙している。


 上告人らは,卒業式等の式典における国歌斉唱の際の起立斉唱行為を拒否する前提として,大別して,①戦前の日本の軍国主義アジア諸国への侵略戦争とこれに加功した「日の丸」や「君が代」に対する反省に立ち,平和を志向するという考え,②国民主権,平等主義等の理念から天皇という特定個人又は国家神道の象徴を賛美することに反対するという考え,③個人の尊重の理念から,多様な価値観を認めない一律強制や国家主権に反対するという考え,④教育の自主性を尊重し,教え子たちを戦場に送り出してしまった戦前教育と同様に教育現場に画一的統制や過剰な国家の関与を持ち込むことに反対するという教育者としての考え,⑤これまで人権の尊重や自主的思考及び自主的判断の大切さを強調する教育実践を続けてきたことと矛盾する行動はできないという教育者としての考え,⑥多様な国籍,民族,信仰,家庭的背景等から生まれた生徒の信仰や思想を守らなければならないという教育者としての考え等を有している。

とのこと。
 判決理由は5月30日とほぼ同じ様相であり、「職務命令については,前記のように上告人らの思想及び良心の自由についての間接的な制約となる面はあるものの,職務命令の目的及び内容並びにこれによってもたらされる上記の制約の態様等を総合的に較量すれば,上記の制約を許容し得る程度の必要性及び合理性が認められるものというべきである。」となっている。
 裁判官は、 白木 勇(裁判長)、宮川光治櫻井龍子金築誠志、横田尤孝となっており、裁判官宮川光治の反対意見があるほか,裁判官全員一致となった。また、金築誠志の補足意見がある。

裁判官金築誠志の補足意見
 ごちゃごちゃ理屈こねとらんで仕事しろ。

裁判官宮川光治の反対意見
・卒業式は生徒に対し直接に教育するという場を離れた場面だから職務命令に従う必要はない
・校長の起立斉唱命令は教職員に対して歴史観を否定させるため、嫌がらせ的に行っているという
・思想良心の自由を根拠に行動することは罪にならない
・そもそも教職員に対し起立斉唱行為を職務命令として強制するべきでない
 平成15年10月23日付けで都教委の教育長が都立高等学校等の各校長宛てに発した「入学式,卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱の実施について(通達)」は本件通達は,式典の円滑な進行を図るという価値中立的な意図で発せられたものではなく,前記歴史観ないし世界観及び教育上の信念を有する教職員を念頭に置き,その歴史観等に対する強い否定的評価を背景に,不利益処分をもってその歴史観等に反する行為を強制することにあるとみることができると思われる。

6月14日 第三小法廷
 職務命令に従わず戒告処分を受けたのを不服としたとのこと。判決理由は上記2例とほぼ同じ内容なので要約は割愛する。また、その余の上告理由というのがあるらしいが、書面を提出しないから却下となっている。
 裁判官は田原睦夫(裁判長)、那須弘平、岡部喜代子、大谷剛彦、寺田逸郎となっており、田原睦夫の反対意見があるほか、裁判官全員一致となった。また、裁判官那須弘平,同岡部喜代子,同大谷剛彦の各補足意見がある。

裁判官那須弘平の補足意見
 この件でたびたび引き合いに出されるピアノ伴奏事件判決とは違う面がある。
 ピアノ伴奏拒否の判決では、職務命令が思想及び良心の自由についての制約に当たる可能性もあり得ることをも考慮して、職務命令がその規定の趣旨にかなうものであり,その目的及び内容において不合理であるとはいえない旨判示している。本件に関してはこの点の重要性が増していると考えられる。
 ピアノ伴奏は国歌に対して敬意を表す必要はないが、起立斉唱は国旗・国歌に対する敬意の表明という意味を含むことも否定し難いことから、より判断が難しい問題である。
 式で国歌斉唱することは生徒に対して模範を示すという意味が強いため、教員が歌わないと示しが付かない。
 結局の所、業務を放棄して戒告を受けたのだから当然甘受しろということ。

岡部喜代子の補足意見
 戒告処分とすることが裁量権の逸脱又は濫用に該当する場合があり得るというべき。本件においてはその旨の主張はなされていないので,付言するにとどめる。

大谷剛彦の補足意見
 ピアノ伴奏事件判決と本件の判決は類似するが異なる面も持つ事。事案の相違と結論を導く理由の異同に焦点を当てて意見を補足したいそうな。
・ピアノ伴奏は斉唱の際の補助行為であり、他方起立斉唱は対象への敬意という要素が含まれる。
・ピアノ伴奏は音楽教師に当然求められる職務であるが、一般教諭の国歌斉唱の際の起立行為は必ずしも当然に職務行為に含まれるといえない。
 この2点がピアノ伴奏とは異なる。
 国歌斉唱の際の起立行為を命ずる職務命令は,思想及び良心の自由についての間接的な制約となる面があるが、憲法19条との関係で、なおその制約が許容されることは多数意見で述べたとおりである。
 何が言いたいかというと、ピアノ伴奏事件判決のときに避けて通った部分を今回の判決で整備しましたよ、ということ。
 それにしてもこの人、「合唱の際に起立して歌うのはマナーという面もある」とか言ってるけど、合唱の際に起立するのは主にその姿勢が歌唱に適してるからですよ。

裁判官田原睦夫の反対意見
 東京都人事委員会がした裁決の取消請求に関する部分を却下するとの点については異論はない。しかし、本件各職務命令は、上告人らの思想及び良心の自由を侵すものとして憲法19条に違反する気がするので、差し戻しがいいかなと言っている。
 「起立斉唱」ではなく「起立」と「斉唱」に分けて検討するべきである。
国歌斉唱に関して
・国歌に対して否定的な歴史観や世界観を有する者にとっては,その歴史観,世界観と真っ向から対立する行為をなすことであり、上告人らにとってはただの儀礼的行為とはいえない。
・音楽専科以外の教諭にとっては、その職務上当然に期待されている行為であると解することはできない。
 以上より、国歌を「唱う」ことを職務命令をもって強制することは,それらの者の思想,信条に係る内心の核心的部分を侵害するものだといえる。
 でも、本件各懲戒処分では,「斉唱命令」違反の点は一切問われていないので斉唱に関する議論は意味がないかというと、上告人らにとっては「起立して斉唱すること」を不可分一体のものとしているらしいのだが、原審では国歌斉唱の際の起立行為と斉唱行為との関係について審理が尽くされていない。
 職務命令は「起立斉唱」であり、これを拒否したら「起立」しなかったことで処分された。「起立斉唱」しなかったことで処分されたなら上記の通り違憲といえる。「起立斉唱」、「起立」、「斉唱」の言葉遊びについての審理が全くなされていない。
 本件各懲戒処分が裁量権の濫用に当たるか否かという点は論旨に含まれていない。
 「思想、信条に関わる職務命令の違反で懲戒処分にすることは裁量権の乱用以前の問題である。」という部分が結局何を言いたいのかよくわからないのだが、田原睦夫の言い分としては審理が尽くされていないから差し戻しが相応しい、という一点につきる。