ピアノで離鍵した後に残る残響音がどれくらい続くのかなと思って調べてみた。
残響が長く続けば続くほど離鍵タイミングの許容誤差が緩くなる。その一方で演奏自体に締まりがなくなる。それで、どんなものかと興味を持ったわけである。
一応、KAWAIが美しくピアノの音色を響かせる、適切な音の残響時間は、低音域で0.5秒、高音域で0.3秒程度です(InternetArchive)と答えを出している。
ピアノの残響と一言にいうが、ピアノの筐体由来の残響と、部屋による反響がある。また、音の高さや強さ蓋の開き具合によっても残響時間は異なる。
部屋が広ければ広いほど当然ながら残響時間は長くなるので、ホールには残響時間というパラメーターが付き物である。例えば、横浜みなとみらいホールは残響時間 1.6秒 (満席時)(InternetArchive)とある。
部屋について考えるとまとまりがつかなくなってしまうので、ピアノ自体だとどんなものかなと考えると、例えばベルリン・フィルの録音では60dBの減衰に1.2秒かかるという分析がある[1]が、なにぶん録音の分析なので離鍵タイミングやペダルの有無が不明瞭である。また、-60dBというとほぼ聞こえないレベルであるので、離鍵タイミングの許容誤差を考慮するには減衰が大きすぎると感じる。僕が普段録音している時、曲の最後は-60~70dBくらいまで音が小さくなったところで切って、最後の部分をフェードアウトするようにしている。それくらい小さな音なので、-60dBというのは有効じゃないなと思う。建築音響で使う残響時間は,残響曲線で音圧レベ ルが60dB減衰するのに要する時間である[2]そうなので、分析としては間違っていないがちょっと使えないなあという感じがする。
では、上のKAWAIの回答はというと、建築音響に基づいた表現ではないのだろうと思う。しかし、その分感覚に阿った感じがあって値として使いやすい。
そんな事を考えていたら、そういえば音源ソフトの比較で録音した波形を分析したことがあった[3]なあというのを思い出した。
Garritan Steinway、SYNTHOGY Ivory II GRAND PIANOSのSteinway Model D、DUP-7(魚拓)の3種類の音源でペダルの踏み加減による減衰について録音した波形を分析して、Garritan Steinwayにハーフペダル機能が備わっていないことを確認したときである。
設定はだいたいデフォルトだが、ちょっと弄っている。詳しくは当該エントリーを見てもらえば良いけど、大して意味があるとも思わない。Garritan Steinwayはハーフペダルが効かないという結論があるだけで、残響成分がわかるような分析はしていないので、今回は出てくる場面がない。
SYNTHOGY Ivory II GRAND PIANOS - Steinway Model D
これは、ペダルONのときとOFFのときの波形を重ねた画像で、両者の一致率の高い上の方が見やすいのでこちらで考えるのやりやすいかなと思うのだが、離鍵から先の波形の振幅の変化をプロットしたグラフがあるので、そちらが見やすいはず。
たくさんのグラフを並べているけど、これはペダルの踏み加減を25段階に分けて測定した結果なので、見るべきは一番早く減衰している一番左下の部分を見てもらえば良い。縦軸は本来dBであるべきかもしれないけど、座標から値を当てはめやすいように0~1の間に当てはめた。感覚的には0だと大体聞こえなくなるっていうくらいな感じである。
これによると、難しいことを考えないで大体0.5秒で残響が消えることになる。
DUP-7
こちらもIvory IIと同様のグラフがあるので、面倒なエンベロープ曲線は出さずにグラフだけ上げる。
こちらは0.5秒で殆ど沈み込んでいるけど、1秒近くまで続いている。
それで、当初の動機である離鍵タイミングの許容誤差を考える場合、完全に減衰するまで待つ必要はなく、せいぜい半分くらいじゃないかと思う。
すると、どちらの楽器も0.1秒くらいが許容誤差になるんじゃないかと思う。
今後、必要な機会にこの結果を踏み台にして考えようと思う。
参考文献
[1]ベルリン・フィルハーモニーホールの残響時間をCDから測定(魚拓), Sound Preference Audition Room
[2]久保和良, 青島伸治, 残響応答によるピアノ音とギター音の減衰分析, 計測自動制御学会論文集 Vol.31, No.6, 712/721(1995)
[3]高見, ペダルの比較, 戯言(2011)
関連エントリー
20110306 ペダルの比較