ペダルの比較

 各種音源のハーフペダルの効き方について。
 音源は、Garritan SteinwaySYNTHOGY Ivory II GRAND PIANOSSteinway Model D、DUP-7の3種類。市販の音源だと他にBLUTHNER DIGITAL MODEL ONEなんてのがあるけど、手元にないので上記3種で。
 ソフトウェア音源でハーフペダルを使えるものは極端に少ないのにも関わらず、電子ピアノ音源では大半の音源でハーフペダルを採用している。使用環境の違いからなのだろうけど、このギャップは面白い。
 ハーフペダルの効き方の違いを調べることを上辺の目的としているが、真の目的はGarritan Steinwayではハーフペダルが使えないという疑惑を調査することである。
 調査方法は真ん中のA音、440Hzベロシティ100の4分音符を2小節に1回ずつ鳴らす。最初はペダルを全開CC64=127で鳴らし、2回目は122、3回目は117と、CC64の値を5ずつ下げていき、CC64=2となった次は0にする。5ずつ下げていくのはDUP-7におけるペダルの分解能を根拠としている。
 MIDIデータはこちら
 また、Garritan Steinwayスタンドアロンで使ったときと、CantabileのVSTとして使ったときで音の鳴り方が異なるので2種類の録音を取った。録音は以下の通り。
 Garritan Steinway(stand alone)
 Garritan Steinway(Cantabile 2.0)
 SYNTHOGY Ivory II - Steinway Model D
 YAMAHA DUP-7

①Garritan Steinway
 録音の設定は次の通り








 敢えて特徴を記述するなら録音環境は"Piano Hall 1"というくらいで、多分他はデフォルトの設定どおり。
 録音を聞いてみると全く変化が見られない。最後の1音だけ全くペダルを踏んでないように聞こえる。耳で聞いた感じなんて当てにならないので、エンベロープを見てみる。比較は第1音と最後の2音。




 第1音と最後から2番目の音は殆ど同じに見える。また、最後の音は違う。この2つの図を重ねてみたところ、ほぼ一致した。


 細かく見るとずれている点があるけど、多分波形を圧縮したときの誤差とかだと思う。実際に波形が見えるレベルまで細かく表示して重ねてみると完全に一致する。
 結論。Garritan Steinwayにおいてハーフペダルは使用不可。CC64=0でペダルオフ、CC64=1~127でペダルオンだと類推される。

②Cantabile2.0で録音したGarritan Steinway
 基本的に上記のGarritan Steinwayと同じになる筈だけど、こちらのほうがリバーブが強い。原因は不明。
 では同じように比較してみる。






 大体同じ。スタンドアロンのときと比較してずれる頻度が多い気がするが、こちらも細かいレベルで見ると完全に一致する。

③SYNTHOGY Ivory II GRAND PIANOS - Steinway Model D
 録音の設定は次の通り








 なんか設定がおかしなことになってることに気付いた。
 音程が442Hzとなっているのと"Half Pedaling"を"on"にしている点以外はデフォルトの設定通りと思われる。以前、ベロシティカーブを弄ったはずなのに設定として反映されていない。どうしたんだろ。
 録音を聞いてみると、ちゃんとペダルを浅くしていく経過が聞こえる。エンベロープを見てみると、明らかに違いが分かるようになっている。取り敢えず、ペダルオンとペダルオフを比較するため、第1音と最後の音を一緒に描く。





 始めはほぼ同じ形だが、途中から第1音の方が振幅が大きくなる。これはペダルを踏んでることで他の弦の共鳴することによるものだと思われる。この時点ではまだキーを押している状態であるため大した差はない。最終音の方が指数関数的な減少を示す領域がキーから指を離したところ。というわけで、ペダルの聞きを比較する場合、ここから先の領域における減衰率を見ていけばよいことが分かる。出来ることなら、y=a・exp(bx)の式で表せる減衰を示して貰えると表記しやすいんだけど。ダメかな。
 とりあえず、数学的な考察に入る前提として軸のスケールについて考えよう。図にはスケールが何も描いてないのだけど、実際はこのように明確なパラメータが存在する。しかし、デシベルは対数表示の単位なのでやりづらい。安易に無限大とか扱いたくないのだ。そんなわけで、SoundEngineの罫線をそのまま振幅の数値とする。すなわち、-無限大→0、-12db→1、-6db→2、-2.5db→3、0db→4とする。時間スケールはそのまま単位は秒。打鍵から約0.6秒でキーを離すので、それからの減衰を1chの上側のエンベロープを指数関数として近似する。2chエンベロープがうねうねと波打ってるため近似しづらいため1chを見ることとした。
 ではともかく第1音から見ていこう。


 打鍵開始が1.306秒なので、1.906秒をスタート地点に持ってきて考える。そんなわけで、直交座標に組み入れてみた。


 今更だけど、時間縮尺はもっと詰めてよかった。・・・・でもそうすると、時間の表示がわからんくなるんだっけか。
 振幅を調べよう。1秒ごとの値は、0.805, 0.211, 0.125, 0.125, 0.070, 0.063, 0.039, 0.000となる。0があると、指数関数で近似できなくなるそうなので、7秒の値は0.0008とする。最小自乗法で近似しようとすると回帰分析が必要となる。そこまで自分でプログラムする元気はないので、エクセルの近似曲線に任せる。すると、y = 0.539exp(-0.5182x)という式が得られる。というわけで、これがCC64=127のときの近似曲線。
 実際に作業をしてみると、1秒ごとではスパンが長すぎることが分かる。そこで、仕様を変更。0.1秒刻みで振幅を出す。更に、CC64=67以下のポイントに関しては1秒と経たずに減衰しきってしまうので、更に細かく刻む必要があり、25msごとに振幅を出した。これ以上細かく刻もうとすると、波形そのものが現れてきてしまうため、何も考えずにやるならこの当たりが限界となる。
 これを残り25点について行う。この作業を終えて気付いたことがある。CC64=122を入れてなかった。というわけで1音だけ欠けている。誠にお粗末な測定だが、論文を書いているわけではないのでこのままやる。
 そんなわけで次の図が得られた。




 このグラフを元に近似曲線を求めたのだが、不連続なポイントがいくつかあり、データとしては有用でないのでこちらの考察は諦めた。別の関数で近似してもいいんだけど、上手く近似曲線が得られたところで説得力として上のグラフと大差ない気がするので止め。結局、色々策を弄した挙げ句以下の結論に行き着いた。
 CC64=127~102は大体同じで、この領域がペダルオンと見なせる。一方小さい方はCC64=47~0でペダルオフとなる。従って、中間領域であるCC64=52~97の間がハーフペダルということになる。

DUP-7
 こちらはアナログで録音しなければならないので上記3種よりも手間がかかる。設定は特に弄る部分もないが、一応リバーブは0にしておく。また、音量というか振幅に関して、IvoryIIではMAXでも1以下だったため2~5の領域が無駄となって誤差の多いデータとなった。そこで、あえてアタックの瞬間は0dbを遙かに超えて、測定開始後の値が5以下に収まるよう音量を調整することとした。






 取り敢えず、ノーマライズしたところ。左右で大分音量が違う。
 2chは中心軸がずれているのだが、これは録音する際のケーブルの接続とかの関係なのか、元々そういう音源なのかは不明。不便なことこの上ないのだがどうしようもない。中心を合わせるプログラムとかあればいいんだけど、そんなニッチなプログラム作ったとしても公開する人はいないし、僕自身もそんなことする気にならないのでこのまま。1chの方は軸が合ってるのだが、うなりがあって都合が悪い。でも軸がずれているほうが不都合なので1chを使う。
 離鍵のタイミングは③と同じ筈だけど、一応確認しておく。


 うまくいっているみたいなので、③で使ったグラフレイヤーを流用する。
 音量については、このグラフでは測定部分が-6db以下に収まっているので、+6dbしたデータを使う。再生すると音が割れまくることになるけど、この際関係ない。


 ここまで拡大すると、1chも軸がずれていることが分かる。この時点で敢えて1chを選ぶ理由もないのだけど、実際後の作業をする上で軸がずれていることは問題にならないことが分かる。やっぱり2chを選んで+12dbするべきかな、とか思うけど、どうでもよくなってきたのでこのまま行く。
 ③と同じように解析。軸の校正は必要ない。
 そんなわけで次の図が得られた。




 CC64=127~77では殆ど変化はなく、72から急激に減衰が強くなる。62まで激しくラインが変化し、57~0では殆ど同じとなる。
 従って、CC64=127~77がペダルオンの領域。CC64=57~0でペダルオフとなる。中間領域であるCC64=62~72の間がハーフペダルということになる。

まとめ

楽器pedal onhalf pedalpedal off
Garritan Steinway127~2-0
IvoryII Steinway127~10297~5247~0
DUP-7127~7772~6257~0

という結果となった。減衰の様子は上の方の図の通り。
 以前DUP-7について調べたとき、ペダルはCC64の値が0 56 61 66 71 76 81 86 91 96 127で出力される仕組みになっている。つまり0(なし)、127(べた踏み)、56~96(5刻み)という仕様であることを突き止めている。今回のデータを付き合わせてみると、77:オン、72 67 62:ハーフペダル、57:オフという実際には5段階に過ぎないことが判明した。実際のペダルの踏み加減とC.C.64の対応は不明だが、DUP-7はペダルの判定がシビアな気がする。そういうわけなので、ヤマハさんペダルの判定はもう少し幅広くした方がいいと思います。
 IvoryIIはSteinwayを使ったわけだけど、他の楽器でも同じになるとは限らない。同じ楽器でもペダルの踏み加減に対するダンパーの動きは調整できるので楽器が違えばペダルの効き方が違うのは当然。IvoryIIを3種類の楽器をセットにした商品として考えるのならペダルの効き方は同じであるべきなのだが、そこまでしっかり作り込んであるかどうかは不明。

 長々と書いてしまった。コレはブログなんかじゃあなくって、ちゃんとページを作った方が良かった気がする。
 一応、グラフ作った際のエクセルデータも晒しておこう。
 減衰率の比較.xls

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 20110211 Synthogy IvoryII