金婚式 演奏解説

 金婚式はガブリエル・マリーの代表作だけど、この曲以外は全く知られていない。まあ、調べれば他にも何曲か見つかる[1]けど、これ以外の曲を聞いたことはない。
 ぱっと見弾きやすそうにも見えるのだけど、白鍵、跳躍、スタッカートを多用することで見た目よりも弾き辛かったりする。全音の難易度表示によるとB(初級上)となってる[2]。まあ、そんなもんかなあとも思うけど、その割に練習には意外と手間取った。
 楽譜は改訂版 全音ピアノ名曲100選 初級編を使う。

テンポ
 4分音符=88bpmのAndantinoとなっている。速くもなく遅くもないが、テンポは結構自由に弄ってもそれほどおかしくなることもないけど、遅いテンポを取ってペダルを少なめにすると音が薄くなって間が持たない感じになるので、その辺りは気を付けたほうがいいかもしれない。

ペダルとスタッカート

 ペダルとスタッカートが重なっており、そのまま弾くとスタッカートが意味をなさなくなってる箇所が随所にある。ペダルを弱めるか、極力使わなくするかしなければスタッカートを活かすことが出来ない。
 指定の通りにペダルを踏むと結構落ち着いた感じだが、スタッカートを重視してペダルを制限すると結婚60年とも思えない元気よく跳ね回る印象になる。個人的には後者の演奏のほうが好きなので、ペダルは出来るだけ使わないことにした。

跳躍
 左手は基本的に四分音符ごとに跳躍するためノーミスで弾くのはなかなか難しい。距離のある跳躍はどうしてもまっすぐ横に手を移動して弾きたくなるものだが、ピアノのキーは上から押すものである。キーの上まで手を移動させてから真っ直ぐ下に手を下ろすようにして弾くべき。
 和音の一番上の音が抜けることが多いので、一番上の音を意識して弾くこと。
 スタッカートの演奏法にはキーを押した指をまっすぐ上に上げて離鍵する方法と、キーを押し下げた勢いのまま指を手前に引っ掻くようにして離鍵する方法がある。後者の方が綺麗な音になりやすいけど、打鍵のタイミングが難しいのとポジション的に難しい場面があるので、前者の奏法も必要となる。

18小節

 8小節までがこの曲の主題であり、繰り返し登場する。5, 6小節に対応する部分でスタッカートとかスラーとかアクセントとかの違いを注意して認識して置かなければならない。比較しやすいように下に並べてみる。

 一応、65小節からは再現部なので1小節からと似てるとか、98小節からはコーダなので、出だし部分と同じようになるので102103小節は56小節と似るとかいう感じで、分析はできる。とは言っても、元から同じ音のところ微妙な表現の違いを捕まえて似てるとかいう類の違いなので明確に理解するのは難しい。結局楽譜を見ながら弾くか、テキトーにうろ覚えで弾き飛ばすかとなってくると思う。

11, 35, 75小節

 ☆左手1拍目。一連の流れでここだけベースがオクターブになる。下の音を弾いている手の形に慣れてしまっていると咄嗟に手を開いても上の音を押すポジションにはならず、タイミングのずれたオクターブになってしまう。結構右に手を傾けないといけない。

18小節

 ※右手4指をしっかりと上げないと直後の同じ音がちゃんと取れない

21小節

 ◎17小節では次の小節で和音を掴む関係上ポジション移動しないが、こちらはFを中心として弾きやすい位置に移動することができる。また、指先を少し内側に向けたほうが弾きやすい。

3132小節

 左手。譜例のように、指ペダルでベース音の保持をしたらいいと思う。
 49小節, 53小節も同様。

41小節

 *右手後半。白鍵だけなので鍵盤手前側で弾く。ポジション移動を面倒がって鍵盤奥の方で弾こうとすると、4指が黒鍵に触ってしまう。
45, 47小節

 右手上声部がスタッカートで中西部はレガートとなっている。つまり、異なるタイミングで離鍵しなければならない。1指を保持しながら上声部はすぐに指を上げて離鍵する。コンパス弾きでも良さそうに見えるが、親指主導の尺側偏位となり[4]、手を痛める原因になるので勧められない。

53小節

 ※左手4拍目Fis-Aisは1-3のほうが取りやす言うのだが、次の54小節最初のHが取りにくくなる。1-2だと次のHが取りやすくなるのでこちらを採用。

5456小節
 この曲全体を通してパッセージと呼べるのはこの部分くらい。8部音符なのでとりわけ早いというわけではないが、2音ごとにスタッカートが挟まるのでちゃんと表現しようとすると結構むずい。黒鍵と白鍵が入り混じっており、手前に引っ掛ける奏法は適さないので、キーを押した指をまっすぐ上に上げないといけない。手の位置を低くするグールドスタイルだと少し弾き易くなる。グールドのノンレガート奏法は極端に低い椅子に猫背になって座るあの独特の姿勢が利いているのかと思う。本人は「やる方にとってはあれでなかなか大変なんだよ」と言ってる[3]。グールドが大変だと言うくらいに難しいのである。

55小節
✡右手最後のHAのところ。Hの2指をすぐに離鍵しないと56小節最初のGisの打鍵タイミングに間に合わずにもつれてしまう。

63小節

 右手3拍目。ちょっと気が向いたのでトリルを入れてみた。15小節とか見たら、トリルがあったほうが自然な気がしてきたので。

64小節
 ☆右手Cis-E-Aを1-2-5でとろうとすうると黒鍵の隙間ばかりで凄く弾きにくい。2-3-5で取ると少しマシになるが、4指が下がってきてFisを押してしまわないように注意しなければならない。いっそ手を交差して左手で取ってもよい。その際は、下の音を右手で取ることになるけど、音の強さに注意すること。

65小節~
 ここから再現部であり、1小節からとほぼ同じになる。中間部で速度がフラフラした結果、元の速度を忘れてしまうということがないように。

参考文献
[1]Marie, Gabriel Prosper, IMSLP
[2]改訂版 全音ピアノ名曲100選 初級編, 全音楽譜出版社(2005)
[3]アンドルー・カズディン, グレン・グールド アットワークp239, 音楽之友社(1993)
[4]トーマス・マーク, ピアニストならだれでも知っておきたい「からだ」のことp98, 春秋社(2006)