大洗の日本原子力研究機構での被曝事故

肺から最大2万2000ベクレル 5人搬送 内部被ばく検査へ(魚拓)
 大洗というとガルパンで書いておきたい話があるんだけど、それとは別に先日の日本原子力研究機構での事故について。22000ベクレルってのがどの程度のものなのか考えてみた。
 必要な情報は以下の通り[1]

239Pu  半減期:24110年
 崩壊形式:α
 放射線のエネルギーと強度 α5.155(73.3), 5.143(15.1), 5.105(11.5);γ0.0516(0.021)ほか
放射能:22000ベクレル

 ベクレルという放射能の単位は1秒あたりに放射性崩壊する原子の数を表す。つまり、半減期とこのベクレルの値が分かれば何個の239Puがあるかが算出できる。239Puはα崩壊によって235Uになる。このウランもα崩壊するのだけど、半減期が7.037×108年と長いので無視する。
 Puの崩壊は次の式で表される。
{ \displaystyle y=\left( \frac{1}{2}\right) ^\frac{t}{24110} }

 グラフを見て分かる通り、t=24110のときにy=0.5となっている。このグラフの傾きがその時々におけるPuの崩壊する割合である。
 ベクレルという単位は時間の単位として秒を使っているので、上の式の年の部分を秒に直さなければならない。
 すると、次のようになる。
{ \displaystyle y=\left(\frac{1}{2} \right)^\frac{t}{24110*365*24*3600} \\ \displaystyle  =\left(\frac{1}{2}\right)^\frac{t}{7.603 \times 10^{11}} }
 この方程式の傾きを求めればよい。そんなわけで微分する。
 積分と違って機械的に解けるので悩まずに出来る。素晴らしい。
 面倒なので7.603×1011=hと置く
{ \displaystyle y=\left(\frac{1}{2}\right)^\frac{t}{h} \\ \displaystyle  = \exp\left( \ln \left(\frac{1}{2}\right) ^\frac{t}{h}\right) \\ \displaystyle  = \exp\left( \frac{t}{h} \ln \left(\frac{1}{2}\right)\right) \\ \displaystyle y'= \frac{\ln \frac{1}{2}}{h} \cdot \exp\left(\frac{t}{h} \ln \frac{1}{2}\right) \\ \displaystyle  = \frac{\ln \frac{1}{2}}{h} \cdot \left(\frac{1}{2}\right)^\frac{t}{h} }
 t=0のとき{\frac{ln \frac{1}{2}}{h}=-9.08 \times 10^{-13}}であり、これが1秒あたりにPuの減少する割合である。
 この9.08×10-13にPuの数をかけると22000になる。
{ \displaystyle n \times 9.08 \times 10^{-13}=22000 \\ \displaystyle n = 2.42\times 10^{16} }
というわけで、2.42×1016個の239Puを吸入したことになる。
 個数で書いてもわかりづらいのでグラムに直すと、
{ \displaystyle 239 g/mol \cdot \frac{2.42 \times 10^{16}}{6.02 \times 10^{23}}=9.61 \times 10^{-6} g }
 つまり、9.61マイクログラムの239Puを吸入したということになる。吸入した粉末の量はそれよりも多くなる。プルトニウムは例えばPuO2だったりPu2O3といった化合物で存在するためである。
 マイクログラムという単位から分かる通り極めて少量である。通常科学実験で使う精密天秤だと0.1mgまでしか目盛りがなく、この量を計るにはマイクロ天秤というより精密なものを使わなければならない。フル装備の枝野さんが付けてたマスクだとどうか分からないけど、普通のマスクでは余裕で抜けてくるような量である。

被爆によって受けるエネルギー
 上で書いた通り、放射線のエネルギーと強度は「α5.155(73.3), 5.143(15.1), 5.105(11.5);γ0.0516(0.021)ほか」となっている。今回は内部被曝であり、生じるエネルギーの殆どはα線由来でγ線はごくわずかである。また、γ線は透過力が強く、殆どが人体を透過してしまうのでここでは無視する。もちろん肺表面以外の人体内部が被曝するのでこれとは別に考えなければならない問題ではある。
 239Puから生じるα線の平均エネルギーは、
{ \displaystyle (5.155MeV*73.3 \% +5.143MeV*15.1 \%+5.105MeV*11.5 \%) \times \frac{100}{99.9} = 5.194MeV }
 これが毎秒22000回起こるので、1時間のエネルギーは、
{ \displaystyle 5.194MeV \times 22000/s \times 3600s = 405TeV }

吸収線量を求める
 吸収線量(グレイ)を表現しようとすると被曝する部分の質量を出さなければならない。α線を受ける体積は肺の表面となる。肺の総面積は70m2。この面積にα線が透過する距離を掛けたら体積が得られる。α線は人体を0.04mm透過するらしい。α線は水中を0.04mm透過する[4]ということだから、人体も水も同じようなものらしい。密度もだいたい同じだし、感覚的に納得できる。流体であることは関係ないと思う。
 そんなわけで、肺の面積とα線の透過する距離が分かった。人体の密度は平均9.85g/cm3なのでこれで被曝する部分の質量が求まる。
{ \displaystyle 70*10000cm^2 \times 0.04*0.1cm \times 9.85*0.001kg/cm^3 = 27.58kg }
 何か肺のくせに重すぎる気がする。男性の肺の重さは左右合わせて880gくらい[5]なので大幅に異なる。これは肺の厚みが0.04mmもないのか、肺が密度の小さい細胞でできているかのどちらかである。どちらでも良いけど、肺の重さを880gとしてこの中ですべてのα線を受け入れるとすればよい。
 したがって、1kg辺りの肺が1時間に受けるエネルギーは、
{ \displaystyle 405TeV \div 0.88kg \times 0.1602 \times 10^{-18} J/eV = 7.38 \times 10^{-5} J/kg/h(Gy/h) }
 ということで、73.8μGy/hの吸収線量ということが分かる。

線量当量(シーベルト)に変換したい
 折角吸収線量が分かったのだから、いっそ線量当量も求めたくなる。
 線量当量は{シーベルトの値=グレイの値×放射線荷重係数×組織荷重係数}という式で求めることが出来る[6]
 放射線荷重係数はα線では20、組織荷重係数は肺で0.12なので、
{ \displaystyle 73.8μGy/h \times 20 \times 0.12 = 1.77 \times 10^{-4} Sv/h }
となる。
 1時間で0.177mSvなので、1年では1.55Svとなる。日経の記事によると年間被曝量が1.2シーベルトになるらしい[3]ので、大体この計算であってるはず。少し異なるのは肺の重さの設定値の違いだと思う。人体に影響のある被曝量の閾値が100mSvということなので、これを大きく越えており、少なからず影響は出る値である。
 1.2Svという値だけど、普通の外部被曝ではなく内部被曝それも肺にあるということで、食べ物から体内に入ったのとは比較にならない影響が予想される。肺の内部に付着したプルトニウムが肺の外に出てこれるとはとても思えないのだけど、実際のところはどうだろう。もしかしたら肺で吸収されて体内を巡って出ていくかもしれない。肺に付着したまま動かないとなると、その場所で常に放射線それもα線を出し続けるので付近の細胞は常にダメージを負い続けることになる。
 どうするんだろうな。

参考文献
 [1]日本化学会, 化学便覧基礎編改訂5版, 丸善(2004)
 [2]高度情報科学技術研究機構, 核兵器用のプルトニウムと高濃縮ウランの原子炉への転用, (1998)
 [3]作業員の肺から2万2000ベクレル検出 原子力機構 管理体制焦点に (魚拓), 日経
 [4]肥田 舜太郎, 内部被曝, 扶桑社
 [5]身体指標・臓器重量,東京都健康長寿医療センター
 [6]エックス線(X線)・放射線に関すること(5)シーベルト・ベクレルなど放射線に関する物理量の違いを知る, KDI

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