尖閣諸島漁船衝突事件 船長解放の真相

 尖閣諸島での中国漁船が特攻してきた事件で上手く纏めているニュースがあった。少し複雑な部分を解きほぐしてくれる。


「アンカー」尖閣事件船長釈放の真相と中国の誤算(上)
「アンカー」尖閣事件船長釈放の真相と中国の誤算(下)


 9/29放送「アンカー」青山繁晴の“ニュースDEズバリ”をテキストに起こした感じのモノ。番組本編はニコ動で多く上げられている。

 まず事件後、アメリカは「尖閣諸島は日本の統治下にある地域であり、日本から要請があれば米軍は動きます」というようなことを言った。ついでに「日本は早くこの問題を解決するように」とも言った。同じことは中国にも言っている。
 日本が船長を釈放した後、中国は態度を軟化させたんだけど、これは日本に対してじゃなくて、アメリカと世界全体に対して、軟化させ始めたんのであり、船長釈放のおかげではない。中国も世界経済の中で生きてるわけで、一人では生きられないから。
 ここで報道されていない事実がある。検察の中で、この船長の釈放に賛成の人というのは、青山氏の知る限り、一人しかいない。それは大林宏検事総長。そのすぐ下から若手に至るまで、賛成の人はいない。
 っていうことは何だ? 検事総長が黒と言えば白くても黒くなるって寸法か。先日の郵政の冤罪事件もあるし、検事っていうのは酷い連中なのか、それとも法曹界っていうのが酷いところなのか? 後者だなきっと。
 9月7日に中国漁船が特攻してきて9月8日に逮捕、拘置期限が切れるのが9月19日であり、同日に拘置延長が決まり9月24日に釈放が決定。この間毎日、船長の所に中国の大使館員と領事館員が来て船長が取るべき行動を支持していた。それで、容疑は全面否認するし弁護士も断るという方針を固めていた。本人が容疑を認めない以上、略式起訴はできない。なので、19日の拘置延長が決まった段階では那覇地検福岡高検の判断で『正式起訴』を決めていたことになる。船長の犯罪はビデオを見れば一目瞭然だから。
 正式起訴して裁判を起こす以上、本人からしっかりと話を聞かなければならないし、証拠も固めなければならない。そういうことを最高検に報告している。このときまで、反対意見は出なかった。しかし、ここから中国の態度が変貌する。中国は拘置延長するということに気付いた。驚くべきことに中国側は船長を無罪釈放すると思ってたらしい。というのは、中国は日本の司法制度がよく分かっておらず、司法は政府の思い通りになるモノだと思っていた印象がある。独裁国家には理解しがたい制度らしい。それで、中国は船長が裁判に掛けられる。そうすると尖閣諸島は日本の領土領海だってことが国際社会ににアピールされるから、中国としてはそれは避けなければならない。そんなわけで、中国はそれまでやや柔軟な態度からものすごい強硬にいきなり変わった。ここんとこ、僕の予想では船長の特攻は中国の国策として行っており、船長が真実を自白するとまずいから必死に船長を取り返そうとしていたのかと思った。どちらでも矛盾しないから両方なのかも知れないけど。
 温家宝首相が即時釈放を急に要求したことに政府連中は驚いたらしい。というのは、小沢の朝貢外交を見れば分かるように民主党連中は日本の首相よりも中国の首相のほうが上の立場にあると思っている節がある。そんな大人物が自分と同じ土俵に降臨してきたから泡くったというわけ。それで菅総理は翌日に迫っていた訪米前に『ニューヨークにいる間に解決してくれ』と、仙谷官房長官に伝えた。菅は指揮権発動しろとか、船長釈放しろとか温家宝さんとニューヨークで会いたいとも言っていない。でも、『ニューヨークにいる間に解決してくれ』という言葉を仙石とその仲間達がこれをどういう意味と受け取ったかということ。「自分がニューヨークにいる間に、つまり25日帰るはずだから、24日ぐらいまでに釈放しろ、そんでもってニューヨークに温家宝が行くんだから、そこで日中首脳会談やりたい」という意味と受け取る。つまり、官邸では菅が仄めかすと周囲がその真意を推察して行動する、というシステムが出来上がっているということになる。そんなわけで、24日までに決めなければならなくなった。
 23日にフジタの4人が拘束されたニュースが入るのだけど、これほんとは20日から拘束されてたのだが、23日にわざわざ中国の国営通信社の新華社が日本人を調べてるという予告を報道した。さらに、この辺りからレアアースを禁輸していることを明らかにしてきた。つまり、レアアースと人命を質にして船長を釈放しろと言ってきている。

 那覇地検の鈴木次席検事は24日、会見で、『当庁は本日、公務執行妨害容疑で拘置していた中国人船長を、処分保留のまま釈放することを決定した(中略)中国人船長の身柄を拘置したまま、捜査を継続した場合の、わが国国民への影響や、今後の日中関係を考慮すると、これ以上身柄の拘束を継続して捜査を続けることは相当でないと判断した』と発表した。この文章はこの那覇地検が作ったものではなく、大林宏検事総長を含め、検察のトップのところで作ったものを、那覇地検が無理矢理読まされたもの。この発表は全文の中に、法と証拠っていう文言出てこない。ということは、法に基づいてません、証拠にも基づいてませんっということになる。検察の仕事っていうのは、日中関係を考えるとか、国民への影響を考えるのが仕事じゃなくて、あくまでも送られてきた容疑者を、どう処分するのか決めるものなのだが、検察は本来の仕事をやらせてもらえなかった。
 何故こんな事になったかというと、仙石官房長官が柳田法務大臣に『このままでは指揮権を発動せざるを得なくなる可能性もあるが、それでいいのか?』と2度以上言い渡している。仙石としては、具体的に何かするとか何かしろとかは言っていないと言い訳できる言葉遣いになっている。先ほどの菅の発言と同じく、卑劣な表現と言わざるを得ない。どうしろとは言っていないが柳田としては24日までに船長を解放しないなら指揮権発動して船長解放してもらうことになる、と受け取るわけ。それで、柳田は指揮権発動によって自分の株が下がるのを恐れてかこの話をそのまま検事総長に下ろした。
 検察内部では「敢えて指揮権発動させるべき」というのが大林検事総長以外の意見だったが、大林検事総長がごり押しした。検察内部の権力構造がどうなっているかよく分からないが、これを見る限りでは検事総長の意見は絶対だという印象を受ける。それで、何故検事総長がごり押しするに至ったか。これは指揮権発動された後の混乱を恐れたためである。指揮権発動により起こる面倒ごとは2つ。1つは検事総長は辞任になる。もう1つは人事権が奪われる。
 検事総長辞任だけで事が済むなら指揮権発動も已む無しとしただろうと思う。というか、その程度の正義感は持っていて欲しいという僕の願望に過ぎないのだが。しかし、人事権を奪われるのは官僚として組織を守る立場上非常に困る。検察の解釈として今の民主党政権は政権を取ってからの発言から分析して、指揮権発動にためらいが少ないと考えている。それで、一度指揮権発動を許してしまうと、今後何かにつけて指揮権発動してくるのではないかという危惧がある。そうすると指揮権発動のたびに検事総長が辞任して結局人事権を奪われるに等しいことになる。官僚っていうのは組織を守るっていうことに異常な執着を示すもので、今回の件を見るに国を売ってでも組織を守ろうとしているようにも見える。そんなわけで、船長は無罪放免となったわけ。
 24日の会見での「今後の日中関係考慮」っていうのは、指揮権は発動してないけれども、指揮権発動をいわば根拠にした、法律を根拠にしながらも、明らかにできない話で圧力が来ましたよってことを実は示唆している。


 まだ続きがあるんだけど、取り敢えず船長解放に至る経緯ということでここまで。