シンフォニア15番 演奏解説

 シンフォニア15番の録音を行ったので、例によって演奏解説をする。例によって技術偏重な解説なので、小難しいことは バッハ インベンションとシンフォニーア 解釈と演奏法あたりを参考にしてもらうとよいと思う。
 チェルニーがあんまりにも詰まらなくて進捗がないので、潤いを求めてバッハに手を伸ばした。チェルニーみたいに極を褒めるために回りくどい説明などする必要はなく、良い曲だから良いのだと断じてしまえる。矢張りバッハさんは天才だなあと思う次第である。
 これまで我慢して地道にチェルニーを練習してきた成果が出ており、これまでよりも速く譜読みが進んだと思う。チェルニーのおかげというよりも、手元を見ずに練習する訓練の成果という面が強いのだけど、一応チェルニーでその様に練習したので、チェルニーの成果であると言っておく。
 この曲はある程度弾けるようになると、それ以上完成度は上がらなくなってくる。その日の練習によってクリアできるようになった部分も次の日には再び弾けなくなってしまう。それでも一応ちょっとずつ上達するのだが、毎日練習成果が殆ど消えてなくなってしまうというのはやりきれないものがある。なんとか練習成果を留めておこうと、こうすると良くなるというような類のことを楽譜にメモしておくのだけど、その日の訓練によって指が動くようになったとかだとどうしようもない。
 そんなわけで、テキトーなところで見切りをつけて録音してしまうことにした。
 楽譜は全音版を使った。

・テンポについて
 市田儀一郎によるとAllegretto付点8分音符で85bpm[1]というのと、Moderato[2]の2種類がある。後者が1971年で前者が1987年なので、この16年のうちに気が変わったのだろうか。Moderatoの方は「Moderatoが適当と思われる」とちょっと弱い表現をしているのに対して、Allegrettoの方は「テンポはAllegretto ±85」と断言している。この16年の間に何かしらの確信を得たのだろう。
 どちらが良いかというのは演奏者の好きにすればよいことなので、あんまり追求しても仕方がない。ただ、Allegrettoは相当速い。 グールドの演奏が大体これくらいかもうちょい速いくらい。感想に"that is an insane tempo"とまで書かれるくらいに速い。
 つべを見ていて感じるのはAllegrettoに近い速度で弾く人が多いということ。みんな速いのが好きだなあ。ちなみに僕も速い方のテンポで弾いてる。
 遅いテンポだとSally Christianがある。こちらは解説付きだけど、英語で喋ってるので何を言ってるのか分からない。

・強拍上のトリル
 2、5、18小節に括弧付きでトリルが付けられている。括弧付きなので弾いても弾かなくてもよいと解釈している。
 その前の音が必ず2度上の音だけど、強拍上で倚音的正確の箇所なので、上隣音から始める[3]とのこと。
 速いテンポで引く場合はトリルにしてる余裕がないので、みんなスルーしてる。一応、どれも4分音符分の音価があるのでやろうと思えばトリルにもできるとは思うけど、みんな揃ってトリルにしていない。実際に、トリルで弾いてみるとこれも悪くないと思う。32分音符の速さで無理なく弾けるので、採用するかどうかは別としてトリルにするとどう変わるかを確認する意味でも一度はやってみるとよいと思う。
 ちなみに、Gergely Szokolayはトリルにしている。

主題とか

 上の譜例に示したように主題aと対旋律b、分散和音の結句cがある。また、bを少し改変したb'がある。このbの改変はインベンション1番を想起させる。インベンション1番を説明する機会があればこのことも書いておきたいと思う。
 cの結句について。市田儀一郎によると、主題とその後続主題とのあいだにあって、先行主題の終わりと後続主題の冒頭を結ぶ極めて短い楽句がある。これはただ単に間句というよりは、後続主題の登場に際し、和声的な昨日とよりよい連結を目指し、そのうえ、間奏の材料として新たな展開要素を備えている、という特別な働きを持つものである。[2]とのことである。このエントリーでも結句と呼ぶことにする。
 この主題は16分音符3つの塊が3つで構成されている。3つごとの16分音符は始めの1音と続く同じ2音となっており、レガートにするかノンレガートにするか、はたまたスタッカートにするかと色々弾き方はある。3音の反復によってフレーズが作られているだけど、この3音の弾き方は特別な事情がない限りは曲全体を通して統一するべきである。

1小節

 左手最初のHから次のHまで8度の距離がある。この曲は付点8分音符の後に8度の跳躍がよく現れるので、このことを認識しておくと譜読みが楽になる。

2小節

 ◎右手の最初のCis。ここに限ったことではないんだけど、手の中心から離れた位置にある黒鍵を5指で取るときは指を真っ直ぐ伸ばす。指を曲げているとキーを押したときに指の黒鍵からはみ出た部分で隣の白鍵を押してしまう。

3小節

 ※右手。1~3拍目のDHDのポジションから手を移動させずに続く1オクターブ上のHを押そうとすると、白鍵の上で5指を伸ばしてHを取る形になる。手が十分に大きくないとHを斜め上から押す形になって隣のAのキーを一緒に押してしまう。これを避けるためには面倒でもちゃんと右の方にポジション移動してキーを真上、あるいは手前から押すようにする。

5小節

 手元を見ずに弾くために:✡左手。このCisの位置を離鍵後も覚えておく。次の6小節最初のDはこの半音上なので。

7~11小節

 h moll→E dur→A dur→D dur→G durと毎小節転調して5度ずつ下がっていく。左手の対旋律は8度の跳躍を繰り返して低い方向に移動していく。

8~9小節
 8小節から9小節に移るところの右手。EHHを534と指定の指使いで取ると凄く弾きづらくてミスタッチしまくったので、533とし、9小節最初の和音を52で取ることにした。指定の指使いだと、8小節から9小節に移行するときのH→Aを4→3で取る際、鍵盤の奥の方で押さなければならないので、Aisの黒鍵を跨いで4→3と取ることになる。しかも3指は黒鍵と黒鍵の隙間を押さなければならない。これは相当命中精度が下がるわけである。

11~13小節

 3拍ごとに和音が変わっていく。I→VI→II7→VII→V→I7→VI→II7→VIIという順。(I→VI→II→VII)という進行をVを挟んで繰り返す形になっている。
 (I→VI)-(II→VII→V)-(I→VI)-(II→VII)と表記してみる。括弧で囲んだ中は6度の上昇、カッコの間の-は5度の下降を表す。このように6度の上昇と5度の下降によるコード進行となっている。

16小節

 *最後の2拍。普段練習するときに、できるだけ楽譜を見て手元を見ずに弾けるようにする訓練の一環として、手元を見るポイントを楽譜に"*"を書いて示している。この部分は遠くに跳躍したり指使いが複雑だったりするわけではないのだけど、手元を見るようにしている。右手と左手がかなり近づくため、左右の手の接触を恐れて思い切った動きができないことに気付いたためである。また、接触すると異常なものを触ったと認識して一瞬戸惑って演奏が止まってしまう。
 手を見ていれば接触も予想できるし、仮にポジションが動いてしまっても次に押すキーがどこにあるのか分かるのである。しかし、実際に手元を見て弾いてみると全然接触しない。手の正確な位置が分かるので無意識のうちに巧妙に接触を避けているようである。

19小節

 *右手。H→Fisの跳躍。指くぐりしたポジションではFisの次のHを5指で押すのは難がある。Hを押している1指を跨いで2指でFisを取るために手を左側に向けることになるのだが、そうすると5指は次のHを押しづらい位置取りになるためである。
 Fisを押し始めると同時に手を正面に向ける自然なポジションに戻し、Hを押すときには5指を下ろすだけでHを押せるようにする。あるいは、この指跨ぎを完全にやめてしまって、Hを短く切って手全体を移動させるポジション奏法[4]で弾く。

20~26小節

 7小節~11小節と同様、ここでも毎小節5度ずつ下がっていく。一方左手の跳躍は1度、3度、8度と雑多である。

28小節

 旋律が交差するポイント。この曲では難所なんだと思う。上の譜例にある通り左右の手を適当に振り分けて弾くように書いてある。つべの動画を見ると、音を左右の手に振り分けたりせずに手を交差する人を多く見るので、おそらく原典版なんかだとこういった小細工は書かれていないんだと思う。
 この楽譜では左右の手を振り分けた上、音の重なる部分の片方をカッコで示すことで弾かなくてよい様に表記している。僕の場合は左右の手を振り分けはしたけど、カッコに示した音を抜くと音の流れがかなりいびつになってしまったので、同じキーを左右の指で同時に押すようにした。
 音を左右の手に振り分けると弾きやすくなるけど、デメリットとして旋律が見えづらくなることである。この点をどうにかクリアしなければならない。やることは旋律ごとの特徴を維持しながら受け持つ手を変えるということ。ここでは2つの旋律が同時に流れるのでそれぞれ別の特徴をもたせて弾く。例えば、音の強弱、レガート・ノンレガート、打鍵のタイミングを僅かにずらなどで表現して別の旋律であることをアピールしなければならない。これらの声部ごとの特徴の違いはこの28小節だけ表現すれば良いのではなく、11~13小節、26~27小節での応答でも一貫した表現としなければ整合性がとれない。

31~32小節

 32小節右手最初のFisを左手で取ることで、このFis-Aisを短く切る必要がなくなるので続くAis-Fisへレガートに繋げることができる。そのために、31小節で左手のEは5指に置き換えなければならない。また、このEを押している5指は33小節最初のDを取るために4指に再度置き換える。
 32小節のフェルマータはぴったり2倍の音価で弾くことにしている。多分それで正しいんだと思う。フェルマータは2倍の長さだって音楽の授業で習った。

36~38小節

 手元を見ずに弾くために:☆36小節左手。最初のFisを押さえているときに1指で次のEの位置を探り当てておく。その辺りをテキトーに弄ると黒鍵と黒鍵の隙間のEとFのある辺りに触れるので、簡単にEの位置を特定できる。
 *36小節右手。できれば手元を見ずに弾きたいところだけど、重音で指の位置が入れ替わるので、慣れないと指とキーの位置関係を即時に認識できずにタイミングがずれてしまったりする。頑張ってこの重音の動きに体を馴致させるのもいいけど、そんなにコストをかけていられないというのなら手元を見てしまえば問題は回避できる。

37小節
 右手のトリル。いろんな弾き方がある。
 市田儀一郎は次の弾き方を紹介している[2]

 一方、村上隆は奏法例として、上とは違うものを挙げている。

 これについては、以下のように説明している。

 また、ウィーン原典版などに示されるスラーをタイに見立てた解釈には、あまり意味を感じません。その理由は、次のとおりです。
(1)装飾音表にもある前打音付きトリルの前打音の部分を実音化したスタイルをとる。そこでは、前打音とトリルの頭がタイで結ばれていない。
(2)ラモー『クラヴサン曲集』1724年(1731年再版)に示されたスラー付きトリルにも、同様の譜例が示されている。
(3)もちろん、ダングルベールやパーセルなど、同様のものをタイで結んだ譜例も残されているが、必ずタイで結ぶような習慣があったわけでは決してない。
(4)タイで結んでしまうと、ドミナント3拍目ソプラノが更に弱い扱いになってしまい、機能が弱められる。

 これらを総合し、スラーの後拍頭から主要音より始める支持であると解釈しています。

だそうである。難しくてよく分からん。
 ちなみに僕は次のような感じで弾く。

 38小節のフェルマータをトリルのところまで勝手に広げてゆっくりにした。ロマン派以降の割と普通な感じのトリルの扱いなんじゃないかと思う。何か拘りがあったりするわけではないのだけど、正しい弾き方を全く調べずにテキトーにこんなんでどうだろうとと思ってこうしたにすぎない。

38小節
 ここで終わりなんだけど。終止線の下にFinisと書いてある。ここまでインベンションも含めて29曲にはこんな表記はない。それどころかインベンションの15番には「この後15の三声シンフォニアが続く」とまで書いてある。つまり、バッハはインベンション15曲に続いてシンフォニア15曲を配置したのである。グールドみたいに再配列[5]することの良し悪しはよくわからない。

参考文献
[1]市田儀一郎, インヴェンションとシンフォニア, (1987)
[2]市田儀一郎, バッハ インベンションとシンフォニーア 解釈と演奏法, (1971)
[3]]村上隆, ピアノ教師バッハ―教育目的からみた『インヴェンションととシンフォニア』の演奏法, (2004)
[4]岳本恭治, ピアノ脱力奏法ガイドブック 2, (2015)
[5]Glenn Gould, インベンションとシンフォニア, (1964)

ピアノの練習時間

 ショパンはピアノの練習を1日に3時間以上してはいけない、何時間も練習したって集中できなくなるので、長時間練習してないで本を読んだりアニメを見たりして精神修養に心がけよ、というようなことを言っている[1]

 ショパンが何よりも恐れていたのは、弟子の練習がマンネリになって感覚が鈍くなりはしないか、ということでした。私が、1日に6時間練習しているといいますと、ショパンはひどく怒って、3時間以上はしてはいけない、とわたしに言い渡したのです。
  デュポワ/ニークス
 長時間かけて練習しないで練習の合間には読書をしたり、傑作をじっくり調べたり、気分転換に散歩でもしなさい、と彼は口癖のように弟子に言うのでした。
  グレッチ/グレヴィンク
 ただ機械的に練習を繰り返せばよいというものではい、練習には全身全霊をあげて集中しなければならない。と彼は口癖のように言っていた。だから気が乗らないのに同じことを20回も40回も繰り返せ、などとは言わなかったし、それよりももっと嫌がったのは、カルクブレンナーが進めるような、ピアノを弾きながら読書もできるような練習の仕方だった。
  ミクリ
 ショパンは精神の集中を第一に考えて独自の技法を編み出したのであり、単なるメカニズムの練習を何時間も繰り返したわけではない。ニコラ・ショパンは、息子が3年間カルクブレンナーについてみるかどうか、まだ迷っているとき、「知っての通り、お前は演奏のメカニズムにはほとんど時間を書けず、指のことよりも精神の集中に余念がなかったのだよ」と、書いてきている。
 この点については(他の点についても同じだが)ショパンは当時のピアノ流派のほとんどに、そしてリストにも背を向けていると言える。リストはこの頃には「技法は精神の働きから生まれる」ことに気が付かず、単なるメカニズムの練習を尊んでいた。「・・・私は、4,5時間も練習している(3度、6度、オクターヴトレモロ、反復音、カデンツァなど).ああ! もう気が狂いそうだ――私がどれほどの芸術家か、君にそのうち分かるよ」と、リストはパガニーニを聞いた後に、ピエール・ウォルフに宛てて書いている。同じ頃、彼は弟子にも同じような要求をしている:「アルペッジョとオクターヴをあらゆる調子で弾くこと、使わない指は鍵盤を押さえたまま、順番にすべての指で音を弾いていくこと、音階を速く強く弾くこと、要するに手の練習になることなら何でも、1日に少なくとも2時間やるように彼は進めてくれた」。
 だから、ショパンが3時間以上は練習(指の訓練、エチュード、曲を含む)しないよう人に言っていたのに対し、同じ頃リストが自分でも実行し、人に勧めていた指の訓練は、場合にもよるが、そのくらいではとても足りないものであった。フンメルは「既に上達したピアニストの多くが、目標に達するには1日少なくとも6,7時間は弾かねばならないと、頭から思い込んでいる。それは間違いなのだ。毎日規則的に3時間集中すれば十分だと、私はそういう人たちに断言できる。それより長く練習しても精神が麻痺してしまって、演奏は魂の抜けた機械的なものになるし、いくら練習に熱を上げても、しばらく中断しなければならなくなってしまうようなことがあると、もう指は思うように動かないという破目になるのがほとんどだ。そういうときに演奏の依頼があったりしたら、調子を取り戻すには何日もかかるのだから、本当に困ったことになる」と説いている。

 ショパンは1日3時間以上練習してはいけないと言っているのに対して、同時代のリストは1日14時間練習していた。この2人はどちらも天才なのだけど、この練習時間の比較だけを見てもリストは努力の人という感じがする。ただし、リストの晩年の作風には若い頃の派手派手しさが鳴りを潜めた感じがあることから、もしかしたら考えが変わった可能性もある。リストに関してはあまり文献を読み込んできていないので、あまり確かなことは言えないのだけど、今後そういう文献に当たったら書き改めたい。
 それで、実際にはどれくらい練習するのが適当なのかということだけど、僕の考えでは人それぞれとしか言いようがない。
 ショパンほどの天才ならば短い時間の練習で十分なのだけど、凡百のピアニストが真似してやっていけるとはとても思えない。あまり練習しないピアニストと言うとグレン・グールドが有名[2]だけど、話を聞くに彼の場合はメカニカル部分の練習を全く必要としないとても羨ましい体質であるらしく、それなら常人が多くの時間を費やす練習を劇的に減らすことができるのだろう。ショパンも非常に体が柔らかくウンヌンカンヌンという話はよく聞くところである。

 グールドの天才の証明の一つとして、先程の「ピアノに問題がない」と関連して、「全く練習しなくても弾ける」ということがあげられる。
 「あまり練習していない」というのは、ステージ演奏家にせよ音大性にせよ、一種の慣用句のようなものである。実際には朝から晩までピアノの前に座っていても、それほど練習しなければ上手く弾けないことを悟られたくないという心理が働く。とくにコンクール前などは、ライヴァルたちを牽制する意味でも「さらってない」と言う。
 しかし、グールドは本当に練習しなかったようだ。『グレン・グールド 神秘の探訪』の著者、ケヴィン・バザーナがグールドの残したメモを見たところによると、1970年以来、もし練習するとしても半時間、大抵は1時間で、2時間以上のことはけっしてなかったという。
 レパートリーをつくっていて、新しい曲をたくさん準備していた13歳の頃でさえ、1日に3時間程度しか練習しなかった、とグールドは言う。それですら彼の演奏人生では厳しい練習スケジュールが組まれていた唯一の期間だった。
 プロになってからは、必要に応じて「楽譜の構想を強化する」目的から練習することはあっても、楽器との接触それ自体のために練習することはなかった。
 この習慣はニューヨーク・デビュー前に既に確立されていたらしい。ジョナサン・コットとの対話をまとめた『グレン・グールドは語る』で彼は、19歳の頃、初めてベートーベンの《ピアノ・ソナタ作品109》を弾いた時のエピソードを明かしている。
 デビュー前だったが、「当時でさえ、楽器の奴隷になりようがなかった」。完璧に暗記してからピアノに向かう習慣がついていたので、初演の2,3週間前に譜読みを始め、1週間前に練習をスタートさせた。自殺行為に聞こえるかもしれないが、それがいつものやり方だったのだ。

 凡夫が地道にメカニカルの練習をしているあいだ、音楽に没頭できるのだからそりゃ物凄く有効に時間を使えることだろう。こんな天才に並ぶためにはリストレベルの才を持った上、毎日14時間もの練習をしなければならないというわけである。

 ここまで、3時間の練習時間が短いという話をしてきたけど、実際のところプロの演奏家でもなければ目指しているわけでもない普通の人にとっては、学生であれ社会人であれ1日3時間の練習量というのは凄く多い。金子一朗の言う通り[3]とにかく時間がないのだ。プライベートの時間とか勉強時間とか読書とかアニメとかを相当量犠牲にしなければ続けることはできない。音大生でもないのに1日3時間も勉強時間をピアノの練習に費やしていたらとても学業を成就するなてできないわけである。そういう意味でならショパンの言う1日に3時間以上練習するなんてとんでもないというのは正しい。
 そんなわけで、プロでもない人が3時間が多い少ないと論じる事自体にあんまり意味がなくって、現実的に毎日3時間も時間をとることができないのである。

参考文献
 [1]ジャン=ジャック・エーゲルディンゲル, 弟子から見たショパン そのピアノ教育法と演奏美学【増補・改訂版】, (2005)
 [2]青柳いづみこ, グレン・グールド 未来のピアニスト, (2014)
 [3]金子一朗, 挑戦するピアニスト, (2009)

平成28年 福山哲郎 政治資金報告書

 政治資金報告書というものがある。日本では政治の透明性を確保するために政治家のお金の使い方について細かく公開することが義務付けられていて、総務省とか自治体とかのページからダウンロードして読むことができる。
 試しに福山哲郎こと陳哲郎さんの政治資金報告書を読んでみた。ついでにテキストに書き出してアップしてみた。
平成28年陳さんの政治資金報告書
エクセルファイル
 一応、ソースにもリンクしておく。
フォーラム共生社会21(コピー)
民進党京都府参議院選挙区第2総支部(コピー)
福山哲郎後援会(コピー)
 陳さんが帰化人であるというのは政治に興味のある人達の間では常識になってるわけだけど、一部の人たちは認めたくないようで必死に工作をしている。Wikipediaから陳さんの帰化情報を削除できたのは最も大きな成果だと思う。Wikipediaの議論を見るに、その手の人からすると官報の情報は当てにならないらしい。平気で虚偽報道する新聞やテレビ、週刊誌はもとより胡散臭いウェブサイトとかとっくに消えたページなんかをソースに記事を書いているWikipediaで何を言ってるんだろうと不思議に思うわけ。それほど周知されては都合の悪い情報なのかと思うと日本全国に伝えて回りたくなる。

 陳さんの帰化の件についてはこれくらいにしておいて、政治資金報告書の内容を見て思ったことをテキトーに書いていこうと思う。

 報告書は陳さんが代表を務める政治団体「フォーラム共生社会21」、民進京都府参議院選挙区第2総支部福山哲郎後援会の3報を書き出した。
 フォーラム共生社会21の寄付の内訳には5件の団体が連なっている。福山哲郎後援会、民主党京都府参議院選挙区第2総支部民進京都府参議院選挙区第2総支部TKC全国政経研究会、民進京都府支部連合会である。民主党民進党に衣替えした時期なので民主党民進党が入り混じっている。別の政治団体として分けて出すべきなのかどうかは知らないけど、どうせ同じものなのだから纏めてもらったほうが分かりやすくて良い。
 TKC全国政経研究会の収支報告書総務省のページからダウンロードできるが、ここからはいろんな政治家に献金しており、陳さんはその中のひとりにすぎず、真面目に読み込もうっていう気にならない。民進党京都府総支部連合会の報告書民進京都府参議院選挙区第2総支部と同様京都府のページからダウンロードでき、こちらも多くの民進党メンバーに対して出資してたりするので書き出す気にはならない。

収入について
 寄付者の住所とか職業とかについてデータを纏めてみたところ、次のようになった。

職業 人数
会社役員 40
無職 28
会社社長 22
団体役員 17
自営業 16
医師 13
会社員 10
税理士 7
団体職員 6
僧侶 6
大学教授 4
弁護士 4
飲食業 4
歯科医師 2
建築家 2
芸術家 2
社労士 2
美容師 2
行政書士 1
宗教法人役員 1
神官 1
府議会議員 1
医療法人理事長 1
公認会計士 1
学校法人職員 1
大学職員 1
衆議院議員 1
珠算講師 1
農業 1
書道家 1
学校経営 1
道家 1
司法書士 1
舞踏家 1
団体代表 1
介護ヘルパー 1
参議院議員 1

 一応、多い順に並べたのだけど、この報告書では寄付を受けた日付順に書かれているため、別の日に同じ人物が寄付していたとすると重複して数えてしまう。そんなわけで、重複がないとは言い切れない。面倒なので確認してまわろうとも思わないし。
 取り敢えず、会社役員、無職、会社社長、団体役員、自営業、医師、会社社長の順で多い。これまで見た政治資金報告書にはないのが宗教関係者。僧侶、神官、宗教法人役員とあわせて8名が確認できる。
 ところで、仙谷由人ってどっかで見た人の名前があるけど、職業が元衆議院議員となっている。何だよ「元」って。ただの無職やん。
 他に名前だけでも聞いたことのある人物はというと、マルハンの創業者である韓昌祐。韓国人が政治献金してたら駄目じゃん、って思ったけど帰化してたんだね。
 それと、遠山大輔。どっかで聞いた名前だなあと思って調べてみたら舞鶴高1女子殺害事件で被告の中勝美を無罪にした弁護士だった。なお、中勝美は放免されたあと、殺人未遂事件で捕まっている。
 あとは、450万円の献金をしている橘民義あたりは一部で有名だったりする。この人、辻元清美に150万円献金(コピー)してたりする。金あるなあ。
 大学教授についても突っついておこうかと思ったけど、どうでもいいので止め。
 登場人物について相関図とか作ってみると面白いかもしれない。こういうのが作れるかもしれない。超絶大変そうだからやらないけど。夏休みの自由研究とか卒業研究とかで取り上げてみるのはどうかな。

 企業献金についても軽く見ておく。聞いたことのある会社名が結構あったりする。
イオン株式会社
・株式会社堀場製作所
・株式会社ワコールホールディングス
・京セラ株式会社
月桂冠株式会社
・株式会社井筒八ツ橋本店
 イオンについては民主党の人だしごく自然なことだとは思うけど、他の5社については新しい感じがする。
 企業献金については一緒に個人で献金している人もいる。あと、献金の項目で見た会社が支出の項目にも多く見られる。支援してくれる企業を使おうというのは自然なことだから別によいと思う。

 労組が出張ってくるのはこの人たちの特徴。労働者の待遇改善よりも政治活動をしている印象の強い労組の皆様である。
・日本私鉄労働組合連合会
・全日本たばこ産業労働組合
日本郵政グループ労働組合近畿地方本部
・全日本森林林業木材関連産業労働組合連合会

 ついでに、職業と絡んだ政治団体。
・近畿税理士政治連盟
京都府歯科医師連盟
・税理士による福山哲郎後援会
京都府医師連盟
・日本商工連盟
全国社会保険労務士政治連盟
京都府社会保険労務士政治連盟
・日本弁護士政治連盟
・全日本不動産政治連盟京都府本部
・日本医療法人連盟
福山哲郎後援会

支出について
 流石にガソリンプリカによるマネーロンダリング的な迂闊なことはしていないようである。
 供花がある。総務省によると、特定の場合を除いて一切禁止されているとなっている。特定の場合を除いたら一切じゃないやんと突っ込みたくなる。政治家本人が自ら出席してその場で行う場合は罰則が適用されない場合があるとのこと。朝日新聞がグレーと言ってるのは本人が直接出席したかどうか不明瞭だっていう部分を指してのことかな。
 それから、寄付者と支出先に宗教関係が結構ある。靖国参拝は信教の自由に反するとか主張(魚拓)しておきながら、自分はガッツリ宗教関係と金銭授受してるわけだ。これってどうなの?

 取り敢えず、こんな感じで。
 頑張って書き出した割にはあんまり面白いネタもなかった。予想通りの連中が割と並んでいる感じで、上に書いた供花以外には問題のありそうな項目もないし。見る人が見たらなにか見つけることができるのかな。

関連エントリー
 20170312 平成27年日本共産党沖縄県委員会 収支報告書
 20150602 平成25年日本共産党沖縄県委員会 収支報告書

ショパン エチュードOp.25-2 演奏解説

 20100203の再掲。ショパンエチュードOp.25-2を録音した時の解説文です。多分、これが一番最初に書いた演奏解説。


   Mittwoch 3. Februar 2010.
 たまには演奏の解説でもしようと思う。
 技術的な点などを踏まえて説明してみる。曲目はショパンエチュード25-2、昨年の暮れ頃に録音した。

 玉を転がすような細かい動きが要求される。一部フォルテの箇所もあるが、曲全体にわたって殆どがピアノで演奏することになる。弱音の細かなパッセージは粒の揃っていない箇所があると非常に目立つ。全体に均一な音を出せるよう練習しなければならない。が、そういった鬱陶しい練習方法についてはここでは語らない。コルトー版の解説でも読んで練習すれば身につくと思う。
 楽して弾けるようになりたいとは誰もが思うことだが、ショパンエチュードはどれも必要な筋力がなければちゃんと音を出せるようにはならない。脱力するから筋力はいらないというのは脱力を知らない者の言葉である。キーを押すだけの力がないのに脱力をしても意味がないということは理解しなければならない。ショパンエチュードを弾くだけの筋力が備わっていない場合はいくら楽をしようとしても結局は筋力を付けるために練習量が必要になる。そして、筋力を付けた先で脱力が有効となる。
 音は違うが似た動きをする部分は指使いを同じにしたほうがよい。指使いを1パターンに限定するという前提がある。自分の中で複数の指使いを共存させるとどれがよいかその時になって迷う可能性があるから。そして、似た部分で異なる指使いをすると、同じようにどっちだったか混乱するためだ。そういった演奏中の事故になりうる要素というものは極力排除したほうがよい。
 同じ音型が繰り返し使われているため、譜読みが非常に楽だ。例えば、1~2小節と同じ小節は9~10小節、20~21小節、28~29小節、51~52小節、59~60小節と合計6回同じ2小節を使う。また、1~17小節は20~36小節と同じだし、1~8小節は20~27小節、51~58小節とほぼ同じ。こういった構造が複数あるので、譜読みは一気に最後まで弾こうとはせずフレーズ毎に弾けるようにしていった方が効率がよい。譜読みに関して非常に参考になるサイトがあったのだが、今少し探してみたところ全く見つからなかった。英雄ポロネーズを例に譜読みの仕方を解説していたのだが。。。
 この曲はエチュードの中では簡単な部類に入り、基本が筋トレなので、あまり演奏の参考になるアドバイスのようなものはない。筋トレ以外で解決する点について説明する。

 では、最初から。

 コルトー版では終止ウナコルダで演奏することになっている。ウナコルダにするかしないかは奏者の好きにしたらよい。それから、ペダルの指示だが、小節の前半をペダルオンにしている。実はこの曲、僕の個人的な見解がある。練習曲の裏メニューとしてペダルを殆ど使わず、左手のベース音を保持して演奏する。左手の1小節の広がりは大抵10度になっている。平均的なピアノ弾きの手のサイズとして、鍵盤の横から10度が届く程度というのがあるような気がする。多くの作曲家は横からでもとにかく10度が届くことを前提として曲を作っていることが多い。左手のベース音と5指で保持しながら10度を弾くという奏法は例えば、ショパンのコンチェルトなどでは多用されている。ショパンエチュードがコンチェルトのための練習曲と考えたとき、左手はベース音を保持しておくという方向性は自然なものではないかと思うのだ。同じ意見に出逢ったことはないけど。そんなわけで、ペダルについては基本的にベース音を保持できない程の範囲で左手が広がるときと小節の継ぎ目において音が切れてしまうときを除いて使わない。小節の継ぎ目は例えば、4-5小節目の継ぎ目の部分みたいなポイントになる。ペダルを踏むのは4分音符1つ分だけとなる。
 これをやると、ペダルによる誤魔化しがきかなくなるため、技術的なハードルは高くなる。音の粒を揃えるために音の強さ、次の音までの時間に加えて、離鍵のタイミングも揃える必要がある。

 コルトー版ではベース音を保持するポイントが書いてあるが、僕のやり方とは多分違う目的で書いている。よく分からない。


7小節

 ナショナルエディションでは最高音の指使いをカッコ書きで(453)と付している。できるだけ1,5指で黒鍵を取りたくないので、僕はこちらを採用している。
 4指の下を5指がくぐる形になるのだが、このDesは4指をまっすぐに伸ばして弾く。そして、次のCは5指を曲げて弾くことになる。4指を伸ばした状態で5指を曲げるのは人間の身体の構造上楽な行為ではない。そのため、4,5指が独立して自由に動かないと音を外しやすい。エチュード10-2でしっかり鍛えたらいいかも。

 さて、特に説明することもないので、いきなりコーダ付近まで飛ぶ。

 57小節目は7小節目と殆ど同じ形だが、最後の4音にスタッカートが付いている。しかも、その上にスラーが入っているので、メゾスタッカート。4分の3の長さだけキーを押さえる。速度指定がプレストの曲でスタッカートとメゾスタッカートの違いを表現できる人間が世の中に存在するのか、という疑問が生じる。この曲の中ではかなり重要なポイントであり、色んなCDの演奏を聴いても三者三様にこの部分をパスしている。中には全く無視して演奏する人もいるが、大抵の人はここで速度を落とす。指定の速さでスタッカートを表現するのは極めて難しいから、ということと、この速さでスタッカートにしても聞いている人は気付かない可能性が高いからだと思われる。僕の場合だと、この曲自体を少しゆっくり目のテンポで弾くが、それでもこの部分をスタッカートにするのは難しいため、56小節の後半くらいから僅かに速度を落とし、スタッカートのポイントをクリアしたらすぐに元の速度に戻るようにしている。

62小節

 62小節目のあたりからコーダに突入するっぽい。画像ではペダルの指示があるが、ペダルは踏まない。通常の少し早い下降スケール。普通にピアノを習っている人などはこういったところは難なく弾いてしまうのかも知れない。僕みたいに基礎訓練を疎かにしているとこういうところでボロが出やすい。66、67小節にも共通するのだが、右手の肘を開き気味にして弾くと音が揃いやすい、多分指くぐりをしやすいポジションになるから。ちなみに、この小節、ナショナルエディションではオシアが準備されているけど、特に右手の忙しいポイントなので無視した。

63小節

 この部分、譜例のように指使いをい変えている。この弾き方だとF-Desを4-3で取ることになり、4-3で取るにしては極端に遠くなってしまうため、あまりお勧めできない。元の通り53215321でいいと思う。あるいは54321321もありかもしれない。

65小節

 65小節目。元から書いてある運指だと気に入らなかったので思いっきり無視している。この運指だと3指だけ白鍵で他は黒鍵となる。3指だけキーまでの距離が長いため、音が崩れやすい。そこで、指とキーの距離をできるだけ均等にするため、手を寝かせて指の腹で打鍵する。あるいは、コーダにかこつけて思いっきり減速してごまかす。
 この部分は脱力して弾こうとすると指がうまく動かないので、力ずくで指を動かす。あまりよくないことだけど、指が動かないのだから仕方がない。この指の配置自体がポジション移動を少なくするというだけの目的であり、ショパンの演奏理念に反しており、非常に弾きにくい。そのため、この指使いは非推奨とする。敢えて茨の道を行くこともない。

67小節

 ここはオシアを弾く。というか、このオシアを弾くためにこの曲を弾いた。この部分と最後の2小節はペダルを踏む。最後の装飾はCDでも聞いて好きな奏者の真似をすればよい。ちなみに、コルトー版では次のようになっている。

桜井神社の算額より2

 安城の桜井神社に算額が奉納されている。

 以前のエントリーで、この「中円」と書かれた円と三角形と正方形の大きさについて説明した。
 今回は大円、中円、小円の大きさの関係について説明する。とはいっても、地道に計算するだけなので、あんまり面白みはない。
 なお、算額の問題自体はこちら(魚拓)に解説がある。


図のように3つの円と直線がそれぞれ接しているとき、3つの円の半径をそれぞれr1, r2, r3(r1≧r2>r3)とすると、
{ \displaystyle  \frac{1}{\sqrt{r_1}}+\frac{1}{\sqrt{r_2}} = \frac{1}{\sqrt{r_3}} }
となる。


 3つの円をそれぞれ、円1、円2、円3として、その半径をr1, r2, r3とする。なお、r1≧r2>r3とする。これらの円の中心同士の横方向の距離を図のようにd12, d13, d23とする。
 d12は、円1と円2の中心を結んだ線分を斜辺とする直角三角形を使って、以下のように求められる。

{ \displaystyle {d_{12}}^2+(r1-r2)^2 = (r1+r2)^2 \\ \displaystyle {d_{12}}^2 = (r1+r2)^2 - (r1-r2)^2 \\ \displaystyle \qquad = {r_1}^2+2r_1 r_2 + {r_2}^2 -({r_1}^2 - 2r_1 r_2 + {r_2}^2) \\ \displaystyle \qquad = 4r_1 r_2 \\ \displaystyle d_{12} = 2 \sqrt{r_1 r_2} }
 同様に、
{ \displaystyle d_{13} = 2 \sqrt{r_1 r_3} \\ \displaystyle d_{23} = 2 \sqrt{r_2 r_3} }
となる。
 d12はd13とd23を足した長さに等しいので、
{ \displaystyle d_{12} = d_{13} + d_{23} }
 これを展開するとr1, r2, r3の関係が求められる。
{ \displaystyle 2 \sqrt{r_1 r_2} = \sqrt{r_1 r_3} + 2 \sqrt{r_2 r_3} \\ \displaystyle \sqrt{r_1 r_2} = ( \sqrt{r_1} + \sqrt{r_2})\sqrt{r_3} \\ \displaystyle \sqrt{r_3} = \frac{\sqrt{r_1 r_2}}{\sqrt{r_1} + \sqrt{r_2}} \\ \displaystyle \frac{1}{\sqrt{r_3}} = \frac{\sqrt{r_1} + \sqrt{r_2}}{\sqrt{r_1 r_2}} \\ \displaystyle \frac{1}{\sqrt{r_3}} = \frac{1}{\sqrt{r_1}}+\frac{1}{\sqrt{r_2}} }
 以上。あんまり面白くない導出である。

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