大洗の日本原子力研究機構での被曝事故

肺から最大2万2000ベクレル 5人搬送 内部被ばく検査へ(魚拓)
 大洗というとガルパンで書いておきたい話があるんだけど、それとは別に先日の日本原子力研究機構での事故について。22000ベクレルってのがどの程度のものなのか考えてみた。
 必要な情報は以下の通り[1]

239Pu  半減期:24110年
 崩壊形式:α
 放射線のエネルギーと強度 α5.155(73.3), 5.143(15.1), 5.105(11.5);γ0.0516(0.021)ほか
放射能:22000ベクレル

 ベクレルという放射能の単位は1秒あたりに放射性崩壊する原子の数を表す。つまり、半減期とこのベクレルの値が分かれば何個の239Puがあるかが算出できる。239Puはα崩壊によって235Uになる。このウランもα崩壊するのだけど、半減期が7.037×108年と長いので無視する。
 Puの崩壊は次の式で表される。
{ \displaystyle y=\left( \frac{1}{2}\right) ^\frac{t}{24110} }

 グラフを見て分かる通り、t=24110のときにy=0.5となっている。このグラフの傾きがその時々におけるPuの崩壊する割合である。
 ベクレルという単位は時間の単位として秒を使っているので、上の式の年の部分を秒に直さなければならない。
 すると、次のようになる。
{ \displaystyle y=\left(\frac{1}{2} \right)^\frac{t}{24110*365*24*3600} \\ \displaystyle  =\left(\frac{1}{2}\right)^\frac{t}{7.603 \times 10^{11}} }
 この方程式の傾きを求めればよい。そんなわけで微分する。
 積分と違って機械的に解けるので悩まずに出来る。素晴らしい。
 面倒なので7.603×1011=hと置く
{ \displaystyle y=\left(\frac{1}{2}\right)^\frac{t}{h} \\ \displaystyle  = \exp\left( \ln \left(\frac{1}{2}\right) ^\frac{t}{h}\right) \\ \displaystyle  = \exp\left( \frac{t}{h} \ln \left(\frac{1}{2}\right)\right) \\ \displaystyle y'= \frac{\ln \frac{1}{2}}{h} \cdot \exp\left(\frac{t}{h} \ln \frac{1}{2}\right) \\ \displaystyle  = \frac{\ln \frac{1}{2}}{h} \cdot \left(\frac{1}{2}\right)^\frac{t}{h} }
 t=0のとき{\frac{ln \frac{1}{2}}{h}=-9.08 \times 10^{-13}}であり、これが1秒あたりにPuの減少する割合である。
 この9.08×10-13にPuの数をかけると22000になる。
{ \displaystyle n \times 9.08 \times 10^{-13}=22000 \\ \displaystyle n = 2.42\times 10^{16} }
というわけで、2.42×1016個の239Puを吸入したことになる。
 個数で書いてもわかりづらいのでグラムに直すと、
{ \displaystyle 239 g/mol \cdot \frac{2.42 \times 10^{16}}{6.02 \times 10^{23}}=9.61 \times 10^{-6} g }
 つまり、9.61マイクログラムの239Puを吸入したということになる。吸入した粉末の量はそれよりも多くなる。プルトニウムは例えばPuO2だったりPu2O3といった化合物で存在するためである。
 マイクログラムという単位から分かる通り極めて少量である。通常科学実験で使う精密天秤だと0.1mgまでしか目盛りがなく、この量を計るにはマイクロ天秤というより精密なものを使わなければならない。フル装備の枝野さんが付けてたマスクだとどうか分からないけど、普通のマスクでは余裕で抜けてくるような量である。

被爆によって受けるエネルギー
 上で書いた通り、放射線のエネルギーと強度は「α5.155(73.3), 5.143(15.1), 5.105(11.5);γ0.0516(0.021)ほか」となっている。今回は内部被曝であり、生じるエネルギーの殆どはα線由来でγ線はごくわずかである。また、γ線は透過力が強く、殆どが人体を透過してしまうのでここでは無視する。もちろん肺表面以外の人体内部が被曝するのでこれとは別に考えなければならない問題ではある。
 239Puから生じるα線の平均エネルギーは、
{ \displaystyle (5.155MeV*73.3 \% +5.143MeV*15.1 \%+5.105MeV*11.5 \%) \times \frac{100}{99.9} = 5.194MeV }
 これが毎秒22000回起こるので、1時間のエネルギーは、
{ \displaystyle 5.194MeV \times 22000/s \times 3600s = 405TeV }

吸収線量を求める
 吸収線量(グレイ)を表現しようとすると被曝する部分の質量を出さなければならない。α線を受ける体積は肺の表面となる。肺の総面積は70m2。この面積にα線が透過する距離を掛けたら体積が得られる。α線は人体を0.04mm透過するらしい。α線は水中を0.04mm透過する[4]ということだから、人体も水も同じようなものらしい。密度もだいたい同じだし、感覚的に納得できる。流体であることは関係ないと思う。
 そんなわけで、肺の面積とα線の透過する距離が分かった。人体の密度は平均9.85g/cm3なのでこれで被曝する部分の質量が求まる。
{ \displaystyle 70*10000cm^2 \times 0.04*0.1cm \times 9.85*0.001kg/cm^3 = 27.58kg }
 何か肺のくせに重すぎる気がする。男性の肺の重さは左右合わせて880gくらい[5]なので大幅に異なる。これは肺の厚みが0.04mmもないのか、肺が密度の小さい細胞でできているかのどちらかである。どちらでも良いけど、肺の重さを880gとしてこの中ですべてのα線を受け入れるとすればよい。
 したがって、1kg辺りの肺が1時間に受けるエネルギーは、
{ \displaystyle 405TeV \div 0.88kg \times 0.1602 \times 10^{-18} J/eV = 7.38 \times 10^{-5} J/kg/h(Gy/h) }
 ということで、73.8μGy/hの吸収線量ということが分かる。

線量当量(シーベルト)に変換したい
 折角吸収線量が分かったのだから、いっそ線量当量も求めたくなる。
 線量当量は{シーベルトの値=グレイの値×放射線荷重係数×組織荷重係数}という式で求めることが出来る[6]
 放射線荷重係数はα線では20、組織荷重係数は肺で0.12なので、
{ \displaystyle 73.8μGy/h \times 20 \times 0.12 = 1.77 \times 10^{-4} Sv/h }
となる。
 1時間で0.177mSvなので、1年では1.55Svとなる。日経の記事によると年間被曝量が1.2シーベルトになるらしい[3]ので、大体この計算であってるはず。少し異なるのは肺の重さの設定値の違いだと思う。人体に影響のある被曝量の閾値が100mSvということなので、これを大きく越えており、少なからず影響は出る値である。
 1.2Svという値だけど、普通の外部被曝ではなく内部被曝それも肺にあるということで、食べ物から体内に入ったのとは比較にならない影響が予想される。肺の内部に付着したプルトニウムが肺の外に出てこれるとはとても思えないのだけど、実際のところはどうだろう。もしかしたら肺で吸収されて体内を巡って出ていくかもしれない。肺に付着したまま動かないとなると、その場所で常に放射線それもα線を出し続けるので付近の細胞は常にダメージを負い続けることになる。
 どうするんだろうな。

参考文献
 [1] 日本化学会, 化学便覧基礎編改訂5版, 丸善(2004)
 [2]高度情報科学技術研究機構, 核兵器用のプルトニウムと高濃縮ウランの原子炉への転用, (1998)
 [3] 作業員の肺から2万2000ベクレル検出 原子力機構 管理体制焦点に (魚拓), 日経
 [4]肥田 舜太郎, 内部被曝, 扶桑社
 [5]身体指標・臓器重量,東京都健康長寿医療センター
 [6]エックス線(X線)・放射線に関すること(5)シーベルト・ベクレルなど放射線に関する物理量の違いを知る, KDI

関連エントリー
 20120331 セシウムさんの内部被爆と人体が元から持っている放射能

20091202の再掲 エコ埋葬のニュース

 20091202のニュースの再掲です。
 埋葬する死体を処理するのにアルカリで溶かしてしまうという方法を考えたそうです。
 日本では死体は埋葬前に焼却することが法律で義務付けられていたと思うので、日本でこの方法が取られることはなさそうです。


Mittwoch 2. Dezember 2009.
米国で計画の「エコ埋葬」、遺体をアルカリ加水分解魚拓
 すごいことをする。強アルカリがタンパク質のペプチド結合を解離させる反応をアルカリ加水分解と言っているのだが、分かり易く表現すると「薬品で体を溶かす」ということ。肉がどろんどろんに溶けるんですよ。溶解過程は決して人には見せられない状態になる。最終的に骨とか髪の毛とか残るんだろうけど、遺族としてはげろげろな気分じゃないかな。
 アメリカ人ぱねえっす。

ノクターン20番 ナショナルエディションの解説文

 以前、ノクターン20番、レント・コン・グラン・エスプレッシオーネを演奏したときにナショナルエディションの解説文を和訳した。折角なので公開するつもりだったのだけど、その前に英語の得意な人に僕の和訳が適切かどうかを見てもらおうとしたところ、音楽用語が分からんとか、実はそんなに英語が得意でもないとかいう人ばかりで全く役に立たなかった。そんなことをしている内に時間が経ってしまったというわけである。
 ナショナルエディションの和訳をする予定だった河合優子放射能怖いって言ってワルシャワに引き篭もったままで進捗が見えないし、ツイッターフェイスブックでも何かしらの活動をしている様子はあるけど和訳に手を付けている感じはしない。放射能の恐怖を克服するには物理を勉強するのが一番なんだけど、まあどうしようもないね。
 以前、ナショナルエディションには岡部玲子による解説文の和訳が付いていたらしい[1]けど、どういうわけか今は付いていない。
 そんなわけで、ネット上にナショナルエディションの和訳が転がっていないかとテキトーに探したけど、見つからないので僕が訳したものを置いておく。

演奏に関する解説

 ペダリングは後期版にだけ書き込んであるが、両方のバージョンに適用できる。
 装飾音の付いていないトリルは主音から始めるべきである。
初稿譜

p.29
 11小節右手:装飾音はトリルの開始音を補助的に示したものである。これは左手のGisと同時に弾き始めるべきである。

p/31
 56小節右手:次のようにトリルを始める:

 cisは左手のgisと同時に弾き始める。
後期版

p.32
 11,56小節右手:トリルの装飾音の弾き始めは初稿譜の解説で示したように行う。


原資料に関する解説

Lento con gran espressione in C sharp minor, WN 37

 このショパンの特殊な曲の中間の辺りにはショパンの思い出がいっぱいに詰まっている。協奏曲2番f moll Op.21では第1,第2楽章から各1つ、第3楽章から2つの断片を引用しており、また、歌曲「祈り」からも持ってきている。この曲は1830年にウィーンで書かれたのだが2種類のバージョンがある。それぞれ、上記引用部分の扱いが次のように異なっている。
オリジナルバージョン 彼自身が書いたに違いない。右手では断片を引用している間は元の3/4拍子を維持し続け、伴奏では4/4拍子のままである。ショパン以外にこんな複拍子を作るような奴はいない。
後期版 これは彼の姉のルドヴィカに送られた。数年後、彼女はフレデリクの恋人のマリア・ヴォジンスカから送られたとアルバムに書き込んだ。ショパンは引用部分を全体の2拍子に繋げ、適当に補っている。ショパンが複拍子を止めたのは実際に演奏する上で次のような問題があったためだと思われる。ショパン自身はルバートの達人であり、左右の手でリズムが乖離していようと全く問題なく弾けたが、ルドヴィカのような素人ピアノ弾きには難しすぎた。
 この2つのバージョンには以下のような心理的な違いがあるようだが、深くは考えずに別物として両者を掲載することにした。
・初稿譜には作曲者の郷愁、家族や友人と離れた悲しみ、思い出が込められている。独特のリズムには故郷での喜びと幸運が生きている。
・第2版はショパンの気分が反映され、悲しい話が思い出に寄って輝いて見えるようになってきた。
 この編集は文学の真似事をしたいわけではなく、ただ作品の周辺状況を関係づけて示すことだけを目的としている。
原資料
A1 自筆譜下書き(ヴァルデモッサにあるBoutroux de Ferraコレクション)。21~22、25~26、30~32小節のショパン独特の複拍子が特徴的である(右手3/4拍子2小説が左手4/4拍子1小節の長さとなる)。
[A2] ショパンがウィーンから姉のルドヴィカに送ったが、その後紛失した自筆譜。この版ではA1では複拍子で表記されている部分がきっちりしたリズムに改められている。
IJ ルドヴィカが1854年に編集した「ショパンによる36の非公式作品集」の冒頭6小節。リズムの間違いを含む[A2]から複写し、原典の情報(本編p.11の引用文献参照)を含んでいる。
CJ ルドヴィカによる[A2]の複写。[A2]は後日アルバムに入れてマリア・ヴォジンスカに送った。CJにある添削のいくら家はショパンによって為されたと見られる。
CK ロシア国立図書館サンクトペテルブルク)所蔵のOskar Kolbergによる複製。少なくとも2つ以上は存在している。[A2]のうちの1つ。これが自筆原稿から直接写したのか、最初のコピーなのかどうかを明言することは難しい。少しの間違いや、恐らく後から追加されたであろう書き込みがある。
CB CKあるいはワルシャワ音楽協会所蔵のKolbergによる別の複製からバラキレフによって複製された。スラーリングや指使いといった小さな変更点がある。
EL Marceli Antoni Szulcによる初版「3つのマズルカアダージョ」(Leitgeber社、ポズナン1875)。ELは失われたCKのコピーを基本としているが、さらに変更と追加がなされている。これらの内で最も重要なことは先の解説文でも議論したが、多くの後期版でこれが複製されてしまっていることである。
編集原則
 A1、[A2]どちらの原稿も伝えることにした。[A2]の原稿はCJとCKを見比べて複写した。
 A1のスラーリングはひどく断片化しており、また不正確である。僅かな追記のある[A2]についても同様のことがいえる。スラーの範囲を断定するのはとても難しい場合がある。それらはしばしば楽節の中間部分や開始部分だけを含んでいる。スラーはときどき単一の恩恵や小節をまたいで現れるので、伴奏の8分音符などよく似た音型から類推する。これらの重要性について無理解の謗りを避けるためにいくらかの加筆を行った。
初稿譜

p.29
 1小節:A1では全体を通して2/2拍子であるが、頻繁に4/4拍子へと変更している。CJ、CKも4/4拍子である。したがってショパンは最終的には4/4拍子にしたかったのだと思われる。今日、私達がこの曲を練習し始める時に目にするのは4/4拍子である。
 1,3小節左手:主要譜表はA1によるものである。バリエーションは[A2](→CJ、CK)による明らかな改良点である。2→3小節 の以降に際して平行調への転調を避けた。編集者の意見では、これらはもう1つのエディションの影響によるものではない。また、この初稿譜にこの2音を加えることに成功している。
 3~4小節右手:A1ではCis音にタイで繋いでいない。これは1~2小節との対比による意図的な変更かもしれないが、ただ見落としただけの可能性が高い。[A2](→CJ、CK)では3~4小説は1~2小節の繰り返しと記されている。
 18小節右手:2拍目の8分音符1つと16分音符4つは連符の表記のない不完全なものであるか、あるいは32分音符にするつもりだったものの連桁を書き損じて16分音符になってしまったものである。この2者のどちらがより妥当であるかを論じるのは畢竟時間の無駄であり、考えて結論の出る問題でもなく、両者に大した違いもないので本稿を編集するに当たっては前者を採用した。

p.30
 26小節左手:A1では7つ目の8分音符がb音になっている。この音はショパンが添削の際に見落とした唯一の音である。[A2](→CJ、CK)ではa音に訂正されている。この変更は次の小節に自然に繋げるためにはごく真っ当である。また、右手も次のように異なっている:

 32小節右手:A1では右手の2つ目の音はDisとなっている。歌曲「祈り」の旋律と類似性がここで示される。[A2](→CJ、CK)では作者の間違いが明らかになる。恐らくショパンは続く小節でオクターブを移動する音を心のなかで鳴らしていたのだろう。

p.31
 48小節右手:ショパンは3拍子2音目の16分音符をCisisと表記している。私たちはこれをDとした。Fis mollに店長することを考えればDとした方がきれいに収まるし、15小節はDとなっていることに気づけばショパンだって全く同様の修正をするに違いない。
後期版

p.32
 1小節:ppの支持はCK。A1にあるが、CJには写譜の際に見落としたため書かれていない。
 3~4小節:CJ、CKでは1~2小節の繰り返しが表記されている。
 7小節右手:ELでは編集者の独断でCis音がタイで繋げられている。
 8小節左手:CKとELは1番目と5番目の8分音符を間違えてdisと表記している。また、A1とCJも疑わしく、唯一信頼に足る史料である[A2]だけがfisと表記している。
 13小節左手:主要譜表の部分はCJから、バリアントの部分はCKから選んでいる。
 13~14、48~60小節左手:gisとfisにつけた4分音符の符幹はA1に倣って括弧で括った。
 18小節右手:2拍子のリズムについては初稿譜の方の同項を参照のこと。

p.33
 21~24小節:CJとCKではこの区間にある6つのナチュラルが全て欠けており、本来dであるべきところがdisに変わっている。これはショパンの編集を見落としたためであることはA1でのこの部分の描き方によって証明されている。
 24小節左手:CKとELでは7番目の8分音符を誤ってeと記譜している。
 26小節左手:ELでのこの部分の音程はショパンによって手の加えられているA1のオリジナルと同じである(初稿譜の同項を参照のこと)。この編集者はこの原稿を見ており、そのため22小節から類推して疑いなくこの改変を採用した。
 28小節左手:CJとCKでは8分音符4つのグループ2つに対してそれぞれ繰り返しの記号(/)を付けている。ショパンに25小節の音型を繰り返そうという意図はあったが、2回めだけを繰り返そうとしたわけではない。それはA1において25小節全体に渡って繰り返し記号で修正していることからも分かる。
 30小節:ppと表記しているのはCKだけである。
 32小節右手:この部分はCKを採用した。CJはこの2つにぶった切られた小節全体においてリズムの表記を多く間違えている。例えば以下のように不正確に写譜している:

 2拍目の付点8分音符と16分音符はA1での3/4小節にある2つの4分音符と一致する。30~31小節もこれと似ており、ショパンは付点のリズムではなく4分音符とした。しかし、8分音符にしたほうがオリジナルのリズムですんなりと通すことができる。したがってCKで8分音符としたものがより好ましいと思った。
 小節後半は複拍子として次のように読むことができる。右手が2つの4分音符を弾き、同時に左手は3つの音を弾く。このタイプの複拍子はA1の初稿譜に見られるが、ショパンは規則正しいリズムになるよう[A2]で単純に書き換えた。したがって彼は何の痕跡も残さず、ここでの方針と正反対の改変を行ったことになる。
 35~36,39~40小節:CKでは32~33小節の最後の2音を繰り返す形で舌のように音を増やしている:

 Korbergが次のような下らない疑いを挟んで顰蹙を買っている。
A1やCJのような信頼に足る資料にはこの音は存在しない。
・これらはCBにもない。ということはCKにも後から追加されたのか、Kolbergがバラキレフのところから写譜したときに書き損じたか。どちらの場合も[A2]には存在しないことになる。
A1と[A2](→CJ、CK)においてショパンは符幹の向きと休符によって左右どちらの手で引くのかを明確に示している。このことから、付加された音は演奏不可能である。
 Korbergは別のコピーを準備したとき、ELを元の資料として使うつもりでdisの2分音符まで広げた彼の追加を修正した。また、39~40小節では増やした音を1オクターブ下げている。

p.34
 48小節右手:ELでは15小節と同じリズムとしている。ここは左手に合わせて分配する。この分配の仕方はCJ、CKと一致するが印刷の際にそうなったとみられる。ELのこのリズムはもとを辿ればA1に至るのだけれども、この変更は15小節目との相似によってなされた可能性が高い。26小節参照。
 56小節左手:ELでは最後の8分音符はfisではなくgisとなっている。他の資料にも好き勝手な変更点が見られる。
 61~62小節左手:主要譜表はCKから、バリアントはCJのもの。A1を信頼する立場ではCKの優位を認めざるをえない。CJではeをeisとしているが、61~63小節の音型と似ているため間違えたのだろう。その一方で、ショパンが61小節から他のノクターンでやったみたいに長調のトニックにして曲調を明るくしたかったという可能性を排除することはできない(ノクターンe moll WN23、cis moll Op.27-1、fis moll Op.48-2、 f moll Op.55-2)。


 これを読んで分かる通り、原資料に関する解説は演奏をする上でほぼ役に立たない。頑張って訳すだけ時間の無駄と感じるばかりであり、この反省からこれ以降は原資料については読まなくなった。
 一方、演奏に関する解説の方は、例えば幻想即興曲の解説で書いたように適宜示すようにしているけど、特に和訳という畏まった形で表示したりはしない。

参考文献
[1]岡部玲子, ショパンの楽譜、どの版を選べばいいの?, ヤマハ(2015)

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 20140314 ショパン ノクターン20番 Lento con gran espressione

チェルニー30番17 演奏解説

 チェルニー30番17を録音した。それほど苦労したという記憶もないのだけど、やけに時間がかかったのはあんまり真面目に取り組んでいないためだと思う。ともかく、例によって解説をする。
 いつも通り、楽譜は全音版を使う。例によって、演奏する上で特に注意するべきことは楽譜の解説に書いてあるので、その部分は割愛し、もっと瑣末なメカニカルな部分を始め低レベルな解説をする。まともな解説はピティナが行っているのでそちらを参照されたし。なお、このピティナの解説をまとめた「チェルニー30番」の秘密という本が先日発売された。

テンポ
 装飾音が練習課題となっているため、速いテンポは求められておらず、4分音符で108bpsとチェルニーの練習曲にしてはゆっくりめ。普通にやる気を出せば指定の速度は出せる程度。

装飾音
 装飾音のの弾き方については、次の例に示すように弾くことを勧める[1]


1小節~

 ■この曲のメインの課題であるトリル。
 3指でキーを押してすぐに指を上げるのだが、指を上げることばかりに意識が向いて打鍵しないうちから指を上げてしまい、音が出ていないということがしばしば起こる。3指を突き出し4指を引っ込めるというような手の形を予め作っておいて、その手の形のまま鍵盤に落とすと音が出ないということはなくなるのだが、弱音が出しづらいし上部雑音の元となる。
 別の解決法として、手の高さを鍵盤に触れるかそれよりも低いくらいにして3,4指を少し伸ばし気味にする。手がもっと高い位置にある場合よりも遊びが少ないので、指の動きに対して敏感にキーが反応することでミスが減る。
 ※2小節後半~4小節右手。この間ずっと裏拍でDを押さえるので、1指をDのキーの上に置いたままで動かさないこと。

13小節右手

 ●この部分、やけに弾きにくく感じるのは多分脱力できていないせい。
 リズム変奏で色々と改善されるが、脱力できるようにはならない。
 一音一音に全体重をかけてゆっくり練習して手を極度に疲労させた後だと脱力できるようになるけど、一時的なものに過ぎず、次の日には元に戻ってる。毎日やってるとそのうち良くなるかもしれない。
 1拍ごとに腕を上から下ろすようにすると割とうまく弾ける。始めの4音で腕を下げ、5,6音目で腕を上げにかかる。この方法で上手くいくのは多分5指の動きが悪いためだと思う。5指の動きの悪さを腕の動きで補っているに過ぎない。まあ、これで弾けるようになるならいいんじゃないかと思う。どうしても指の動きだけでクリアしたいと思う方もいるかもしれないけど、徒にこの部分を練習するばかりでは効率が悪いので、一通りチェルニー30番を攻略した後で改めて試みるとか、ハノンでも練習してもう少し自由な動きを習得するとかしたほうが良いと思う。

15小節右手

 ◎1指をまたいだ後の4,3指について。Cis-Hは少し距離があることと、指をまたいだ直後の忙しいタイミングなのでHの打鍵を急ぐあまり不正確な位置取りで打鍵し、結果CとHを一緒に押してしまうということがある。Cis-Hの距離を意識すること。
 どうしても外すようなら手元を見たら良い。

17小節~右手

 2種類目の装飾音である前打音。この演奏法は上で示した通りだけど、2音を同時に弾き、前打音の方のキーを直ちに上げるという変な演奏法を提案している人もいる[2]


21小節右手

 ✡Eis-Fisの繋がりではFisが黒鍵で高い位置にあるためEisよりもFisを先に引いてしまうことがある。そうならないように4指は曲げて5指は伸ばすというような手の形を作って、手がまっすぐ鍵盤に落ちたときに先にEisを押せるように工夫する。
 もちろn指が完全に独立してそれぞれのキーを任意のタイミングで押せるのならそれにこしたことはない。

25~28小節右手

 ここのトリルの演奏法は上に示した通り。通常と異なる表現だけど、チェルニーが装飾音の表記を端折ったものと思われる。

29~30小節

 ✡右手の半音階上昇は肘を右に向け手が左を向くようにする。指くぐりの2つ前の音が白鍵であり、キーの上に指が乗ったままだとじゃまになるので離鍵の勢いで指を上げて1指の通るスペースを確保する。1指は他の指に引っかからないように鍵盤の真上から離さずに鍵盤の上を滑るように移動させる。
 指使いを変更して指くぐりの回数を減らした。その結果、黒鍵と黒鍵の隙間を3指で弾かなければならない音が2箇所生じている。この部分で躓きやすい。特に後半は体の中心からより遠い位置にあって外しやすいので集中しなければならない。
 黒鍵-白鍵の指すべりを多用して攻略することで指くぐりをさらに減らし、その上黒鍵と黒鍵の隙間を避けて手前の部分で弾くようにすることもできるのだけど、イマイチ指使いが覚えられなかったので止めた。

33~34小節右手

 手の位置を低くして、4,5指を伸ばし気味にすると弾きやすい。

35~36小節右手

 Fisを5指で取る関係上、音域はそれほど広くないのに手は大きく広げなければならない。
 33~34小節と同じようには指を伸ばすことができないので、どうしても弾きにくくなる。
 E-Fis-Eの部分とC-G-Cの部分とではそれぞれ同じポジションでは弾けないので、横着しようとせずに、3音毎にポジションを移動すること。

37~40小節右手

 この4小節の間同じ動きをし続けるので、しっかり脱力できていないと疲労が溜まって途中で音が崩れる。

45~47小節右手

 ☆チェルニー40番の解説では5指の前が3度以下のときは4指を用い、4度以上のときは3指を用いると、4指を使うように書いている[3]
 1指の跳躍距離は最大3度とそれほど離れているわけではないのだけど、手がかりが少ないのと白鍵ばかりであることで外しやすい。正確に弾けるようにならないなら手元を見るようにしたら良い。

参考文献
 [1]根津栄子, チェルニー30番 30の小さな物語・下巻, 東音企画(2013)
 [2]岳本恭治, ピアノ・脱力奏法ガイドブック Vol.2 <実践編/チェルニー30番を使って>, サーベル社(2015)
 [3]ツェルニー40番練習曲, 全音(2005)

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コロイド分散液の濃度と密度

 液中に粒子が分散しているスラリーについて、液の密度(比重)と濃度には相関関係があってどちらかが分かればもう一方も分かるようになっている。ただし、粒子が多孔質だったりスポンジ状だったりで粒子内に液が入ってくるようなものの場合はうまくいかない可能性があるのだけど、この関係式を導出する過程を理解してモデル化してみるとできるようになると思う。また、粒子の細孔に液が入ったり入らなかったりしたり、表面吸着がどうのこうのとか化学反応がとか難しいことを言い出すとうまくいかなくなるので、適宜自分の考えるモデルに適用できるかは判断してもらいたい。
 これを使うことで、メスフラスコにスラリーを入れるだけで濃度を見積もることができる。


 上の図のように液中に粒子が分散している様子をイメージする。
 ここで、分散液の密度をd、液の密度をDL(g/cm3)、粒子の密度をDs(g/cm3)、粒子の濃度をC(wt%)とする。
 液が100gあるとすると、粒子がC(g)、液が100-C(g)となる。
 このときの体積は、粒子がC÷Ds、液が(100-C)÷DL
 体積の合計は、C×Ds+(100-C)×DL
 従って、100gをこの体積で割ると密度が得られる。
{ \displaystyle d = \frac{100}{C \div D_s + (100-C) \div D_L} }
{ \displaystyle   = \frac{100 \cdot D_L \cdot D_s}{C \cdot D_L + (100-C) \cdot D_s} \\ \displaystyle  = \frac{100 \cdot D_L \cdot D_s}{C ( D_L - D_s ) + 100 D_s} }

例:チタニア/水分散液の場合。
 アナターゼ型の酸化チタンが水に分散している系を想定する。
 酸化チタン(アナターゼ)の密度は3.90g/cm3[1]、水の密度は25℃で0.997047g/cm3[2]という値を使う。ちなみに、精度についてだけど有効数字3桁がいいところなので、あんまり細かい値まで使っても意味がない。
{ \displaystyle d = \frac{100 \cdot 0.997 \cdot 3.90}{C ( 0.997 - 3.90 ) + 100 \cdot 3.90} \\  \displaystyle = \frac{388.83}{-2.903C + 390} }
となる。
 濃度-密度でプロットすると次のグラフが得られる。

 一応、最密充填構造だと74%となるので、それ以上は描いても仕方ないかなと思って75%で切った。でも粒子径が揃ってない場合はそれ以上になる可能性もある。まあ、普通はそんな高濃度にしないよね。
 こんな感じで、分散液の濃度と密度の関係を表すことができる。
 実測値と計算値が一致するかどうかを調べておきたいんだけど、我が家にはメスフラスコ、精密天秤、チタニア分散液と必要なものが全て欠けているのでできない。データは出せないけど、以前別の系で調べた時は大体合致したので使えるはず。

参考文献
 [1] Crystal Base
 [2] 日本化学会, 化学便覧基礎編改訂5版, 丸善(2004)