ショパン エチュード10-1 演奏解説

 この曲、楽譜を見るとただの分散和音の練習曲に見えるが、実際にピアノを前にして弾いてみると分散和音の範囲が広く、非常に弾きにくい。分散和音の広がりが平均10度くらいとなっており、場合によってはポジション移動しなくても掴めなくもないのだが、そういう動きは想定していない。実際、常にポジション移動をし続けなければ弾けない構造になっている。

 練習曲としての目的は柔軟な指の動きと共に強靭な音をだすこと。柔軟さを持たずに筋力だけで弾くこともできるが非常に疲れるのでおすすめしない。逆に脱力だけで、力のない指で弾こうとしてもうまく音がでない。力がないと勢いをつけて強弱を表現しなければならず、そうなると、一つひとつの音が揃わなくなってくるから。そんなわけで柔軟性と筋力が同時に要求される。ていうか、ショパンエチュードってそんなのばっかりだし。結局ものすごい量の練習を重ねることによってこの柔軟性と筋力を身につけることになる。

 バッハの平均律プレリュードを元に作られたといわれており、そこから僕は個人的に「プレリュード」あるいは「アルペジオ」と読んでいる。ショパンエチュード24曲中最高難易度ともいわれているが、僕自身全曲弾いたわけではないので実感はない。少なくとも10-2の方が難しく感じる。エチュードで最高難易度ということはショパン全曲中でも最高難易度ということになるのだが、曲自体が2分程度の短いものなので2分間我慢するだけの集中力があれば何とかなる、と考えるとソナタや協奏曲、幻想曲、バラード、スケルツォなんかの大曲と比較して弾きやすいと思う。

 コルトー編には練習方法が色々書いてあるけど、僕は3つ目くらいで挫折した。本気でピアノをやる人はちゃんと練習するんだろうけど、僕みたいな半端者には無理。

 例によって同じフレーズが何回も出てくるので楽に譜読み・暗譜をするために曲の構造をよく知っておいた方が良い。また、楽譜を見ながら弾くような余裕のある曲ではないので譜読みが終わった時点で暗譜が終了することになる。


 コルトー編には次のような指示がある。



 「響きを悪くする」というのがどういう意味かイマイチよくわからないのだが、指くぐりをするなっていうことかと勝手に解釈した。指をくぐらせるとたしかに音のバランスが悪くなる。練習次第でできるようになるのかも知れないけど

 ペダルについてだけど、殆ど全ての小説にペダルの指示がある。とはいえ、この指示に従ってペダルをべた踏みしまくってると大変音が濁ってよろしくない。そんなわけで、ペダルを踏む深さは十分音を聞いて適切と思えるポイントを見つける必要がある。

1-8小節 これが主題となる。取り敢えず、この部分をまず暗譜してしまい、ある程度滑らかに弾けるようになるまで練習するといいと思う。

1-2小節



 左手はほとんどオクターブを押さえているだけなのであんまり解説とかいらないと思う。

 まず、左手でCのオクターブを抑えたらすぐに親指を離し、そこに右手が入ってくる。右手124指でCGCと順に押さえる。このとき、最初に叩いた左手の下のC音の倍音が上のC音、右手C、そして3倍音がG、4倍音がCとなり、ベースの音の倍音を押さえる構造になっているのだが、ここら辺は演奏技術と関係ないので割愛する。

 この部分、124指でオクターブの広さを持っており、そこから更に上のEを5指で拾う。この2小節はすべてのEにアクセントがついている。アルペジオの最高音にアクセントを付けるということで、3小節目以降にこの支持はないが同様にアルペジオの最高音にアクセントを付けるようにする。このとき、エチュード10-2で345指を鍛えまくっていると最高音のアクセントを容易に出来るようになる。また、このアクセントによってこの曲はテンポを刻むことになる。これは革命のエチュードOp.10-12でも出だしで同じ構造のアクセントとなっている。

 Eを押さえたとき、10度の分散和音を弾いた直後なので手はいっぱいいっぱいに開いているはず。にもかかわらず、次は3度下のCを1で押さえる。5→1を3度の距離で弾くことになる。5と1の間に鍵盤1個分しか隙間がない状態まで手をすぼめる。手を極限まで開いて極限まで閉じるという動きを2分程度の間に300回以上行うというのが疲労の原因となる。

 1小節目の終わりと2小節目の始めの部分の最高音付近は10度が届けばポジション移動なしで弾けるのだが、やはり指を転がすように弾いた方が最高音のアクセントを付けやすい。

 1-2小節を例に説明したが、この動きはほとんどすべての部分で言えることなので、3小節以降も同様のものと思われたい。



 コルトーはこのように弾いいている。この弾き方だと右手と左手の最初のところが干渉することがなくて気分が良い。僕はこちらの弾き方をする。

 シフラは左手第一音の前に1オクターブ下を叩いてから始める。

 好きなように弾いたらいいと思う。

9-10小節 1-2と同じ。

11-12小節 最初の難関。F-C-Fを2-4-5で弾く。とにかく2-4-5が広がらないと話にならない。

22小節目



 22小節目は3音目と4音目が異常に離れており弾きにくい。どうしても弾けないとか、練習なんかしたくないという場合は、4音目を左手で取ると極端に引きやすくなる。左手取りについては賛否両論あり、横山幸雄エチュード10-2の公開レッスンで左手取りを推奨していた。一方、佐藤卓史は2005年のショパンコンクールで左手取りする人が多いと苦言を呈していた気がするんだけど、ソースが見つからん。そういった状況を見るに、コンクールなんかでは左手取りはしない方が無難かな、と思う。

 僕も以前は左手取りをしていたのだけど、今は止めた。実際のところ左手取りした方が観客には受けがいい。動きが派手になるからね。

 左手取りをしない場合は指使いを譜例のように楽譜と変えて弾いている。3音目と4音目の距離が広いため、少しでも余裕のある指使いを目指した。オリジナルでは7度を1-2で繋ぐのだが、この指使いだと7度を1-3で繋ぐことになり少し楽だと思う。ただし、今度は1音目と2音目を5-4で繋ぐことになり、こちらにしわ寄せした形になる。5指をまっすぐ伸ばしてDis音を取った次の音はしっかりと曲げた4指でH音を押さえる。相当指を鍛えないとこの動きはできないのだけど、それでも僕は7度を1-2指で拾うことを嫌った。

 ついでに、指使いを変えたこととはあまり関係ないのだけど、第3音のAは黒鍵と黒鍵の隙間を押さえなければならないため、なかなかうまくいかない。がっつり練習して横の黒鍵に指が引っかからない動きを身体で覚えるしか方法はない。

 22小節目に入る直前がCであり22小節に入った最初の音がDisであり、#がついている。5指の瞬間だけ右肘を右側に傾け、鍵盤の奥、黒鍵に5指を届かせる。Disを叩いたらすぐに腕を戻しながらその後の3音を弾く。次いで再びDisを叩くときは手をすぼめると勝手に際に手が右に傾くようになるので、正確に音を拾おうとすれば大体正しい姿勢になる。また、2回目以降のDisでは黒鍵に対して指が斜めに当たるようにするとミスタッチを減らすことになる。

 こういった問題点は左手取りをすることで一挙に解決してしまう。だから嫌う人がいるんだな。

27小節





 ナショナルエディションでは1拍目と2拍目で違う指使いをしている。何でそうなってるのか理解しがたい。同じ指使いの方が安心なのに。一方、コルトー版では1245で統一している。

 右手DGCFを1235で取るとCFの間で4指が勝手にキーを押してしまうことがあるので、意識して4指を上げること。手の位置を低くした方が4指が下がりにくいのだが、それによって音が汚くなるのなら止めたほうがよい。

 上手くいかなければ1245で統一するという逃げ道が用意されている。こちらはCFを45で取るのが少しツライかも知れないが、4-5で4度という距離はこの曲に於いては頻出するため、どうやってもこれができないという人はこの曲に取り組むべきではない。とはいえ、11小節で散々練習しているはずなので、ここまで辿り着いておきながら無理だと投げ出す人もいないと思う。

34小節



 拍始めのDを外しやすい。直前のBからDに移るときの1,5指の指の動きを手の形で覚える。

35-36小節



 この2小節はエチュード10-1の中で最も難しい部分。具体的にはA-Cisを4-5で弾かせようというところが凶悪。たいていミスタッチする。しかし、この最難部は左手取りでパスすることができる。これによってだいぶ難易度が下がる。左手1,5指でオクターブを叩いた直後に2指で同じA音を叩き、アルペジオを開始する。続くE-A-Cisを右手の好きな指で弾けばよいので非常にやりやすい。また、この部分は2小節ペダルを踏みっぱなしなので、アルペジオの最低音すべてを左手取りで済ますことができる。これならミスタッチは殆どないやったね。

 左手取りをしない場合。35小節目、Aは手の勢いだけで弾くことができない。手の勢いは次のCisで使わなければならないのでAを押すためのベクトルは4指の力だけで生み出さねばならない。じゃあどうするかって言われても鍛えろとしかいいようがない。36小節目は拍頭のCisは小指をしっかり伸ばして弾く。実は、このエチュードアクセントとなるアルペジオの最高音だけはっきり押さえていれば他の音は少々ミスっても曲の流れには大して影響しない。聞いていて、あぁ、ちょっと濁ったかなといった程度。それはコルトーの録音なんかを聞けばわかるとおもう。

37小節



 漫然と弾いていると4指がGisを押していることがあるので、意識して4指を上げておくこと。

49小節 ここから再現部となる。49-58小節は1-10小節と同じ。

63-64小節



 この部分、弾きにくいと思う人は多いと思う。僕の弾き方はあまり人におお薦めできたものではないのだけど、63小節目最後のCを5で取り、64小節目最初のEsを4で取る。そのため、5-4で指くぐりする形になる。上でコルトーの言ってることにぶつかる気がするけど、弾けないんだから仕方がない。また、僕の手は小指が短くて薬指が長いため、5指よりも4指の方が遠くまで届くということもある。そうすると、64小節の前半は4-3-2-1という指使いになるのだが、これがまた都合がよい。指示通り5-4-2-1で弾こうとするとCisの黒鍵が邪魔でCを押しにくいし、3指が邪魔でAを押しにくい。そんなわけで、色々考え試した結果この指使いに落ち着いた。

次いで、64小節後半だが、この部分は22小節と同じ音型になっている。譜例にはちゃんと書いてないのだけど、指使いは5-4-3-1となる。

73小節



 1,5指が黒鍵で、2,3指が発見という理想とは逆の指使いになるが、手のポジションは黒鍵の上に来るため各指のキーまでの距離は割と揃っている。何故弾きづらいかというと、2,3指が黒鍵と黒鍵の隙間に入らないといけないことと、キーの最も奥の部分を押さえることになるため通常よりも力がいる。

 キーの抵抗に負けずにちゃんと音を出すのはなかなか大変。1,5指は脱力し、2,3指は打鍵の際に指が曲がらないようにして力を分散させずに打鍵する。

77小節‐最後



 最後はハ長調に戻ってきて終了。

 77小説の始めでペダルを踏んだまま、曲が終わってもペダルオフの指示がない。

 これは別にペダルを踏んだまま引き続きOp.10-2を演奏しろとか無茶なことをいうわけではなく、79小説のフェルマータで自然に音が減衰するようにしてフェードアウトするようにという指示。

練習について

 テンポが176と非常に速い。指定のテンポで弾こうとすると、急ぐあまり小節頭の16分休符がだんだん短くなって、しまいには左手オクターブとほぼ同時に押すようになってくる。これはよろしくない。これを避けるために、練習するとき、まず最初にペダルを踏まずゆっくりと正確に弾いて正しく弾けているかどうかを確認することがよい。準備運動にもなるし。どんな練習でも、まずゆっくり弾くのが基本なのだけど、特に独学だとないがしろにされがちなので気を付けること。

 でも、いくら小細工をしても結局時間をかけて練習しなければものにならない。

 最終的に脱力してかつ十分な音量を出すことができるようになればテンポは気にならなくなる。

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