筆写体について

 以前、「下」という字の右の点をくっつけるのかくっつけないのか、とかいう下らない議論をしたことがあったことを思い出したので、書いておくことにした。
 Yahoo!知恵袋(魚拓)にある回答で大体あってるのだけど、常用漢字の六体にこのあたりのことが書いてあったので引用しておく。

P6-9

 戦後の国語施策であった当用漢字1850字は、昭和56年に至って95字を追加し、常用漢字1945字が告示されることとなった。これが現代国語の目安である。
 その常用漢字表の前文には、字体について次のような考え方を示している。
1 表に示したここの漢字の字体は、印刷文字として現在最も広く用いられている明朝体活字の一種を例に用いて示した。
2 これは各種の明朝体活字のデザイン上の差異を問題にしようとするものではなく、明朝体と異なる印刷文字を拘束しようとするものでもない。
3 これは筆者の楷書における書き方の習慣を改めようとするものではない。
4 明治以来の活字の字体とのつながりを示すために、いわゆる康煕字典体の活字を適宜括弧に入れて掲げた。
5 人名など固有名詞に関わる事態は、必要に応じて別に考慮される余地がある。

 以上の考え方のうち、3については次ページのように具体的な事例を示して、活字と楷書とは異なることを明言したのである。
 この考え方は常用漢字表になってはじめて示されたものではなく、当用漢字表においても、活字体と許容体として明確に示されていたのである。それにもかかわらず、何故かこの考え方は顧みられず、当用漢字字体表の活字のとおりに筆写させるという無謀な教育が横行し始めたのである。割りあい筆写体に近い教科書体活字が教科書に使用される小学校においては、その活字通りに文字を書かない児童には×を与える教師さえ現れることになった。
 活字は前後左右にどんな字が配列されてもおさまるようにデザインされる。その点画は詳細に見れば見るほど千差万別があり、とてもその通りに手描きすることなど不可能なことなのである。それがわかると先の教師は「活字のデザインを統一して欲しい。それでなければ完全な文字指導はできない。」と言い始めた。
 常用漢字表の前文に示した考え方は、このような愚かな傾向に対する鉄槌である。そこでは活字のデザインと手書きの慣習にはいろいろの差異があることを認め、また、活字デザインの統一を求めようとするのでもないのである。この全文の意味は非常に重大であるといわなければならない。
 本書で第一に明朝体活字を示し、次にその筆写体(楷書)を示したのは、この全文の思想を受け止めているのである。

 ということで、いろんな書き方があるのにただ一つが正しいと決め付けるなんてアホな話だし、教育現場で多様性を拒否するとか愚かだとしか言い様がない。
 ちなみに、最初に示した「下」は以下のように書かれていた。

 やっぱり離してんじゃねーか。
 なお、僕自身の文字を確認したところ、しっかりくっついていることが判明した。今後、改めるつもりはない。