ガソリン自動車をやめる方向性とか

 最近、ガソリン車をなくそうという政治的な動きがあるようで、英国では2030年までにガソリン車とディーゼル車の新車販売を禁止するということらしい[1]。外国のことなので勝手にしろと思っていたら、日本もそれに追従するとか言い出した[2]。技術的に可能なのかとか、資源としてのリチウムは足りるのか、インフラ整備とかできるのかとか色々疑問は尽きないが、環境大臣が「気候変動のような大きな問題は楽しく、かっこ良く、セクシーであるべきだ」とか寝言を仰っているので何も考えずになんとなく環境にいいんじゃねーのっていうイメージしか持っていないのは分かる。
 平成29年はガソリン消費量が約5100万kL、軽油消費量が約2500万kL[3]らしい。ガソリンが7970kcal/L, 軽油が9088kcal/Lなので[4]、合計で5100万kL×7970kcal/L+2500万kL×9088kcal/L = 739GWhとなる。ちなみに関西電力の火力発電の平成29年度の発電量が678億kWh = 67.8TWh[5]。関電が発電量を1%増やす程度なので全国の発電所に分散したら大した量ではなさそう。イメージ的には原発を何基か増やさないと対応できないように思ったけど、そうでもなかったか。あるいは、計算を間違えてるだけかもしれない。
 それはそうと、リチウムイオン二次電池は体積エネルギー密度が250-676Wh/L[6]となっている。ガソリンは上記の通り7970kcal/Lである。単位を合わせると、ガソリンは9300Wh/Lとなる。リチウムイオンの最大のところと比較しても13.8倍の違いがある。つまり、ガソリンタンクを廃してそれだけの体積を持つ電池を載せないと同じだけの距離を走れないということになる。EVは燃費が良いとされているけど、流石に13.8倍を吸収できるほどではないだろう。
 リチウムイオン電池はガソリンに比べて遥かにエネルギー密度が低い。これだけの差を埋めるには相当のブレイクスルーが必要だというのは素人目にも明らかだが、リチウムイオンを使っている以上はその目はない。
 リチウムイオン電池の反応は次のようになっている[6]
・正極での反応はLiCoO2 ⇄ Li1-xCoO2 + xLi+ + xe-
・負極での半分の反応はxLi+ + xe- + 6C ⇄ LixC6
この反応で得られるエネルギーが理論上の限界となる。
 一方、ガソリン(オクタン)はというと、
C8H18 + 12.5O2 → 8CO2 + 9H2O
単純に水と二酸化炭素に変わるだけで実にわかりやすい。
 上の式は化学反応式だけでエネルギー収支が書いてないのだけど、リチウムイオン電池の方はイオン結合であり、ガソリンの方は共有結合の解離である。化学結合の強さは、共有結合>イオン結合>金属結合という順がある。リチウムイオン電池では1分子でイオン結合1つの解離によるエネルギーを取り出すのに対し、オクタンでは1分子あたり25個の共有結合を解離するエネルギーを取り出すことができる。イオン結合1つのエネルギーで共有結合25個の13.8分の1までエネルギーを高めたのは相当頑張っているとは思うが、純粋なエネルギー量では到底太刀打ちできないのである。
 そんなわけで、リチウムイオン電池を使っている限りはガソリンよりも扱いやすくなることはないのである。ハイブリッドエンジンのようにガソリンが生み出すエネルギーを効率よく運用するというのであれば有用だとは思うが。
 ちなみに、水素を原料とするならガソリンの代わりになる可能性はあるが、安全に扱えるだけの技術が必要になる。

参考文献
 [1]脱ガソリン車、世界で加速 英は販売禁止を5年前倒し魚拓), 日本経済新聞
 [2]政府が「2030年ガソリン車禁止」を打ち出した訳(魚拓), 東洋経済ONLINE
 [3]自動車燃料消費量統計年報 平成29年度分(コピー), 国土交通省
 [4]換算係数一覧魚拓), 石油連盟
 [5]よくあるご質問(魚拓), 関西電力
 [6]リチウムイオン二次電池(archivetoday), Wikipedia

チェルニー30番11 演奏解説

 チェルニー30番11を録音したので例によって解説。今回が最終回となる。
 右手のスケールの練習だけど、以上にテンポが速いので陸上競技でもしているのかと思えてくる。
 楽譜はいつもどおり全音を使う。

・テンポについて
 付点四分音符で66bpmとなっている。66という数字自体はどうということもない普通のテンポに見えるが、1拍が8分音符の曲なので、基準となる音符を8分音符に変えると198bpmである。メトロノームの下の端っこの辺り。ほぼ同じ速度は16番と29番があるが、どちらも指くぐりが少ない、29番に至っては左右の手を替えながら同じ速度を出しているのでかなり余裕がある。
 こうすれば速く弾けるという一発逆転みたいな手はなく、小賢しいテクニックを組み合わせて何とか間に合わせていると言った感じである。とはいっても、左手は特に苦もなく弾けてしまったので、演奏者の技術的な適性というのもあるのだと思う。とはいえ、最低限脱力はできないとどうにもならない。細かい技術については、個別に説明する。

12小節

 基本的な部分なので、この最初の2小節を例に説明しようと思う。
 音楽の基本的な認識として、音が高くなるに従って強くするというものがあり、かなり忠実にクレッシェンドで表現している。それで、2小節に2つのクレッシェンドがあるのだけど、前半のクレッシェンドの最後でsfとなった後すぐに次のクレッシェンドが始まるが、毎回最初の強さに戻してクレッシェンドし始める。強拍部分が休符になっているので、スケール開始の音は一番弱くすること。
 左手は強拍のベース音は付点四分音符で保持し、弱拍にはスタッカートが付いている。このスタッカートに合わせてベースを離さないように最後まで保持すること。
 手元を見ずに弾くために:譜例に書いたように跳躍の距離を書いておくと手探りで次の音を見つけることができる。ただし、速度を上げていくと手探りしている余裕はなくなるので、結局は手元を見なければならなくなる。ただ、暗譜しなくても練習できるので効率的なやり方だとは思う。
 スケールの弾き方。結局の所、指くぐりをどう処理したらよいのかという問題に帰着する。とはいえ、基本的に8番のときに説明した内容と同じなので、そのまま抜き出しておく。

 例えば1小節目最初のフレーズのようにCDEFGAHCを12312345の指使いで取るとすると、

Eを3指で押した後、1指で2,3指の下をくぐってFを押すことになる。こんなに手間をかけていては時間がかかるのは自明であり、滑らかで粒の揃ったスケールになるわけがない。
 ではどうするかというと、打鍵直前のタイミングで既に1指がFキーの上にあればよいのである。スケール最初に1指でCを打鍵し、ついで2指でDを打鍵している時点で1指を離鍵し、Fに向かわせるのである。勿論、なかなか上手くはいかない。この指くぐりのタイミングに合わせて肘を右側に向け指先が左側を向くようにして、少しでも1指がFに近づけるようにするのである。Eを押している3指を軸に腕全体を回転させるような動きになる。
 あるいは、CDEと打鍵した直後に、急いで手全体のポジションを移動させて1指をFの上まで持ってくるポジション奏法という方法もある[1]。しかし、ポジション奏法は手全体を移動しなければならないため、一定以上の速度ではポジション移動の際に音が途切れてしまうので、この曲を速く弾く際にはお勧めできない。
 この2つの奏法は互いに対立する方法ではないので使用状況によって峻別する必要はなく、両者を組み合わせた方法で弾いても何ら問題はない。指くぐりに際して移動する1指などを妨げない手の形を作るという部分が本質となるのである。従って離鍵は速ければ速いほうが良い。
 指くぐりした後は、1から5指に向って順に打鍵する。これは手首の回転を使うと速くなる。
 これらの弾き方を意識しながらリズム変装を行うと弾けるようになってくる。リズム変装はパッセージを細かく分割することで上手く行っていない部分を明らかにしてくれるので、リズム変装で上手く行かない部分を集中的に練習することで効率よく演奏を身につけることが出来る。

 これに加えて、指くぐりの際にキーの側面に指が引っかかって躓くことがある。これは離鍵で指がちゃんと上がっていないせいなので、離鍵のときは指の力を抜いてキーの反発にまかせるだけではなく、積極的に指を上げるよう意識しなければならない。
 右手、登りのスケールで嬰音とその直前の音を同時に押してしまうことがある。白鍵より黒鍵の方が高い位置にあるため、白鍵よりも僅かに早いタイミングで打鍵してしまうため、こういう速度の速い曲では同時に、あるいは寧ろ黒鍵の方を先に引いてしまうことがある。4指で黒鍵を押すときに起こるので、多分3指の動きにつられて4指が動いてしまうことに原因がある。注意して指を動かすしか対策はない。

4小節

 ☆右手5拍目のG。下降スケールで指をまたぐ直前の1指は離鍵時に手前に引っ掻くようにするが、このGはキーの上に指を残して普通に指を持ち上げて離鍵する。この部分はポジション移動がないため、動きの少ない普通の離鍵でも必要な速度は出せるし、打鍵が正確になる。

10小節

 ⑤右手下降スケールのこの運指は拍ごとに指をまたぐようになっており、拍を意識しやすいようになっている。

16小節

 ☆左手3拍目。32分音符のスケールの3拍目に合わせてこの左手の{ \mathrm{ G:VI^6 _4 } }を押さなければならないのだが、スケールとリズムを正確にリンクさせるのは極めて難しい。それどころか右手が今度の音を押しているのかさえも認識が追いつかない。いっそ、少し早めに左手を離鍵しておいて右手のスケールがAを押すタイミングに合わせて打鍵するようにした方が良いのではないかと思う。

19小節

 ※右手。ここの指くぐりを外しやすい。1518小節ではうまくいくのだが、4小節の間鍵盤上を駆けずり回って疲れているだけかもしれない。

参考文献
 [1]岳本恭治, ピアノ脱力奏法ガイドブック②《実践編/チェルニー30版を使って》p24, サーベル社(2015)

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樅の木 Op.75-5 演奏解説

 シベリウスフィンランディアとか交響曲なんかがメジャーどころだけど、ピアノ曲も結構書いていて、樅の木は割と易しいため発表会とかでよく演奏される。
 微妙に弾きにくそうな部分もあるけど、弾いてみると意外に無理なく弾けるようになっている。
 楽譜は全音シベリウス ピアノアルバムを使った。
 3ページの短い曲だけど、都合よく譜めくりできるタイミングがないので、3ページめだけコピーを取って横に並べて演奏した。
 ハイレベルな解説は森本麻衣が行っているけど、ちょっとレベルが高すぎるので、もっと低レベルな開設を目指す。

曲の構造について
1:前奏
239:メイン部分
40カデンツ
4152:再現部
5356:コーダ
というような感じになっているが、それぞれの部分の中でもうちょい細かく分けることができる。
 曲全体を見ると4小節ごとのブロックが見える。付点2分音符をメインとする最初の3小節と8分音符をメインとして最後に16分音符を持ってきてスイングする4小節目のブロックである。1小節目は6拍あるので、これを2小節分と数えると殆どの部分に適用できる。
239:メイン部分
のメイン部分は途中2429でワルツ的な部分を挟んで前後に分けることができるが、これは曲全体をメイン部分、カデンツァ、再現部に分ける構造を縮小している。
 123小節は4小節のブロック3つの計12小節が2つ並んでいる。4小節ごとのブロックを1拍として3拍子のリズムを拡大して、入れ子構造にしているのかもしれない。

拍子について
 1小節目と40小節目がカデンツァとなっている。リズムを取りづらいのだけど、連桁している一塊を1拍4分音符1つ分とする。
 基本的に3/4拍子となっていて、ワルツっぽい動き、つまり拍頭にベースを取って、続く2拍で同じ音を鳴らすという動きをしているが、ワルツではないということを意識して弾くべきである。ただし、2429小節はワルツみたいな流れになる。

テンポについて
 テンポは曲の進行に合わせて目まぐるしく変更する。まとめて説明すると結構分量が多くなるし、譜例を一緒に示したいので、個別に説明しようと思う。
 また、テンポがコロコロ変わるが、拍は正確に取らないとだらしのない曲になってしまうので、「イチッ、ニッ、サンッ、イチッ、ニッ、サンッ」と数えながら弾く。

12小節

 1小節のカデンツァ。前奏になる。
 テンポの指定はStretto(だんだん早く、緊張感を高めて)となっているが、基準の速度が示されておらず、どれくらいの速度から加速していけばよいのか悩みどころである。4拍目のallargando(だんだん遅くしながらだんだん強くrit.+cresc.)を経て2拍目のLento(遅く)に至るということで、このLentoを基準に速度を逆算することができないでもない。とはいえ、最終的にLentoにするというだけで、あまり明瞭に速度を示しているわけではない。速くなって遅くなってLentoに至るということしか示されておらず、開始の速度がLentoより速いのか遅いのかさえも不明である。結局、演奏者の好みの表現をするという以外に解釈のしようがない。まあ、カデンツァなんだから表現は作曲者よりも演奏者が主体になるのは当然かもしれない。
 ペダルは4拍目まで踏みっぱなしで、5、6拍目は適宜踏み変えるようになっている。テンポを落としてから踏み変えるようになっているが、テンポが遅いときは前の音が残っていると不協和音として目立つためだと思う。
 譜読みのために:分散和音の音を見ると、右手は全てオクターブとその間の音で構成されている。そして、その中の音というのは4度→5度→4度→5度→4度→5度という順で、4度と5度が繰り返されている。この曲は1小節目に限らず、色んな所で2つずつの塊による進行で構成されている。ここでは2拍の塊3つとなる。左手の一番下の音は塊ごとに2度ずつ下がっていき、塊の中では5度下がる。
 まとめると次のようになる。


2小節
 con suonoと書いてある。"con"は「~で、~とともに」、"suono"は「音」で英語で言うところの"sound"に相当する。だから、"con suono"では「音と共に」となるけど、意味がわからない。舘野泉は上に書いてあるLentoと一緒にして"Lento con suono"で「非常に遅く、夢見るように」と言っているが[1]、どう見てもLentoと離して書いてあるので納得できない。
 con suonoがどこに掛かっているのかと考えてみる。少なくとも上のLentoではないだろう。とすると、左の付点二分音符か、上の4分音符2つか、小節全体(というか曲の流れ自体)かとなる。ところで、2小節と殆ど同じ41小節は次のようになっている。

ここではcon suonoの位置が異なっていて、付点二分音符の下に書いてある。この2つの表記の違いを見るに、2小節ではcon suonoを小節頭に書きたかったけど、大譜表の隙間が小さすぎて仕方なしに付点二分音符の右側に書いたというだけと思われる。ってことは、con suonoは小節全体を示していることになる。
 con suonoの意味を調べていると「音を伴って(無音ではなく)」としているのを見つけた[2]。となると、音を消さないで持続させるというような感じだろうか。舘野泉の言う「夢見るように」という表現もあながち悪くないと思えるが、いかんせん曖昧すぎる。

3小節

 2拍目からはペダルをオフにする。ペダルオフの指示はかなり重要なので見落とさないように。
 2小節で音を消さないで持続させるとか何とか書いたが、ペダルオフと休符によって早速違えることになる。しかし、是非ともこの休符はしっかりと無音にしたい。そして、8分音符にはアクセントが付いているが無音の後の16分音符にはアクセントがないので、弱音で入る。

5小節

 左手の10度の和音。短10度でちょっと近いと見せかけて、黒鍵-白鍵なので白鍵-白鍵の10度よりも遠くなっている。
 森本麻衣はこの部分は左手で弾かないで右手で取るようにと言っているが[3]、多分左手だと届かないから分散させなければいけなくなるけど、分散させずに同時に弾くべきだということなんだと思う。頑張れば届くので全部左手で取るようにしてる。

1623小節
 ペダルの指示が全くないけど、これまでと同様にペダルを踏むべき。試しにペダルを踏まずに弾いてみると酷いことになるから、わざわざ書き込むようなことではないと思ったのかもしれない。
 3239小節も同様。

17小節

 2拍目と2拍目の音が異なることがよくある。この違っている音に少しアクセントを付けるて響かせるといい感じになる。

2429小節

 基本的に2小節のグループでできており、1音ずつ下がっていく構造になっている。各グループの中では、左手ベースは5度下がり、右手は3拍目の中の音を覗いて2度下がる。3拍目の中の音は変わらない。左手2拍目は3度下がる。図で示すと次のようになる。


40小節
 カデンツァ。長いので譜例はなし。
 全部で32拍からなる。3つのシーンに分けられる。フェルマータの前までの12拍をA、’までの14拍をB、残りの6拍をCと呼ぶことにする。
 Risolutoというのは「きっぱりと」という意味で、テンポの指示ではない。ABフェルマータ以外にテンポの変更はない。"mfz e cresc. poco a poco"とあって音を強くしていかなければならないけど、急く気持ちに任せてテンポを速めることがないように正しく拍を刻まなければならない。
 Aは右手の各拍最初(と真ん中のオクターブ上)の音に注目すると2拍毎の塊が3つでまとまっていて、それが2回出てくる事がわかる。2拍の塊の中では2度下がり、3つの塊の中では2度ずつ上がっている。この規則性に気づくと譜読みが捗るけど、暗譜できるほどではない。結局、譜面を見ながら演奏することにした。右手の抑える音が半分くらい分かるので、大分弾きやすくはなる。
 Bは1拍に10~11音押し込められているので、Aよりも忙しくなる。速度の変更の指示はないので同じ速度で拍を刻んでいく。各拍最初の音が半音ずつ下がっていく。ここでも2拍ごとの塊ができており、右手の分散和音が広い範囲と狭い範囲を交互に繰り返すようになっている。
 C1小節を1オクターブ下げたのと殆ど同じだけど、少し異なっていることに注意しなければならない。まず、Strettoではないので、Bと同じ速度で入って、2~3拍目の当たりのallarg.で速度を落として、最終的に次の再現部でLento至る。1小節目よりも速度を落とすタイミングが早い。最後の拍の左手は1小節と音が違う。譜面上の違いはこれだけだけど、1オクターブ低いためにペダルを全開で踏んでいると音が響きすぎるという場合はペダルを少し緩めてとかするとよい。

4152小節

 ここから再現部。基本的に213小節と同じだが、フェルマータが付いていたりペダルの位置が違ったりするので注意がいる。

5356小節

 上の方で53小節からコーダと書いたけど、もしかしたら51小節からかもしれない。4小節のグループで見たときに、5051小節の間が切れ目になるため、その可能性もある。コーダに入った瞬間から特別変化があるわけでもないのでどこからだとかはあまり重要ではない。
 2小節ごとにフェルマータがある。フェルマータは「停止」を表すイタリア語なのだが、音楽用語だといくらか派生した用法がある。このようにフェルマータがいくつか続いている場合は、最後のフェルマータのみが停止を表す。他は息継ぎのように幾分切りながら進行し、最後のフェルマータに向かう[4]。また、息継ぎの合間にpoco rit.を挟んでテンポを落として終止に向かう。
 最後、5556小節。ペダルの指示はないが、勿論ここでもペダルを踏む。舘野泉はペダルを3回踏み変えると良いと言っているが[1]、ハーフペダルとかで響きを逃してもいいんじゃないかと思う。

参考文献
 [1]舘野泉, シベリウス ピアノアルバム, 全音
 [2]https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1482285069, Yahoo!知恵袋
 [3]森本麻衣, ピアニストはこうやって譜読みする③シベリウス「もみの木」 森本麻衣, YouTube
 [4]菊池有恒, 楽典―音楽家を志す人のための 新版p164, 音楽之友社(1988)

疎水性粉体が水に浮くことについて

 疎水性の粉を水に混ぜようとしても、当然ながら分散しない。そして、粉の比重が水よりも相当に大きかったとしても浮いてくる。ただし、大きな塊になると沈む。
 これは何故かというと、粉の疎水性表面は水と馴染まないが空気とは馴染むので粉が周囲に空気を纏った形になって真比重よりもかなり軽い状態になる。一方、大きな塊となっている粉は体積に対して表面積が小さくなるので纏っている空気の量が少なく、水に浮くまでは軽くならないため沈む。実際、沈んだ塊をよく見ると表面に空気の層が見える。
 それで思ったのだけど、それなら空気のない状態で水に沈めたら最初から沈むのではないかと。
 というわけで試してみた。
 粉はコロイダルシリカの表面をアルキル基で修飾して疎水化したものを乾燥して作った。

何もせずに粉を入れたカップに水を注ぐ
 これは予想通り粉が浮く。

 ちょっと赤っぽく見えるのは、カメラのせいではなく、シリカの粒子が250nmくらいの粒径の揃ったものであるため、構造色で発色している。
 粉と水、入れる順番によって様子が変わる。
 水を先に入れた場合はすべての粉が水に浮く。ちょっとくらい撹拌したところで沈むことはない。
 粉を先に入れた場合は部分的に容器の底にへばりつくものが現れる。水が粉を避けるため、粉の周囲の空気が容器の底と密着して、結果としてその下に水が入り込めなくなるため、粉は浮いてこない。

真空中で水を加える
 粉を入れたカップをデシケーターの中に置いて、真空ポンプで引いた状態で水を注入した。
 見事水没。それどころか撹拌したら少し分散する。分散するってことは表面に水酸基があって水和してんじゃないかって思うけど、別にそうでもないらしい[1]



溶媒置換してみる
 上の結果から、表面に空気がない状態で水に入れたら浮いてこないということなので、態々真空状態なんて面倒な真似をしなくても、溶媒置換してやればいいじゃんと思うわけである。
 というわけで、粉をメタノールに分散し、水を加えて加熱撹拌してメタノールを蒸発させた。
 完全にメタノールが蒸発したのかちょっと自信がないが、メタノール20mlくらいに対して水60mlくらい、これを40ml弱まで蒸発させているのでメタノールはほぼ残っていないんじゃないかと思う。
 撹拌を止めて暫く経つと、いくらか沈殿しているものは確認できるが、それなりに分散している。
 すぐに凝集してみんな沈殿するのかと思ったけど、意外にいける。


凝集の原理について
 シリカはSiO2と表記されるが、粒子表面はSiO2で表すことはできず、基本的にSi-OHの形をしており、下図に示すようにその形状も多彩である[2]

 シリカ粒子の表面は通常は水酸基の存在によってマイナスに帯電していて電気二重層で粒子同士があまり近づかないようになっている。この表面水酸基をアルキル基で置換することによってゼータ電位が小さくなり粒子同士の反発が弱くなる。いわば塩析したような状態である。
 また、粒子自体が周囲に水を引きつけなくなるので粒子表面に存在する水が水素結合で拘束されず運動量が大きくなることによって局所的に比重の小さい状態になるため、粒子同士が近づく力が働くようになる。
 こうしてファンデルワールス力の影響範囲よりもだいぶ遠くから凝集に向かっていく。




 っていうようなストーリーを考えたんだけど、どうだろ。
 自分でも悪くないと思うけど、実験で証明する気にもならない。MDで計算するならワンチャン行けるかもってくらいかな。さあ、誰かこのネタを持ってドクターを目指すんだ! 僕はやらん。

参考文献
 [1]石田尚之, 液体中の粉体間に働く疎液性引力の直接測定と起源究明, ホソカワ粉体工学振興財団年報No.23(2015)38-43
 [2]日本化学会, 第3版 現代界面コロイド化学の基礎p183, 丸善(2009)

チェルニー30番13 演奏解説

 チェルニー30番13を録音したので解説。
 トレモロの練習で、曲集全体だとスケールとかアルペジオが多い中、独特の立ち位置となっている。音楽の上での小難しいことは措いておいて、どうやって演奏するかという点に焦点を当てて説明する。真面目な解説はPTNAの解説とかチェルニーってつまらないの?とか読んだらいいと思う。
 楽譜はいつもどおり全音を使う。

リズムについて
 6/8となっているので8分音符6個で1小節なのだが、8分音符3個×2という組み合わせである。
 代表して12小節目を見てみる。

 左手の方が分かりやすいのだけど、1小節目の前半と後半で3音ずつになっているけど、音の並びが逆になっている。この6音について、DとEsを交互に弾くように見えるが、演奏する上で最小のフレーズとして3音の塊と見なければならない。決して8分音符2個×3ではない。従って、小節の前半と後半で音の並びが逆転するためかなり弾きづらく感じるが、それでも3音の塊として認識してリズムの取り方をそれに合わせなければならない。
 実際のところ、曲全体を見渡せば殆どの部分で3音×2という作りになっていることが分かるし、そのため一部だけリズムを変えるのでは筋が通らないのである。

テンポについて
 テンポを落として弾いた時はチェルニー30番で最も難しいと感じたのだけど、テンポを早くしても他の曲みたいに極端に難しくなるということはなかった。この曲を弾くのに必要な独特の技術を修得するのが大変で、速度を上げることがそれほどの障碍と感じなかっただけだと思う。
 指定テンポは付点四分音符で100bpm。速度自体は1番と同じだが、隣接する音が離れているので慣れないと1番よりも速度を出すのは大変である。

コンパス弾きについて
 これまで何度も説明してるけど、コンパス弾きがメインの練習課題の13番で説明を省くわけにはいかないので、繰り返しになるが書いておく。
 下の図のように、手首を回転させて手の両端である1指と5指がシーソーのようにキーを押さえるように弾く。この動きの際は、尺骨と橈骨がどの様に動いているかを意識しておくと良い[2]

 この動きをシュッテルング(Schüttelung)という[3]が、根津栄子に倣ってコンパス弾き[1]と呼ぶことにしている。なお、コンパスという道具はこのような動きでは使わない。何故「シーソー弾き」と呼ばなかったのかと。
 上の絵は分かりやすくするためにかなり極端に表現しており、実際はそんなに大きく動かない。結局、指を上げる高さはキーが戻れば十分なのである。ただ、この曲はトレモロの上の音と下の音で別の声部としているので、それぞれの指の上げる高さによって声部を表現するのもよい。
 コンパス弾きをするには鍵盤と手首の高さが近いほど手首の回転による指の移動距離が大きくなるので、手首を鍵盤の位置に近づけることで小さい動きで効率的に体を演奏することが出来る。
 根津はコンパス弾きを推すが、岳本恭治は指の付け根のMP関節の動きだけで打鍵するように言っているし[4]、更に言えばチェルニー自身が手首を静かに波打たせず弾くことを求めている[6]。作曲者を含めたプロフェッショナルが全く違ったことを言っているが、こういうのはよくあること。どちらかに固執せずに、場所によって弾きやすい奏法を選んだら良い。
 コンパス弾きは手首を中心とした回転を利用しており、従ってトレモロの上と下の音が離れているほど回転させる角度は小さくて済む。逆に言えば、距離の近い音を弾こうとするとかなり大きく手首を回さなければならない。コンパス弾きで距離の近い音を弾くのはかなり無駄が多く全くお勧めできない。どちらの弾き方にするべきというのはなくて、手首を回しながら指も動かして、2声の距離によってそれぞれの割合を変えればよいのである。
 コンパス弾きは目的とするキーの上下に対してかなり大きく動くため、無駄の多い動きだと言うこともできる。そのため長く演奏していると手首への負担が大きく手を痛めることにも繋がりかねない。疲れてきたり手首に負担を感じるようならさっさと練習を切り上げるべきである。

トレモロの種類について

 A.弱拍(後打ち)を1指が打つ場合、B.5指が後打ちをする場合、C.後打ちする音が特定の音である場合、D.強拍が重音の場合、E.半音階進行を組み込んだ場合[5]、と色々あって微妙に異なる技術を使う。
 普通は後打ちは弱拍であり、存在感を小さくしないといけない。コンパス弾きの際に、弱拍はあまり指を上げずに最低限の離鍵で済ませることで打鍵時に十分に加速することなく弱音を出し続けることが出来る。対して前打ちの強拍は離鍵時にある程度指を上げて勢いを付けて打鍵することで強い音を出すことが出来る。基本的に強弱は前打ちの強さで表現して、後打ちは常に弱音とするのが良い。

1516小節

 ✡15小節後半右手。直前までEsを押してるので鍵盤の奥の方を打鍵するポジションになっているが、そのままのポジションで弾こうとすると奥の方はキーが重くて弾きにくい。白鍵ばかりなので手前の方で弾く。
 ☆16小節右手。均一な強さで弾くか、あるいは2拍目のDBにアクセントを付けるようにするべきだが、このDBの5,4指に力が入らなくて音が弱くなってしまう。直前のBFを押した4,2指を振り上げる反動を利用することでDを強く叩くことが出来る。あるいは、このDを腕の重みを使って叩くとこの音だけに腕の位置エネルギーを消費することになり、他の音を強く主張できないのでD音にアクセントを付けることになる。1拍目と2拍目の間に僅かにタメを作って必要な音量を出すための準備としてもよい。

2324小節

 ※23小節後半右手。A音を外しやすい。手の位置を低くすることで弾きやすくなる。
 24小節右手。鍵盤と同じくらいの高さで指を伸ばすと引きやすい。5指の動ける範囲が狭まって、ちょうどGを外しにくくなる位置に5指が来るからである。ただし、この解決法は指の柔軟性が欠けているという証左であり、あまり好ましいやり方ではない。あまり大きく手を動かすことなく正確に打鍵できるようにするべきである。

2530小節

 ●左手の打鍵のタイミングは右手に合わせるのではなく、リズムに合わせる。右手を聞きながら合わせようとすると打鍵が遅れる。
 ※2628小節右手始めのCを急ぐあまり、直前のFが打鍵できていないことがある。このCを急がなければならない理由は何処にもないので前の小節はちゃんと最後まで弾くこと。

40小節

 ▲右手、チェルニー8小節とは異なる指使いを指定したのは不可解。混乱の元であり、非効率で意図不明。同じ指使いにするべきである。

4447小節

 ◎右手、1音おきに現れる後打ちのBは44小節だけだったら4指が弾きやすいが、続く45,46小節ではかなり弾きづらいので、最初から5指で弾く。
 ⑤コンパス弾きで和音を打鍵する際は2つの指が同時にキーを押せるようそれぞれの指の形を調整すること。
 ☆46小節後半右手。4指を上げておくこと。4指が下がってくると隣りのGesを押してしまう。
 ✡47小節前半右手。鍵盤の奥の方を押さえなければならないので、キーが重く手首の回転だけでは打鍵に必要なだけの力が出せない。また、4指が弱いとキーの慣性力に押し負けてキーを押し込むことができなかったりする。4指を鍵床まで叩きつけるつもりで打鍵する。ここはffだってことを忘れずに!
 チェルニーはこの曲集を子供向けの練習曲集という位置付けで作っており、1オクターブ以上の和音は出てこないのだが、4647小節で1オクターブを掴まなければならない。同時に打鍵するわけではないからと妥協したのだろうか。子供向けということで配慮するなら、そんなことよりもこの糞みたいなテンポをどうにかしろと言いたい。

48小節

 ■右手3音目のD。打鍵したら速やかに離鍵すること。ポジション移動の際にキーの上に指が残っていると手の動きに引きずられて指がキーのヘリに引っかかって怪我をする。打鍵の勢いのままキーの手前側に滑らせてやればよい。

参考文献
 [1]根津栄子, チェルニー30番 30の小さな物語・下巻, 東音企画(2013)
 [2]トーマス・マーク, ピアニストなら誰でも知っておきたい「からだ」のこと, 春秋社(2006)
 [3]井上直幸, ピアノ奏法―音楽を表現する喜び, 春秋社(1998)
 [4]岳本恭治, ピアノ・脱力奏法ガイドブックVol.2<実践編・チェルニー30版を使って>p40, サーベル者(2015)
 [5] 標準版ピアノ楽譜 チェルニー30番, 音楽之友社(2007)
 [6]グレーテ・ヴェーマイヤー, カルル・チェルニー ピアノに囚われた音楽家, 音楽之友社(1986)

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