ショパン ワルツ19番 ナショナルエディション

 ショパンのワルツ19番を録音したので、いつものように演奏解説を書こうかと思ったのだけど、 ナショナルエディションの解説文を和訳したので先にこちらを上げておく。
 かつてナショナルエディションには和訳の解説文が付いていたそうだが[1]、どういうわけかいつの頃からか止めてしまったようで、現在では英語の解説文しかない。あるいは、河合優子がナショナルエディションの全編和訳を始めた[2]ためかもしれない。河合優子ポーランド語ができるので、英訳を底本とせずに和訳を作れることから、より正確な和訳が望めると邦訳版の出版を譲ったのかもしれない。しかし、河合優子は震災以降放射能怖いって言ってワルシャワに引き篭もったままで進捗している様子がない。ツイッターで少しずつ和訳をアップしていくと言っていたが、こちらも2011年7月で止まっている[3]放射能で日本はもうだめや!と言って逃亡した手前、気まずくて帰ってこれないのだろう。
 そんなわけで、以下ワルツ19番の解説文。

演奏に関する解説

9. ワルツイ短調, WN63

 前打音で表記されている2音の装飾音は、最初の音を左手の拍頭とタイミングを合わせるほうが良い。しかし、打鍵のタイミングよりも重要なことがある。素早く軽快な高品質の音で演奏することである。そのような演奏であれば、前打音とする通常の弾き方でも許される。


原資料に関する解説

9. ワルツイ短調, WN63

原資料
AI: 作曲時の自筆譜であり、演奏法に関する記述がない(パリ、国際図書館蔵)。清書版とは伴奏や旋律のリズムに細かい違いがある。
A: 清書版であり、「ワルツ(Walec)」とタイトルが付けられている(パリ、国際図書館蔵)。ナショナルエディションでは基本的に、この版を元に編集した。この自筆譜はSuzanneとDenise Chainayeによって雑誌La Revue Musicaleで初めて公開された(Richard-Masse, パリ1953)

編集原則
 資料Aを採用する。他の類似した部分と合わせるためにスラーリングを補足したが、このように演奏しなければならないというわけではない。

P42
 15小節右手。最初の音についているトリルはAIによるものである。Aにはこのトリルが欠けているが、これは次の理由からショパンの不注意によるものと考えた。
51小節の同様の旋律にはモルデントがある。
AIの9~16小節ではスラーがすっかり抜けている。この部分において、ショパンは音符だけを書いて他のことを忘れていたと推認される。

 なお、このワルツ遺作集全体の解説文がこれとは別にあって、それなりに有用なのだけど、少し分量がある(とは言っても大した量ではない)ので、こちらはまた別の機会に譲る。

参考文献
 [1]岡部玲子, ショパンの楽譜、どの版を選べばいいの?, yamaha(2015)
 [2]ヤン・エキエル, ショパン ナショナル・エディション日本語版 3. 即興曲, コンサートサービス(2008)
 [3]河合優子, National Edition 翻訳(archive.today), twitter

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