発電床

 発電床というものがある。上を歩くことで発電する仕組みの床である。PZTのような圧電素子を並べて、その上を歩くことで歩行に要するエネルギーの一部を電力に変換するという装置である。
 PZTは鉛を使っており、人体に有害との指摘から代替品を求められており、RoHSにより鉛フリーがの義務化が成功されたのが2006年だが、代替品開発の進捗が思わしくないため未だにPZTについては適用免除対象となっている[1]
 圧電体の発電原理についての説明は割愛する。圧電体による発電については以前紹介したことがあるが、JR東日本が自動改札の床でテストしていた[2]。このテストを行ったNEDOJR東日本東日本とは異なるが、スイッチサイエンス音力発電から発電床という名称で製品化されていた。

 スイッチサイエンス:発電床
 音力発電:発電床?ユニット EVBS-01

 どちらも実に胡散臭い商品である。スペックが書いてあるが、どちらも全く同じである。既存の圧電素子を持ってきて並べたんだと思う。値段も1万円くらい。ついでにNEDOのJR東京駅での実験結果[6}も並べてみる。

音力発電[3][5]
・発電量:約2mW(注)
・0.1 ~ 0.3W((注)の条件における、1m 秒程度の瞬間最大値)
(注 体重約60kgの人により、1秒間に2歩ずつ歩行する実験を30秒間行った平均
・外形300mm×300mm×10mm
・動作温度範囲約-25~+80℃

スイッチサイエンス[4]
・発電量 : 平均 2 mW(体重60 kgの人により、1秒間に2歩ずつ足踏みをする際の平均の発電量)
・信頼性 : 100万回以上
・外形 : 300 mm × 300 mm × 10 mm
・概算動作温度範囲 : 約-25~85°C

NEDO
・4.3Ws(改札通過一人当たり)
・改札口1通路(1m3)
・5週間(通過人数約300万人)経過後、発電能力95%

 NEDOの実験については後から評価するとして、先の2つについて。
 30cm×30cmの面積で1秒間に2歩ということだから、立ち止まって足踏み運動をするという状況を想定する。つまり、1秒間に2回60kgの圧力をかけることになる。これで2mWの発電ということになるので、1回の足踏みでは1mWs=1mJということになる。
 60kgの重量を1m持ち上げるのに必要なエネルギーは60kg×9.8m/s2=588J。そのうちの1mJを回収することになる。1m持ち上げるのは極端だけど、エネルギーから比較すると1m×1mJ/588J=1.70μmとなる。1.7ミクロン沈み込んでそのエネルギーを回収するというシステムである。勿論、少なからずエネルギーロスはあるので、1.7μmよりはたくさん沈み込み筈である。
 とにかく、1回の足踏みにつき1mJである。それで、この装置の信頼性は100万回とあるので、1mJ×100万回=1kJの発電能力が保証されている。
 それで、どの程度の電気代を回収できるかというと、東京電力-従量電灯B-電力量料金だと300kWh以上で30.57円/kWhとなっている[7]。1kJ = 1000Ws = 1000/3600Wh = 0.278Whであるので、値段にして、0.278Wh×30.57円/kWh = 0.00849円である。
 10000円払って回収できる電力が0.00849円分! 少しでも環境に負荷の掛からないエネルギーが得られるのだから良いと言うなかれ。これを製造するためにそれ以上の電力を使っていては意味がないのだ。これを0.00849円の電力で作れるかどうかを考えたら良い。

 さて、上記2品目は購入する価値がないと分かったと思う。一方NEDOの方はというと、この実験に使った圧電体のお値段が書いておらず評価が難しいので、それ以外のところを見てみようと思う。
 改札を通過するのに要する時間が書いていないのでちょっとやりづらいのだけど、一人当たり4.3Ws=J、5週間で300万人という辺りで計算してみようと思う。
 4.3J×300万人 = 12.9MJ = 12.9MWs / 3600 = 3.58kWh ということになる。
 3.58kWh×30.57円/kWh = 109.9円
 なんと110円ほどの効果が見込めることになる。ただし、1m3と広い範囲に圧電素子を置いているので、上記2品目と面積と比較するには、10000cm3÷900cm3 = 11.1倍の差があるものとして評価しなければならない。すると、109.9円/11.1 = 9.9円となる。大分良くなるけどまだまだな感じである。
 取り敢えず、自動改札1機に付き110円ほどの電気代の節約になることが分かったが、コストの比較が出来ないので、どうもイマイチな感じである。
 ちなみに、理論的にはこの発電床を無数に積層させることによってより大きな発電が可能となる。100枚並べたら10,100円だ。これくらいでは発電時の沈み込みを感じる事もないだろうから歩行者も抵抗を感じ事すらないのではないかと。勿論、発電によって製造原価が還元できるとしての皮算用である。結局、この装置の寿命次第だと思う。5週間・300万人で能力は5%減少ということなので、1年も使えば60%くらいまで能力は落ちる計算となる。矢張り、まだ実用には遠いのではないかと思える。あるいは、NEDOのこの実験以降に劇的な改善があるのかもしれない。とにかく、コストを還元できるかどうかは耐久力次第である。

 Coinhive事件を見ていたら、発電床みたいに歩行者の歩行エネルギーを横領するシステムも同様に検挙されるのかなあって思って、本エントリーを書いてみた。

参考文献
 [1]チタン酸ジルコン酸鉛, Wikipedia
 [2]「床発電システム」の実証実験について(InternetArchive), JR東日本研究開発センター フロンティアサービス研究所
 [3]エネルギーハーベスティング-振動力発電(魚拓), 音力発電
 [4]発電床(魚拓), スイッチサイエンス
 [5]発電床?ユニット  EVBS-01, amazon
 [6]成果報告書詳細(InternetArchive), NEDO
 [7]1kWh(キロワットアワー)あたりの電気料金はいくら?(InternetArchive), Selectra

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 20080115 圧電体