モーツァルト ピアノソナタK.545第1楽章 演奏解説

 モザートのピアノソナタは全部で18曲だったと思う。これくらいの数だと作品番号よりも、通し番号で15番とか呼ぶのが普通なのだけど、この曲は15番だったり16番だったりと安定しないので作品番号で呼ぶことにする。同様のことはショパンのワルツで、Opで作品番号が付けられていないものの並び順が曖昧なので、BIナンバーで呼んだりするのだけど、以前弾いたワルツ20番は(作者がショパンであるか疑わしい部分を除いて)議論の余地がないので20番とした。
 モザートは割と音が少ないためとっつきやすい反面、あまりペダルを踏まないし粒が揃っていないと汚く聞こえてしまうので、結構避けてる。それでも、弾いてみたいという曲もあるのだが、今回はそうじゃなくって、簡単そうだから弾けるんじゃないかなと思って手を付けた。音域は狭く譜読みがしやすい。多分、モザートのピアノソナタではエントリーモデルみたいな感じだと思う。
 楽譜は全音ソナタアルバム1を使った。モザートはあんまり弾くつもりはないので、全集とか入手する気にならない。モザートに関する資料はあまり持っていないので、今回は説明がちょっと迂遠になることがあると思う。
 ちなみに、ピリスツァハリスの録音がオススメである。

ソナタ形式
 ソナタ形式がどんなもんかってのはWikipediaの説明がわかりやすい。大雑把に言うと[提示部(繰り返しあり)-展開部-再現部]という構造で、序奏とかコーダがあったりするものである。細かいことを言い出すと、第1主題、第2主題とか調性関係とかが決まってたりとかする。
 それで、この曲のどこがソナタ形式なのかというと、次のような感じになっている。

序奏 なし
提示部第1主題 1-12
提示部第2主題 13-27
提示部コーダ 28
展開部 29-40
再現部第1主題 41-56
再現部第2主題 57-71
コーダ 72

 それで疑問に思うのが、何で提示部、再現部、コーダに繰り返しが付いてるんだってこと。ソナタ形式をベートーベンが完成させたという歴史を考えると、モザートの時代はまだその辺りの規律が曖昧だったのではないかなと思うわけである。
 プロのピアニストでもソナタは繰り返しを省略することが結構あるので、楽譜の記述をそんなに絶対視する必要はないんじゃないかな。グールドに至ってはヤケクソみたいな速度で演奏し、繰り返しを両方共省略して1分50秒で弾ききっている。
 僕の場合は、ソナタらしくないという理由で後半の繰り返しを省略した。

テンポについて
 真面目に弾くなら第2楽章、第3楽章と合わせてテンポを設定しなければならないのだけど、そんな積りはサラサラないので、テキトーにいいと思った速度で弾く。

ペダルについて
 モザートの曲はあんまりペダルを踏まないようにしてる。別にペダルを踏んではいけない、なんてことはないので、必要と思ったら躊躇うべきではない。
 この曲は全くペダルを踏まずに弾いた。楽譜にはペダルの指示もあるが、どうしてもペダルがなくちゃいけないとは感じなかったので。音を保持するためのペダルは指で押さえていれば間に合ったし。

最初のところ

 左手のこの部分をノンレガートで弾くのがモザートっぽいかなと思うけど、もしかしたらグールドに毒されてるだけなのかもしれない。
 こういう形の分散和音をアルベルティ・バス(Alberti-bass[英])と呼ぶのだけど、"bass"を「バス[1]」と読んだり「ベース[2]」と読んだり書籍によって一定しない。ちなみに「アルベルティ」はイタリア人の名前なのでこれで良い。しかし、ベースって英語だと"base"と同じだと思ってたんだけど、"bass"なんだなあ。根元、土台とかいう意味の"base"と同じだと思ってたよ。

59小節

 苦手なスケール。
 スケールの上下で1小節に1音ずつ下がっていく。
 以前、僕のピアノの先生が「モーツァルトはスケールで、ベートーベンはアルペジオ」というようなことを言っていた。よく使うんだろうなっていう程度に認識してるだけだが、そのモザートのスケールが早速登場。
 チェルニー30番を始めて漸くスケールが苦手だということに気付いたのだけど、苦手なのは右手だけで左手はちゃんと動く。これまでやってきた練習に於いて右手と左手で偏りがあるというだけなんだと思う。それにしても、この右手の動かなさは何か悪い病気にでも罹ってるんじゃないかと思えてくるほどである。
 最近になって理解してきたのは右手2指を上げる動きが極めて鈍いのである。だから指くぐりのときにいちいち引っかかる。それで、どうにかならないかなと悩んで試行錯誤した結果、1指を打鍵後手前に引っ掻くようにして離鍵すると指くぐり、指またぎをしやすくなるということに気付いた。チェルニー30番では手を右に向けたり左に向けたりとこねくり回していたけど、今回はこの手前に引っ掻く離鍵でクリアした。

13小節

 第二主題に入ったところ。
 ☆トレモロなんだけど、3121という指使いで同じ音を3指と2指で交互に弾く。3指で弾いたときと2指で弾いたときで音色が変わる。ので独特な感じになる。
 「音色」と表現したけど、物理用語としては正しくない。物理では波長、振幅、波形という三要素があり、波の三要素と呼ばれている。音は波なので、音の三要素といっても通じる。この内、波形のことを音では音色という。しかし、この部分を弾くときに3指で弾くか2指で弾くかといったときに波形の変化は期待されない。指を変えるというのは打鍵のタイミング、強さがわずかに異なることを意味する。この違いを指して「音色」と表現した。
 だから、ここは指ごとの特徴が交互に現れるということを意味している。
 57小節も同様だし、指を交互に変えるという意味では2223小節や、66小節も同様である。

1821小節

 「エリーゼのために」とか「テンペスト第3楽章」みたいなベートーベンが好んで使いそうな流れ。
 カッコつきでペダルが指示されてるけど、上に書いた通り、左手の16分音符を保持することでペダルの代わりとしている。フィンガーペダルとか指ペダルとか呼ぶ[3]。別にペダルを踏むわけではないけど、それっぽい効果を及ぼすので指ペダルと呼ぶ。
手元を見ずに弾くために:この部分に限ったことじゃないけど、跳躍のある部分は楽譜に次の音との距離を書いておくと、わざわざ手元を見なくても現在のキーからどれくらいの位置のキーを押したらよいかを判断できるのでオススメである。

2223小節

 右手、装飾音を前打音とするか拍に合わせて入れるか。ショパンとかチェルニーとかバッハとかは結構細かく決まってるけど、モザートならテキトーでいいなあという気がする。敢えて言うなら、古典派繋がりでチェルニーと同じように前打音にしておけば無難じゃないかな。
 どちらにせよ、全ての装飾音で統一しておかなければならない。

2940小節
 展開部。
 ちょっと勢いの良い感じの短調になる。提示部よりも僅かにテンポを上げても良いけど、その場合は40小節後半で元のテンポに戻すこと。

41小節~
 再現部。
 主調のハ長調ではなく、下属調ヘ長調でありソナタ形式にしては変な感じである。

7071小節

 ☆右手。ちゃんと手を左右に振って弾きやすいポジションを取ること。横着してポジション移動をしないでいると、弾きにくい指で打鍵が弱かったりタイミングが遅れたりする。

参考文献
 [1]音楽中辞典, 音楽之友社(1979)
 [2]菊池有恒, 楽典 音楽家を志す人のための, 音楽之友社(1979)
 [3]不破友芝, 楽譜の風景