書籍の値段

 最近、というわけではないけど、書籍の値段が上昇しているように感じる。
 そもそもインフレ率2%をを目標として金融政策を決定している[1]し、消費税も上がっているので価格は上昇して当然である。消費税が5%→8%に上がった場合、書籍を作る際の原価も当然上がるので3%程度の上昇では済まない。
 以前、ルーンの杖秘録新版旧版を並べて20年で物価が10倍になったとかしょうもない揚げ足取りをしたことがあるが[2]、今回はもうちょい真面目に調べてみた。

 時代ごとに書籍を並べてその値段の変遷を見ることを考えた。
 同じレーベルで装丁に変化なく長期間に渡って出版しているものが好ましい。漫画は装丁の変化が結構多いのとページ数が分かりづらいということで排除した。岩波文庫みたいな保守的で旧態依然とした出版社が好ましいのだけど、岩波文庫の場合は著作権の切れているものと続いているものが混在しているため、著作権のあるなしでそれなりにお値段が異なると考えると文学系のレーベルは好ましくない。したがって、岩波、角川、新潮、講談社集英社、文春あたりの文学主流を排除せざるを得なくなる。岩波新書もいいのだけど、いかんせん手持ちの数が少なくデータ収集には適さない。
 すると、結局ラノベレーベルばかりが選択肢に入ってくる。長く出版し続けてる、装丁に変化のないレーベルって何だろうと考えると、コバルト文庫がちょうどいいかなと思う。のだけど、どういうわけか手持ちのコバルト文庫はわずかしかない。藤本ひとみは売っぱらっちゃったし、ざ・ちぇんじ!は入手しようと思っていたけど、見つからないまま時が経っていた。今調べたら新版で出てるって。やったね。
 それで手元にあるコバルト文庫というと龍と魔法使い伯爵と妖精わが青春のアルカディアしかない。というわけで、コバルト文庫は全く当てにできない。
 それで、次に来るのが富士見ファンタジア文庫角川スニーカー文庫だけど、このどちらも結構装丁が変わっている。角川スニーカー文庫に至っては紙自体も変わった感じがする。
 上の2レーベルよりちょっと遅れて登場したのが電撃文庫電撃文庫は装丁に殆ど変化はない。出版社が変わったり奥付の形式が変わったりといった細々とした変化はあるけど、その程度。1993年の小説ダンジョンマスターと先日発売したばかりのソードアート・オンライン21の比較写真を見て分かる通り、ほぼ変化なし。



 そんなわけで、電撃文庫で比較することにした。なお、全作業を終えた後に、富士見ドラゴンブックでも比較できたということに気付いたのは秘密だ。

 まず、ベースとなる手元にある電撃文庫一覧だけど、これは日常の書籍管理をエクセルで行っているため、そこから電撃文庫だけを抜き出せばよい。少なくともタイトル、作者、値段、出版日は書いてあるのでページ数を書き加えれば事足りる。全部で310冊ある電撃文庫のページ数を全て調べて回るのは中々骨の折れる作業である。
 ページ数を調べる過程で一つわかったことがある。電撃文庫において、殆どは8+16nページで構成されているということだ。「殆ど」と書いたのは、そうじゃないのがあるから。時雨沢恵一御影瑛路はどういうわけかこのページ数でないものが複数ある。印刷所が特殊だということもない。どういうことだろう。
 8+16nについてだけど、基本的にカラー口絵が8ページあるというのが最初の8の意味である。16というのはA3の紙に印刷したのを3回折り曲げると16ページになるということ。最初に口絵の8ページ、ついで16ページの塊を沢山束ねて、外装となる厚紙でまとめ背を糊付け、天、地、小口をカットすることで本が完成する。稀に小口が一部くっついている書籍があるのはカットに失敗したためである。

 それはそうと、ページ数をカウントした時点で、ページ数と値段の相関グラフを描くことが出来る。

 当然だけど、ページ数と値段に正の相関が認められる。ただし、それなりに幅がある。奥行きを時間としてグラフを描きなおしたら何か分かりそうな感じがしないでもないけど、3Dでグラフを描くのは結構面倒なうえ、当てが外れたときのガッカリ具合は相当なものでちょっと躊躇われる。そこで、別の方法を先に試すことにした。
 単純に、1ページあたりの値段を算出してみた。
 このグラフは時系列に順番に並べただけなので、横軸は単純に時間が経過したという程度に見てもらいたい。
 すごい散らばりようで、これだと値段が上がっているようには見えない。
 では、このデータの元となるページ数と値段をそれぞれ見てみよう。


 何となく、ページ数は増えてる感じがする。一方値段の方は200から先で上昇していく傾向があるように思える。この、ページ数のグラフと値段のグラフにはそれぞれ310の点があってお互い対応する点があるのだけど、どういう対応になるのかはこれを見ただけでは分からない。この分からないところが値段/頁のグラフのバラツキとなって現れている。
 とにかく、事実として値段が上昇しているようだが、同時に1冊のページ数も増えているから、物価の上昇という原因ではないということが分かった。

 さて、もう少し細かく見ることにする。
 今度はページ数を揃えて時系列に見ていく。同じページ数の本ばかりの値段を時系列に比較する。
 同じページ数の書籍が最も多いのは328ページであることが調べたらすぐに分かった。合計で48冊あった。内訳は次の通り。

本体価格 税込価格 出版 19930610からの日にち 作者 タイトル
563 580 1993/8/10 61 榊涼介 偽書幕末伝 秋葉原龍馬がゆく<一>~江戸風雲編~
563 580 1993/12/10 183 榊涼介 偽書幕末伝 秋葉原龍馬がゆく<二>~江戸風雲編~
563 580 1996/8/25 1172 谷登志雄 邪鬼が来る!
570 599 2000/1/30 2425 上遠野浩平 ブギーポップ・オーバードライブ 歪曲王
570 599 2000/2/25 2451 高畑京一郎 ダブル・キャスト
590 620 2002/4/25 3241 水落晴美 夢界異邦人 眠り姫の卵
590 620 2003/12/30 3855 ハセガワケイスケ しにがみのバラッド。
590 620 2004/5/25 4002 渡瀬草一郎 空ノ鐘の響く惑星で3
570 599 2004/12/10 4201 渡瀬草一郎 空ノ鐘の響く惑星で2
570 599 2005/4/25 4337 上遠野浩平 ブギーポップバウンディング
570 599 2005/8/20 4454 壁井ユカコ キーリIV 長い夜は深遠のほとりで
570 599 2005/8/25 4459 壁井ユカコ キーリVII 幽谷の風は吠きながら
570 599 2006/3/25 4671 ハセガワケイスケ しにがみのバラッド。 8
590 620 2006/3/25 4671 渡瀬草一郎 空ノ鐘の響く惑星で10
570 599 2006/4/25 4702 甲田学人 断章のグリムI 灰かぶり
590 620 2006/6/5 4743 杉井光 火目の巫女
570 599 2006/7/25 4793 甲田学人 断章のグリムII ヘンゼルとグレーテル
610 641 2007/3/25 5036 藤原祐 レジンキャストミルク 6
610 641 2007/10/25 5250 御堂彰彦 「不思議」取り扱います 付喪堂骨董店3
610 641 2007/11/25 5281 杉井光 さよならピアノソナタ
570 599 2008/1/25 5342 上遠野浩平 ブギーポップ・クエスチョン 沈黙ピラミッド
570 599 2008/4/10 5418 甲田学人 断章のグリムVI 赤ずきん・下
610 641 2008/7/10 5509 御堂彰彦 「不思議」取り扱います 付喪堂骨董店4
570 599 2009/3/13 5755 支倉凍砂 狼と香辛料 VI
570 599 2009/8/10 5905 上遠野浩平 ヴァルプルギスの後悔 Fire2.
590 620 2009/9/10 5936 御影瑛路 空ろの箱と零のマリア 2
590 620 2009/10/10 5966 杉井光 さよならピアノソナタ encore pieces
630 662 2010/4/10 6148 三上延 偽りのドラグーン 3
590 620 2010/6/10 6209 夏海公司 なれる!SE 2週間で分る?SE入門
610 641 2010/6/10 6209 御影瑛路 空ろの箱と零のマリア 4
570 599 2010/8/10 6270 上遠野浩平 ヴァルプルギスの後悔 Fire3.
590 620 2010/8/10 6270 藤原祐 煉獄姫
590 620 2011/6/10 6574 兎月山羊 アンチリテラル数秘術師2
610 641 2011/6/10 6574 御堂彰彦 カミオロシ ~縁結びの儀~
650 683 2011/7/10 6604 三上延 偽りのドラグーン 5 完結
610 641 2011/9/10 6666 兎月山羊 アンチリテラル数秘術師3
570 599 2012/1/27 6805 河原礫 ソードアート・オンライン3 フェアリィ・ダンス
570 599 2012/1/27 6805 河原礫 ソードアート・オンライン4 フェアリィ・ダンス
650 683 2012/3/10 6848 兎月山羊 アンチリテラル数秘術師5 完結
610 641 2012/11/10 7093 一色銀河 五線譜なんて飾りですっ!
650 683 2013/1/10 7154 藤原祐 煉獄姫 六幕 完結
570 599 2013/2/20 7195 川原礫 アクセル・ワールド1 黒雪姫の帰還
590 620 2013/4/10 7244 河原礫 ソードアート・オンライン12 アリシゼーション・ライジン
590 620 2013/4/10 7244 支倉凍砂 マグダラで眠れ 3
610 641 2013/6/7 7302 物草純平 ミス・ファーブルの蟲ノ荒園
570 599 2013/7/22 7347 支倉凍砂 マグダラで眠れ
650 683 2014/1/10 7519 藤原祐 ロストウィッチ・ブライドマジカル 2
630 680 2014/7/10 7700 物草純平 ミス・ファーブルの蟲ノ荒園3


 90年代と2014年以降が少ない。90年代が少ないのは、古い本は割と手放す機会が多いため。X-MEN(魚拓)とかプレミア付いてるし。2014年以降が少ないのは、新しいのはあまり中古市場で安くなっていないためである。
 本体価格についてだけど、消費税が3%だった1997年4月1日より前は書籍の値段が税込表示で、それ以降は税別表示ということもあって、端数の合わせ方が異なっている。
 出版日は初版ではなく印刷した版の出版日を示している。"19930610からの日にち"というのは時間経過を日数で示した。1993年6月10日というのは最も古かったダーク・ウィザードの出版日を基準とした。
 とにかく、同じページ数の書籍だけを抜き出したのでこれでページ数を気にせずに値段と時間を比較できる。

 この通り。
 上で示したのとはちょっと違う結果が出てきて、以外である。
 消費税3%の頃の3冊は全て563円だが、これは5%になってからの570円に相当するものだと思う。それよりも、時間の経過とともに値段の幅が広がっている。2002年590円、2007年610円、2010年640円、2011年650円と最大値が時を追って急激に上昇している。
 この結果を広げると、初期の頃は今ほど値段のバラツキはないはずである。ということは、328ページが特殊なのかな。

 そんなわけで、10冊以上あるページ数帯について全て調べてみた。
 ページ数と冊数は次の通り。

232 13
248 10
264 13
280 21
296 36
312 44
328 48
344 42
360 27
392 10

232p
248p
264p
280p
296p
312p
328p
344p
360p
392p

 これをまとめて眺めて気付いたことがある。初期の頃に極端に値段の高いものがいくつかある。
 何が原因なのか、見てみたらすぐにわかった。竜剣物語ある日どこかのダンジョンでの2シリーズである。どちらも翻訳モノであり、権利料金が余分にかかっているということである。
 この翻訳2シリーズを除くと2001年頃まであまりバラツキはないことが分かる。結局、2001年頃から同じページ数でも値段に違いを設けるようになったということになる。
 初期の頃の値段のブレのなさとこの最初の方に出した円/ページのグラフのバラツキが腑に落ちないが、ページの上昇と値段の上昇が正比例の関係にならないということだろう。もしかしたら切片のある1次方程式を上手く当てはめるときれいに描けるのかも知れない。

 ところで、電撃文庫の値段とページ数の関係について、ページ毎に標準価格があり、人気作は標準価格となり、そうでないものは20円ずつ高くなるとの話がある[3]。つまり、不人気作ばかりを好む僕は高い本を掴まされるという結果になるわけだ。
 結論として、値段が上がってるのはページ数が増えていることと、不人気作は値段が高いということが原因らしい。これは電撃文庫の特殊事情とも言えるので、気が向いたら富士見ドラゴンブックでも調べてみるのもいいかも知れない。
 これ書いてたら、久しぶりにレジンキャストミルク読みたくなってきた。プリン王国が大好きなんだ、標準より40円増しなほどに人気ないけど。
 いつものように今回作ったエクセルを上げておく。
20190224電撃文庫

参考文献
[1]日銀政策は「小出しで後手」、インフレ目標明示を-伊藤隆敏東大教授(リンク切れ InternetArchive, WebpageArchive)
[2]20年で物価が2倍になった件について
[3]電撃文庫の価格魚拓