平均律1巻10番フーガ

 前回、平均律1巻10番プレリュードに引き続き、フーガの演奏解説を行う。
 例によって音楽的に難しい部分は総スルーさせていただくので、詳しく知りたい方はバッハ 平均律クラヴィーアI 解釈と演奏法あたりをお勧めする。
 テンポについては前回を参照されたし。

 曲の構成は次のようになっている[1]

1~10第I展開部
11~19第II展開部
20~29第III展開部
30~38第IV展開部
39~42コーダ

 これらを更に細かく分解することも出来るのだけど、本稿の趣旨から離れるので止めておく。
 フーガの主題と対旋律は次のとおり。

 この曲を弾く際に全体的に気をつけなければならないのは、休符の後に入るタイミングとテンポの揺れ。
 対旋律が16部休符から入るため、どうしてもシンコペーションで始まる部分が多くなってしまう。キーを押すときの時間と、休むときの時間は同じ16分音符なら物理的に同じ長さの時間でなければならないのだけど、体感的には異なるというのがその原因といえる。しかも、片方の手でキーを押していてさえも右手と左手で時間感覚が異なる。そのことから、自分の中で複数の時間の流れが存在するという考えに行き着くわけだが、そんな形而上学的な空論を振りかざしたところでピアノが上手くなるわけではない。結局、休んでいない方の手に合わせて適切なタイミングで入れるように訓練するしかない。出来ないのであればゆっくり弾くしかない。
 テンポの揺れについては、こういった速い曲だと特に気になる。僕はこの曲を練習中についに自分の演奏している最中にテンポが揺れていることを認識できるようになった。一歩前進したのは良いのだけど、テンポをふらつかせずに演奏するという到達点は遙か遠くにあるように思える。
 この曲に限った話ではないが、きれいな演奏にはテンポ、リズム>粒ぞろい、強弱>ミスタッチという優先順位があると考えている。逆に考えるとテンポとリズムさえ正しければ演奏はそれなりに聞こえる。また、テンポの揺れによってミスタッチを誘発するということもある。というのは突然テンポが速くなっても指が機械的に対応できないことが多いからである。そういうわけで、テンポを保つことはミスタッチを減らすことにも繋がる。
 では、どうやってテンポを保つかというと、これが分からない。一応、足でメトロノームよろしくリズムを取りながら演奏しているが、かといって自動的にそのリズムで演奏できるようになるということもなく、勝手に走っていく。最終的にそれなりにリズムを保つことができるようになったので間違いではないとは思う。でも、やっぱり躓くようならゆっくり弾けという格言が正しいのかな。

 最初にこの曲を弾こうとしたとき、右手と左手で同時に旋律が進行するためどうやって練習したらよいのかと途方に暮れた。結局、順番にキーを押していくしかないという身も蓋もない結論に至った。
 では、いつものように演奏する上で困難が生じた場所と解決法について説明していく。毎度そうなのだけど、僕の癖のある弾き方の所為で生じている問題が殆どだと思うので、万人に通じるものではないのだが、それでも誰かしらの役に立てればと思う。

9小節

 *2拍目右手。指くぐりするとき、2指が鍵盤上に残っていると1指が引っかかって指くぐりに失敗するので、3指でFisを押すと同時に2指はしっかり鍵盤から話て1指の通り道を開けること。

11~12小節

 ☆右手、2指と5指を交互に使うため、非常に忙しい。キーを押した後、直ぐに次の準備に取り掛かろうとしてキーから指を話してしまいがちだが、そうすると音が短く切れてしまう。全体を通してノンレガートで弾くならそれでも良いが、レガートで弾く場合は意識して音を保持すること。むしろテヌートのつもりで弾くくらいでよい。
 ちなみに、トーヴィはテーマは、レガートに近いタッチで弾くのは大変難しいが、軽い指スタッカートを使えば、すばらしい反応を見せると言っている[2]

14小節

 ※右手真中辺、D-Cis-Dを1-3-4で取るところ。1指でDを押した後、1指をまたいで3指でCisを押す。このとき1指をしっかりと離鍵していないと次のDを押そうとしてもハンマーが戻っておらず音が出ない。しっかり離鍵すること。

22小節

 ※左手の対旋律は39小節コーダと同じ動きをするため、指使いを一致させておかないと片方の弾き方に引き摺られて間違える。

25小節

 ☆左手2拍目最後のHは4指で取る。1つ前のCisから少し距離があるので5指で撮りたく鳴る時もあるが、27小節にほぼ同じ音形が出てくるため、指使いを統一しなければならない。

39~40小節

 *39~40小節にかけて左手でよく引っかかる。39小節最後の4指がFisの上に残っていて40小節2音目のFisが押せない。4指だけが黒鍵のポジションであり、ただでさえ動かしづらい4指がより動きが取れなくなってしまい離鍵出来ないことに原因がある。

41小節

 ✡右手1拍目最初のGを押した3指は次のFisを押したときにただ離鍵するだけでなく、指を上に上げないと次のGを4指で弾く際に邪魔になって押せない。

42小節
 最後はプレリュードと同じく同主調のE durとなって終了する。

参考文献
1 市田儀一郎, バッハ 平均律クラヴィーアI 解釈と演奏法 2012年部分改訂, 音楽之友社(2012)
2 D.F.トーヴィ, バッハ 平均律ピアノ曲集第1集, 全音楽譜出版社(1998)

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 20140920 平均律1巻10番プレリュード