G線上のアリア

 バッハ=シロティのG線上のアリアをアップした。
 この曲、何年も前から弾きたかったのだけど、ネット上に楽譜がアップされていなくて手に入らなかったのだけど、尼で取り扱っていたのでお買い上げいただいて演奏した。
 テンポを維持出来ていないような気がするのだけど、演奏しながら「いち!、にっ!、さん!、しっ!」と数えながらでコレなので、これ以上練習してもあまり上達は望めないかなぁ、と言う気もする。
 シロティが亡くなってから60年以上経っているので当然著作権は消滅しているのだが、何故か楽譜がうpられない不思議。その内上げたい。そのときに演奏解説も一緒にしたいなぁ。とはいっても、この曲はかなり簡単でそれほど解説するようなこともない。シロティの作曲技法を紹介するくらいになりそう。
 それはそうと、今回は中々時間が取れない上に疲れて休みたがる身体を無理矢理動かして録音した。さっさと録音して次の曲に行きたいというのもあるのだけど、ここのところ中々練習する時間を取るのもツライくらいに時間に追われている。そんな中で録音せずにほかっておくと身体が弾き方を忘れてしまいそうだったので少し無理して録音した。


 それから、夏井睦さんが以前この曲を解説していたのだけど、ページを閉鎖してしまったため、現在では見れなくなっている。インターネットアーカイブに残っていたのでここに転載しておく。

シロティといえば,ロシア・ピアノ系譜の大御所の一人である。ピアノの先生がニコラス・ルビンシュタイン,作曲の先生がチャイコフスキーであり,弟子のうち一番有名なのが,いとこでもあるラフマニノフ(年齢的にはシロティが2歳だけ年上)。彼はほとんど録音を残していないが,弟子達によると,大きな手をしていて,「英雄ポロネーズ」の中間部のオクターブ連続の低い音を,2,3,4,5の指で弾いていたという事である(以上,ショーンバーグからの引用)。何とも羨ましい話である。
作曲家としてどのような作品を残しているかは不明であるが,編曲家としてはバッハを初めとして20曲以上の作品を書いている。また,リストのいくつかの作品(「孤独の中の神の栄光」,「エステ荘の噴水」,「波を渡るパオラの聖フランシス」など)の校訂もしているようである。


さて,この「G線上のアリア」。世に氾濫している,多くの「お子様用 G線上のアリア」編曲とは一線を画す,素晴らしい編曲である。派手さはないが,原曲の味わいを損なわず,しかもピアノ曲として過不足ないものとなっている。地味ではあるが,プロの鑑賞にも堪える編曲であり,大人のためのピアノ曲の一つと言っていいだろう。
編曲としては,バッハの原曲に最大限に忠実である。ただ一個所変えているのは,冒頭,朗々と延ばされる全音符の嬰への音全音のピースにあるような「お手軽編曲」では,ここを何にも考えずに全音符にしているが,ピアノ曲としては全く無意味な編曲方法であることは言うまでもないだろう。それは,音が減衰する楽器である,という楽器としてのピアノの宿命,厳然たる事実を全く無視しているからだ。
この全音符を,シロティは二分音符2個に,つまり,小節の途中で打ち直すようにしている(これは,シロティ自身の注釈でも,明確にその意味が述べられている)。これは全く適切な処理と言えるだろう(あるいは,四分音譜4つにしてもいいくらいかもしれない)
その後も,例えば冒頭に続く部分にしても,高音部の旋律に対し,対旋律をオクターブ低い音域にしていて,バッハの精緻な対位法が,明確に弾き分けられるような書法を選んでいる。しかも,低音の伴奏がほとんどオクターブになっていることで,荘重さと重厚さが生み出され,軽やかに動くメロディーに対し,確かな重力を与えている。


実際に弾いてみると,高音部のメロディーを,指だけでつなぐのは無理であるし,ペダルを踏みっぱなしにするのも,音が濁るだけ。もちろん,3本ペダルの真ん中,サステイン・ペダルを使う,という手もあるが,メロディーとそれ以外の声部を音色で明確に弾き分ける事で,メロディーがあたかも連続しているように響かせる事もできると思う(私がそういう弾き方が好きなだけだけどね)


それにしても,バッハのアリアは,何という名品であろうか。安寧,慰撫,献身,敬虔,希求,熱望,充足・・・それらに満ち溢れた,神品とも言うべき名品である。それは,このシロティ編曲を弾いてみれば,すぐにわかる。そう,この編曲には,宗教的とも言える感動が満ちている。

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