チェルニー30番22 演奏解説

 チェルニー30番22はトリルの練習。昔からトリルは苦手なのだけど、最近は結構弾けるようになってきた。そう思ってたのだけど、これを弾いてみるとやっぱり苦手だわ、ってなる。
 いつも通り、楽譜は全音版を使う。音楽性とかいった曖昧で難しい部分は割と閑却して、メカニカルな部分を中心に低レベルな解説をする。

テンポについて
 4分音符で144bpmとなっている。いつものチェルニーらしく、結構速いけど、でもトリルといったらこれくらいの速度で弾かなきゃならんのだろうなと思う程度の速さ。例によってチェルニー30番学習者にとっては速すぎるので、普通に練習するなら多分テンポを落として弾くべきだと思う。
 僕の場合は調子に乗って指定速度より速く弾いて、そのせいで崩壊しているのに気付かずに、どうして弾けるようにならないのだろうと悩んだ。結局、メトロノームに合わせて弾いたところ、自分のテンポが速すぎるということに気付いてちゃんと弾けるようになったというわけ。

トリルについて
 パッセージはある程度速く弾くと少しくらい雑でも気付かれないとショパンは言っていた[1]けど、速いトリルも同様にごまかしが効く。直前に同じ音を出しているため、打鍵がその音に紛れてしまい正確なタイミングを認識しづらくなるんじゃないかと思う。しかし、極端にズレたタイミングだとやっぱり気付かれてしまうので、正確であるに越したことはない。
 指定の指使いは4指を酷使する場面が多く、すぐに指が疲れてしまう。4指が疲れてしまったら、指定の指使いから外れるが3指で代わりに弾くようにすると良い。
 また、指を交互に上げ下げするのに疲れてしまった場合は、コンパス弾き[2]で逃れることも出来る。コンパス弾きというのは根津栄子による名称だが、手首の回転により1指と5指で交互に打鍵する弾き方。別に1指と5指である必要はないのだけど、打鍵する指同士が離れていた方が回転角が小さくて有効であるというだけ。尺骨と橈骨の動きを理解しておくとなお良い[3]。なお、コンパスはこうやって動かして使うものではない。
 グランドピアノなら、キーが完全に上る前に再度打鍵できる機構(ダブルエスケープメントアクション)があるので、かなり力を節約して演奏することが出来る。逆に言ってしまうと、この曲はダブルエスケープメントを前提としている[5]ので、アップライトでちゃんと弾けるなんて思わないほうがよい。

1小節

 手元を見ずに弾くために:■4拍目右手。Dis-E-Fisを2-1-2で取る。2指が1指を跨いで左から右に移動するのだが、2指で押すキーは1指を挟んで対称な位置にないことに注意すること。FisとEはちょっと離れてる。

6~7小節

 手元を見ずに弾くために:左手6小節3拍目から7小節。FisH→Fisという流れだけど、2指でFisを取ってから1オクターブ下のFisを5指で取るところは2-5指で1オクターブの距離を測れるなら手元を見る必要がない。その際、1指でHを押さえたままだと2-5で8度は届かないので、Hは先に離鍵することになる。とはいっても、この曲集自体1オクターブの届かない小学生くらいの子供向けとして書かれており、そういう人には難しいかもしれない。

8小節

 ☆8小節右手。1拍目は指先を少し右の方に向け、4指とAisのキーが斜めに交差して接触するようなポジションを取る。2拍目に入ったところで指先が正面を向くポジションになるように手首と肘を回す。3指と4指は腱を共有しているために一緒に動いてしまうので、1拍目は3指と4指がすぐ側で一緒になって上下する。その位置に3指があると、2拍目のFisまで少し距離があるため移動に手間取る。この3指の移動を手助けするために手首と肘を回す。

9~14小節

 ✡両手のトリル。左右の打鍵タイミングが合わず逆位相になったりするとかなりみっともない。拍を意識して各拍頭で左右のタイミングが一致するように調整する。4音程度なら逆位相になるほどずれるということもないし。

9, 11小節
 ◎小節頭のfpによるアクセント。最初の音だけを少し長めの音価で取ることによってアクセントとするやり方もある[4]

12小節

 12小節前半右手。この部分はコンパス弾きをする。
 手元を見ずに弾くために:※左手3拍目。スタッカートで短く音を切った勢いで手を動かすことのないように。この次の音はHの隣のAなので離鍵後動かずにその場にとどまっていれば手元を見る必要がない。

16~21小節

 右手2声になっている部分。このあたりはずっとフォルテだが、4指の絡むトリルをずっとフォルテで弾き続けるのは辛い。1,2指で弾く下の声部だけを強く弾いてトリルは弱音で弾くとか、あるいは拍頭の音だけアクセントを付けてもよい。
 この部分は曲の流れが不自然になることがある。トリルの速度が不安定で、左手をトリルのリズムに合わせようとするとおかしな感じになる。トリルの速度を安定させるのが最もよいけど、主旋律である左手にスラーが付いていることを意識して、次の音と完全に繋げてしまい隙間をなくすことで不自然な印象を弱めることが出来る。
 手元を見ずに弾くために:16小節左手。1拍目と3拍目は同じH-Disの和音なので、離鍵した後手を移動しない。指だけ変更する。

22小節

 右手。始めのFis-Hを離鍵して続くトリルに入ったら、直ちにポジションを高音側に移動する。Fis-Hのポジションだと指を高音側に目一杯伸ばさなければならず、キーを押すための力が余計に必要となってしまう。遠くのキーに対してはより多くのトルクを掛けないと動かない。

30小節

 ※30小節右手1拍目最後のCis。この3指は離鍵した後キーの上に残しておくと、続く指くぐりの際に1指の移動の邪魔になる。脱力してキーが自然に持ち上がるのに任せるのではなく、積極的に指を上げて離鍵すること。手元を見て弾くと、3指は無意識に1指の邪魔にならないように避けるので、どうしても上手く弾けない場合は手元を見るとよい。

31小節

 ◎右手1拍目。4指が疲れ切って動きそうになかったらDisを3指で取ると良い。

参考文献
[1]ジャン=ジャック・エーゲルディンゲル, 弟子から見たショパン―そのピアノ教育法と演奏美学, 音楽之友社(2005)
[2]根津栄子, チェルニー30番 30の小さな物語・下巻, 東音企画(2013)
[3]トーマス・マーク, ピアニストなら誰でも知っておきたい「からだ」のこと, 春秋社(2006)
[4]小林仁, ピアノが上手になる人、ならない人, 春秋社(2012)
[5]岳本恭治, ピアノ脱力奏法ガイドブック 2, サーベル社(2015)

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シンフォニア15番 演奏解説

 インベンション15番を録音したので例によって解説文を上げる。
 先のインベンション5番では分かりやすい作りをしていたこともあって結構音楽的な内容に踏み込んで解説したけど、今回はメカニカルな部分を中心に解説する。
 楽譜は全音版、参考資料としてバッハ インベンションとシンフォニーア 解釈と演奏法ピアノ教師バッハ―教育目的からみた『インヴェンションととシンフォニア』の演奏法を使った。

速度
 今回は自分の中のイメージ通りにしようと試みた結果、124bpmくらいの無駄に速い演奏となった。この速度はあまりオススメしない。
 解釈と演奏法には次のように書いてある。

 主題については8分音符をスタッカートに奏することによって新鮮で軽やかな気分をあらわせるし、それとは別にいくぶん鈍重で落ち着いた、どちらかと言えば憂愁な雰囲気をも表出できる。

 こう書いている一方で、楽譜の解説文には「テンポはModerato 4分音符=±75」としている。
 楽譜の解説ではAllegro con brioについての言及がない。ちなみに手元のメトロノームの表示だとモデラートが108~120、アレグロが120~168となっている。モデラートと75と言い張るのはだいぶゆっくりなじゃないかという気がする。モデラートとアレグロの速度比は1.1~1.4倍くらいなので、モデラートを75とするとアレグロは82.5~105となる。グールドのテンポが105くらいなので、アレグロというとちょうどこんなくらいかなと感じる。
 なお、始めの2小節の左手ゲネラルバス(通奏低音)が8分音符、8分休符の連なりになっていることから4分音符のスタッカートとみなして、全体をスタッカートに奏するべきなんじゃないかと思い、全体を通して8分音符はスタッカートで演奏することにした。10、11小節の8分音符をスタッカートで弾くとか信じらんねえ[2]、みたいな意見があるけどスタッカートにしたかったのでそうした。

装飾音
 バッハのトリルは上隣接音から弾き始めるというのが基本なのだけど、この曲では随所に対声と思わしくない進行が生じるため、主要音から始める[2]とのこと。連続5度を例として上げているけど、1,3小節を始め連続5度にならない部分も多くあるため、多分別の理由があるのだろうけど、和声に詳しくないので何がいけないのかよく分からない。
 また、5,11,21小節については上隣接音から弾き始めるのが良い。



 いろいろと理由をつけて、ああした方が良い、こうした方が良いと書いたているけど、結局は演奏した時に自分で良いと思える弾き方をするのが良い。だから、僕もここで書いた通りに演奏するわけではない。

5小節

 ☆右手2拍目このトリルは基本通り上隣接音から始める種類のトリルだけど、主要音から初めて3音だけを演奏した。このひきはじめのGisはキーの左側を押さえたほうが良い。次のAが黒鍵と黒鍵の隙間なのでGisを右のほうで押してしまうとAを押すために指を差し込むスペースがなくなってしまう。あるいは(223)(213)など、A音を鍵盤の手前側で押せる指使いにする。
 本来のA-Gis-A-Gisという弾き方をするならこの心配はなくなる。ただし、黒鍵と黒鍵の隙間を押さえるかAを1で押さえるかという選択が生じる。
 ※右手3拍目。Fis-Eis-Fisは434が標準的な指使いだが、Eisを鍵盤奥の狭い部分で押さなければならず、隣のEを一緒に押してしまうことが多々ある。Eを避けようとすると、今度はFisが沈んだ状態でEisを押すので横からFisを押さえる形になってFisキーが戻らず次の音を押せなくなってしまう。(454)(443)という指使いでこれを回避することができる。

10小節

 右手5指。10小節に限ったことではないのだけど、右手5指が弱いと感じる部分が度々ある。パッセージの中で高音として強調するべき5指だけが弱いので目立つ。ここでは4→5という順でキーを押しており、4指と関連して音が弱くなっている。指の力が弱いというのも一因ではあるのだけど、4指を離鍵する反動(反作用)で5子を振り下ろすと強い音が出る。

13小節

 左手1~2拍目、GからEに跳躍するところ。右手を飛び越えて跳躍するため、ある程度高く手を上げないと右手とぶつかってしまう。思い切って高く上げてしまえば良い。跳躍先のEは黒鍵の横の狭い部分なのでよく見て打鍵すること。
 左手でEを打鍵した直後に右手で同じ音を押すので、特に短く切らないといけない。少し早いタイミングで押すのもあり。どうせなら曲全体を通して左手を僅かにずらして弾いても良いけど、多分凄く難しい。

16小節

 ☆右手3拍目E。このEは出来るだけ手前の方を押さえる。これを奥側で押さえてしまうと、3指か4指をCisに引っ掛けてCisのキーが少し沈んだ状態になってしまう。これは次に押さえるキーであり、沈んだ状態から弾くとちゃんと音が出ない。下手をするとまったく音が出ないということもある。
 左手3拍目。このH→Hは1→4のオクターブなので容易にクリアできそうなのだが、よく外す。直前の指くぐりのせいで手が右を向いた状態であり、それに加えてスタッカートで短く切ろうとするため、手のポジションが不安定になり、オクターブの距離が不確かになってしまうため。1指を離鍵した位置から動かさずに手の向きを正すか、いっそ手元を見るようにしたら良い。
 左手4拍目Gis。スタッカートでひこうとすると、離鍵の際に指がキーから離れるため距離感が掴めずに外しやすい。半音下の黒鍵であることを意識し、あまりポジションを移動せずに弾く。

18小節

 ※右手1拍目E。キーを押してるのに、この音が出ないことがある。原因は直前で気付かないうちに4指がこのキーを押してしまっているため。5、3指でキーを押さえることになっているがこれらのキーは4氏と腱を共有しているので4氏は釣られて動いてしまう。そうして動いた先にあったEを気付かないうちに押し下げている。4指がつられて落ちてこないように意識して上げておくこと。

20小節
 19小節の終わり部分から、気分が乗るのか妙に速くなるので、暴走しないように一定のリズムで16分音符を刻むように音階よりも打鍵を意識する。

21小節

 左手最初のH。隣のAisのキーが邪魔になって弾きづらいので、中途半端な打鍵にならないようにしっかりと奥まで押し込むこと。

参考文献
[1]市田儀一郎, インヴェンションとシンフォニア
[2]市田儀一郎, バッハ インベンションとシンフォニーア 解釈と演奏法
[3]グレン・グールド, インベンションとシンフォニア
[4]村上隆, ピアノ教師バッハ―教育目的からみた『インヴェンションととシンフォニア』の演奏法

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ピアノの練習時間

 ショパンはピアノの練習を1日に3時間以上してはいけない、何時間も練習したって集中できなくなるので、長時間練習してないで本を読んだりアニメを見たりして精神修養に心がけよ、というようなことを言っている[1]

 ショパンが何よりも恐れていたのは、弟子の練習がマンネリになって感覚が鈍くなりはしないか、ということでした。私が、1日に6時間練習しているといいますと、ショパンはひどく怒って、3時間以上はしてはいけない、とわたしに言い渡したのです。
  デュポワ/ニークス
 長時間かけて練習しないで練習の合間には読書をしたり、傑作をじっくり調べたり、気分転換に散歩でもしなさい、と彼は口癖のように弟子に言うのでした。
  グレッチ/グレヴィンク
 ただ機械的に練習を繰り返せばよいというものではい、練習には全身全霊をあげて集中しなければならない。と彼は口癖のように言っていた。だから気が乗らないのに同じことを20回も40回も繰り返せ、などとは言わなかったし、それよりももっと嫌がったのは、カルクブレンナーが進めるような、ピアノを弾きながら読書もできるような練習の仕方だった。
  ミクリ
 ショパンは精神の集中を第一に考えて独自の技法を編み出したのであり、単なるメカニズムの練習を何時間も繰り返したわけではない。ニコラ・ショパンは、息子が3年間カルクブレンナーについてみるかどうか、まだ迷っているとき、「知っての通り、お前は演奏のメカニズムにはほとんど時間をかけず、指のことよりも精神の集中に余念がなかったのだよ」と、書いてきている。
 この点については(他の点についても同じだが)ショパンは当時のピアノ流派のほとんどに、そしてリストにも背を向けていると言える。リストはこの頃には「技法は精神の働きから生まれる」ことに気が付かず、単なるメカニズムの練習を尊んでいた。「・・・私は、4,5時間も練習している(3度、6度、オクターヴトレモロ、反復音、カデンツァなど).ああ! もう気が狂いそうだ――私がどれほどの芸術家か、君にそのうち分かるよ」と、リストはパガニーニを聞いた後に、ピエール・ウォルフに宛てて書いている。同じ頃、彼は弟子にも同じような要求をしている:「アルペッジョとオクターヴをあらゆる調子で弾くこと、使わない指は鍵盤を押さえたまま、順番にすべての指で音を弾いていくこと、音階を速く強く弾くこと、要するに手の練習になることなら何でも、1日に少なくとも2時間やるように彼は進めてくれた」。
 だから、ショパンが3時間以上は練習(指の訓練、エチュード、曲を含む)しないよう人に言っていたのに対し、同じ頃リストが自分でも実行し、人に勧めていた指の訓練は、場合にもよるが、そのくらいではとても足りないものであった。フンメルは「既に上達したピアニストの多くが、目標に達するには1日少なくとも6,7時間は弾かねばならないと、頭から思い込んでいる。それは間違いなのだ。毎日規則的に3時間集中すれば十分だと、私はそういう人たちに断言できる。それより長く練習しても精神が麻痺してしまって、演奏は魂の抜けた機械的なものになるし、いくら練習に熱を上げても、しばらく中断しなければならなくなってしまうようなことがあると、もう指は思うように動かないという破目になるのがほとんどだ。そういうときに演奏の依頼があったりしたら、調子を取り戻すには何日もかかるのだから、本当に困ったことになる」と説いている。

 ショパンは1日3時間以上練習してはいけないと言っているのに対して、同時代のリストは1日14時間練習していた。この2人はどちらも天才なのだけど、この練習時間の比較だけを見てもリストは努力の人という感じがする。ただし、リストの晩年の作風には若い頃の派手派手しさが鳴りを潜めた感じがあることから、もしかしたら考えが変わった可能性もある。リストに関してはあまり文献を読み込んできていないので確かなことは言えないのだけど、今後そういう文献に当たったら書き改めたい。
 それで、実際にはどれくらい練習するのが適当なのかということだけど、僕の考えでは人それぞれとしか言いようがない。
 ショパンほどの天才ならば短い時間の練習で十分なのだけど、凡百のピアニストが真似してやっていけるとはとても思えない。あまり練習しないピアニストと言うとグレン・グールドが有名[2]だけど、話を聞くに彼の場合はメカニカル部分の練習を全く必要としないとても羨ましい体質であるらしく、それなら常人が多くの時間を費やす練習を劇的に減らすことができるのだろう。ショパンも非常に体が柔らかくウンヌンカンヌンという話はよく聞くところである。

 グールドの天才の証明の一つとして、先程の「ピアノに問題がない」と関連して、「全く練習しなくても弾ける」ということがあげられる。
 「あまり練習していない」というのは、ステージ演奏家にせよ音大性にせよ、一種の慣用句のようなものである。実際には朝から晩までピアノの前に座っていても、それほど練習しなければ上手く弾けないことを悟られたくないという心理が働く。とくにコンクール前などは、ライヴァルたちを牽制する意味でも「さらってない」と言う。
 しかし、グールドは本当に練習しなかったようだ。『グレン・グールド 神秘の探訪』の著者、ケヴィン・バザーナがグールドの残したメモを見たところによると、1970年以来、もし練習するとしても半時間、大抵は1時間で、2時間以上のことはけっしてなかったという。
 レパートリーをつくっていて、新しい曲をたくさん準備していた13歳の頃でさえ、1日に3時間程度しか練習しなかった、とグールドは言う。それですら彼の演奏人生では厳しい練習スケジュールが組まれていた唯一の期間だった。
 プロになってからは、必要に応じて「楽譜の構想を強化する」目的から練習することはあっても、楽器との接触それ自体のために練習することはなかった。
 この習慣はニューヨーク・デビュー前に既に確立されていたらしい。ジョナサン・コットとの対話をまとめた『グレン・グールドは語る』で彼は、19歳の頃、初めてベートーベンの《ピアノ・ソナタ作品109》を弾いた時のエピソードを明かしている。
 デビュー前だったが、「当時でさえ、楽器の奴隷になりようがなかった」。完璧に暗記してからピアノに向かう習慣がついていたので、初演の2,3週間前に譜読みを始め、1週間前に練習をスタートさせた。自殺行為に聞こえるかもしれないが、それがいつものやり方だったのだ。

 凡夫が地道にメカニカルの練習をしているあいだ、音楽に没頭できるのだからそりゃ物凄く有効に時間を使えることだろう。こんな天才に並ぶためにはリストレベルの才を持った上、毎日14時間もの練習をしなければならないというわけである。

 ここまで、3時間の練習時間が短いという話をしてきたけど、実際のところプロの演奏家でもなければ目指しているわけでもない普通の人にとっては、学生であれ社会人であれ1日3時間の練習量というのは凄く多い。金子一朗の言う通り[3]とにかく時間がないのだ。プライベートの時間とか勉強時間とか読書とかアニメとかを相当量犠牲にしなければ続けることはできない。音大生でもないのに1日3時間も勉強時間をピアノの練習に費やしていたらとても学業を成就するなてできないわけである。そういう意味でならショパンの言う1日に3時間以上練習するなんてとんでもないというのは正しい。
 そんなわけで、プロでもない人が3時間が多い少ないと論じる事自体にあんまり意味がなくって、現実的に毎日3時間も時間をとることができないのである。

参考文献
 [1]ジャン=ジャック・エーゲルディンゲル, 弟子から見たショパン そのピアノ教育法と演奏美学【増補・改訂版】, 音楽之友社(2005)
 [2]青柳いづみこ, グレン・グールド 未来のピアニスト, 筑摩書房(2014)
 [3]金子一朗, 挑戦するピアニスト, 春秋社(2009)

平成28年 福山哲郎 政治資金報告書

 政治資金報告書というものがある。日本では政治の透明性を確保するために政治家のお金の使い方について細かく公開することが義務付けられていて、総務省とか自治体とかのページからダウンロードして読むことができる。
 試しに福山哲郎こと陳哲郎さんの政治資金報告書を読んでみた。ついでにテキストに書き出してアップしてみた。
平成28年陳さんの政治資金報告書
エクセルファイル
 一応、ソースにもリンクしておく。
フォーラム共生社会21(コピー)
民進党京都府参議院選挙区第2総支部(コピー)
福山哲郎後援会(コピー)
 陳さんが帰化人であるというのは政治に興味のある人達の間では常識になってるわけだけど、一部の人たちは認めたくないようで必死に工作をしている。Wikipediaから陳さんの帰化情報を削除できたのは最も大きな成果だと思う。Wikipediaの議論を見るに、その手の人からすると官報の情報は当てにならないらしい。平気で虚偽報道する新聞やテレビ、週刊誌はもとより胡散臭いウェブサイトとかとっくに消えたページなんかをソースに記事を書いているWikipediaで何を言ってるんだろうと不思議に思うわけ。それほど周知されては都合の悪い情報なのかと思うと日本全国に伝えて回りたくなる。

 陳さんの帰化の件についてはこれくらいにしておいて、政治資金報告書の内容を見て思ったことをテキトーに書いていこうと思う。

 報告書は陳さんが代表を務める政治団体「フォーラム共生社会21」、民進党京都府参議院選挙区第2総支部福山哲郎後援会の3報を書き出した。
 フォーラム共生社会21の寄付の内訳には5件の団体が連なっている。福山哲郎後援会、民主党京都府参議院選挙区第2総支部民進党京都府参議院選挙区第2総支部TKC全国政経研究会、民進党京都府支部連合会である。民主党民進党に衣替えした時期なので民主党民進党が入り混じっている。別の政治団体として分けて出すべきなのかどうかは知らないけど、どうせ同じものなのだから纏めてもらったほうが分かりやすくて良い。
 TKC全国政経研究会の収支報告書総務省のページからダウンロードできるが、ここからはいろんな政治家に献金しており、陳さんはその中のひとりにすぎず、真面目に読み込もうっていう気にならない。民進党京都府総支部連合会の報告書民進党京都府参議院選挙区第2総支部と同様京都府のページからダウンロードでき、こちらも多くの民進党メンバーに対して出資してたりするので書き出す気にはならない。

収入について
 寄付者の住所とか職業とかについてデータを纏めてみたところ、次のようになった。

職業 人数
会社役員 40
無職 28
会社社長 22
団体役員 17
自営業 16
医師 13
会社員 10
税理士 7
団体職員 6
僧侶 6
大学教授 4
弁護士 4
飲食業 4
歯科医師 2
建築家 2
芸術家 2
社労士 2
美容師 2
行政書士 1
宗教法人役員 1
神官 1
府議会議員 1
医療法人理事長 1
公認会計士 1
学校法人職員 1
大学職員 1
衆議院議員 1
珠算講師 1
農業 1
書道家 1
学校経営 1
道家 1
司法書士 1
舞踏家 1
団体代表 1
介護ヘルパー 1
参議院議員 1

 一応、多い順に並べたのだけど、この報告書では寄付を受けた日付順に書かれているため、別の日に同じ人物が寄付していたとすると重複して数えてしまう。そんなわけで、重複がないとは言い切れない。面倒なので確認してまわろうとも思わないし。
 取り敢えず、会社役員、無職、会社社長、団体役員、自営業、医師、会社社長の順で多い。これまで見た政治資金報告書にはないのが宗教関係者。僧侶、神官、宗教法人役員とあわせて8名が確認できる。
 ところで、仙谷由人ってどっかで見た人の名前があるけど、職業が元衆議院議員となっている。何だよ「元」って。ただの無職やん。
 他に名前だけでも聞いたことのある人物はというと、マルハンの創業者である韓昌祐。韓国人が政治献金してたら駄目じゃん、って思ったけど帰化してたんだね。
 それと、遠山大輔。どっかで聞いた名前だなあと思って調べてみたら舞鶴高1女子殺害事件で被告の中勝美を無罪にした弁護士だった。なお、中勝美は放免されたあと、殺人未遂事件で捕まっている。
 あとは、450万円の献金をしている橘民義あたりは一部で有名だったりする。この人、辻元清美に150万円献金(コピー)してたりする。金あるなあ。
 大学教授についても突っついておこうかと思ったけど、どうでもいいので止め。
 登場人物について相関図とか作ってみると面白いかもしれない。こういうのが作れるかもしれない。超絶大変そうだからやらないけど。夏休みの自由研究とか卒業研究とかで取り上げてみるのはどうかな。

 企業献金についても軽く見ておく。聞いたことのある会社名が結構あったりする。
イオン株式会社
・株式会社堀場製作所
・株式会社ワコールホールディングス
・京セラ株式会社
月桂冠株式会社
・株式会社井筒八ツ橋本店
 イオンについては民主党の人だしごく自然なことだとは思うけど、他の5社については新しい感じがする。
 企業献金については一緒に個人で献金している人もいる。あと、献金の項目で見た会社が支出の項目にも多く見られる。支援してくれる企業を使おうというのは自然なことだから別によいと思う。

 労組が出張ってくるのはこの人たちの特徴。労働者の待遇改善よりも政治活動をしている印象の強い労組の皆様である。
・日本私鉄労働組合連合会
・全日本たばこ産業労働組合
日本郵政グループ労働組合近畿地方本部
・全日本森林林業木材関連産業労働組合連合会

 ついでに、職業と絡んだ政治団体
・近畿税理士政治連盟
京都府歯科医師連盟
・税理士による福山哲郎後援会
京都府医師連盟
・日本商工連盟
全国社会保険労務士政治連盟
京都府社会保険労務士政治連盟
・日本弁護士政治連盟
・全日本不動産政治連盟京都府本部
・日本医療法人連盟
福山哲郎後援会

支出について
 流石にガソリンプリカによるマネーロンダリング的な迂闊なことはしていないようである。
 供花がある。総務省によると、特定の場合を除いて一切禁止されているとなっている。特定の場合を除いたら一切じゃないやんと突っ込みたくなる。政治家本人が自ら出席してその場で行う場合は罰則が適用されない場合があるとのこと。朝日新聞がグレーと言ってるのは本人が直接出席したかどうか不明瞭だっていう部分を指してのことかな。
 それから、寄付者と支出先に宗教関係が結構ある。靖国参拝は信教の自由に反するとか主張(魚拓)しておきながら、自分はガッツリ宗教関係と金銭授受してるわけだ。これってどうなの?

 取り敢えず、こんな感じで。
 頑張って書き出した割にはあんまり面白いネタもなかった。予想通りの連中が割と並んでいる感じで、上に書いた供花以外には問題のありそうな項目もないし。見る人が見たらなにか見つけることができるのかな。

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ショパン エチュードOp.25-2 演奏解説

 20100203の再掲。ショパンエチュードOp.25-2を録音した時の解説文です。多分、これが一番最初に書いた演奏解説。


 Mittwoch 3. Februar 2010.
 たまには演奏の解説でもしようと思う。
 技術的な点などを踏まえて説明してみる。曲目はショパンエチュード25-2、昨年の暮れ頃に録音した。

 玉を転がすような細かい動きが要求される。一部フォルテの箇所もあるが、曲全体にわたって殆どがピアノで演奏することになる。弱音の細かなパッセージは粒の揃っていない箇所があると非常に目立つ。全体に均一な音を出せるよう練習しなければならない。が、そういった鬱陶しい練習方法についてはここでは語らない。コルトー版の解説でも読んで練習すれば身につくと思う。
 楽して弾けるようになりたいとは誰もが思うことだが、ショパンエチュードはどれも必要な筋力がなければちゃんと音を出せるようにはならない。脱力するから筋力はいらないというのは脱力を知らない者の言葉である。キーを押すだけの力がないのに脱力をしても意味がないということは理解しなければならない。ショパンエチュードを弾くだけの筋力が備わっていない場合はいくら楽をしようとしても結局は筋力を付けるために練習量が必要になる。そして、筋力を付けた先で脱力が有効となる。
 音は違うが似た動きをする部分は指使いを同じにしたほうがよい。指使いを1パターンに限定するという前提がある。自分の中で複数の指使いを共存させるとどれがよいかその時になって迷う可能性があるから。そして、似た部分で異なる指使いをすると、同じようにどっちだったか混乱するためだ。そういった演奏中の事故になりうる要素というものは極力排除したほうがよい。
 同じ音型が繰り返し使われているため、譜読みが非常に楽だ。例えば、1~2小節と同じ小節は9~10小節、20~21小節、28~29小節、51~52小節、59~60小節と合計6回同じ2小節を使う。また、1~17小節は20~36小節と同じだし、1~8小節は20~27小節、51~58小節とほぼ同じ。こういった構造が複数あるので、譜読みは一気に最後まで弾こうとはせずフレーズ毎に弾けるようにしていった方が効率がよい。譜読みに関して非常に参考になるサイトがあったのだが、今少し探してみたところ全く見つからなかった。英雄ポロネーズを例に譜読みの仕方を解説していたのだが。。。
 この曲はエチュードの中では簡単な部類に入り、基本が筋トレなので、あまり演奏の参考になるアドバイスのようなものはない。筋トレ以外で解決する点について説明する。

 では、最初から。

 コルトー版では終止ウナコルダで演奏することになっている。ウナコルダにするかしないかは奏者の好きにしたらよい。それから、ペダルの指示だが、小節の前半をペダルオンにしている。実はこの曲、僕の個人的な見解がある。練習曲の裏メニューとしてペダルを殆ど使わず、左手のベース音を保持して演奏する。左手の1小節の広がりは大抵10度になっている。平均的なピアノ弾きの手のサイズとして、鍵盤の横から10度が届く程度というのがあるような気がする。多くの作曲家は横からでもとにかく10度が届くことを前提として曲を作っていることが多い。左手のベース音と5指で保持しながら10度を弾くという奏法は例えば、ショパンのコンチェルトなどでは多用されている。ショパンエチュードがコンチェルトのための練習曲と考えたとき、左手はベース音を保持しておくという方向性は自然なものではないかと思うのだ。同じ意見に出逢ったことはないけど。そんなわけで、ペダルについては基本的にベース音を保持できない程の範囲で左手が広がるときと小節の継ぎ目において音が切れてしまうときを除いて使わない。小節の継ぎ目は例えば、4-5小節目の継ぎ目の部分みたいなポイントになる。ペダルを踏むのは4分音符1つ分だけとなる。
 これをやると、ペダルによる誤魔化しがきかなくなるため、技術的なハードルは高くなる。音の粒を揃えるために音の強さ、次の音までの時間に加えて、離鍵のタイミングも揃える必要がある。

 コルトー版ではベース音を保持するポイントが書いてあるが、僕のやり方とは多分違う目的で書いている。よく分からない。


7小節

 ナショナルエディションでは最高音の指使いをカッコ書きで(453)と付している。できるだけ1,5指で黒鍵を取りたくないので、僕はこちらを採用している。
 4指の下を5指がくぐる形になるのだが、このDesは4指をまっすぐに伸ばして弾く。そして、次のCは5指を曲げて弾くことになる。4指を伸ばした状態で5指を曲げるのは人間の身体の構造上楽な行為ではない。そのため、4,5指が独立して自由に動かないと音を外しやすい。エチュード10-2でしっかり鍛えたらいいかも。

 さて、特に説明することもないので、いきなりコーダ付近まで飛ぶ。

 57小節目は7小節目と殆ど同じ形だが、最後の4音にスタッカートが付いている。しかも、その上にスラーが入っているので、メゾスタッカート。4分の3の長さだけキーを押さえる。速度指定がプレストの曲でスタッカートとメゾスタッカートの違いを表現できる人間が世の中に存在するのか、という疑問が生じる。この曲の中ではかなり重要なポイントであり、色んなCDの演奏を聴いても三者三様にこの部分をパスしている。中には全く無視して演奏する人もいるが、大抵の人はここで速度を落とす。指定の速さでスタッカートを表現するのは極めて難しいから、ということと、この速さでスタッカートにしても聞いている人は気付かない可能性が高いからだと思われる。僕の場合だと、この曲自体を少しゆっくり目のテンポで弾くが、それでもこの部分をスタッカートにするのは難しいため、56小節の後半くらいから僅かに速度を落とし、スタッカートのポイントをクリアしたらすぐに元の速度に戻るようにしている。

62小節

 62小節目のあたりからコーダに突入するっぽい。画像ではペダルの指示があるが、ペダルは踏まない。通常の少し早い下降スケール。普通にピアノを習っている人などはこういったところは難なく弾いてしまうのかも知れない。僕みたいに基礎訓練を疎かにしているとこういうところでボロが出やすい。66、67小節にも共通するのだが、右手の肘を開き気味にして弾くと音が揃いやすい、多分指くぐりをしやすいポジションになるから。ちなみに、この小節、ナショナルエディションではオシアが準備されているけど、特に右手の忙しいポイントなので無視した。

63小節

 この部分、譜例のように指使いをい変えている。この弾き方だとF-Desを4-3で取ることになり、4-3で取るにしては極端に遠くなってしまうため、あまりお勧めできない。元の通り53215321でいいと思う。あるいは54321321もありかもしれない。

65小節

 65小節目。元から書いてある運指だと気に入らなかったので思いっきり無視している。この運指だと3指だけ白鍵で他は黒鍵となる。3指だけキーまでの距離が長いため、音が崩れやすい。そこで、指とキーの距離をできるだけ均等にするため、手を寝かせて指の腹で打鍵する。あるいは、コーダにかこつけて思いっきり減速してごまかす。
 この部分は脱力して弾こうとすると指がうまく動かないので、力ずくで指を動かす。あまりよくないことだけど、指が動かないのだから仕方がない。この指の配置自体がポジション移動を少なくするというだけの目的であり、ショパンの演奏理念に反しており、非常に弾きにくい。そのため、この指使いは非推奨とする。敢えて茨の道を行くこともない。

67小節

 ここはオシアを弾く。というか、このオシアを弾くためにこの曲を弾いた。この部分と最後の2小節はペダルを踏む。最後の装飾はCDでも聞いて好きな奏者の真似をすればよい。ちなみに、コルトー版では次のようになっている。


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